彩ちゃんとの電話を終えた私は、机とセットになっている椅子に座り、夕方の出来事を思い出してみる。
「…明らかに様子がおかしかった。見た目は真紅君なんだけど、そうじゃないというか……考えれば考えるほど分からないわね」
そういえば、目の色が変わってた気がするわね…最初に会った時は黒と赤が混ざったような色だったけど、あの時の彼はダークブルーな暗い目の色をしていた。雰囲気も…人が変わったような、という表現があるけれど、本当に人が変わったと思わされた。
「彼の事を全く知らない私からすれば、分からないのも当然かしらね…」
明日、もう一度彩ちゃんと話してみましょうか…何か、考えついた事があるかもしれない。
そう考えついた私は、もう寝ることにした。想像以上にあの時の恐怖が体に影響を与えていたらしい。そういえば…
「私、真紅君に下着見られた?………ーーーッッッ!///」
…忘れていた事さえも思い出してしまった…
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町外れにある廃工場。周りには電灯一本の灯しかない。そこに一人の男と一台のタクシーがいた。男はタクシーの窓をノックし、乗り込む。
「……どちらまで?」
「そうだねぇ…じゃあここまでお願いしよっかな」
男は一枚の紙を運転手に見せる。運転手は驚いた表情をして言う。
「お客さん、幾ら何でもこれは遠すぎます。かなりの日を跨ぎますし、会社に何と言えば…」
男、目を鋭くし運転手を睨む。
「妙な芝居はやめたほうがいいんじゃない?黄泉の水先人さんよ」
運転手はこうなる事が分かっていたかのように嗤う。
「ヘヘッ、ご存知でしたか。流石は罪神の双秤、何でもありですね」
「何でもありなんて、この世にはないよ?それとも…黄泉にはあるのかい?そんな話が」
嗤う運転手。しかし、その嗤いかたはあくまでも相手の下に出ようとするものだ。本心は如何なものか。
「ご冗談を。そのような名前も、勝手に付けられたのですから。迷惑ですよ全く。ま、名前も明かさない、顔もろくに見せない。乗れば最後。いつのまにか死んでいる。偶々生き残った者が死に際に放った一言だけで、ここまで広がるなら、コソコソやるのも馬鹿馬鹿しくなります」
運転手は特に、顔を隠すサングラスやマスクの類は一切していない。なのに何故顔が見えないのか。それは運転手本人しか知らない。
「フフ、本当だね。で、だ。行けるよね、この場所」
「勿論ですとも。……して、一つ質問してもよろしいですか?」
エンジンをかけ、動き出すタクシー。手慣れたハンドル捌きでターンをし、前進。
「ん、何?」
「今の貴方はどちらでしょう?狂秤、それとも、暴秤?」
男、面白い事を見たか、卒然と笑い出す。これまで細めていた眼を見開いて、答える。
「ククク、決まってるじゃん、“僕”だよ。今、兄ちゃんは……」
陽気に答えていた男、急に何か命と同等のものを失ったかのような声で、
「……辛い事があったんだろうね、『閉じこもっちゃってる』よ…」
「…そうですか、それは、失礼しました」
運転中だというのに関わらず、主は頭を深く下げる。長く、長く。一体、どれほど頭を下げていたのだろうか、いつのまにか窓の外は朝日が差し、目的の場所に付いていた。男はこれに子供のように無邪気に驚き、
「おぉ、これが水先人のトリックって訳か〜!これは凄い!」
「ヘヘッ、お気に召されたなら、良かったです。…あの方に会いに?」
感激している男を、まるで孫の遊びを見守る祖父母のように運転手は嗤う。
「うん、この世界に一緒に入って来たのはあいつらだし。あの老人の事、何か知ってるかも」
「おっと、失礼。二人も入って来ていたのですか…どうか、ご武運を」
タクシーから降りながら答える男と一緒に運転手も降りる。そして、子の旅立ちを見送る親のように深く一礼した。
「うん、運転、お疲れ様!帰りも利用させてもらうよ!」
「はい、お待ちしております」
ダークブルーの眼を持つ男は歩き始める。兄の親友の元へ。
「僕の方でも頑張ってみるから、そっちも頑張ってよね…十矢兄ちゃん」
運転手の腕に付いてある時計は、男が乗り込んだ時間から、6時間しか経っていなかった。東から西へ、東奔西走とは、よく言ったものだ。
後半ちょっとこれまでとは違う書き方をしてみた。これからも採用するかは不明。