不良少女(仮)   作:茜崎良衣菜

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有咲、誕生日おめでとう。世界で一番、君のことが。


私への約束。

 

 

 

「ねえおねーちゃん!有咲ちゃんのこと、ドキドキさせたいと思わない?」

 

 

 

今日は有咲と一緒に出掛ける予定があるから準備をしていると何やら企んだ表情の日菜が私の肩を叩いた。内容が内容だしこういう時の日菜は大抵ろくなことを考えちゃいない。それを知っているからこそ私の表情は日菜を怪しむものになっていた。

 

 

 

「……何企んでるんだよ」

 

「何って?」

 

「お前はこういう時にろくなこと考えてないの知ってるんだよ。私は嫌だからな。てかなんで有咲と会うこと知ってるんだよ」

 

「それはおねーちゃんの表情がわかりやすいからでしょ?」

 

 

 

当然のように返されて言葉を詰まらせる。やっぱ有咲とのデートが嬉しいってこと表情に出てるのか……。

 

 

 

「とりあえず、私はその企みにはのらないからな」

 

「え?おねーちゃん有咲ちゃんのことドキドキさせたくないの?」

 

「……それとこれとは話が別だ」

 

 

 

そりゃあドキドキさせられるのならさせたいさ。けどそれって狙ってどうにかできるもんか?それに日菜のアイディアだ。どんな無理難題を押し付けられるかわかったもんじゃない。それ、私は実行できる気がしないんだけど。

 

 

 

「心配しなくても大丈夫だよ。あたしはただおねーちゃんに着てほしい洋服があるだけだから」

 

「え?洋服?」

 

「そう。洋服。絶対有咲ちゃんはドキドキするだろうし変な虫もつかないと思うよ?」

 

 

 

確かに有咲はかわいいからデート中もよく声を掛けられる。そのたびに私が追い払っているのだがたまーに私も一緒に連れて行こうとするやつもいるから安心とは言えない。

有咲がドキドキしてそのうえで有咲に人が寄って来ない服なんてあるのだろうか。それなら一度試してみたいと思う自分もいた。

 

 

 

「どうするおねーちゃん」

 

「……どんな服なんだよ」

 

 

 

結局負けてしまった。日菜の表情が明るくなる。その日菜は自分の部屋に私を引っ張っていった。そこで渡された服を確認して日菜の言っていた意味を理解した。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

今日は朝日先輩とのデートの日。そして私にとっては特別な日。そう思いながら準備して家を出れば待ち合わせの時間よりも二十分早く着いてしまった。我ながら早すぎだよとツッコミを入れる。近くのベンチに腰を下ろして私はスマホのトークアプリを開いた。

 

 

 

『ちょっと早く着いちゃいました』

 

『もう着いたのか!?すぐ行くから待ってて!』

 

『急がなくても大丈夫ですよ』

 

 

 

すぐについた既読の文字。返ってくる言葉に嬉しくなって笑みが零れた。

朝日先輩は私のことを一番に考えてくれる。だけどそれはたまに空回ったり無理をしたりに繋がるから私は心配でならない。まあ想いが通じてからはお互いの意見を前以上に言えるようになったし前よりも朝日先輩は無理をしなくなったから安心してはいるのだけど。

 

 

 

「ねえキミ一人?なら俺らと遊ばない?」

 

 

 

今日のデートプランは朝日先輩に丸投げしているからどこに行くのかはわからない。どこに行くんだろう。この辺だとしたらやっぱり……。

 

 

 

「ちょいちょい、話聞いてるー?」

 

「え?」

 

 

 

考え事をしていたらいつの間にか私の目の前には男の人が二人、私を囲むように立っていた。貼り付けられた笑顔が気持ち悪い。

 

 

 

「これからカラオケ行くんだけど行かない?もちろん金は出すからさ」

 

「暇なら俺らと遊ぼうぜ。絶対退屈させないし」

 

「いえ遠慮しておきます」

 

「キミ一人でしょ?いいじゃん?」

 

「人を待っているので」

 

 

 

なんで毎回私は声を掛けられるんだろう。ていうか、なんで行くと思うんだろう。髪色明るいからか?行かねえよ下心丸出しのやつらのところになんて。知らない人について行くなって習わなかったのか?

 

 

 

「ほらほら行こうよ!」

 

「ちょっ!」

 

 

 

男の一人が急に私の手を掴んだ。引っ張って無理矢理立たせる。周りには人が多くて騒がしくて誰も私が無理矢理連れて行かれていることに気づいている様子はなかった。

このパターンは前にもあった。その時は朝日先輩が一緒で守ってくれたからどうにかなったんだ。けど今は私一人。どうにか解こうにも力で勝てるわけもなくどんどん座っていた位置から遠ざかっていく。

 

 

 

「暴れるなよ。周りに迷惑だろ?」

 

「知るか!離せって!」

 

「ああもちろん離すよ。着いたらね」

 

 

 

被っていた猫が脱げてもなお男たちは迷いなく歩いていく。目的は明らかだった。

私の抵抗なんて抵抗だと思われていなかった。ふと視界に入ったカラオケ店。あそこに連れ込まれるのかと思うと背筋が凍った。

男たちがニタニタと笑っている。怖くて怖くて仕方なかった。やっぱり一度朝日先輩の家にでも行けばよかった。今更後悔しても遅いけど。

 

 

 

「っ、助けて朝日先輩……!」

 

 

 

そう、思った時だった。

 

 

 

「おいお前ら。俺の彼女どこに連れて行く気だよ」

 

 

 

突然現れた男の人が男の手首を掴んだ。それによってやっと男たちは止まる。ただ計画を邪魔されて不機嫌そうに見えた。周りの人たちが突然立ち止まった私たちを鬱陶しそうに見ていた。

背が高いその人の後ろ姿は誰かに似ていた。だけど緩く髪を結って、パーカーを着こなしている人なんて私の周りにいただろうか。それも男で。本当に誰だこの男の人は。

 

 

 

「あ?誰だよお前」

 

「それは俺のセリフだよ。待ち合わせしてたら連れて行かれそうになってるんだから。その汚い手、離せよ」

 

「なんだと!?」

 

 

 

私の手を離して男は彼に掴みかかる。胸倉を掴まれそうになったがそれを逆に掴む。その手を捻って足を払う。バランスを崩し男は倒れた。

 

 

 

「行くぞ!」

 

「え、ちょ!?」

 

「お、おい待て!」

 

 

 

男が倒れた瞬間私は彼に手を引かれた。もう一人の男は文句でも言いたげな声を上げたがそんなもの聞いていないと言わんばかりに人混みの中に入っていく。上手く人を避けて進んでいく彼。男たちのように強引なはずなのにどこか優しさを感じた。助けてもらったからそんなことを思うのだろうか。

 

 

 

「……ここまで来れば大丈夫だろ」

 

 

 

人混みを抜けて細い路地に入った。曲がって影に身を隠した。彼は建物の陰から少しだけ顔を出して様子を見てそう言った。それを聞いて安心した。

 

 

 

「ありがとうございます。助かりまし、た……っ!?」

 

 

 

お礼を言い切る前に彼が私の手を引いて私を抱きしめた。急なことにパニックになる。離れようにも強く抱きしめられて解けない。

 

 

 

「……よかった。有咲に何もなくて」

 

「え、なんで私の名前……」

 

 

 

そう呟けば拘束を解かれる。視線を上げればそこには心配そうな表情の想い人の姿があった。

 

 

 

「あ、朝日先輩?」

 

「ああ。間に合ってよかったよ有咲」

 

「なんで、ここに……?」

 

「なんでって、待ち合わせしてたでしょ?」

 

 

 

助けてくれた人の正体は朝日先輩だった。男装をしていたから全然誰か気づけなかった。

 

 

 

「有咲。大丈夫だったか?他に何もされてない?」

 

「は、はい。朝日先輩が助けてくれたので」

 

「そっか。ならよかった」

 

 

 

朝日先輩は安心したように笑う。私の指に朝日先輩の指が絡む。優しく、でも離さないとでも言いたげだった。

 

 

 

「けどごめんね。私がもっと早く着いてたら有咲に怖い思いさせたりしなかったのに」

 

「え、いや、別に朝日先輩のせいじゃ……」

 

 

 

反論は口から飛び出す前に塞がれた。突然のことで一歩後退すれば朝日先輩は一歩前進する。私は壁と朝日先輩に挟まれていた。

侵入する舌に抵抗はできない。私は朝日先輩の手を少しだけ強く握りしめた。

お互いに熱い吐息が漏れる。いつも以上に長い接吻は私の脳を溶かすのには十分で。唇同士を離した頃には力が抜けてその場に座り込んだ。荒い息遣いのまま朝日先輩を見上げた。

 

 

 

「……ごめん。やりすぎた。立てるか?」

 

 

 

そうやって手を伸ばした朝日先輩は見るからに男前でかっこいい。だけどその瞳の奥は鋭く私のことを貫いていた。まるで獲物を狙う肉食動物だった。

 

 

 

「……珍しいですね。朝日先輩が外でキス、するなんて」

 

 

 

朝日先輩は私の肩口に額を預ける。握られていた手に力が入っていた。

 

 

 

「……あいつらが有咲に触れようとしてたってだけでムカついて、それで我慢できなかった。こんな風に無理矢理する気はなかったんだ。ほんとごめん」

 

 

 

いつになく弱い声でそんなことを言うのだから何も言えなくなる。数秒して朝日先輩は離れた。「移動しようか」なんて言って私の手を引く。朝日先輩は顔を見られたくないのか半歩先に行っていて、だけど歩幅は私に合わせて歩いてくれる。胸が温かくなった。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「その恰好、どうしたんですか?」

 

「今日の朝に日菜が渡してきた。今度撮影で使うからって買ったやつらしい。髪も日菜が」

 

「そうなんですか」

 

 

 

朝日先輩に連れられて入ったのは雰囲気の良いカフェだった。一番奥の席に座り店員さんにオーダーを伝える。朝日先輩がスマホをいじってしまう前に私は疑問をぶつけた。

予想通りと言うべきか男装をしようというのは日菜先輩の企みらしい。まあ、朝日先輩が自主的にやるとは思っていなかったから少し考えればわかることだったかもしれない。とりあえず新鮮な朝日先輩を見れたのだからよしとしよう。

 

 

 

「男装なんて初めてやったからちゃんとそう見えてるのか心配だったけど杞憂だったみたいだな」

 

「初めてって、文化祭の時もやってましたよね?」

 

「あれは衣装だしノーカンだろ?」

 

 

 

それなら初めて男装したことになるんだろうけど単純に普段よりも声が低かったからわからなかったっていうのもあるかもしれない。ただ言えることは男装した先輩がイケメンだってことだ。

 

 

 

「けど人多かったのによく私のこと見つけられましたね」

 

「え?そりゃあ見つけられるでしょ」

 

 

 

あの人混みの中なら本来見つけられなくてもおかしくはない。そう思ったからこそそう言った。それなのに朝日先輩は見つけたのは当然とでも言う素振りだ。

朝日先輩は左手で頬杖を突いた。空いている方の手を伸ばして私の髪に触れる。

 

 

 

「普段はツインテールでガーリーな格好なのに私とのデートの時だけ綺麗な金髪下ろして大人っぽい格好して来るんだもん。そんな可愛い恋人のことを私が見つけられないわけないだろ?」

 

「~~~~っ!?」

 

 

 

笑顔でそう言う朝日先輩。私はその言葉で顔に熱が集まった。触れられているわけではないのにその視線が熱くて熱くて。

 

 

 

「お待たせしました。アイスティーお二つです」

 

「っ!?」

 

「ありがとうございます」

 

「あ、りがとう、ございます……」

 

 

 

店員のお姉さんは私たちのことを微笑ましく見ていた。見られていた事実に恥ずかしくなる。せめて見ていないフリをしてほしかった。

飲み物を一気に流し込む。少しはクールダウンできただろう。

ちらっと朝日先輩を見れば涼しい顔をしていた。なんだか悔しかった。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

色んなところを回り買い物を終えた私たちは解散することなくそのまま私の家に帰ってきた。朝日先輩の希望で今日はここに泊まるらしい。ばあちゃんに話せば朝日先輩のことを歓迎していた。

夕飯を食べて交互に風呂に入る。部屋に戻れば朝日先輩はタオルを首に下げてスマホを見ていた。男装も似合っていたけどやっぱり自然体の朝日先輩が良い。

声を掛ければスマホを置いて振り返った。

 

 

 

「有咲。誕生日おめでとう」

 

 

 

今日何度目かの祝福の言葉だった。私は「ありがとうございます」とはにかむ。ベッドに腰掛けた朝日先輩は手招きをしていた。「どうしたんですか?」なんて言いながら近づけば朝日先輩に背を預けるように座らされた。急なことで困惑する。朝日先輩の顔が見れないのは嫌だった。

 

 

 

「あのさ。誕生日プレゼント、あるんだけど受け取ってくれる?」

 

「え?けど今日の買い物で好きなもの買うからそれがプレゼントだって……」

 

「それはこのプレゼントが受け取ってもらえなかった時の保険だよ」

 

 

 

なにそれ。そんなに自信のないプレゼントってことなのだろうか。だけど正直なところ朝日先輩のセンスはいい方だと思うし私は朝日先輩から貰えるものならなんでも嬉しいんだけど。

 

 

 

「これ、なんだけどさ」

 

「え……これって……」

 

 

 

朝日先輩から渡されたのは手のひらに収まるサイズの箱だった。私は中身をなんとなく察して気持ちが高ぶってしまう。ゆっくり箱を開ければ銀色のリングが一つささっていた。

 

 

 

「……意味、わかってますよね」

 

「ばーか。わからないで渡すかよ」

 

「私、渡されるなんて、思ってませんでした」

 

「うん。私も渡すかどうか迷ったんだ。だけどやっぱりこういう意思表示は早い方がいいかなって。渡されても困るかなーって考えたんだけどさ、そんなことないよな」

 

 

 

泣くなって有咲。

それは無理なお願いだと思った。涙が零れる私のことを朝日先輩は優しく抱きしめてくれる。

 

 

 

「本当に悩んだんだ。だって有咲は今、学校のこととかポピパのこととかで忙しいだろ?だからそんな余裕ないことくらいわかってるよ。私としても有咲には無理してほしくない。だからさ、もしよろしければ約束をしてほしいなって」

 

「約束……?」

 

「うん」

 

 

 

朝日先輩は頷いてリングを摘まんだ。それを私の右手の薬指につける。サイズはぴったりだった。

 

 

 

「今はまだいい。今の関係のままで全然いいんだ。だけどある程度落ち着いて時間ができたらその時は一緒に指輪選びに行こう?」

 

 

 

「そういう約束だよ」と朝日先輩は右手を握る。「もちろんですよ」と私は何度も頷いた。こんな幸せな誕生日があってもいいんだろうか。幸せすぎて死んでしまいそうだ。

 

 

 

「あとはいつか、名前で呼んでくれたら」

 

「へ?」

 

「敬語も外れてくれたら嬉しいんだけどね」

 

 

 

朝日先輩はそんなことを呟いた。私の誕生日だというのに欲しがるなんて。だけどこれだけのものをもらったんだ。少しくらいは返さないとだよな。

 

 

 

「ありがとう朝日。私、世界で一番幸せだよ」

 

 

 

いつもなら言い慣れなくて戸惑うはずの言葉なのに今日は流れるように言えた。

泣いてしまいそうな朝日はくしゃっとしわを寄せて笑っていた。

 

 

 

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