魂を喰らう転生者 〜厨二病な聖剣とゼロから最強へ成り上がる〜 作:浦糸 香
第1話 プロローグ ―転生―
「はぁ……、かったるいな」
ゲームのやり過ぎで凝りに凝った肩を叩きながら、俺はコンビニから自宅への帰路を早歩きで進んでいた。
先程まで朝だと思っていたけど、既に空は真っ黒に染まっていて、時計の短針は10と11の間を指している。
俺は
無駄に整っている顔とカッコいい名前さえ除いてしまえば、勉強や体育、身長、体重まで、何に関しても俺は平凡だ。
顔や名前だけが一人歩きし、俺は自身の能力に見合わない評価をされる毎日――そんなつまらない訳でもなく、楽しくもない日々を送っていたある日、俺はゲームをするようになった。
ゲームは面白かった。
俺の何もない人生を華やかにするようで……、とても有意義な時間だ。
確かに幼き俺には妹や親友がいた時期もあった。だがそれらは全て、尽く破壊されていき、最終的に俺の手元に残った物はゲームだけだった。
だからこそ、俺は決めたんだ。俺はゲームに人生を注ぐと。
大学を卒業して以来、俺は家に引き篭もる日々を送り、堕落した毎日を送っている。
仕事をしたくない訳じゃない、ただそれ以上にゲームへとのめり込んでしまっているだけ。
親のスネをかじり始めて早2年――俺は23歳ながらも、ゲーム廃人の道を辿っているのである!
「取り敢えず、早く帰らねば! 愛しのマイちゃんが待ってるからね!」
現在攻略途中のエロゲーを頭の中で思い浮かべながら、コンビニ袋の持ち手を握りしめると、走り始めた。
我ながら、かなりの屑だ。だけど……、あのエロゲーはマジで面白いんだ!
そこら辺に売っている様な適当なギャルゲーとは違う、ストーリーは洗練に洗練を重ねられ、キャラの性格もとても個性的、あんな神みたいなゲームには早々出会えないぞ!
特にお気に入りのマイちゃんは最高だ。あの適度なツンデレ具合と、少々天然っぽくて中二病なのが堪らない!
少なくとも俺にとっては、あの髪色や目の配色、服装までも全てが完璧と言わざるを得ない。
さて、家に帰ったらどんな
人通りが皆無な通りで、顔には見合わないであろう、気味の悪い笑いを浮かべていたその時だった。
目の前のT路地、家とは反対側の通路奥から何やら子供の泣き声が聞こえてきた。
「こんな時間にか……?」
もう既に10時は回っているはずだ。普通なら家に帰っていてもおかしくない。
もしかして……、幽霊かなんかなのか? それはそれで興味深いけど、取り敢えず放っておく訳にもいかないな。
俺はおっかなびっくり、そちらの方へ曲がって、先を見るとそこには世にも奇妙な光景が広がっていた。
俺から数メートル先には、6歳ぐらいのフードを被った小さな少女が泣きじゃくりながらも、こちらを向きながら、ルームランナーでもあるかのようにその場で駆けていた。
そして、彼女の後ろには何やら空間に亀裂が出来ていて、その中からは青紫色の気味が悪い空間が覗いている。
な、なんだあれ? 一体全体何がどうなってるってんだ!?
「助けてぇ! 吸い込まれるよぉ!」
少女は涙で頬を濡らしながら、こちらに助けを求めていた。
深いフードで目は見えないけど、そんな顔で助けを求められたら……、黙っている訳にもいかないじゃないかよ!
クソッ、マイちゃんもうちょっと待っててくれ。この坊やを助けたら直ぐに行くからな。
俺はコンビニの袋を地面に投げ捨てると、急いで少女の元へと駆け寄り、力づくでその子をその謎めいた亀裂から引き離そうとする。
「ぐぬぬぬ……っ!」
伊達にゲームで連打を鍛えている訳じゃないって事を、証明してやる……!
何とか足を踏ん張り、少女を自分の胸元まで引き寄せると、俺自身が亀裂に背を向け、彼女が吸い込まれない様に庇った。
「ふぅ、もう大丈夫だぞ」
俺は泣き止ませるため、抱き寄せた少女の頭を優しく撫でたのだった。
ゲーム廃人の俺にもこんな気持ちがまだ残っていたんだな……。
そんな事を思っていた矢先――少女は顔を上げて、こちらを見ると静かに笑った。
「あ、ありがとう、お兄ちゃん。それじゃ……」
そう言うと少女は子供とは思えないほどの怪力で俺を突き飛ばしたのだ。
突然のことに俺の思考は完全に停止する。だが、重力をも無視するような凄まじい吸引力を身で感じた時……、俺は恐怖のどん底に落とされたのだった。
「お、おい嘘だろ!? ちょ、ちょっ……、うわぁああああああ!!」
浮遊感があっという間に全身を包み込む。身が縮み、骨が砕けそうな程強力な圧迫を受けた俺は情けなく絶叫した。
そして、気づいた頃に俺はあの青紫色の空間を彷徨っていた。
辺りには赤色や緑色の稲妻が迸り、時間や空間全てがぐにゃりと曲がったような感覚だ。
全身が捻られていく様な激痛、意識は既に朦朧とし始め、頭の中が真っ白になっていくようだ。
ふと顔を上げると、亀裂の向こうにある俺の世界ではあの少女が張り付いた様な笑みを浮かべていた。
「どうして……、だ」
命を掛けて助けた少女の姿を目に映しながら、俺は薄れゆく意識をゆっくりと手放した。
※ ※ ※ ※ ※
彪雅が虚空に空いた亀裂に吸い込まれた後。
あの謎めいた亀裂は音もなく消え去っていき、彼をこの世界から追放した。
そして、その細い路地に残されたのはフードを深く被った謎の少女、ただ一人だった。
「ふふっ、相変わらず
彼女はフードの奥から紅蓮の瞳を覗かせると、にししと歯を出して笑った。
この路地の両側には家は殆どなく、数メートル程空き地となった広場が続いている。
その為、余程の事がない限り、この異変を見ている者はまずいないだろう。
少女は周囲の様子を確認すると、彼女の足首まであるローブのポケットから何やら赤紫色に輝いた石を取り出した。
「こちら……よ。たった今、当該人物の”転生”に成功したジェロ。……はい、了解ジェロ」
電話の機能でも果たしているのだろうか、それだけ喋るとその少女はその奇妙な石をポケットにしまった。そして、その場で不気味な笑みを浮かべる。
「ヒュウガ=キサラギ……。精々、頑張るんだジェロ。君があたし達の――最後の望みなのだからね」
紅蓮の瞳を怪しく輝かせた少女はそれだけ言い終えると、光の粒子となり、その場から跡形もなく消えてしまったのだった。