早朝のラジオ体操が終わり、スタンプを待つ。スタンプの順番は低学年からなので中学生の眞一たちは一番最後になる。
「ほんと、中学生にもなってラジオ体操に行かないといけないなんて本当田舎よね...」
木原が愚痴をこぼす。うちの中学では最低一週間はラジオ体操に行く義務があり、ラジオ体操カードを提出しないといけない。
「でももう二週間だし、いいんじゃないか?俺は麻莉に叩き起こされるから毎日行くことになりそうだけど」
「何?私に来ないで欲しいって言いたいわけ?」
「なんで怒ってるんだよ。ただめんどくさそうにしてるから..」
「別に....怒ってないし、シンが来るなら毎日来てもいいかな..」
「まぁ一人だけって気恥ずかしいもんな..」
「そういう意味じゃないんだけどな..」
木原はなにか呟いていたが、喧騒にかき消され聞き取れなかった。
「ねえ、シンちゃん。今日私のうちに来ない?宿題提出もうすぐでしょ?私が見てあげる」
「そうだな。ずっと誘いを断っていたし、お昼行くよ...あ、でも瑠..桑野は今日指導員はいいのか?」
「大丈夫だよ。今日は公民館の人がやってくれるみたいだから」
「........」
俺が桑野と会話をしてる間、木原はこちらを睨んでいた。
「分かった。じゃあまたな」
「うん。待ってるね」
10時以降にしか外出してはいけないという夏休みの制限がある。よく分からないが、午前中に最低限の勉強時間を確保するためだという。しかし、夏休みになると午後に起きるような子もいるのだから無意味な気もする。
眞一は午後に瑠奈に教わるので午前中は読書感想文の小説を読むことにした。しかし捲る手は全く進まなかった。昼食を食べた後、勉強道具をバッグに詰め込み瑠奈の家に向かう。瑠奈の家は歩いて木原の家同様近所で歩いて一分ほどの所にある。
「おじゃましまーす」
しばらく沈黙が訪れる。誰もいないのだろうか?
「....どちらさん?」
「あ、おじいちゃん。えーと瑠奈さんに用があるんですが..」
「瑠奈...?」
「どうしたのおじいちゃん?あ、シンちゃんいらっしゃい。どうぞ上がって」
認知症の瑠奈のおじいちゃんに困惑していたところに瑠奈がやって来た。数年前はとても元気で優しくしてもらったが、今や俺どころか瑠奈のことも分かっていない。
瑠奈に案内され部屋に入る。本棚には少女漫画、ファッション雑誌などがあり部屋の真ん中にはローテーブルのあるイメージ通りの女の子らしい部屋だ。しかし、それに似つかわしくない男の汗臭い匂いがするのは何でだろうか...そんなこと当人に言えるわけもないが
「どうしたの?座って」
「う、うん」
ローテーブルを囲うように座る。木原の部屋はもっと殺風景なのでこういう女子らしい部屋は慣れない。
「どうしたの?楽にしていいよ」
「いや...その女の子の部屋っていうのは落ち着かないものだなって」
「あんまり、ジロジロ見ないで欲しいなぁ..」
「あ、ごめん。るな以外の女の子の部屋って入ったことないから。」
「今飲み物持ってくるね♪(シンちゃん、私を女の子として意識してるんだ...♡)」
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眞一の隣に瑠奈が座り、勉強会が始まった。
「シンちゃん、宿題すすんでる?」
「ワーク類はだいたい。るなのうちにも行って教わってるからなぁ」
「思ったんだけどさ....」
瑠奈がいつにもなく暗い声調で語りかけてきた。
「ん?」
「私といる時ぐらい瑠奈って呼んでほしいな。るなが私のこと名前で呼ぶの嫌がってるのはわかるよ?でも、るながいない時は私のことを瑠奈って呼んで...?
わがまま...かな?」
「ごめん....その..瑠奈、ここを教えて欲しいんだけど」
「え?どこどこ?」
瑠奈がワークを覗き込むように密着してきた。思春期の男子には刺激が強いものだった。
「......./ ....../」
「シンちゃん、疲れちゃった?」
密着する時間が長く意識が朦朧としていると瑠奈が心配してきた。疲れたともまた違うが。
「.../あっ大丈夫」
「ご飯食べたあとはつい眠くなっちゃうよねっもし眠くなったら横になってもいいよ」
「人の家でそんなことできないよ」
「るなの家では風呂に入ったのに?」
「な、なんでそれを!」
俺は驚いた。木原がそんなこと喋るわけもないし、一体どこで知ったんだろうか。
「前、おつかいに行ったときにるなのお母さんに聞いたの。」
「あぁ...」
合点がいった。木原のお母さんなら話しそうだ。
「ふふっ別に恥ずかしがらなくても。私とも入る?」
「からかうのはよしてくれよ。」
「からかうって何?...............私とじゃ嫌...なの?
るなはよくて私と入るのは嫌なの?」
「瑠奈....?」
冗談だと思い、軽くあしらったつもりだったが瑠奈は焦点の合わない瞳で眞一を捉えた。
「どうなの?答えてよ!!!!」
突然のことに驚いていると、煮え切らぬ態度に瑠奈は激昂した。こんな桑野は初めて見た。
「い......嫌じゃないよ」
恐る恐る答えた。いや、そうとしか答えられなかった。
「ふっ....ならよかった。ごめんね怖がらせちゃって」
答えたときには普段の優しい瑠奈に戻っていた。
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夕方になり、カラスも寝床に戻ろうと飛び立っていた。
「今日はありがとう」
「また明日ね。シンちゃん」
眞一を見送り瑠奈は部屋に戻ると床に這いつくばって何かを探していた。
「あった....シンちゃんの髪の毛」
瑠奈は学習机の本棚においてあるくまのぬいぐるみを持ち裏に向ける。くまの背はパッカリと開いており中には綿ではなく真っ黒な短めの髪の毛がぎっしりと詰められていた。
「シンちゃん人形ももうすぐ完成しそう....ふふ」
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