晴天、ここ西海岸、サンディエゴ基地は所属するアズールレーンの名の通り蒼が続き、海もまたその輝きに反射して純白さを見出していた。
そんな眩しい世界の中、基地の出入口から歩いてくる影が二つ。
「赤城、荷物は大丈夫?」
「はい。しっかりと。」
少しばかりユニオンで調達できる横須賀へのお土産に買った姉妹への菓子の材料や缶詰めがぎっしり入った袋を軍服を着た少年と茶色の狐が背負っていた。
「飛龍や駆逐の子達、喜んでくれるかな?」
「街に出れない事ぐらい理解してくれますよ。」
市街地には赴けず、仕方がなくリストアップした配給物を多めに貰い持ち帰ることにしたのだ。
船へと歩を進めると少年が少しして止まった。
それに気づいた赤城が首を傾げていると、顔を真っ赤にした少年がぽつりと呟く。
「船まで少しだけどさ、手を握ってもいいかい?」
その言葉に赤城は微笑んで快諾し、優しく結んだ手は見た目よりも頑なで一歩一歩を大切にして歩んでいた。
「赤城。」
「はい。」
「悲しいのに嬉しかったら喜んで良いのかな?」
「少なくとも赤城は寂しくありません。」
「そっか、後半年、よろしくね。」
「はい、最後まで使い潰してください。」
「うん。君を泣かせるのは僕の仕事なんだろうね。」
「はい。少佐に泣かされる事が赤城の全てです。」
歩きながら生きていくために二人は幸せを捨てて行く。
それが本当に大切なものであるはずなのに、二人は寄せ集めの不幸という現実を互いの手の中に仕舞い込む。
それなのに二人は微笑んでいた。
手の平の熱がそうさせていたのか、他愛ない会話がそうさせていたのか、分からないでいたがこの瞬間は続くのだろう。
二人がそうである限り。
軍港に到着すると少年の部下の三人とそれに随伴する艦船が待っていた。
すぐさま軍曹が悪態をつく。
「おせーぞ、ったく。」
「すいません。って何してたんですか?」
その様子に少し驚いていた。
全員がこんな埠頭で釣り竿を持っているのだ。
整備や巡回警備艦船や横須賀帰投用の大型船がいる海域で釣れる魚がいるとは思えない。
「暇だったからな。キャッチボールでも良かったんだが。」
「ふざけんじゃねぇぞ、てめぇにかち割られて右手使えねぇんだよ。まだくっそ痛てぇし、連動筋ごと痛めてっから肩から悪痛してんだぞ。」
右腕の添え木を見せて現状を伝えると曹長は明後日の方向を見ているのだろうか、空が青いなー。と呟いてる辺り特に悪いとは思っていないのが分かる。
「あー。横須賀に帰ってはよ劉さんの辛口料理が食いたい。」
「ジジー辛口強めだよな。整腸剤呑まねぇの?」
「生まれてこの方壊したことが無い。」
「うげー、ぜってぇロクな生き方してねぇだろ。」
「そりゃあ社長やったり変化球覚えたり。」
「おい、後者は初耳だぞ。」
「お?やぶへびか?良いねぇ飛び火してこそユニオンドリームの糞溜りよな。」
「はい!もう良いです!分かりました!待たせて申し訳なかったので口論はやめましょう!」
少年の声でようやく手にぶら下げた釣竿を戻しに行く。
艦船達も付き合っていたのだろう。
「はい、今日からまた横須賀でお仕事です。頑張りましょう。では、荷物を忘れずに行きますよ。」
そう言って全員が何気ない言葉を交わして船に乗り込んでいく。
明日からまた変わらない日々がやってくる。それだけを考えて生きていく日々も。
少年と赤城が宛てがわれた部屋に辿り着くのと同時に端末が音声通信を受信する。
誰なのか分かるコードだ。
「エイトナイン。」
デザイナーズチャイルド指揮官02番。
少年とは違う軽巡洋艦型――チェイサーの遺伝子が使われたセイレーン復元個体。
「なんだい?ゼロツー?僕は申し訳ないんだけどこれから自分の所有物を可愛がりたいんだ。話しは短く出来るかな?」
そう言いながら撫でる音が端末も受け取り、それを伝える。
「頼む。」
「何を?」
即答での返答をしながらも撫で回す音は止まらない。
「俺は、俺なら耐えられたんだ。こんな戦争が続く事も。」
「そう。マゾスティックだね。」
反吐が出る。そんな態度が聞こえてくる。
それでも枯れた声が続いていく。
「何で、何で俺の部隊は勝ったのに……何で?」
「君のところの艦船が台所に行くのかって?」
エイトナインからは呆れた声が響いた。
台所、つまりは本国防衛強化という名目でバラバラに分解され、他の艦船に捕食させ広くその能力を拡充させるのだろう。
エイトナインには確信がひとつあった。
何故、招待された横須賀部隊の伏せられていた最後のメンバーがジャベリンだったのか。
それは、ノーフォーク基地部隊の戦力差の確認、つまりは物差しとして呼び込まれたのだ。
「頼む。助けてくれ。お前の、お前はアズールレーンの艦船適性が無いんだろ!?」
「君さ、次の世代の戦争を楽にしたいんじゃないの?」
それ紛れもなくゼロツーの言葉だ。
だが、それはあくまで自分という指揮官のことしか考えていなかった。
まさか、まさか、こんな風に自分の部隊そのものを喰われるなんて誰が予想したというのだ。
「助けたとしても君は何ができるの?悪いんだけどさ助ける価値とか考えた方が良いよ?」
それは元の関係からも来る言葉なのだろうか。
捨てて行くことは生きること。その言葉のように捨てられる者がいる。
「なんだってする、頼む、お前の所から」「あっ、うん、もういいよ今君らのコード書き換えたから。」
は?
「帰りの船なのに搭乗員が少な過ぎてるからね、もうバレバレでさ〜。」
おい、ちょっと待て。
「さぁて皆!降りかかる火の粉を振り払いましょうか!」
そう、帰りの船にはもう居ない。
少年達が居るところは――
「海域2Kmにて横須賀部隊の反応を確認!」
サンディエゴ基地、司令部にてどよめきが響いた。
ノーフォーク基地の回収、横須賀基地への事故に見せかけた処理、それらが今打破されようとしているのだ。
「波形!赤城!Z23!ジャベリン!夕立!愛宕!摩耶!レナウン!こちらの策を読んでいたと思われます!」
オペレーターの声にレオンが叫ぶ!
「船の見張りは何をしていた!?その為に金を払ったんだろうが!?」
『あぁ、ご忠告をしておこうかな?』
まるでこちらの情勢が分かるように少年の声が響く。
レオンの筋書きならば意地汚い罵り合いの最中に自分達は安全な場所へ帰ると思わせて船諸共爆殺兼海の藻屑になるはずだ。
それが、何故。
『釣りをしているメンバーがいる時点で気づくべきでしたね、船の重量の目算が出来るんですよ。それとあの程度の戦力』
『僕らのこと過小評価し過ぎですよ?』
首のチップからの傍受音声から隊員に配った通信機からの音声が届く。
それに気づいて緊急脳死プログラムを起動させる。
だが、通信機の向こうからは何も反応がない。
『殺るのでしたら、やはりあの夜に始末するべきでしたね。』
嘲笑う声が響く。
そうあの夜。あの夜から日の出にかけて少年は首のチップの信号を端末から傍受させ、そのコードを全部洗い出し、セキリュティの高いコードを解析していた。最もセキリュティの高い人間が誰なのかを知って、少年は少しだけ愚かさというものを学んだ。
人は人をありとあらゆる手段で殺そうとする。
だが、その手段を全て防がれる事を想定していない。
そう、アズールレーンという正義の味方は縛る鎖に名前を刻み過ぎた。
自分を余程守りたいのが良くわかる。その発信ビーコンを確認し誰が殺すべきなのかを理解出来た。
『人を玩具にして楽しかったでしょう?今度は――』
お前らが玩具になる番だ!!レオン・ジー!
「ッ!!」
司令部の中にいた全員が彼を見る。
失敗は有り得ないとまで豪語していたにも関わらずここまでの恥をかかされているのだ。
「艦船を!配備しろ!あの裏切り者共を全員殺せ!」
搬出口からアズールレーン所属艦船を投入する。
敵進路を塞ぐように前方に向けて全戦力が火戦を集中させる。
だが、それもまるで意味が無い。
そう、針路がズレればレオンの勝ちだ。
何せこの基地の他海域には対艦船用機雷を敷き詰めている。
攻城しようにもこの広い海でありながらルートは一本しかない。そのはずだ。
『だから、そういうのバレてますよ?』
まるで跳ね上がるように響く声音の後に着弾音が響く。
「敵針路軌道変わりなし!最短ルートで来ます!」
何故釣れるはずもない場所で釣竿をぶら下げていたのか、艦船達に血液を塗らせた釣り針から少しでも情報を拾い上げられていたからだ。
この海が殺意に満ち溢れていることを理解したのは、まるで子供の口喧嘩のような話し合い。
その話し合いだけで海の情報は全員に伝わっていた。
「200!150!100!50!横須賀止まりません!」
「艦船は!トムは何をしている!?」
サンディエゴ基地所属、元スカパーフロー軍港所属の多重操縦を可能とする指揮官、トム中尉では残念ながら横須賀には届かない。
どれだけ数を置いたとしても、どれだけ火砲を敷き詰めても、彼らはそれ以上の鉄火場で何一つ誰一人欠けることなく戦ってきたのだ。
「四名の上陸を確認、映像出します!」
オペレーターの声と共に監視カメラの映像が広がる。
その様は四人揃ってあっかんべーをしている所だった。
「ころせぇええええ!!あのクソどもを殺せよぉぉぉぉ!」
カメラ枠から走って消えていく四人を他所に味方の反応が消えていくのをオペレーターは見逃しかけた。
「こちらの戦力が!」
5、18、52、次第に膨れ上がるような戦線維持不能コードが乱立する。
「なぁにやってんだよォ!たかだか5機だろうがぁっ!」
たかだか5機、それを聞いたら恐らく横須賀基地所属のメンバー全てが指を差して笑うだろう。
横須賀に本当の化け物がいる事をレオンは知らない。
『アルティメット』とまで呼ばれた艦船直々に訓練を積まされ、宛てがわれた指揮官を、強化する為の接続を
『訓練に使っている』艦船――その名を冠する巡洋戦艦、レナウンを、真の横須賀最強をアズールレーンは知らない。
マイケル・アスキスに指揮官能力は殆ど無い。空母系統には微々たるものがあるが他が壊滅していると言えるレベルで接続係数が低過ぎる。
それはもう艤装の展開に支障が出るレベルで。
だがかの究極はレナウンに言った。
――凡そ2500トンの枷となるだろうが、それを外したのならお前こそが本当の究極と呼べるのだ。
と。
その現実は地獄絵図そのものだった。
剣を振る風圧が刃となり弾丸を、航空機を、ましてや波形の読み取りすらをも阻害する程の圧力を形成し、切り捨てている。
外部広域通信でレナウンの声が響く。
ここサンディエゴ基地司令部にも。
『私の剣技に手加減というものはない。あるとするならば腕や脚を吹き飛ばすことを指すのだろう。その痛みと恐怖に勝てる勇気があるのならば挑むが良い。言っておくが――』
――私は相当究極だぞ?
行動不能の信号がまるで疫病にでもかかったかのように広がっていく。
その全てが艤装の切断、損壊、四肢間接の破壊、骨折。
そう、指揮官を必要としている時点でこのサンディエゴ基地所属艦船は絶対に勝てるはずがない。
この規格外の化け物を殺すのはどう足掻いても時間がかかる。
「上陸したゴミ共を殺せ!そうすれば指揮が落ちる!対人戦車だ!バハムートで皆殺しにしろ!」
対人戦車の部隊がスクランブル発進に手間取りながらもその黒く高い戦車に乗り込む。
バハムート――艦船未満の戦力ならば完全に1機で他の全戦闘機械を制圧出来ると言わしめる程の戦力。
毎秒3kmを超える亜音速超大型主砲、対中空戦闘用のミサイル、近接戦闘用の対物機銃、何よりもとある女神の名を冠する車と同じ特注製フレーム。
勝てるはずがない。
そう相手が軍人ならば。
たった一人だけ、確実に軍人では無い者がいる。
子供でもない。
社長でもない。
やさぐれた肌が汚いレイプ被害者でもない。
たった一人、横須賀基地には世界最強の四番打者と言われた全戦術を野球として前提に追従させている男がいる。
「A1、A2、反応ロスト!」
「ああっ!?何でだよ!?」
「カメラ出します!!」
その光景は異常の極みだった。
駆逐艦――ジャベリンの槍を、接続同期が外れれば1600トンに到達する重量物をまるでバットを振るように戦車を破壊するその男が、かつてセイレーン海域を一人で蹂躙した男の姿がそこにあった。
「主砲使えよぉぉおおおお!?」
レオンの言葉に反応するように後退しながらバハムートの竜の息吹とも言えるその火が亜音速で空気を世界を殺すように迸った。
だが。
――ガギイイイイィン!
まるで、まるでそれは野球のワンシーンだ。
どこぞの大企業が出版しているふざけたコミックの一ページの様な有り様。
人間が戦車の主砲を振るう棒で弾き返し、その弾丸で戦車の上半分を吹き飛ばしていた。
カメラに通信機を持った男の姿が映る。
『俺が15の頃、貴様らが使っている玩具よりも速い球を投げる男と俺はいつも競っていた。分かるか?貴様らという次元の低いヤツらにマウンドに立たれると同じ西海岸出身として恥ずかしいんだ。野球盤がしたいのならバーでやれ。』
その言葉はレオンを発狂させるには十分な程の破壊力を秘めていた。
「何なんだよぉ!アイツはァ!?」
『まさかとは思うが、俺が人間用のメシを食っていたと思うのなら、貴様らは草野球にも劣るゴミ共だな。良いか?俺だけだ。俺だけが――』
艦船用に調整されたデタラメな数値を誇る栄養食を毎日のように食べていた。
本来ならば内臓はすぐにでも悲鳴を上げ、脳が吐き出す事を選択し、腸は狂ったように暴れ出し吸収した栄養を廃棄する。
だが、男はそれを四年間、たった一人、自分を救った少年を守る為に飲み込んでいた。
その筋肉は見せかけではない。
同じ物を喰らった夕立が強くなった事がその証明だ。
特殊な訓練よりも体内に入ったその異常に人間の数百倍の発揮性から驚く程の瞬発力が形成されている。
『それとお前らの使ってる戦車の名前だが、ダサいな。やはりテキサス・レンジャーズにするべきだろうな。』
自分の贔屓にしているチームを口にして通信を一方的に切り、走り抜けて戦車を全て克ち上げてひっくり返す。
そう、彼の得意なコースは低めの弾道。
身長の高さからアッパースイングは誰よりも得意だったのだ。
ましてやその棒の重量に比べれば僅か30トン程度の車体をひっくり返すなど造作もない。
「サラブレッド隊に繋げ!横須賀の艦船共の悲鳴を流させろ!!」
レオンの発狂にオペレーターが横須賀制圧為隠れていた部隊に信号を送る。
対艦船用装備を充実させた部隊にどいつもこいつも壊してやれば気概が落ちる。そう思っていた。
そして信号は帰ってきた。
帰って来たのだ。
『ちわーす。デリバリー帝竜地獄の三丁目付近でーす。』
その声は聞いた事がある。以前木偶人形に脅された黒人の声だ。
『これ、音声とかちゃんと繋がってんのかな?』
「なんだ、なにをされている……?」
『あ、繋がってる。えっと聞きます?ウチの組の得意演奏、良いな良いな騎兵隊って良いな。です。』
あぎゃああああああああああ!
ダミだよー!お前も黒人になるんだよー!
さぁ皆!バーナーで!皮膚改革しようぜ!
これで俺らも騎兵隊じゃー!!インディアン白人は撲滅じゃー!!
合衆国法第一条!暴力は正義デース!
なぁ人肉なのにこいつらチャーシューズってどうよ!?
はじめてーのフェ〇ー!自分の〇ェラー!
俺これ見た事ある!帝竜のアニメでえっと!ムカデにんげ――
『つーわけでそちらの部隊はただ今、強制的に黒人になったり人間じゃなくなってます。いや生きてるか死んでるかは知らないけど人種変えます。俺らが差別を無くしますんで。安心してください。』
何が起きているというのだろうか。
信頼出来る異常性癖集団でもある部隊が、かつて自分を筆頭に計画を阻害され散り散りになった武闘派マフィアが横須賀に集結し逆襲しているのだと、誰が予想していたのだろうか。
そしてたった今、司令部の天井が破壊された。
「へいお待ち!横須賀一丁!」
エル・ヴァーノンが、かつて道具にしたガキが楽しそうにニタニタと下卑た笑みを浮かべながら抵抗しようとした人間の首を一人ずつ折っていった。
「な、なんで、なんで僕が……。」
「なんで負けるって?そんなの簡単ですよ。」
少年の、道具の、使い捨ての声が響く。
「虐げられたからこそ、僕らは誰一人忘れちゃいやしないんだ。暴力の理由がないお前ら正義の味方には一生分からないだろうけど、僕らやさぐれ者は絶対に忘れない。お前らの空がどれだけ綺麗でも僕達だけはその空が薄汚い事を忘れない。その空をめちゃくちゃにしてやりたいって気持ちは僕らの方が絶対に上だ。」
レオンの左の瞳を少年の右手が射抜いた。
「ぎぃ、やぁっぅああああああああ!」
「あれだけ皆を虐めてこの程度で喚くな三流。」
一喝と共に側頭部に回し蹴りが入る。
そして首を折られて死んだオペレーターの傍の通信機器にスイッチを入れる。
「サンディエゴ所属艦船に告ぐ、対セイレーン戦術処理、特別、あぁ!もう何だこのだっさい名義は!仕切ってたアホはたった今潰した!それ以上動くな!無駄に痛めるつもりはない。」
その言葉に従ったのかモニターに表示される戦闘光をはじめとした反応が瞬く間に消えていく。
それと同時だった。
レオンが腰に仕舞っていたナイフを少年に突き刺そうとしたのは。
レオンは笑う。勝ちではないだろうが、大切なものを破壊できるのだ。それは傷になる。そうすれば自分にまだチャンスはある。
だが、誰も焦りはしなかった。
エルはともかく、老人はもはや呆れていた。
少年は冷めた目で閣下と呼ばれなきゃ気分を害する哀れで低俗な正義の味方を見下ろしていた。
誰の言葉だったろうか。
艦船の防御、推進、浮揚に使われている斥力フィールドへの疑問の言葉が
「気を張ってればナイフなんか刺さらないんだよ。低脳。」
いつか昔の言葉は今ここに実践された。
服は貫通しても、そのナイフがまるで岩にでも突き刺したかのように硬い。
「にゃ、にゃんで……。」
「才能、才能、ってくだらない要素に縋り付き過ぎて努力って言葉の方が強い事を、そこまで生きてても分からないからだろう?」
残った目玉に向けて少年が拳を叩き込んだ。
水晶が投げ付けられた卵のように吹き飛び顔面を中心に床に沈んだ。
「ああああああああぁぁぁ!僕は!僕が勝ってたのに!違う!僕が正しいんだ!僕は正義の味方だ!使えない奴を!弱い奴を!殺していいんだ!」
両目を失っても狂ったように叫ぶ。
子供が玩具を買って貰えないことに暴れ出すように、自分こそが自分こそがと叫び続ける。
その様に軍曹が吐き捨てる。
「とことんクズだな。使い道はあるが――」『――ええ、そうよ。彼には使い道がある。』
あ?
その日、世界史に記されることは無かったが、生きていた人間の全てが忘れてはいない。
まるで太陽が消えたかのように、世界が暗闇に包まれたのを。
そして一筋の光が差し込んだ。破壊された天井からたった一人の人間へと向けられる青い青い光。
『私達が貴方を認めましょう。』
『私達は貴方を評価しましょう。』
『『この世界全てを悪意に包み込む天才、レオン・ジー。貴方こそが艦船を、人間を、否定する唯一無二の正義である我らの神子であることを信じましょう。』』
レオンの身体が光に引っ張られるように天へ向かう。その様を見逃さんと少年と少女は手持ち火器を撃ち込むがその全てが弾かれる。
「クソ!!」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ!アッハッハッハッハッ!そうだ!僕は凄いんだ!誰も彼もが僕に見下されるんだ!僕は天才なんだ!僕は選ばれたんだ!僕が!僕こそが本当の正義の味方だ!!」
光の中で気持ちの悪い叫んだ笑いが響く。
それがどこか遠くまで運ばれる。
それと同時に軍曹が駆け抜けた。
「少佐は外を!アタシはここのクズ指揮官を殺しとく!」
「お気をつけて!教授、電装系ハッキング出来ますか?」
「セキリュティが硬い、ワームで食い散らかすなら可能じゃが、制圧は時間がかかる!」
となると目視しか有り得ない。
すぐさま司令部を飛び出し外に出向く、各々が端末を起動させて艦船達の視覚を借りる。
青い光の果て、そこにあったものは――
「「「「パッケージ……」」」」
かつて、人間が艦船と共に戦う為の兵器が今、世界の全てを否定する道具となった事を、世界は隠したい程の恥を抱えた。
なんだこの秋山〇〇とアストロ球〇は……