天華百剣−現−   作:earther81

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この小説は天華百剣の二次創作です。原作の世界観に出来るだけ沿って、独自の設定などを加えて製作しています。どうぞ、これらをご了承の上で読んで下さい。


第一章「目醒める巫魂」 第1話:桔梗の結びし二人

第一章「目醒める巫魂」

第1話:桔梗の結びし二人

 

 

鈍く光る地金と白く鋭い刃紋のコントラスト。独特の反りには美しさすら感じる。太刀や打刀、脇差など種類は沢山あれど、流派によって違えど製法はほぼ同じ。よって日本刀と呼ばれる物の殆どにはこの特徴が当てはまり、今も知られる名匠が鍛えた業物となるとその美しさは段違いになる。そして俺はそんな日本刀を見ると、何か熱いものを感じるのだ。

「……何かが違う…。」

山口県岩国市。江戸の時代では吉川氏が治めていた土地で、俺は今その吉川家の美術品、工芸品を展示している吉川資料館に勤務している。もとから博物館という場所が好きで、中でも刀剣に関しては開館から閉館の時間まで見ていても飽きない程であるが、今凝視している太刀は何が違う…何か足りない。

「何だ城島、またそれを見てたのか。お客さんに迷惑になるから早く戻れよ。」

「あぁ、牧川先輩。すみません。どうも気になってしまって…」

先輩の職員に叱られて裏へ戻る。ほぼ毎日この繰り返しだが、毎日見続けていてもやはり分からない。前に見た日本刀に感じた熱いものが感じられない原因…まさか展示されているのにナマクラなんてことはあり得ない。何せこの太刀はかの青江為次が鍛えた国宝なのだから…

 

暗い水中を漂う感覚…身体が濡れる訳ではないけれど、フワフワとする、心地良い感覚。もうどれくらい経つのだろう…長い間眠っている気がする。でも最近は少し光に眩しさを覚えるような、そんな懐かしいものを感じることがある。懐かしい…包み込まれるような……………ご主人様……

「狐ヶ崎為次」この吉川資料館が唯一所蔵している、財団法人吉川報效会所有の太刀だ。刀剣好きが何故一振だけしかない資料館に就職したかと聞かれると、何となくこの太刀の来歴に惹かれたからだと答える他ない。そんなことを考えているといつのまにか自分の机に戻っていた。パソコンの画面に向かっていると肩に軽い衝撃を感じると同時に声が聞こえた。

「城島君。まぁた牧川君に叱られたようだねぇ。あの太刀の何がそんなに気になるのかね?」

吉川資料館の館長、飯田さんだ。温厚な初老の人だが、正直何を考えているか分からないのだが…

「…狐ヶ崎に何かを感じるのかね?」

こうやって人の考えていることを読んでくることがある。まるでさとり妖怪だ。

「なんか、あまりこういうことを話すのは恥ずかしいんですけど…むしろ逆なんです。あれだけ近くで見ても何も感じない。感じるとすれば違和感でしょうね、業物を見た時の熱い感覚が無いんです。」

「ほぉ、そうか……ん?これは…桔梗かい?」

スクリーンの下に置いてある髪飾りを指してそう聞いてきた。俺は「えぇ」と答えそれを手に取る。

「死んだ母の形見です。先立った父から貰った大切なものだって言ってました。…桔梗は、母が好きな花でしたから。……どうしたんです?」

見ると館長は何か面白いものを見たような顔をしていた。何とも言えない、少し楽しさそうな顔だ。

「いや……まぁ着いてきたまえ。」

おもむろにそう言うとクルリと背を向けて歩き出す。俺はよく分からないまま髪飾りを胸ポケットに差し、慌てて追いかけることになった。

 

……またこの感覚だ。眩しさが近付いてくる感覚。でもいつもすぐ消えてしまうのに、今回はだんだんと強くなっている気がする。何なんだろう……

 

館長は立ち止まるとポケットから鍵を出して穴に差し込んだ。資料館に勤め始めてからこの部屋のことは少し気になってはいたが、当初からあまり近づくなと言われていたので身構えている。するとそれも読んでいるかのように館長は怖がることはないと言ってきた。

「さぁ、入りたまえ。」

ドアを開け、そう催促する。薄暗い部屋だが、手入れされてない訳ではないらしい。

「何ですか?この部屋は。」

「ここはまぁ…特別なものを隠しておく部屋だよ。私が管理している部屋でね、他の職員には入らせないようにしている。」

そんな部屋なら、どうして俺を入れたのだろう。そう思っているとそれに答えるように館長が言葉を続ける。

「君ならもしかしてと思ったのでねぇ。それに、君の違和感にも答えが出せると思うんだよ。」

そう言うと館長は何かに覆い被さっている布をゆっくりと取り、その中を俺に見せた。

「……狐ヶ崎為次…?どうして…?」

ガラスケースに収められた太刀。狐ヶ崎為次だ。だがどうしてこんなところに…展示されているのではなかったのか?

「一般に公開されている太刀、あれは模造品何だよ。これが本物の国宝、狐ヶ崎為次だ。」

「確かに、この太刀からは何かを感じますが…ならどうして他の日本刀は一般公開のものでこれを感じることができたのですか?」

本物は倉庫で厳重に保護して模造品を展示する。このこと自体はすんなりと受け入れられたが、それなら他の国宝級の日本刀も同じようなことになるはず…あれは一体…

「君がそうやって日本刀を見たことがあるのは期間限定で開催された展覧会と国立博物館だろう?あれには必ず本物の日本刀が展示されるんだ。君のような人を見つけ出すためにね。」

「???確かに自分はトーハクには何度も行ってますし、日本刀展にも見に行ったことがありますが…見つけるとは、一体何を?」

俺の疑問を聞いているのか聞いてないのか、館長はガラスケースを取って俺に向かってこう言った。

「……刀装は全て揃っている。組み上げてみたまえ。」

えも言えぬ迫力。フラフラと、ゆっくりとその言葉に従う。近づけば近づくほど、不思議な感覚は強まっていく。そして茎を掴んだ時に何かが聞こえた気がした。

 

『……さ…ま…』

 

か細い声。幻聴とは疑わなかった。気がするのではなく、本当に聞こえるのだから。

 

『…しゅ…様…』

 

鎺と鍔を通して柄を取り付ける。一つ一つ刀装を組むごとに声も大きくなっていく。

 

『ご主人……様』

 

柄を持っている左腕に衝撃を与え、茎をしっかりと収める。そして目釘を差し込み、右手に太刀を移す。ここから何をすべきか、分からなかったが身体が勝手に動いていた。

 

『ご主人様…』

 

左手に鞘を持ち、ゆっくりと納刀する。そして鯉口を切り刀身を抜き放った。

 

『ご主人様!!』

 

眩い光で部屋が満たされる。反射的に顔を逸らし、手で顔を隠すとその手には何も握られていなかった。

「…あの…その……ご主人…様…?」

俺の目の前にいたのは、黒髪で、狐のような耳と尻尾をもつ太刀を腰に下げた少女だった。少女は言葉を続けることなく、俺の胸ポケットに差してある髪飾りを不思議そうな顔をして見つめていた。

 

『巫剣』

ふと、そんな言葉が頭に浮かんだのだった。

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