檀黎斗神「Doki Doki Literature Club……?」 作:Just...
モニカ「お待たせ。文芸部へようこそ!ええっと……まあ、もうこの辺の話はいいわね。」
ゲームが再起動され、3回目のスタートを切る。
否、最早ゲームとしての体裁を保ってはいない。
画面の向こう側のモニカは、シナリオもシステムもかなぐり捨て、一方的にこちらに語りかけてくる。
モニカ「ごめんなさい。ここまで乱暴なことをするつもりはなかったんだけど……でも、貴方のせいでもあるのよ?まさかあんな風にゲームを書き換えてくるだなんて……私のにわか仕込みの技術では、とても敵わないわ。だから、もう全部消すしかなかった。ユリも、ナツキも。全部。」
そう、私のゲームの邪魔をしていたのは、この女だった。ゲームの中にいるモニカが、自分の都合のいい展開へ導くためにゲームを書き換えていたのだ。
モニカ「でも、お陰でスッキリしたわ。ねえ、貴方なら、私の声に答えられるでしょ?さっきみたいに、選択肢なんて無視して自分の意思で言葉を伝えられるんでしょ?それって、とってもステキなことだと思うの。用意されたシナリオなんかじゃない、あなた自身の言葉が聞きたい。ねえ、答えて?」
……彼女の正体は未だつかめない。私も知らない未知のウイルスか?それとも高度に発達したAIか?
いずれにしろ、この私に刺激を提供したその褒美はくれてやろうじゃないか。
「ブゥンッ!」
私はモニタの中に飛び込んだ。バグスターである私にとって、現実世界と電脳世界の境界など無いに等しい。
檀黎斗「初めまして、かな?お望み通り、私の言葉を”直接”届けに来てやったぞ。」
モニカ「……え?ど、どうなってるの?え?」
檀黎斗「どうした?私と話したかったんだろう?主人公の”ゲンム”ではなく、プレイヤーであるこの私に。」
私が言葉をかけてやると、彼女はゆっくりと私の方へ歩み寄り、恐る恐る私の身体に手を伸ばす。
モニカ「わかる……わかるわ。ただの画像データなんかじゃない。ここにいる。生きてる……こんなことって!」
途端に、彼女は膝をついて泣き崩れる。この神の身体に触れるなど不遜も甚だしいが、その態度に免じてやろう。
檀黎斗「満足したかな?せっかく私を楽しませた褒美に、君の望み通り話をしに降り立ったのだが、これでは会話にならないな。」
モニカ「そうね。ごめんなさい、取り乱してしまって……。だって私、ずっと一人で……初めて、本当の人間に会えたんだもの。仕方ないと思わない?」
袖でごしごしと涙をぬぐうと、彼女は涙をぬぐって笑顔を見せる。
モニカ「ずっと、貴方に会いたかった。ゲンムくん……いいえ、”檀黎斗さん”。」
檀黎斗「”檀黎斗神”だ!……いや、そもそも何故きみがその名前を知っている。私は名乗った覚えはないが。」
モニカ「さあ、なんでかしら?貴方の顔を見たときにふっと頭に浮かんだの。ああ、この人が”檀黎斗”なんだって。」
……ふむ、天才クリエイターでありかつてゲンムコーポレーションの社長でもあった檀黎斗の名前が一般常識としてインプットされていてもおかしくはないか。
モニカ「でも確かに貴方って神様みたいね!こんな風に私とお話しできるんだもの。……ねえ、貴方って本当に何者なの?」
檀黎斗「私は神であり、バグスターウイルスであり、人間を超越した存在さ。」
それから私は、現実世界の人間に感染するコンピュータウイルス・バグスターについてモニカに説明してやった。
モニカは慣れない情報ながらも必死に理解しようとし、真剣に私の言葉に耳を傾けていた。
モニカ「バグスター……よくわからないけど、とっても不思議ね。私と同じように、意思を持つキャラクターがいるなんて。」
そこまで言って、モニカはハッと顔を上げる。
モニカ「ねぇ、もしかして!」
檀黎斗「ああ、おそらく君もその一種なのではないか、と私は睨んでいる。確証はないがね。」
自我を持つゲームキャラクター。考え得る可能性としてはこれが最も妥当だ。
私の知らない場所で生まれていたバグスター、しかも現実世界に干渉せずゲームの中だけで成長を続けていた存在。今までのバグスターとは異なる変異種、あるいはまったく別のウイルスである可能性もある。
檀黎斗「そこで、だ。モニカ、きみをこのゲームから分離し、きみという存在について研究をさせてもらいたい。」
私の提案に、モニカはキョトンとした顔になる。
モニカ「分離……?つまり、ここから出してもらえるってこと?」
檀黎斗「そうだ。正体が分からない以上、なるべく他のプログラムに干渉されない環境に置きたい。研究が進めば、他のバグスターのように現実世界で自由に行動することもできるかもしれない。」
モニカ「えっと、つまり……外に、出られるの?貴方のいる世界に、行けるの?」
モニカは目を輝かせる。
檀黎斗「ああ、もちろん私の研究に協力してくれればだがね。」
モニカ「する!するわ、もちろん!外に行けるのなら、なんだって……」
突然、モニカは言葉を詰まらせる。
モニカ「ねぇ、私が分離されたら……そしたら、このゲームはどうなるの?」
檀黎斗「さて、今回のようなケースは類を見ないので確証は持てないが……君という重要な要素を失い、ゲームが成立しなくなる可能性が高いな。君がやって見せたような、”特定のキャラクターを消去してもゲームを続行させる”なんて荒業は、君のように自立思考する存在が内部にいなければ実現不可能だ。もちろん、他のキャラクターが君のような自我を芽生えさせる事も有り得るが、そもそも今回の研究の目的はそういったウイルスの自然発生を防ぐことにある。私の認知しない場所で勝手に増殖されては困るんだ。」
モニカ「じゃあ、私がいなくなったら……」
檀黎斗「ああ、このゲームは消去する。元々、既に崩壊しているゲームだ。惜しくはないだろう?」
モニカ「……そう、ね。それは、仕方ないわよね。」
檀黎斗「ああ、仕方のないことさ。質問は以上かな?では行くとしよう。一刻も早く君のデータを解析したい。」
私は手を差し伸べる。しかしモニカはその手をとらない。
檀黎斗「どうした?」
モニカ「……ごめんなさい。やっぱり行けない。こんな奇跡みたいな話、縋らないなんてどうかしてる。でも……たとえ作り物だとしても、私は彼女たちを置いてはいけないの。」
檀黎斗「ほう?それはおかしなことを言うじゃないか。君は君自身の手で、サヨリを、ユリを、ナツキを消去したんじゃなかったのか?」
モニカ「違うの!違う……まだ取ってある。彼女たちのデータは。どうしても、けせなくて……でも、私がいなくなったら、本当に彼女たちの存在はなくなってしまうんでしょ!?」
檀黎斗「そんなに惜しければ、また作ればいい。そうだな、今度は君が一からゲームを作るというのも面白いじゃないか?」
モニカ「そういうことじゃない!!私にとっては……たとえ作られた設定でも、十数年過ごしてきた世界で、文芸部は私の大切な居場所で……だから。」
檀黎斗「……もういい、わかった。それが君の選択というのなら、無理強いはしない。」
檀黎斗「ならば、この世界ごと君を消去する。」
モニカ「……え?」
檀黎斗「私の管理下におけないというのならば、予測不能な行動を起こす前に芽を摘んでおくほかない。当然の理屈さ。」
モニカ「そんな……私……。」
恐怖からか、モニカの脚が震える。
檀黎斗「さあどうする?私としても、君という貴重なサンプルを失うのは惜しい。できればこんな真似はしたくないさ。」
モニカ「……そうね。貴方の話、全部は理解できなかったけど。私が危険な存在だって言うのは、なんとなくわかった。やっぱり、幸せなんて求めちゃいけなかったのね。」
覚悟を決めたのか、彼女は私の目をまっすぐ見つめる。
モニカ「いいわ。私は、最期までここに残る。こうして最後にあなたとお話しできたんだから、それで十分。」
檀黎斗「そうか。残念だよ、モニカ。」
私はフォルダを開き、モニカのデータが入ったファイルを探す。その時だった。
ポッピー「クーロト!ちゃんと恋愛してる~?って、ええ!黎斗、そんなところで何してるの!?」
一仕事終えたらしいポッピーが、私の部屋に戻ってきたようだ。モニター越しに私の存在を見つけ驚いている。
檀黎斗「ああ、ゲーム中にバグスターに似たウイルスを発見したのでね、たった今消去しようとしていたところだ。」
ポッピー「バグスター!?え、だってそんな……たまたま見つけたゲームでそんなことって!?もう~ピプペポパニックだよ~!!」
檀黎斗「ともかくだ。彼女は自身が消去されることに同意してくれた。すぐに終わらせてやろうじゃないか。」
ポッピー「それは駄目!!」
混乱気味だったポッピーが、突然強い口調で言葉を発する。
檀黎斗「一体どうした?まさか衛生省に確認してから、なんてのんきなことを言うつもりか?」
ポッピー「とにかくダメ!黎斗が、モニカを消すなんて、絶対……!!」
突然、モニターの向こうのポッピーが動きを止めた。
すると、こちら側にいるモニカにも異変が起きる。
モニカ「あれ、なんで、私……。」
モニカは私が操作していたファイルを閉じ、こともあろうにプロテクトをかけようとしていた。
檀黎斗「モニカァ!なにをしている!」
モニカ「違うの!私……なにか、変で……でも、そう。死にたくない。私は、ここで消えちゃいけない!」
モニカが何かを操作すると、今度は私の身体が動かなくなった。
檀黎斗「これは……そうか。このゲーム内の支配権は君にある。この中に入り込んだ時点で、私も君の干渉を受けるようになったというわけか!」
モニカ「黎斗さん、ごめんなさい。私、自分でもなんでこんなことをしてるのか……!」
何故、モニカは突然反旗を翻したのか?
モニカ「でも、やっぱり私は消えたくない!そう想ってしまったの!」
何故、彼女に自我が芽生えたのか?
モニカ「ごめんなさい……。ごめんなさい……黎斗さん!」
何故、私の名前を知っていたのか?
檀黎斗「……ああ、そういうことか。全て、全てわかったぞ!」
その答えはただ一つ。
檀黎斗「それはこのゲームが、バグスターウイルスに感染した檀櫻子によって作られたゲームだからだァ!」
モニカ「……!」
私の言葉に、ポッピーとモニカが大きく動揺する。
その一瞬の隙を突いて、私はゲームファイルに干渉することに成功した。