6.襲いくる Fear
小学生の頃、イジメられてたあの子を見た時、体が勝手に動いてた。よくある表現だよね、許せない物を見た時の。あの頃の私はただただ、皆に笑ってほしかったからあの子を助けたんだと思う。でも、あの子は私に言ったの、「君もイジメられちゃう」って。あれ、ちょっと違うかな?…私は驚いた。だって、小学1年生なんて普通、目の前に希望が現れたら戦隊ヒーローみたいに笑顔になると思ってた。私もそんな立場ならそうだったから。でもあの子は、現れた希望を心配した。偏見かもしれないけど、そんな子はいないと考えてた。でも目の前の子がそうなんだから、分かるしかないよね。…その日の翌日、あの子はいつもよりほんの少しだけ元気だった気がした。私はその子が気になって、少しずつ話をするようになっていった。そして…中学年くらいの時かな、家族の都合で遠くに引っ越すことになったの。さよならの挨拶がしたかったけど、時間がなくてそのまま。いつかまた、話ができたらいいなって思ってた。そして、その子と再会した。相変わらず背が高くて、スラっとしてて、可愛かった顔はカッコよくなってた。でも……
「いったい、どうしちゃったんだろう。映透君…」
「その、エイト君って誰?」
「えっ!?」
口に出てしまっていたのか、ある1人の女の子に聞かれてしまった。その子は、芸能人として尊敬し、友達としても大好きな人。
「まさかボーイフレンドじゃないわよね…」
「ち、千聖ちゃん!ち、ちがうよ!断じて!」
「ふーん、あのね彩ちゃん。ボーイフレンドじゃなかったとしても、一般人、特に男性との付き合いは気をつけてって言ってるわよね?」
有無を言わせない笑顔で私に言ってくる千聖ちゃん。怖すぎて頷く事しかできないよ…
映透君がどこかに行っちゃってそれから私は、そのまま事務所に行ってパスパレの皆とレッスンをしていた。映透君の事が相当気になってたのか、歌詞の入りを間違えたり、ターンでつまづいたりしてしまった。普段間違わない所なのに間違えちゃったから、皆から心配されて少し早めの休憩を取ることにした。いくら集中しようとしても、頭の片隅でどうしても気になってしまう。迷惑かけるわけにはいかないのに…
「集中できてないのも、その人のせいなの?」
「ううん、私のせい…だと思う」
「?確信はないの?」
「うん、映透君は昔の友達で、さっき久しぶりに会って…それで名前を呼んだら、急に…大声でどこかに行っちゃって」
「名前を呼んだら?…どういう意味かしら」
「分かんない。でも、私が映透君に嫌な思いさせてしまったんだったら、ちゃんと会って謝らなきゃ。だって…大声を出した時の顔は、怒りというより、悲しみ…寂しさが伝わってきたから……」
千聖ちゃんは呆れたようにため息をついて、私に言った。
「分かったわ、今日は夕方までのレッスンだからその後は探せる。私でよかったら、一緒に探しましょうか?」
「え!いや、悪いよそんなの!それに、千聖ちゃんは別に理由もないんじゃ…」
「理由がなかったら、やってはいけないの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど…」
なんだか千聖ちゃんは理由もない事はしないと思ってたよ…あ、こんな事言ったら怒られちゃう。危ない危ない…
「(どうしてか分からないけど…その映透って人、なんだか危険な人の予感がする。彩ちゃんより先に見つけて、判断しなきゃ…)」
「?どうしたの千聖ちゃん。急に黙っちゃって」
「!いえ、何でもないわ。そろそろ、再開しましょう。大丈夫?」
千聖ちゃんは立ち上がって手を差し出してくる。私はその手を取って、残りのレッスンをこなしていった。言ったらスッキリしたのか、始めた時よりしっかり出来たと思う。夕方になってレッスンが終わる。私と千聖ちゃんを除いた皆は用事があるみたいで、送迎車に乗って帰って行った。
「それじゃあ行きましょうか、彩ちゃん」
「う、うん。あ、あと映透君の特徴なんだけど…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「さて…どうしましょうか…」
彩ちゃんからその、映透さんの特徴を聞いたのはいいけど、聞く限り、あの転入してきた…真紅…だったかしら。似ている気がするわね…
あの後、彩ちゃんと別れた私は変装をして通学路を歩いている。彩ちゃんと映透さんが会ったのが事務所の近くで通学路の方に走って行ったと聞いたからこうして探している…のだけれど…
「そう簡単に見つかるわけないわよね…正直、探す方法を考えてなかったわ…」
いくら変装をしてるからといっても、勘のいいファンがいたらバレてしまう。早めに見つけないと…
前言撤回、それどころじゃなくなってしまったわ…
「ヘヘヘヘヘ………」
黒ニットの帽子、サングラスにマスク…典型的な強盗、誘拐犯の姿の男が後ろからついてきてる。周りには他に誰もいないから、目当ては私?この辺りに警察署あったかしら、諦めてくれたらそれで今はいいのだけど…
「おい!テメェ詫びの挨拶も無しか!」
「え?」
突然その男が大声をあげる。振り返ると、黒の半袖シャツにジーンズを履いた人が新しくいた。その姿に見覚えがあってーー
「あれは…真紅君?」
「おい!聞いてんのか!1発殴らせッ!?」
「…………………」
一瞬だった。男が拳を振りかざして殴ろうとした時、真紅くんが、男のみぞおちを目に映らないほどの速さで殴っていた。分からなかった。何が起きたのか。気付いた時には、男は地面に倒れていて、真紅君は何もなかったようにそこに立ち尽くしていた。私は怖くなってーー
「………?…あぁ、白鷺さんか。目ェ悪いんで、誰か分からなかったよ…ハハ」
ーー地面に座り込んでしまった。それで彼に気づかれて近づかれて話しかけられて。今すぐにここから逃げ出したかった。でも、足が震えて動かなかった。ドラマで喧嘩のシーンなんかは見た事があったけど、本物は初めてだし…なにより、演技では決して出す事が出来ない本当の『殺気』があった。私の目の前でしゃがむ彼。何も思わなかったのに今だけ…無い左眼が恐ろしく思えた。
「ハハ、レッスンの帰り?大変だねぇアイドルも。でもま、楽しくてやってるなら、それが1番だよねー。……ストーカーには、気をつけてね?今回は俺が偶々居たからよかったけど、何されるか分かったもんじゃないから」
何も言う事が出来ない私を前に喋っている。顔は笑ってる。でも、それは偽り。私もそうする時があった。でも、私とは違う。言葉では言い表せない様々な感情が彼の顔から伺えたから。悲しみ?寂しさ?もしかして、真紅君が……?
「さて、俺はもう行くね。用があるから。そうそう、そんな座り方してたら、パンツ見えちゃうよ?」
「あ…ぁ……」
最後まで笑いながら彼は去って行った。角を曲がって姿が見えなくなってようやく、私は体の自由を取り戻した。1分もない時間経過の筈なのに、何十分も拘束されていたみたいな感覚。
「!千聖ちゃん!大丈夫!?何があったの!?」
別の角から彩ちゃんがやって来て、私の側に来てくれる。それで糸が切れてしまったのか、思わず泣いてしまった。
「う、うぅ…あ、彩…ちゃん……グスッ」
「え!?ち、千聖ちゃん?」
その後は、しばらく彩ちゃんの隣で泣き続けた。人前で泣く事に対しての羞恥心を失くすほど、彼は怖かった。彩ちゃんに彼の事を話すか迷ったけど…おそらく、真紅君が…
「グスッ……ごめんなさい、彩ちゃん。急に泣いちゃって」
「ううん、平気。千聖ちゃん、何があったの?」
私は意を決して、彩ちゃんの目を見て言う。
「彩ちゃん…私、映透君に会ったわ…」
「え!本当!?ど、どこに行ったの!?」
どこに行ったか。私が伝えたいのは、それじゃない。
「映透君は……今学期、私のクラスに転入して来た、真紅君よ…」
「え………?」
待たせたな!誰も待ってない。
後半千聖視点になっちった。次になったら戻ってますよ。
あー真紅、怖いねぇ〜。つーか、千聖のパンツって何いr((
ちなみに我らが高校の女子はスパッツとかいうものを穿いてるらしいです。そっちなのかな?
エイト、という名前は、新聞を読んでると赤ちゃんの名前が記されてるページがあるんですけど、そこから頂きました。