春秋零下はそういう作品であって欲しいのですが、これは10話以内に終わる予定です。
んー今夏までには終わらせたい!
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『そういうことだから。眞一くんのことは諦めなさい。』
『いや!私はシンちゃんのことが好きなの!』
私はお父さんに呼ばれ、話を聞いた。この村の「しきたり」なので覚悟はしていた。私でなくてもシンちゃんを祝うつもりでいた。しかし、相手を聞いた時そんな思いは霧散した。
『るなも知っているだろう。もうすぐ高校生だろう、「執着」を捨てなさい。」
「......私、別れないから。あんな女に取られるくらいならこんな村出ていくから....」
パチンッ
乾いた音が部屋に響く。私は頬に触れ、痺れた痛みを感じた。
お父さんはとても優しい人で叱られたことを記憶していないほど温厚な父親だった。そんなお父さんが初めて手をあげた。
『いい加減にしなさい!』
『.....っ』
私は襖を大きな音を立て閉め、そのまま外を出た。しばらく1人でいたかった。
なんで...なんであんな女がシンちゃんと....
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田舎の夏休みというのはとにかくやることがない。夏祭り、海水浴、花火大会....そんなものはマンガの中の世界に過ぎない。祭りは大人たちがやっている出店が少しあるくらいでお酒を飲む大人とは対照的に子どもは脇でゲームをしているのが毎年の風景だ。
海水浴は行かないわけではないが、外出届を出さなければならないため村の人々はあまり行きたがらない。外出届というのは学校のものではなく、そもそも村役場に出さなければいけないものだ。村民が都会に逃げ出したことがあり、外出は届出制となったらしい。
とはいえ、許可は簡単に出るため休日は近くへ買い出しに出掛ける。前は最近できたショッピングモールに行ったが、店もそうだが人も多く人酔いしそうだった。
そんな田舎での娯楽といえば...
「今日こそ勝つわよ」
「はっ、るなが俺に勝てるとでも?」
眞一の部屋には眞一、るな、瑠奈の三人がいた。麻莉は友達の家に遊びに行っている。つまり、家にはこの三人しかいない。
眞一とるなはゲームコントローラーを両手に持ち、いつもの対戦ゲームをしようとしていた。瑠奈はそんな二人の様子を見ていた。古いゲームのため3人対戦ができないのもあるが、瑠奈はこうしたゲームをやらないため普段から二人がゲームをやるのを眺めている。ある時眞一が見てるだけで楽しいか?と聞いたことがあったが、「うん。シンちゃんを見ているのはとても楽しいよ」といっていたのでそれからは眞一も何も言わずゲームに熱中している。
二人はボタンとスティックを連打したり、忙しなく動かし、モニター上のキャラクターを動かしていた。2人扮するキャラクターは彼らの熱量を受けながら闘っていた。
「クソッやるな。るな」
「この日のために特訓したんだからっ当然でしょ!っと」
るなの操作する屈強な軍人がキメ技を繰り出した。眞一が操作する拳法家はそれをモロに喰らい、地面に倒れた。
「あ...」
「よしっ久しぶりにシンに勝った!!どう?もう余裕なんてないでしょ?」
「1勝したくらいで調子乗んなよ。まだ本気出してないんだからな。これからだ!」
「よし!もう一回!」
continueを押し、再戦する。
「ねぇ、シンちゃん?」
「ん?どうした桑野」
珍しく桑野が眞一に話しかけた。こんなことは初めてだった。前述の通り、瑠奈は眺めているだけで話しかけるわけでも、漫画を読んだり別のことをしている訳ではなく、ただ眞一達がゲームをしているのをただ眺めているだけだった。そんな瑠奈がゲーム中に話しかけてきた。一体どうしたのだろうか?
「その....やってみてもいい?ゲーム、一回でいいから」
「え?別にいいけど」
どうもゲームがやってみたくなったようだ。瑠奈も見てるだけでは暇だったのだろう。そろそろ目も疲れてきたので俺はゲームコントローラーを瑠奈に渡した。
「やり方分からないからシンちゃん教えて?」
「お、おう」
俺は瑠奈の背後に回り、ボタンの説明をする。
ほぼ密着状態で興奮する。瑠奈はすごくいい匂いがした。この匂いを形容するのは難しいが、女の子の匂いって感じがした。無意識に顔が熱くなっていく。また、夏とあって薄着のため胸元がこのアングルから見えてしまう。いや、俺が見ようとしているのだが。
白いブラジャー的な何かが見え隠れする。一瞬るなの方に目をやると、ゴミを見るような冷ややかな目をしていたが、何も言う事なく視線をモニターに戻していた。完全に気づかれている....後で怒られるだろうなぁ。
「あ、動いた」
瑠奈がスティックを動かすとキャラクターが動き、子どものようにはしゃいでいた。
「で、そこのボタンでパンチ、そっちがキックでそのボタンとスティック操作でキメ技ができる」
「キメ技って何?」
「んー、まぁ必殺技みたいなもんだ。ここぞという時に使うものかな」
「へぇ」
瑠奈は俺の説明に感心するように相づちを打つ。まだ初心者なので動きが不安定であるが、初めてにしてはできてる方だ。問題はるなの方だ。
「るな、桑野は初心者なんだからそんな本気ださなくても」
「本気じゃないわ。手加減してるつもりよ」
手加減しているとは思えないほど瑠奈の操作する女剣士をボコボコにする軍人。現実なら犯罪に近い絵面だ。
瑠奈は反撃の余地もなく、KOされる。
「るな.....」
「シンちゃんいいよ..十分楽しめたし」
「私、悪くないから...」
るなはつまらなかったとでもいいたそうな顔でジュースを飲み干す。
「おかわり持ってくるよ。その間適当に遊んでろよ」
「「うん」」
俺はお盆を持ち、部屋を出る。階段を下りて台所に向かい、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しコップに注いだ。
しかし、るなには困ったものだ。俺じゃなく瑠奈が相手だから早く終わらせようと初心者相手にボコボコにするなんて。瑠奈だって見ているだけではつまらなかったことくらいるなにも分かるだろうに。本当に大人げない奴だ。まぁでも瑠奈は満足そうだったし、今も対戦中だろうからゲームを体感しているのならそれでいいのか。次はまたるなの相手でもしてやろう。
そんなことを考えながら3つのコップをお盆に載せ、階段を上がる。すると部屋から怒号が鳴っていた。階段からでも聞こえるくらいの声だった。声の主は二人だった。どうも言い合いをしているようだった。止めに入ろうと部屋を入ろうとするが、
『シンは私のものなの!これだけはくーに渡さないんだから!」
るなの言葉で固まる。どうもゲームのことで喧嘩をしている様子ではない。今止めに行っても事態を混乱させてしまうかもしれない。そう思った眞一はただ立ち尽くすほかなかった。
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時間は戻り、眞一が部屋を出た後の部屋では二人は対戦を続けていた。先ほどの泥仕合とは違い、いい勝負となっていた。木原はふと言葉を発した。
「ねぇ、くー。なんで初めてゲームをしたみたいな噓ついたの?くー、あんた私のうちでやったことあるじゃない。」
実は桑野は何度か木原の家で同じゲームを楽しんでいる。腕もそれなりにある。それなのに初心者かのように装う桑野に木原は内心怒りに近い感情を抱いていた。
「昔からくーはそう。何もできないお嬢様になりきって大人たちから可愛がられて...私、あんたのそういうところ大っ嫌い。」
「るな、私そんなつもりないし。......こうでもしないとシンちゃん、るなにばっかり構うもん!るなには分かんないよ!大人しい子の気持ちなんか」
桑野はついに内に秘めた感情を爆発させた。それに触発され、木原も反撃する。
「何?その結果が”駆け落ち”なわけ?あんたの勝手でどれだけシンがひどい目にあったか分かってんの?あんたは座敷牢くらいで済んだかもしれないけど、シンはね.....村の男どもに殴る蹴るのリンチに遭って、学校でもいじめられるようになったのよ!シンをこんな目に遭わせてまだ私を悪者扱いするの?ほんと最低な女。」
「だって本当の悪党じゃない」
「なんですって」
「シンちゃんの許嫁、るなのお父さんが物言いしたんでしょ。るなのお父さん村では書記長だもんね。」
「何が言いたいのよ」
「許嫁.......あれ、コネでしょ?『執着』があるのはどちらかしらね。権力使ってシンちゃんを奪うなんて悪党じゃない」
「何言っているの...あれは会議で決まったことで..」
「嘘!絶対るながシンちゃんのお嫁さんになりたいからってお父さんに口利きしたんでしょ!」
木原は桑野の頬を張った。
「いい加減にしなさいよ!昔から何かにつけて私を目の敵にして!さっき私の気持ちが分からない癖にって言ってたけどこっちもよ。くーには分からないわよ、比べられることの悔しさなんて!子どもの頃からずっとくーと比べられてきた...同じ名前ってだけで。頭もよくないし、性格は女らしくないし親からも「桑野さんちの瑠奈ちゃんを見習いなさい」って何回言われたか...あんたには分からないでしょうね!
でも、シンは違った。シンは私のことを女の子として見てくれたし、私のことを褒めてくれた『元気で可愛い』って。それから比べられるのなんてどうでもよくなっちゃった。.......村の大人に可愛がられようが、媚びを売ろうが別に構わないけど、シンは私のものなの!これだけはくーに渡さないんだから!」
「私、シンちゃんのこと諦めないから...別にお嫁さんじゃなくても愛人だって」
木原は桑野にもう一発食らわせた。
「ふざけんなよ」
「さっきから痛ぇんだよ。可愛げがないからシンちゃんに嫌われるんだよ。」
桑野は普段の言葉遣いとは違い粗野な口ぶりで木原に仕返しのビンタを浴びせる。
「うるさい!このアバズレ」
「.....っ..髪掴むな。このメスゴリラ」
髪を引っ張る、顔を殴るといったとても女の喧嘩とは思えないバイオレンスな痴話げんかが繰り広げられていた。あまりの迫力でドアの外にいた眞一は声も出なかった。
あの二人が「死ね」だの「くそビッチ」など汚い言葉を発しながら、音が聞こえるほど殴打を繰り返している様はまるで地獄絵図だった。
二人の仲が冷め始めているのはなんとなく予見していた。瑠奈と話しているとき、るなは面白くない顔をしていたし、ここ最近の呼び方に固執する様子から見ても二人が対立していたのは俺でも分かった。しかし、ここまでになるとは思わなかった。俺と一緒にいる時は仲がいいように装っていた。今日の学校でもゲームをしている間も.....だが、遂にそれも限界に達し素の姿がここにあるのだろう。
「シン、そこにいるんでしょ」
突き刺さるような底冷えした声が部屋の中からした。るなからだった。
「入って」
俺は素直にドアを開けると髪を乱し、顔にはあざができた二人がいた。るなは廊下に置いてきたコップを突然ドアの取っ手に叩き付け、割りその破片を俺の喉仏に突き立てた。
「シン、答えて。私とくーどっちが好き?」
閲覧ありがとうございました。
まさかの修羅場突入!これまでにない激しいのが書けたと思っています。さて、この村なんやねん...というのは次回明かすことにします。