Raison d'etre   作:月島しいる

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02話 宮城愛(2)

 桜井優は緊張しながら昼食をとっていた。

 目の前には無表情で定食を食べる宮城愛の姿がある。

 愛から自分の定食に視線を戻し、唐揚げを口に運ぶ。緊張で味が分からない。

「この唐揚げ、味薄くない?」

 意を決して話しかけてみる。

 しかし、意に返さず食事を続ける愛。

 会話が全く成立しない。

 大人しいというより、無口、という言葉がぴったりな少女だった。

 優は気まずそうな顔で、味が薄いどころか味のしない唐揚げを再び口に放り投げた。

 本来は京子と愛の二人と昼食を食べる予定だった。

 ところが京子に急用ができた為、こうした気まずいシチュエーションができてしまった。

 心の中で京子を怨む。

「そういえば、宮城さんって何歳なの?」

 ダメもとでもう一度話しかけてみる。

 すると、愛の箸の動きがピタリと止まった。

「……十六」

 どうやら完全に無視するつもりではないらしい。

「…………後、愛でいい。苗字で呼ばれるのは好きじゃない」

 愛はそう言って、再び食事に戻った。

 嫌われている訳ではないようだった。

 優が見た限り、愛は誰にでも無愛想である。

「愛……さん? 愛……ちゃん? どっちがいいかな?」

 それほど親しくないのに名前で呼べと言われても逆に困る。

 一応、二通りの選択肢を並べてみるが、愛は構わず食事を続ける。

 優はむっと口を結んだ。無視されればされるほど意地でも喋らせたくなってくる。

「ここの食堂、美味しいよね」

「…………」

「……昨日のテレビ見た?」

「…………」

「…………ある男が友人にジグソーパズルを見せびらかした。普通にやれば三年かかるパズルを三ヶ月で完成させたってね。半信半疑でパズルの箱を見てみるとこう書いてあった。3yearsって。あ、うん。何でもないです」

「…………」

 心が折れた。

 色々話題を変えてみるも、全く食いついてこない。

 京子たちは普段、彼女とどんな話をしているのだろうか。

 謎である。

「愛ちゃんの趣味って何?」

 とりあえず、食いつきそうな話が全くわからない為、向こうの趣味に合わせる事にした。

「……読書」

 それを聞いて、優は目を輝かせた。優も読書が趣味で、読むジャンルも幅広い。

「あ、読書なら僕も好きだよ。どんなの読むの?」

「……サイバーパンクとポストアポカリプス」

「ジャンル狭っ!?」

 何だかもう駄目な気がしてきた。

 頭を抱える。

 京子はまだ帰ってこない。

 早く帰ってきて、と心の中で悲鳴をあげる。

「……あ、ご飯粒ついてるよ」

 愛の頬に米粒がついている事に気づき、何気なく手を伸ばして取る。

 その瞬間、愛の顔がぼふっという擬音が似合うほど一気に赤面した。

 それを見た優は、新しいおもちゃを見つけた子どものように、ぱっと目を輝かせた。

 

◇◆◇

 

 京子は急ぎ足で食堂に入った。

 愛と優を二人っきりにしたのは失敗だった。

 きっと気まずい沈黙が流れているに違いない。

 京子は心の中で謝り、愛たちを捜そうと席を見渡した。

 二人はすぐに見つかった。だが、様子がおかしい。二人はテーブルの上で手を握り合い、愛は恥ずかしそうに顔を背けていた。

 不審に思いながらも近づく。しかし、不穏な言葉が流れてきた。

「愛ちゃん……愛してるよ」

「あんたは何で公共の場で愛を囁いてんのっ!?」

 京子が詰め寄り、首根っこを掴むと優が慌てて弁解を始める。

「ち、ちがっ! 反応が面白かったからつい悪のりして!」

「あんたねえ……っ!」

「悪気はなかったんです! ごめんなさい!」

 優がおずおずと、京子の反応をうかがうようにこちらを見やる。

「い、いや、愛ちゃんが無視するから相手して欲しくて……」

 上目使いで寂しそうな顔をする優。

 優は幼い顔つきながらも、整った顔立ちをしている。少なくとも、京子の知るどんな男性よりも。

 京子は優を見てうめいた。頬が僅かに赤く染まる。クリーンヒットだった。そして、京子は無意識に口を開いた。

「……許す」

 桜井優。彼は割りと何でも許される最強のESP能力者である。




「崩恋 ~くずこい~」が完結しました。
「樹界の王」を新規投稿開始しました。
ヤンデレ短編2つ新規投稿しました。

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