譜面通りに指を動かす。それに合わせ口ずさむ歌。
目の前の観客たちが真剣に私の演奏を見ているのがわかる。
最後の四小節。それを弾けばこの曲は終わる。
初めて完成させた曲はとても前向きなものだった。
「わぁー!おねーちゃんギター上手だね!」
「正確に、でも生きてるみたいな音色…かっこいいわ姉さん」
「…そう?ありがとう二人とも」
二人の素直な反応がむず痒くて頬をポリポリ掻く。けど上手く弾けている実感もあったからそう言われるのは嬉しかった。
「ね!もっと弾いて!」
「私も聞きたい」
キラキラと目が輝いている二人。
期待には答えなきゃね。おねーちゃんなんだから。
「ホント?なら頑張っちゃうよ!今度は二人も一緒に歌おう!」
私が弾けば歓声が上がる。それに調子付いて自由なテンポで弾いてみたり、正確に弾いてみたり。
質の違う三つの歌声が部屋中に響いて、全員が良い笑顔を浮かべていた。
夕日が出る前に始めたはずのミニライブは結局夕飯になるまで続いた。
まだ関係が良好だった頃のとある一日である。
♢♢♢
中学一年生の時、日菜と同率一位を取ったご褒美に買ってもらったライトグリーンのエレキギター。ずっと相棒でかけがえのない親友だった。
毎日練習して、その度に上手くなっていくのが嬉しくて。私の部屋で定期的に行われたミニライブを楽しみにしてくれる人がいた。
でも今の私はその相棒を上手く弾けない。
分厚く少しだけ硬い指先を握りしめる。昔はもっと硬かった気もする。練習してないから腕は落ちてく一方。
とは言っても練習なんかろくにできやしない。
久しぶりに、弾いてみることにした。
相棒を持ちストラップを肩から掛けチューニングを始める。チューナーはどっかにしまってあるけど探すのが面倒だからだいたいでいい。本格的に弾くつもりもないから適当でいいだろう。誰にも迷惑かからないし。
簡単にコードを押さえる。
…うん。まだ覚えているし押さえられる。これなら今日こそいけるかな。
譜面は頭に入っている。そう思って思い出の一曲を弾き始めた。
問題なく前奏が終わり歌も歌う。意外と弾けている事実が少しだけ信じられない。でもこれならとサビに入ろうとした時。
「ッ!?」
手首に激痛が走った。ピックが重力通りの運動をする。
演奏は止まり、痛む手首を握りしめた。痕が残るのではないかってくらい、強く。
数十秒か、数分か、はたまた数十分か。
治まった痛み。荒れた息遣いを落ち着かせていく。額に流れる汗が床へと落ちた。
落ち着き次第、ギターを定位置に戻す。
やっぱりまだ、全然ダメみたいだ。
後遺症は、二年経っても治ってはくれないらしい。
ベッドに寝転がる。
微かに震える指を中心に猫のように丸まった。
また、繰り返しだ。
あいつらに暴力を振るわれるようになってから、私の手は言うことを利いてくれない。普段はなんてことないのに、ふとしたことで走る激痛には耐えられない。パソコンをいじっている時はそうでもないのに、どうしてギターを弾く時はこうなるんだ。
私が何したって言うんだよ。
なんで私が大切な物を奪われないといけない。
なんで理不尽なことを言われないといけない。
なんで露骨に嫌な態度を取らないといけない。
なんで私だけが不幸でいないといけないんだ。
全部自ら進んで来た道なのに、後悔が大きい。
私はただ妹たちを守りたかっただけなのに。
どうして私は何もかもを奪われる。
もしかしたら全て守るための代償なのかもしれない。
でもそうだとしても、いくらなんでも、酷いだろ。
望むものは手に入らぬまま、過去を羨んでいる。
ただ最悪の未来に怯えている。