第一章「目醒める巫魂」
第3話:「つんつ〜ん!」
新幹線の中で十香から教わったことによると、俺達はこれからカフェを開くことになるらしい。活動資金などは政府から援助が出るみたいだが…御華見衆は極秘機関ということもあり、記録を残さずに多くの資金を回すことは出来なようだ。そのため俺達は俺達で活動資金を稼がなくてはならない。
「銘治時代からそうだったのか?規模とかは?」
「はい、当時はお客様も沢山入ってきてくださって……お金も余裕があったので巫剣も大勢居ました。……あの頃は、『めいじ館』が日本最大の御華見衆の拠点だったんですよ…?」
めいじ館…当時の東京の浅草と上野の近くにあったという喫茶店か。推測するに巫剣はそのめいじ館に住んでいたようだが、そうすると今から行く茶房もかなりの規模なのだろうか。しかし、現代社会においてそこまで一箇所に集まればバレてしまいそうな気もする…。
「あっ!隊長さん!着きましたよ!」
「……え、これ?」
スマホで確認してみても、俺達は館長から指示された住所にいることを示しているだけだ。しかし…想像していたのと違ったのだ。横を見ればさきも困惑気味である。
「確かに…聞いていためいじ館の規模と比べれば小さいですね。」
十香も気になるらしい。そう。先程さきから聞いた話と比べるととても小さいのだ。今俺達が目の前にしているのはオフィスビルの一階にテナントインした開業前の喫茶店である。これではそう何人も住むことは出来ない。良くても裏に2、3人が関の山と言ったところだろう。
「と…取り敢えず、入ってみませんか…?どうやら…ここのようですし。」
確かにその通りだ。一応俺達の店なのだし、ここで足踏みしていても何も始まらない。
「……だな。」
十香から渡された鍵を挿し、捻る。これで一つ分かった。ここは、本当に俺達の店であるということを。
だが一つおかしな点も有る。掛かっていた鍵を開けた時の、ガチャッという感覚が無い。
「鍵が開いてる……誰か入っているのか?」
扉はガラス張りだが中は暗くて良く見えない。二人にも緊張が走ったらしい。さきに至っては何ら得物を持ってもないのに上段の構えを取っている。これがこの娘の戦闘スタイルなのだろうか…正直突っ込む余裕も無いので、扉をゆっくりと開ける。
「…誰かいるのか……?」
パーンッ!!!
一歩踏み入った瞬間、真横から乾いた音が炸裂した。驚いて反対側に跳び退き、構える。その時に頭に何か引っかかっているのに気付いた。
「ふふふっドッキリ大成功ですね〜。」
ハッとして正面を見ると、そこにはクラッカーを持った一人の女性がいた。俺の頭に引っかかったのはクラッカーから発射された紙リボンだったようだ。
「ここまでの長旅、お疲れ様でした〜。御華見衆へようこそ、新たな巫剣使いさん〜。」
綺麗な茶髪を後ろで結った女性がそう笑顔で言ってきた。
「…巫剣……か?」
漂う雰囲気と直感からそう呟いているとそこへ十香が横槍を入れて来た。
「副司令!ど、どうしてここに?!」
副司令。つまりこの女性は御華見衆のNo.2。俺の上司という訳か。
「あ、十香さん。案内ご苦労様です〜。ちょっと七星剣に頼まれましてね〜。それから狐ヶ崎さんも、百年振りくらいですかね〜。お変わり無いようで何よりです〜。」
十香はポカンとしていて、さきはその背中からちょっと顔を出してお辞儀した。そしてまた俺の方に向いて、
「それにしても、私が巫剣だとよく分かりましたね〜。この格好だと普通は気付かれないのですが、えらいえらいです〜。」
と肩出しの栗色のセーターを指で少し引っ張りながらそう話しかけてきた。確かに、普通の人間から見るとどこかの大学生の様に見えるだろう。
しかし何か調子を崩される話し方だ。そして十香も言っていたがなぜNo.2がこんな所にいるのだろう。
「あの、なぜ副司令ほどの身分のあなたがここに?七星剣に頼まれたとかどうとかって言ってましたが…」
「あ、説明がまだでしたね〜。七星剣、御華見衆司令官から二つほど頼みごとを預かりましてね〜。先ずはこれを。」
そう言うと副司令はカウンターにゆったりと近づき、そこに置いてあるものを取って俺に渡して来た。長細い、黄緑の布袋に入れられている。見ただけで分かる。これは刀だ。
「それは『菊華刀』。城島 涼介さん、あなた専用の刀です〜。」
「菊華刀……」
さらっと自分の名前を呼ばれたことはあまり気にならなかった。十香があの部屋に入って来たタイミングといい、恐らく最初からマークされていたのだろう。ふとここで、俺は副司令が何者かを知らないことに気付いた。
「ところで副司令。あなたのお名前を教えてもらってもいいですか?司令は七星剣ということもあって、歴史を持つ巫剣なのでしょうけれど。」
すると副司令は少しハッとした顔をして答えてくれた。
「私としたことが、失礼しました〜。私は巫剣の丙子椒林剣と申します。普段は本部で副司令をしています〜。以後お見知り置きを〜。」
一体何歳になるんだ……。流石に失礼なので聞かなかったが……ん?普段って…?
「それからもう一つ。司令からの頼みで、この茶房並びに御華見衆の活動が軌道に乗るまでしばらくの間、私はこの茶房のお手伝いをすることになりました〜。上司などと思わず、一人の仲間として親しく接してくださいね〜。よろしくお願いします〜。」
………ん?
「………へ?」
「…えっと……副司令…?」
聞き間違いだろうか、今しばらくこの店の手伝いをすると言ったような…
「あ、普段は副司令をしていますって言ったら構えてしまいますよね〜。」
いや、それはあまり関係無いと思うんだが……
「では仕切り直して、私は丙子椒林剣よ〜!隊長さんにはしっかりきっちりしてもらわないと困っちゃうんだからね〜!つんつ〜ん!」
どう対応するべきなのだろう…場が凍りついてしまった。
「…あの、副司令?キャラがフワフワしてる気がするんですが…?」
何故今のでそんな誇らしげにしているんだ…?
「ふふっ、ところで隊長さん。お店の名前はどうしますか〜?」
こうして俺達の御華見衆としての活動が始まる。その為の拠点、この茶房の名前は、付けられるのならこうしようと考えていた。銘治時代にならい、伝統を受け継いで戦う為に。
「……『めいじ館』です。」
困惑しながらの答えだが、全員がそれぞれの面持ちでしっかりと頷いてくれた。
続く