腐りきったその目は隻眼と化す   作:Pp

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第4話 講義

あれから数日が経ち俺はいつも通りあんていくでの仕事を淡々とこなしがら日々を送っていた。だが俺は当分の間芳村さんにクインケの回収作業を行うことを禁じられていた。

理由は当然この前の21区での出来事があったからだ。既にCCGは俺という喰種に対して少しづつ警戒を寄せている。21区だけでなく他の区域にも情報が広がっているとしたら今外に出るのは危険。という判断だ。しばらくの間は"避役"として身を隠すことにした。

そんな俺は今日はあんていくの仕事が休みなのでとある場所に来ていたのだ。

 

 

「さてと,着いたか」

 

あんていくと同じく東京20区に位置する上井大学という偏差値高めの大学だ。その敷地面積は広大で一年通っていても全部回ることが出来るかわからないぐらいだ。思えば三年間の苦労の末受かった大学なのにも関わらず俺は"あんていく"の仕事やらなんやらで殆ど顔を出していなかった。そろそろ単位が気になり始め来てみたものの,

 

「講義,面倒くせぇな」

 

あまりやる気が起きず俺はそのまま大学内にある図書館へと足を運ぶことにした。今思えば可笑しなものだ。こうして喰種の俺が大学内に足を踏み入れているのに周りは誰も気づきやしない。勿論真実が分かれば皆一目散に逃げると思うが.......。

 

「平和,だな」

 

こんな考えをするようになったのは恐らく喰種としての生活を長らく営んでいたせいでもあるだろう。俺はあちらの世界に慣れてしまっていたのだ。だから今はこんな普通の光景を『平和』という言葉で認識している。

 

考えてみれば喰種は俺が知らないだけでかなり身近にいたのかもしれない。ただその喰種としての彼ら彼女らとは遭遇するケースがあまりにも少ないというだけなのだろうか。それは同時に彼ら彼女らが普段人前では自分を人間と偽り上手く人間社会にとけ込んでいたという証でもある。そう考えると人間と喰種は[食]以外殆ど違いがないのかもしれないと感じた。

「喉が渇いたな」

 

丁度近くにあった自動販売機を見つけて俺はポケットの中の小銭を確認した。近づくと直ぐさま様々な飲み物が目に入ってくるが今の俺にとってブラックコーヒー以外のものは毒物以外のなにものでもない。人か喰種,それだけが違うだけで今まで見ていた世界が全くの別物に見えた。俺はため息をつきながら赤く点滅しているボタンに指を置こうとした時。その時

 

「おーい比企谷君」

 

突然誰かが俺の名前を呼んだ。俺は振り返ることなく機械音とともに落ちてきた隙間の中のブラックコーヒーを中腰になりながらその手につかんだ。

 

「・・うっす」

 

そこには俺と同じ"あんていく"で働いている金木研(かねき けん)という黒髪に眼帯を付けた青年がいた。俺は会釈してその場を去ろうとしたが直ぐに肩を掴まれる。

 

「ちょっと!何で無視するの?!」

 

「・・・・」

(察せよまじで)

 

俺は呼び止める金木を無視して足を動かした。

 

「えっちょっと!!待ってよ」

「はぁ」

 

俺が金木に対して何故こうして無愛想な態度をとるのか。答えは簡単だ。それは俺と彼が喰種だからだ。喰種だからこそ同じ大学内においてお互いに知らないフリをしなければいけないという暗黙の了解がある筈だが,どうやらこいつは理解してないらしい。仮にもし俺と金木に交友関係があると周りに印象付けられ,どちらかが喰種とバレた時,もう片方も喰種と疑われるリスクが出てくる。そういった危険は避けたいのに。

 

「ちょっと比企谷君。()ではいつも」

 

俺は直ぐに金木の口を塞いだ。金木は抑えられた手によって口をモゴモゴしている。

 

この時俺は悟った。

 

(こいつは地雷だ)

 

 

俺はすぐさま周りに誰もいないことを確認して口を塞いでいる金木に対して手でジェスチャーを行なった。

 

図書館に来い

 

ちゃんと伝わったのか金木は頭を縦に振って俺は手を離した。と同時に俺は足を動かし早速図書館へと向かうことにした。後ろを確認すると空気を読んだのか金木は俺との距離を少し開けてついて来ていた。溜息をつきながらそのまま図書館へと向かった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

図書館に着いた俺たちはすぐ様周りを確認して人目のないところを探した。丁度隅の方には誰もいない。チャンスと思い俺たちはイスに腰をかけた。

 

「それで何かあるのか?」

 

「え?」

 

「なんかあるんだろ?確か今日シフト入ってたろお前?」

 

「あ,そのことなんだけどね。店長から頼まれて君に渡したいものが」

 

そう言った金木はポケットに手を入れて一枚の封筒を渡してきた。俺はそれを受け取り早速内容を心の中で読み上げた。

 

(佐藤和義。年齢36。二週間前から20区を食い場にして暴れ回っている凶悪な喰種。よく関西人を真似て関西弁を使う)

 

「何だこの調査書みたいなの」

 

「その喰種が最近暴れまわってて店長達も手を焼いてるんだって。だからそれを僕と比企谷君で捕まえて欲しいって」

 

「あ,そゆこと」

(確かにそいつがこのまま20区で暴れていればいづれ鳩に目をつけられる。平穏に暮らしたい俺たちにとっては迷惑な話だ)

 

 

「まぁ取り敢えず話は分かったがどうやってそいつを捕まえるんだ?今の所その紙に書かれたことぐらいしか手掛かり無いんだろう?」

 

俺の疑問に対し金木は顔の表情を少し硬くして俺の耳元に口を寄せた。

「それがどうやらこの大学内に潜んでいるらしんだ」

 

「なっ!ほんとかそれ?」

 

「本当だよ。だから僕も今日はここに来たんだ。情報は店長が四方さんに調べさせてたんだって」

 

「四方さんが?」

(あの人が捕まえた方がいいんじゃないか?強いんだし......)

 

実際あんていくの面々は俺たち若い三人を除けば皆実力者揃いだ。年齢がひとまわり違うというのもあるがやっぱり圧倒的な経験による差が大きいだろう。そういった意味ではまだ俺も金木も未熟児レベルだ。特に金木に関してはまだ赫子もロクに扱えない状態だ。

(てかどうせなら調べたついでに捕まえろよ四方さん)

 

「てかこの大学に潜んでいるのはいいけど何をしてるやつなんだ?生徒?教員?」

 

「そこまでは」

 

「そこまでは,ってお前そんな曖昧な」

 

そう思った矢先封筒の奥に一枚の小さな紙切れがあることに気づいた。

 

(まだなんかあるのか?)

 

俺は封筒を逆さまにしてその小さな紙切れを手に落とした。小さな紙切れにはこう書いてあった。

 

 

 

「自分たちで探せ。そしてお前達で捕まえてみせろ」

 

 

 

 

(字を見れば分かる。これを書いたのは間違いなく四方さん。そしてこの件を俺たちに任せようと芳村さんに伝えたのも間違いなく四方さん.......。こんな所まで鍛えるための一環にしてこようとは......。それに何,探せ?捕まえてみせろ?俺たちは何処ぞのシャーロックホームズなんだよ.............。まぁでもとりあえずこの問題は早めに解決した方が良さそう)

 

 

「金木,取り敢えず今からそいつ探すぞ」

 

「うん!聞き回るんだね」

 

「まぁそれしかないな。それと名簿も全部調べるぞ。不幸にもここはマンモス大。人1人探すとなっちゃ時間が掛かる。手分けしてかかるぞ」

 

俺達は図書館を出てそれぞれ別の場所を探すことにした。まずは生徒名簿。それぞれの名簿に佐藤和義という名前がないか隅から隅まで確認した。36歳。考えれば年齢的には生徒よりも教員の方が確率が高い。しかし教員名簿も全て確認したが佐藤和義という名前は見つからなかった。

 

「すいません」

 

俺は廊下を歩いていた二人組の学生に声をかけた。

 

「佐藤?そんな先生居たっけか?」

「いや、知らね。探してんの?」

「一応」

(ここまで調べても名前すらでてこないとは)

 

もしそいつが講師でも生徒でもない場合は学校の係員や特別講師という可能性も出てくる。考えれば考えるほどキリがない。

 

(くそ、今日だけじゃ絶対に )

 

その時ポケットに入っていたスマホから着信音が鳴り響いた。液晶画面を確認すると金木研という文字が表示されている。

 

(まじか!?もう?)

 

俺はボタンを押して直ぐにスマホを耳元に押しつけた。小さなノイズ音と共に耳に金木の声が入ってくる。

 

「比企谷君!!見つけたかもしれない!!」

 

「しっ、声がでかい。.....本当か?」

 

「うん。今生徒に授業を教えてる。場所は生物学部のある校舎だよ」

 

「分かったすぐ行く」

(やはり教員だったか....たがそれなら何故教師名簿に奴の名前が無かったんだ?)

 

俺は通話を切って急いで生物学部の校舎まで走った。幸いにも生物学部の校舎は今俺がいる場所のすぐ隣の練だ。俺は素早く階段を駆け上がり金木の元へ急いだ。

 

 

「はぁはぁ,それでどいつだ?」

「ほら,あそこだよ」

 

金木の指差した方向にはチョークを片手に生徒たちに授業を教えている佐藤和義と思わしき人物の姿があった。何より黒板に本人の名前が書いてある。俺たちはその場にしゃがみしばらく観察することにしたのだが,

 

『カマキリっちゅう奴はのう肉食で力士並みにぎょーさん食うんやわ。バッタやらチョウやら。そいで余りに腹減ってもうたら共食いするんやで?』

 

『因みに後尾の後も嫁が夫のことを食うらしいから。男は気つけやぁ?女は怖いからなぁ』

 

授業をしている様子は普通に何処にでもいる陽気な先生という感じだ。ただ流石関西人というべきか授業の6割は殆どはどうでもいい話が多かった。そして授業を聞いているうちに分かったことは奴が特別講師だということだった。

 

(だから正規の教員名簿に名前が無かったのか...)

 

 

◆◇◆◇

 

 

俺たちが観察してから30分近く経った。

そろそろ授業も終わる筈だ。

 

「比企谷君?喰種に見える?」

 

金木は俺にそう聞いてきた。どうやら金木も俺と同じ疑問を抱いているらしい。

 

「いや,今の所普通に授業してる先生ってとこだな」

 

恐らく今俺と金木が感じている違和感はこの喰種と思わしき男が余りにも生徒の前で自然体だというところだ。何というか自分を偽らず曝け出している感じがする。何故喰種なのに教師という人の目につく職を選ぶのか。たが少なくとも俺たちの目から見た佐藤和義はとても教師として生き生きしているように見えた。

 

 

 

しばらくすると少しづつだが生徒が立ち上がりドアの前まで迫ってきていたことに気づく。どうやら授業は終わったようだ。俺たちは覗いていたのがバレないよう急いでその場から離れた。

 

「比企谷君どうするの?今の授業だけじゃ喰種かは判断つかないよ」

 

 

「そうだな。やつの正体が分かるまで尾行するしかないな」

 

 

俺たちはそのまま講義終わりの佐藤和義を追うことにした。

 




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