腐りきったその目は隻眼と化す 作:Pp
嘘をつく,世間では一般的に忌み嫌われる行為だ。時には誰かを傷付け,時には誰かを陥れ,時には...etc。終いには「嘘つきは泥棒の始まり」なんて言葉まで存在する。ある日嘘についての授業を受けたことがある。その時隣の席の山本君は先生にこう言った。「皆んなが嘘を付かなければ世界が平和になるんじゃないの?」......確かに誰しもが嘘を付かない世界があったとして客観的に見れば偽りのない美しい世界に見えるかもしれない。だが考えて見れば嘘が無い=平和とは限らない。嘘が無いということは誰しもが自分を偽らずに生きていくということだ。つまりそれは嘘によるリミッターが外れるということで恐らく他人は他人を包み隠さず正直に評価するだろう。
それが良にしても負にしても結局の所面倒ごとは免れない。そういう意味では人間は嘘をつくという行為のおかげで今こうして生きていられるのかもしれないという矛盾。嘘は時に誰かを傷付け時に誰かを陥れ時に.............誰かを救い..時には身を守る。つまり嘘=悪ということでも無いらしい。
「駆逐」
その短いたった2文字でまだ生まれて十数年の俺の人生を終わらせようとしてくる奴らがいる。俺は奴らに遭遇すれば可能な限り抗い続けた。奴らは何処までも追跡してくる。其れこそ地の果てまでと言わんばかりの。普通に生活していれば追われることなんて殆どない筈。いや,
背後からは鍛え上げられた肉体の男性二人組が俺のことを血眼になりながら追いかけて来ていた。天気は雨で俺は全身びしょ濡れ状態だ。頭上から額にかけて垂れ下がってくる雨粒の感触は気持ち悪い。
ただ追いかけられているだけなら逃げはしない。何らかな方法を取って撃退するだけだ。しかし奴らの手にはとても強固な素材でできた武器が持たれていた。どうやら二人組は俺に逃げられていることに対して少しづつ苛立ち始めている様子のようだ。ましてや今日は土砂降り。それだけでイラつかせる要素が一つ増えたと言っても過言じゃない。
「手間取らせやがって!」
(いや、手間とらせてるつもりないんだが)
何処までもついてきそうな二人に対し俺は走りながら質問をした。
「なぁ,何であんたら必要以上に俺のこと狙ってくんだ?」
「.....」
「だんまりですか」
(成る程こっち側に成るべく情報を与えたくないんだな。そういうとこはしっかり出来てる。....それにしても...こいつら.......................何処まで追ってくんだよ!)
走りながらも俺は少し先にあるどデカイ電信柱を目で捉えていた。先程よりも少しスピードを上げていく。するとそれに合わせて後ろの二人も声を荒げながら俺の後を追おうとしてくる。
「はっ待て逃すか!!」
俺は声を荒げる二人の男を無視してそのまま全長数メートルはあろう電信柱に向かって地面を蹴り上げ飛翔した。突然何が起こったのか分からない様子の二人組は視線を電信柱に上げるが...
「いない!?くそっ逃げられたか」
其れもそのはず俺は敵の死角を利用して飛び乗った電信柱からそのまま背後へと回っていた。二人組は俺に気づかないまま後ろを振り向こうとした。
「へ?」
突然隣の男の体が前方へ吹き飛んでもう一人の男が呆然と立ち尽くす。一瞬何が起こったのか分からないご様子で....。
「どうした——
言葉を最後まで発することなくもう一人の体も勢いよく吹っ飛んだ。直ぐにそれが敵からの攻撃と悟った二人は立ち上がり辺りを見渡す。
「ちくしょう。あの野郎か?!ぶっ殺してやる!!」
そう強く出る二人はその後先程と同様また間抜けな声を漏らした。
「へ?.....」
ようやく気付いたようだ。さっきまで自分達の手元にあった筈の武器が既に無くなっているということを......
「くそ!?俺たちの武器は何処へ行った!?」
そんなお二方の疑問は目の前にいる俺を見て直ぐに解消された。それもそのはず俺の両手には2人が持っていた武器が握られていたのだから。
「てめぇっ!いつの間にか奪いやがった!?」
「あんたらが馬鹿みたいに転んでる時に拾っただけだ」
と言葉を発して俺は2人の体にもう一撃を浴びせた。再び吹き飛びそれでも何とかして立ち上がろうとする二人組。しかしその2人組の顔を見ればもう俺に対して明らかに戦意喪失しているというのが容易に捉えられた。奴らの唯一の対抗手段はもうこちらの手元にあるのだから。
「おま,お前!?今何で攻撃した!?明らかに手や足の感触じゃなかった!それにお前.....」
そう何かを問いかけてくるが俺がそれに対して答える義理は一切ない。そしていつの間にか俺に対する問いかけは泣き言へと変わっていた。
「た、頼む!殺さないでくれぇ!」
「うちにはまだ若い女房や子供がいるんだ!お願いだ頼む!!」
心底苛立ちを覚えた。
(こいつら,子供がいるとか女房がいるとか好き勝手言いやがって....。ならお前らは何で罪のない女子供を容赦無く殺してんだよ。矛盾してねぇか?こっちの理由を聞く間も無く殺しにかかってきてその癖自分がやられそうになった途端、手のひら返しの命乞い)
「命乞いなんてするぐらいならはなから狙ってくんなよ!!」
そう怒声を浴びせ俺は2人の男にもう一撃を強いのをいれた。鈍い音と共に2人はそのまま民家の壁へと押し当てられた。倒れた二人はピクリとも動かない。恐らく気絶してしまったのだろう。
「」
その言葉と共に俺は前へと走り出した。降り注いでいた雨はまるで俺の今の心情と繋がっているのかというぐらいの勢いで激しい豪雨になっていた。前方から激しい突風が俺の動きを遮る向かい風となって押し寄せてくる。それにより一層苛立ちが増しつづけ俺はただ雨を降らしているだけの空に向かって大きな雄叫びを上げた。
「おぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
走っているといつの間にか自分が向かおうとしていた目的地へとあっという間に到着していた。そこは誰もが親しみのある喫茶店。俺は息を荒げながらそのまま既に閉店した喫茶店の中に入ろうとした。ドアを開ける間際鈴の音が鳴り響き誰かが入ってきたことを中に伝えていた。すると奥のドアが突然開かれて暗い店内で一つのシルエットが浮かび上がった。俺は特に誰かと警戒することもなくそっと店内の椅子に腰をかける。
「おかえり比企谷君。雨でずぶ濡れだね。どれ今タオルを持ってくるよ」
「ありがとうございます店長」
俺は渡されたタオルで髪の毛体をゴシゴシと拭いた。しばらくしたら直ぐにタオルはびしょ濡れになり2枚目のタオルに手を伸ばそうとする。すると聞き覚えのある音が耳に入ってきた。それと同時に店内に溢れる馴染みあるコーヒ豆の香り。どうやら今コーヒを淹れてくれているようだ。
「はい,どうぞ」
「助かります」
そう言葉を返し俺は湯気の立っている熱いマグカップに口をつけた。口の中にはコーヒの独特な香りと苦味が広がっていく。俺はいつからかこの今飲んでいるコーヒとあるものしか口に出来なくなっていた。他のものは全て身体が受けつけず嘔吐してしまうのだ。しかしそれは決して生まれつきだからという理由ではなくもっと別のところに原因がある。俺は口の中で熱いコーヒーを味わいながらこの喫茶店"あんていく"の店長"芳村"に先程あったことを話した。
「芳村さん,さっきまた奴らに追われてたんすけど、こっちが優位になった途端に命乞い。勘弁して欲しいですよほんと」
俺のいつもの愚痴に対して芳村さんは真剣に聞いてくれた。
「でも殺さなかったんだろう?」
「勿論です。そんなこと出来ませんよ」
「君が元は普通の人間だったからかもしれない。.......でも君は優しい」
俺が殺さなかったという言葉に対し芳村さんはいきなり優しい声をだした。
「..........」
「まぁ今日はもう遅い,妹さんも待ってるんだろう?」
「えぇ,..........一応...」
すると芳村さんはいきなり立ち上がり締めていたカーテンをゆっくりと開いた。俺は窓越しに外を見つめる。目を見開いた。先程まであれだけ降り注いでいた豪雨がいつの間にか止んでいたのだ。
「さぁ,止んだことだし今日はもう帰りなさい」
「あっ何かすいません。愚痴聞いてもらって」
「ふふ,誰だって愚痴をこぼしたい時ぐらいあるさ。またおいで」
「ありがとうございます」
俺は芳村さんに会釈をすませて外に出た。今は何時だろうか。そんな疑問が浮かび俺はポケットの中に入っていたスマートフォンを起動させた。そして気になる時刻は
「17時2分!!って......反対だわこれ。2時17分!!嘘だろ?!」
反対に見ていたスマートフォンを元に戻しポケットにいれて俺は急いで自宅まで戻ろうとした。その時不意にポケットに入れたスマートフォンからバイブ音が鳴り響く。
「誰だよこんな時間.....」
すると俺の中にある一つの可能性が浮かび上がった。
「まさか、小町?!」
急いでポケットの中に手を突っ込んでその光っている画面を直視する。
「不在着信......まぁそうだよな、小町から来るはずないよな」
俺は通話ボタンを押してそのまま耳元にスマホを当てた。スピーカーの奥からはノイズとともに何やらボソボソと声が聞こえて来る。
「いたずら電話か.....切るぞ」
「あ」
切る前に何やら声が聞こえたが御構い無しにポケットにスマホを戻した。人は何かに期待を寄せて違う結果の時、期待してない時よりも更に深く沈む傾向がある。まさに俺も今その状態だった。少し気落ちしながら俺は家へと帰宅することにした。