宝箱からこんにちは   作:羽毛山ミト

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赤髪 → レティー(大剣使い)
蒼髪 → リーシェ(魔法詠唱者)
緑髪 → グリューネ(レンジャー)
金髪 → リン(武道家)
桃髪 → ナタリア(神官)

もちろん赤色がリーダーです。常識ですね


ここはどこ、ぼくはだれ

 ぼくは昨日の事を思い出していた。

 間違いなくパジャマに着替えて布団の上で横になった。軽い柔軟体操を行って、スマホを少し弄ってから、すぐに瞼を閉じたはずだ。

 

 うん、いつも通りの就寝だ。

 それがどうしてこうなっているのか。すぐに思いつくのは二つある。

 まずは壮大なドッキリ番組に巻き込まれたという可能性。

 ここまで用意するのは凄いの一言だが、どう考えても宝箱に詰められればぼくは起きる筈だ。睡眠薬を使えば大丈夫かもしれないが、ただのドッキリ企画でそこまでやるだろうか? 日本なら本人の許可なく薬を使うのは色々と問題になる筈だ。

 

 そうなると次に思い浮かぶのは……異世界転移してしまったという可能性だ。

 中々に荒唐無稽な話だが、ぼくはこの可能性が一番高いのではないかと思っている。理由は簡単で異世界転移なら全ての説明がつくからだ。

 

 ダンジョンと呼ばれているこの地の幻想的な風景が、偽物であるとはどうしても思えなかった。

 大自然を目の前にしたような圧倒的な亢奮が沸き上がったのだ。作り物では表せないような言い知れぬ感動がそこにはあった。

 

 そして言語なのだが、日本語のように聞こえるが、おそらく日本語では無い。

 少なくとも聞こえている言葉と、彼女たちの口の動かし方は一致していない。異世界だとすれば多分翻訳魔法的なのが関わっているんじゃないかと思うが、そこら辺はまだ分からないので追々だ。

 

 ドッキリ企画ならそれはそれでいい。

 ぼくが恥をかいて騙されてやればそれで済むだけだ。けれど異世界に転移したならば、これからの事を考えなくてはならない。

 

 当面の目標は生き残る事だ。

 まずはそれだけ。詳しい状況が分からない間は、とにかくそれだけを考えて頑張ろう。

 帰る方法は後回しだ。ぶっちゃけて言えば本気で帰りたいというだけの熱意をぼくは持っていない。

 

 勿論知らない世界よりは、日本の方が良いに決まっている。

 冒険譚は好きだが、それは本の中だけで十分だ。自分の命を賭けてまでやりたいと思った事は無い。だけど異世界という存在に胸を躍らせない程に、ぼくは冷めている訳ではなかった。

 

 親と恋人はいなかった。友達は結構いたが親友とまで呼べる人はいなかった。

 友人に心配をさせてしまうのが非常に心苦しいが、でもそれだけである。多分ぼくを探してくれるだろう友人には申し訳ないと思っても、彼らの為に命がけで帰りたいとまでは思えなかった。

 

 ならばぼくが優先すべきなのは安全だ。

 生き残る事。ただそれだけを考えて、まずはここから脱出する。

 

 よし……!

 ぼくは決意を固めて目の前の少女を見る。

 蒼髪の少女は無表情でぼくを見つめている。何を考えているのかは分からないが、特別悪い人には見えない。

 

 少なくともぼくを助けてくれた挙動不審の赤髪さんは良い人に見える。

 そして蒼髪さんが彼女の仲間だと言うなら、きっと悪い人では無いのだろう。ここはおそらく異世界で頼れる人はいない。ならば自分の直観を信じるしか無い!

 

「よ、よろしくお願いします!」

「「「「「!?」」」」」

 

 ぼくは頭を下げて、彼女達の所有物になる事を了承した。

 別に女の子に飼われたいとかそういう欲望は……全く無い訳ではないが、それはあくまで妄想の世界での話だ。現実だと不都合の方が絶対的に多いので、そうなりたいとは思わない。

 

 ただ彼女達の言葉を信じるなら、ここはアルバストロスとやらの迷宮最深部だ。

 迷宮の最深部――つまり一番奥という事だろう。ここから一人で脱出するのが不可能な事はぼくにだって分かる。

 なら彼女たちの所有物になった方が安全だ。迷宮というからにはモンスターとかが出るのだろう。そうなった場合は、他人より所有物である方が真剣に守って貰える。というか他人のままだと普通に見捨てられてしまう可能性もある。

 

 これがおっさんだったら躊躇したが、相手は美少女五人。

 やはり可愛いというのはチートだ。何の根拠もないのに不思議な安心感がある。

 さらに五人という数が絶妙である。一人の所有物になるというのは、ある種のギャンブルに近いが、五人いれば誰かはブレーキになってくれる筈だ。そうそう無茶な使い方はされないだろう。

 

 ……しかし返事が無い。

 では奴隷紋を刻むとか言い出されないかと多少不安だったが、そんな様子は全くない。ただ沈黙だけが場を支配している。

 

 頭を上げてもいいだろうか?

 流石にこのまま下げ続けているのは不自然だ。思い切って顔を上げると、蒼髪さんと目が合った。彼女はびくりと肩を震わせると、慌てたように視線を彷徨わせた。

 

 彼女達は再び目で何やら相談を始めると、蒼髪の少女が一歩下がった。そして代わりにピンクの髪の少女が前に出る。

 

「そ、そそ、それはつまり、わわ、わ、私達の性奴隷になってくれると……痛い!?」

 

 何やら不穏な単語を呟いたピンクさんは、赤髪さんに速攻で拳骨を落とされた。

 他の三人も慌てたようにピンクさんに殴りかかっている。身内のじゃれ合いかと思ったが、割とマジだ。

 それとも迷宮を攻略した彼女達にとっては、この程度の暴力はじゃれ合いレベルなのだろうか? ぼくが引き攣った表情を自覚していると、赤髪さんが必死の表情で話しかけてきた。

 

「仲間が申し訳ありません。勿論今のは冗談です! リーシェの所有物という発言も、もちろん冗談です! で、ですが、冗談でも許されない事があるのは重々承知しております。申し訳ありません。本当に……申し訳ありませんでしたー!」

 

 徐々に凄まじい戦闘へと発展した背景に、ぼくは青ざめていたのだが、追撃するように赤髪さんが土下座を始める。

 正直何が何だか分からないが、赤髪さんに土下座されるような事をされた覚えは無い。ぼくはすぐに赤髪さんに土下座を止めるようにやんわりと促した。

 

「わ、分かりました。大丈夫です、冗談だったんですよね? ぼくは怒ってませんから、止めて貰えませんか?」

 

 そう言うと赤髪さんは信じられないような表情をしながら頭を上げた。

 同時に何故か後ろの戦闘もピタリと止まった。金髪さんなんて足を頭より高く振り上げたポーズで器用に固まっている。まるで時間を止めたような結果になってしまった。

 

「い、良いんですか?」

「はい。えっと……ぼくは皆さんの所有物にはなるというのも冗談だったという事ですか?」

「もちろんです!」

 

 赤髪さんは首をぶんぶんと上下に……ぶっ飛ぶんじゃないかという勢いで振っていた。

 どうやら最初の発言は冗談だったらしい。安心した。もしかしたら異世界ではポピュラーなジョークだったのかもしれない。それをぼくが鵜呑みにしてしまったから、赤髪さんは焦る羽目になったのだろう。

 

 そう考えると悪いのは全面的にぼくだ。

 多分蒼髪さんは不安そうにしていたぼくを励ます為に冗談を言ってくれたのだ。しかし異世界の事を何も知らないぼくは言葉通りに受け取ってしまう。

 その結果として恩人とでも言うべき赤髪さんに頭を下げさせてしまった。ああ、もう! 最悪じゃあないか!

 

 ぼくが自己嫌悪に陥っていると、「やはり傷ついてる」「当たり前でしょ」という言葉が聞こえたので慌てて顏を上げた。

 これ以上彼女たちに心配させる事はしてはならない。無理やり笑顔を貼り付けると、明るい調子で声を出した。

 

「むしろ嬉しかったですよ」

「え?」

「ええええええええ!? そ、そそそそそそ、それって、もしかして性奴隷願ぼ……痛ァァい!?」

「い、いえ……そうではなくですね」

 

 ピンクさんはあんなに綺麗なのに下ネタが好きなのだろうか?

 下ネタに苦手意識は無い筈なのだが、美少女から言われると奇妙な恥ずかしさが勝る。正直に言えばやめて欲しい。他の四人も下ネタを嫌っているのは、態度から明らかだった。再び戦争が始まりそうだったので、ぼくは急いで言葉を続ける。

 

「冗談を言ってくれた事です。不安な表情をしていたぼくの為に冗談を言ってくれたんですよね? ぼくは真に受けて場を混乱させてしまったけど、でもその心遣いがとても嬉しかったです。ありがとうございます」

 

 そう言って本音を伝えたのだが、何故か微妙な空気になった。

 五人は再び目だけで会話を始める。少しばかり自分が仲間外れである事を自覚させられて、寂しい気持ちになるが笑顔は崩さない。

 やがて視線だけ会議は終わって、蒼髪さんが一歩前に進み出た。

 

「気にしないで」

「「「「えっ!?」」」」

 

 蒼髪さんは柔らかな口調で言葉を続けた。

 

「私こそ冗談が下手でごめんなさい」

「いえ、そんな事は……」

 

 頭を下げた蒼髪さんにぼくは慌てる。が、幸いにもすぐに顔を上げてくれた。

 

「これでお相子」

「え? ……あ、はい! そうですね!」

 

 相子では無い。むしろ迷惑をかけたのはぼくだけだ。

 それでも相手の意図が分からない訳では無い。お互いに無かった事にして、新しく始めようという事なのだろう。

 ぼくは蒼髪さんの提案に甘える事にした。

 

「私はリーシェ・アウン・レターパック。リーシェと呼んで欲しい」

 

 そう言って蒼髪さん――リーシェさんは手を差し出した。

 女性特有の白魚のような指に、思わずどぎまぎしてしまうが、全力で平静を取り繕う。流石にこの場で下心を表に出すような愚行は許されない。

 

「ぼくは……」

 

 そこまで発言してぼくは口を閉じた。

 ぼくは誰だ……? 記憶を失った訳では無い。昨日の出来事はハッキリと思い出せる。ただ自分の名前だけが切り取られてしまったように全く思い出せなかった。

 

 途中で言葉を止めたぼくを訝しく思ったのだろう。リーシェさんは可愛らしく小首を傾げながらぼくを見つめている。

 いけない。女性に手を差し出させたままというのは拙い。彼女の細い指を包み込むように握りしめて、ぼくはとりあえずの偽名を脳内で検索した。

 

「ぼくは……」

 

 しかし女性特有の甘い香りと、柔らかい手触りが邪魔をする。

 ぼくの脳みそは適当な偽名を作るという簡単なミッションすら放棄して、ひたすら目の前の少女の香りと手触りを記憶する事に努めていた。

 

「ぼくは……誰だっけ……?」

 

 その結果としてぼくの口から出た言葉は、何とも間抜けな物だった。

 

 

 

 

 

◆ Side グリューネ

 

 

――記憶喪失である。

 

 それが目の前の男の子に対して、リーシェが出した結論であった。

 彼は覚えてる事も多いと言い張っていたが、自分の名前という最も大切な固有名詞を思い出せない時点で重症なのは明らかだった。

 

 しかも色々と確かめた結果、彼はフィンメルス大陸の事すら覚えていないようだ。

 私達は思わず同情の視線を向けたのだが、彼は同情されるのを嫌ったようで、自分は日本という異世界から来たから知らないのは当たり前だという嘘をついた。

 

 私達も男性に恥をかかせるのは本意では無い。

 とりあえず記憶喪失の話題は避ける事にして、これからの事を考える事にした。まずはこのアルバストロスの迷宮から、男の子一人を護衛しながら脱出しなければならないのだ。

 

 その事の大変さは彼も理解しているようで、頭を深々と下げて頼み込んできた。

 男の子が頼ってくれるというのは素晴らしい効果をもたらし、私達のパーティーの士気は最高潮だった。なんとも単純すぎて頭が痛くなってくるが、私も例外では無いのだから笑えない。

 

「やはり四階層からは安全なBルートを行った方がいいのではないか?」

「駄目。必要な食料も一人分増えてるのを忘れてはいけない。遠回りは愚策」

「別にダンジョンでも食料が確保できないという訳ではあるまい」

「万が一確保出来なかったらどうするの? 第一男の子にワープヒールの肉とかを食わせるつもり?」

「む、むむう……」

「あの……ぼくはどんな食べ物でも大丈夫ですよ?」

「いや、軟弱な男の子のキミでは、ワープヒールの肉を噛みきるのは難しいと思うぞ」

「同感」

「その通りだ」

「な、軟弱……」

 

 彼はショックを受けたように落ち込んだ。

 しかし男の子が女性と比べて軟弱なのは当たり前だ。気にする事はないし、気にされても女性としての立場が無い。

 

「なあ、ちょっと良いか?」

「ん? ああ、構わないが、どうしたんだ? リン」

 

 リンが手を挙げて話に割って入ってきた。

 これは珍しい事だ。考えるのは、レティー、私、リーシェの三人が中心だ。ハッキリ言ってナタリアとリンは話を聞いてるだけという事が殆どだ。

 

「あのさー……言い辛いんだけど、その……ソーマなんだけどさ」

「うん?」

 

 ソーマというのは、男の子につけられたとりあえずの名前だ。

 古い単語で宝物を意味する。宝箱から出てきた彼にピッタリだという事で、満場一致でソーマに決まった。幸いソーマ自身もその事に不満は無いようだった。

 

「汗とかかいてるし、その……服も戦闘向けとは思えないし、着替えた方が良いんじゃない?」

「あ……」

 

 全員の視線がソーマに向かう。

 確かに彼の服は動きやすそうだが紙装甲だ。岩に引っ掛けただけで破けそうな程に薄い。

 そうしたら彼の霰もない姿が見れるかもしれないが……いやいや、そんな不埒な妄想をしてはいけない。パーティーの安全に関わる事だ。

 

「え、でもぼくはこの服しか持ってないんですが……」

「あーその……だな。嫌じゃなかったらだけど、オレとソーマは身長が殆ど代わらないし、大丈夫だと思うんだよ。そのアレだ……オレの服を使わないか?」

「え? 良いんですか?」

「ああ、勿論だぜ!」

 

 そう言って二人は笑い合う。

 まさかリーシェに続いて、リンにまで出し抜かれるなんて……。身長が一緒だからという理由で、自分の服を使わせるとは。それを言うなら私だってかなり身長は近いのに。

 好感度を稼いだ挙句に、きっと後に回収して男の子の汗が染み込んだ服をオカズにするに違いない。なんて巧妙な手口なんだ……羨ましい。

 

 私達四人の殺気がリンに向かって飛ぶと、彼女はびくりと肩を震わせた。

 一方でソーマは肩を震わせたリンを見て、不思議そうに首を傾げている。これはソーマが鈍い訳ではなく、私達クラスの冒険者は殺気をコントロール出来るから標的以外には気付かれないのだ。

 ピンポイントでターゲットにだけ殺気を送って威圧するのは、一流冒険者なら必須の技術だと言っても良い。

 

 だが、この程度の殺気に怯えるリンでは無い。

 多少驚きはしたようだが、彼女は遠慮せずに自分の荷物から予備の服を取り出すと、ソーマに手渡しした。その際にわざと指が触れるように渡したのを、私は見逃さなかった。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。では、早速着替えさせて貰えますね。実はちょっと寒かったんですよね」

「ははは、まあ、汗かいて濡れてる上にその薄着じゃ…………え?」

 

 ……!?

 ど、どういう事だ……?

 なんとソーマは服を受け取ると、部屋の片隅まで行っていきなり服を脱ぎ出したのだ。

 ちょ、ちょっと待て。理解が追いつかないぞ。一体何があったんだ!?

 

 普通は男性が女性を前に着替えるなんてことはあり得ない。

 モラルが欠落していると言っても良いだろう。襲われても文句は言えないような行為では無いのだろうか?

 

 私は慌てたように周囲を見回す。

 レティーもナタリアもリーシェも食い入るようにソーマの着替えを見つめていた。

 レティーは乗り出すようにしているし、ナタリアは既に鼻血が垂れている。リーシェはいつも通りに無表情だが、眼だけは血走っていた。

 

 私は馬鹿か! こんな事している場合じゃないだろう!

 私も慌てて着替えを見つめる作業に戻った。しかしそれでも一抹の罪悪感があるのも事実。男の子の着替えを見つめながらも、私の口から言い訳染みた言葉が吐き出される。

 

「な、なんだアイツは……なんて破廉恥な……。め、目の前で着替えられたら見るしかないじゃないか」

「多分……記憶喪失」

 

 私の独り言に答える声があった。それはリーシェの声だ。

 

「記憶喪失で性に関する知識も失ってる。だから人前で着替える事を疑問に思ってない」

「な、なんてことだ……それは拙いぞ。なんてことだ……」

 

 知らなかった。記憶喪失とはそんな都合の良い代物だったのか。

 

「しかし……だとすれば拙いぞ。わざとではなく、知らなかったとなると拙い。仮に記憶が戻った場合、私達の行動を知ってソーマが何と思うか……」

「た、確かに……」

「そうね」

「同意」

 

 第一記憶喪失という病気につけ込んで、男性の着替えを見続けるなど卑劣感にも劣る行為では無いか。

 

「誰かが止めなくてはならない」

「確かに」

「そうね」

「同意」

 

 どうやら満場一致で賛成のようだ。

 ソーマの近くにいるリンは固まって使い物にならない。ならば私達で行くしかない。

 

「で、では誰が向かう……?」

「……」

「……」

「……」

 

 立候補者はいない。

 当然と言えば当然だ。

 男の子に話しかけると言うだけで難易度が高いのに、着替え中の男の子に話しかけるなんて不可能な事は分かっていた。

 

 仮に話しかけたとして、こっちを振り向いたらどうすればいいのだ。

 今は背を向けてるからまだいいが、こっちを向いたら胸筋が見えてしまう事になる。これはもう完全に文句なしの有罪である。

 

「お、おい……どうするんだ」

 

 時間は無情に過ぎていく。

 もはやソーマの着替えは半分が終わって、残り四分の一といった所だ。

 このままでは何も言わずに着替えを見続けたという不名誉が残るだけだ。ソーマの記憶が戻った時、私達は性犯罪者として記録されるだろう。

 

「私に妙案がある」

「「「リーシェ!」」」

 

 しかし、ここで救世主が現れる。

 我らチームの頭脳であらせられるリーシェ様だ。

 彼女の頭脳はこれまで何度もチームの危機を救ってきたが、今回程頼もしいと思えた事は無かった。

 

「簡単な事。彼の着替えが終わると同時に私達は後ろを向けばいい。そうすれば私達が覗いていたという証拠は残らない。むしろ男性の着替え中に後ろを向いていた淑女的な女性として記録される」

「なるほど!」

「おお!」

「流石です!」

 

 それは盲点だった。

 いや、気が付かない方がどうかしていた。それ程に私達は男の子の着替えに夢中だったという事だろう。

 完全に凝視したまま固まっているリンには申し訳ないが、彼女には尊い犠牲となってもらおう。

 

「で、では今背を向ければいいのではないか?」

「向きたければ向けばいい。私はギリギリまで着替えを見続ける」

「そうね」

「あ、ああ……そうだな」

「な、なるほど。うむ……確かに」

 

 こうして私達はギリギリまで男の子の生着替えを堪能したのであった。

 


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