桜井優は緊張しながら昼食をとっていた。
目の前には無表情で定食を食べる宮城愛の姿がある。
愛から自分の定食に視線を戻し、唐揚げを口に運ぶ。緊張で味が分からない。
「この唐揚げ、味薄くない?」
意を決して話しかけてみる。
しかし、意に返さず食事を続ける愛。
会話が全く成立しない。
大人しいというより、無口、という言葉がぴったりな少女だった。
優は気まずそうな顔で、味が薄いどころか味のしない唐揚げを再び口に放り投げた。
本来は京子と愛の二人と昼食を食べる予定だった。
ところが京子に急用ができた為、こうした気まずいシチュエーションができてしまった。
心の中で京子を怨む。
「そういえば、宮城さんって何歳なの?」
ダメもとでもう一度話しかけてみる。
すると、愛の箸の動きがピタリと止まった。
「……十六」
どうやら完全に無視するつもりではないらしい。
「…………後、愛でいい。苗字で呼ばれるのは好きじゃない」
愛はそう言って、再び食事に戻った。
嫌われている訳ではないようだった。
優が見た限り、愛は誰にでも無愛想である。
「愛……さん? 愛……ちゃん? どっちがいいかな?」
それほど親しくないのに名前で呼べと言われても逆に困る。
一応、二通りの選択肢を並べてみるが、愛は構わず食事を続ける。
優はむっと口を結んだ。無視されればされるほど意地でも喋らせたくなってくる。
「ここの食堂、美味しいよね」
「…………」
「……昨日のテレビ見た?」
「…………」
「…………ある男が友人にジグソーパズルを見せびらかした。普通にやれば三年かかるパズルを三ヶ月で完成させたってね。半信半疑でパズルの箱を見てみるとこう書いてあった。3yearsって。あ、うん。何でもないです」
「…………」
心が折れた。
色々話題を変えてみるも、全く食いついてこない。
京子たちは普段、彼女とどんな話をしているのだろうか。
謎である。
「愛ちゃんの趣味って何?」
とりあえず、食いつきそうな話が全くわからない為、向こうの趣味に合わせる事にした。
「……読書」
それを聞いて、優は目を輝かせた。優も読書が趣味で、読むジャンルも幅広い。
「あ、読書なら僕も好きだよ。どんなの読むの?」
「……サイバーパンクとポストアポカリプス」
「ジャンル狭っ!?」
何だかもう駄目な気がしてきた。
頭を抱える。
京子はまだ帰ってこない。
早く帰ってきて、と心の中で悲鳴をあげる。
「……あ、ご飯粒ついてるよ」
愛の頬に米粒がついている事に気づき、何気なく手を伸ばして取る。
その瞬間、愛の顔がぼふっという擬音が似合うほど一気に赤面した。
それを見た優は、新しいおもちゃを見つけた子どものように、ぱっと目を輝かせた。
◇◆◇
京子は急ぎ足で食堂に入った。
愛と優を二人っきりにしたのは失敗だった。
きっと気まずい沈黙が流れているに違いない。
京子は心の中で謝り、愛たちを捜そうと席を見渡した。
二人はすぐに見つかった。だが、様子がおかしい。二人はテーブルの上で手を握り合い、愛は恥ずかしそうに顔を背けていた。
不審に思いながらも近づく。しかし、不穏な言葉が流れてきた。
「愛ちゃん……愛してるよ」
「あんたは何で公共の場で愛を囁いてんのっ!?」
京子が詰め寄り、首根っこを掴むと優が慌てて弁解を始める。
「ち、ちがっ! 反応が面白かったからつい悪のりして!」
「あんたねえ……っ!」
「悪気はなかったんです! ごめんなさい!」
優がおずおずと、京子の反応をうかがうようにこちらを見やる。
「い、いや、愛ちゃんが無視するから相手して欲しくて……」
上目使いで寂しそうな顔をする優。
優は幼い顔つきながらも、整った顔立ちをしている。少なくとも、京子の知るどんな男性よりも。
京子は優を見てうめいた。頬が僅かに赤く染まる。クリーンヒットだった。そして、京子は無意識に口を開いた。
「……許す」
桜井優。彼は割りと何でも許される最強のESP能力者である。
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