花咲川に転入して、3時間。今日の主な内容は開会式と宿題の提出だった。ま、俺に宿題は無かったけどね。今はーー
「これで今日の学校は終わりだ。宿題忘れた野郎は明日持ってくるように。よし!じゃあ解散!」
ーーちょうど放課後になった瞬間だ。さて、時間は12時前。紅桜ちゃんには間違って帰るのは夕方って言っちまったからな、どっかで時間潰さねぇと。リュックサックを片側だけ背負って帰ろうとした時、
「あの、真…紅君」
「あ?」
眼鏡をかけ、肩甲骨辺りまでの長さの黒髪を三つ編みにした、いかにも大人しそうな雰囲気の女子が話しかけてきた。
「そ、その…この後、何か予定とか、ある…?」
あー、これあれだわ。完全に怖がられてるわ。そりゃ目悪いから細めてるし、なにより左眼がないんだから無理ないか。ん?眼が…ない?
「あーまぁ、とりあえず野球部の方に行ってみようかなって。少ない男子で頑張ってんの、見てみたくて」
「あ……そっ、か。ご、ごめんね!急に話しかけちゃって!」
「いや、それは構わないけど…1つきいていいか?」
それは、この学校に来た時からずっと感じていた違和感。今、その正体が分かった。
「俺の顔見て…何も思わないの?」
「え!?え、えと、それは…その……」
何だ?急に顔真っ赤にして。…あ!これゃあ聞き方が悪かったな。
「ごめんごめん!聞き方が悪かったな。じゃあ直で聞くけど、左眼が無いことに何も思わないの?」
「あ…それは…瑞穂さんの教えがあるから…」
「教え?何それ」
「えっと、『人は生きていると、様々な出来事に遭う。その中には、どんなに信用してる奴にも話したくない物もある。だから、自分から深く聞き入る事はするな。背中を押し、相手を聴くんだ」って言うのを、あの人はいつも言っていて…」
「そか。分かった、ありがとね。あとごめんね、何かは知らないけど、誘い断って」
「う、ううん!こっちこそ、ごめん。そ、それじゃあまた明日!」
そう言ったら、その子は急いで教室から出て行った。…何だったんだろ、用件は。聞くだけでも聞きゃよかった。とりあえず、グラウンドに行ってみるか、野球部いるかねぇ。
「なぁお前!野球部に興味あるのか?俺が案内してやるよ!」
声のした方へ振り向くと、炎のエースストライカーみたいな髪型をした茶髪のイケメン君がいた。
「まぁ興味っつーか、見てみたいだけさ」
「構わねぇよ!俺は葛城 優大(かつらぎ ゆうだい)だ、宜しくな、転入生!」
自己紹介をしながら近づいて来る男。まぁ、ステキでフレンドリーなお方ですこと。おっと、おカマになっちまったぜ。
「あぁ、宜しく頼むよ。あと呼び方は十矢でいい」
「なら俺も優大で結構だ!よし、早速行こうぜ!野球部の部室に案内してやるよ!」
「はぁ!?ちょ、おい!引っ張んじゃねぇよ!服伸びんだろうが!」
袖を引っ張るもんだから、まず止めて、歩きながら行く事にした。つか、走ったら駄目だろ。
「そういや優大、お前気になんないのか?」
「何がだ?あ、分かった、女子に話しかけられて嫉妬してんじゃねぇかって事か!?」
「ちげーよ、てか、お前も十分イケメンじゃねぇか。クラスにいる男子、お前だけだぞ。顔いいの」
事実だ。2ーAには男子が俺を除いて6人ぽっちしかいない。その中で顔が良いのはこいつだけだ。他は…平均というのを知らないのか、言えば悪いが、良いのはいない。多分、元女子校ってのを利用してハーレムしようとしてたんだろうな。
「おお!?嬉しい事言ってくれるじゃん!女子からはよく言われるけど、男から言われたら説得力あるもんだな!」
「いや、それはそれで気持ち悪いわ…てか、女子に質問攻めにあってた時の視線はやっぱりそいつらだったのか」
仲良くしてくれなさそうだ。ま、交友はぼちぼちね。
「で?結局気になる事って何なんだよ」
「あぁ、その話だったな…いや、左眼が無いこと、気にならないのか?」
これはクラスにいる時ずっと思ってた事。何十人もが俺のことを見たのに、誰も目の事に触れなかった。別に構ってちゃんではない。これまでずっと聞かれてきたから、不思議に思っただけだ。
「あーそれはな。先生の持論さ、『人間生きてると色々な出来事に遭う。その中には、どんなに信用してる奴にも話したくない事もある。だから、深く聞き入る事はするな、背中を押して、相手を聴くんだ』ってな。だからクラスの連中は誰も聞かなかったのさ。触れないのがきになったんだろ?」
「ああ、出会ってきた人、全てに聞かれたからな」
『背中を押して、相手を聴く』…か。三つ編みの子と同じ内容だ。先生、良い持論を持ってんな。ますます気にいったよ。その話の後は、学園の強い部活とか、日々の練習の内容を聞かせてもらった。やっぱ練習ハードだなぁって改めて実感した。そんな時ーー
「………え?」
視界に入った1人の女子。たったその1人の女子で、思考が止まった。その理由はーー
「!おい!十矢、何処行くんだよ!」
「悪りぃ!そこで待っててくれ!すぐに戻る!』
視界から消えてしまった女子を探しに駆ける。ブーメランなんて、今は関係ない。さっきの子…あれは、まさかとは思うけど…!
「ハァ、ハァ、ハァ。くそッ!見逃した……嘘だろ?あの子は…もしかして……」
まだこの学園の構造を理解していないから迷って見失ってしまった。だが、あの制服は花咲川のモンだ。いつか分かる時がくる。とりあえず今は優大の所に戻んないと…
「おーい、どうしたんだよ急にー!幽霊でも見たか?」
追いかけて来たのか、待ってろって言ったのに。
「んなわけねぇよ。昔の知り合いに似た奴がいたから追いかけただけだ。ま、見失ったけどな」
「ほー、初恋相手か?」
悪戯好きな悪ガキみたいな表情になってニヤニヤしてくる。鬱陶しい。
「馬鹿言え。ほら、早く行くぞ」
「はいはい、分かりましたよーっと」
その後は野球部が紅白戦やるというので、特別に中継ぎとして登板させてもらった。ファースト、キャッチャー、そしてピッチャーはできるんでね。変化球も、ま、多少はね?是非とも入部してくれ!と言われてしまったが、正直、今日はそれどころじゃなかった。だってーー
「嘘だろ…まさか、花咲川にいるのか?彩ちゃん」
ずっとお礼を言いたいと思っていた子に会えるチャンスが巡ってくる。転入初日からこんな事が起こるなんて…これも定められた運命か…この出来事のせいで、彩ちゃんの事をずっと考えてしまい、1日中集中できなかった。紅白戦も自責点1という結果。そして、1番酷いのがバッティングセンターでの事。130kmの球を捕っていると、球の軌道を見損ねてしまい、グラブにかすって右眼に球が直撃してしまった。クソ痛い。
「はぁ、まだ涙止まんねぇや…絶対腫れるわこれ。ハッキリ分かんだね」
家に帰ったら、眼を見た紅桜ちゃんが泣きながら抱きついて来た。とりあえず、朝の約束もあったので夜は一緒に寝ることになった。別に何もシねぇよ、本当だかんな!
「とにかく失明しなくてよかったー。右眼も無くなったら生活できないわ」
鏡で眼を確認しながら呟く。そんな時でも考えるのは彩ちゃんの事だ。本当にあれは彩ちゃんだったのか?あの頃と変わらないピンク色の髪で判断しただけじゃないのか?分からない。
「十矢君ー?もう寝るよー?」
「うん、今行くよ」
花咲川にいるのなら、必ず会う日が来る。その日を、待ってみるとしますか。
やっとハーメルンの機能が理解できるようになってきたロクでなしです。次回で1章終わり…かな?やっとバンドリキャラとの掛け合いができる…!(感涙)