魂を喰らう転生者 〜厨二病な聖剣とゼロから最強へ成り上がる〜 作:浦糸 香
あれからどれほどの時間が経ったのだろうか。
俺は不意に襲いかかってきた不思議な感覚に目覚めた。
何だか、体全体がフワフワとした様なとても心地いい感覚だけど、少し妙な浮遊感だ。まるでいつ落ちるか分からない、そんな崖っぷちに立たされている気がする。
目の前にあるのは――洞窟の壁か?
光源がどこにあるかは分からないが、辺りの様子はしっかりと確認できる。
天井も青い岩肌、地面の青い岩肌だ。となると、ここはどこかの洞窟なのか。
まさか、死んでしまった俺を誰かがこんな陰気臭い所に投げ捨てて……。
いや、多分違うな。だって俺の最後の記憶は、アニメとかでよく出てくる次元の裂け目の様な物に吸い込まれた所だ。それに死んでいたら、意識なんてとうにないでしょうに。
ところで、この浮遊感ずっと続いているけど、俺は今どんな状態なんだ?
不思議に思った俺は自身の手を見てみようとした。
だが、本来あるべき場所にそれはない。というか、どこにも見つからなかった。
しかも手に限った話じゃない、足も胴体も、どこにもないじゃないか!
この状況――物凄く嫌な予感がする。
どこか……、どこかに水面はないのか? 鏡の役割を果たすような物はないのか!?
俺は急いでフワフワと身体を宙に浮かばせながら、辺りを探索してみる。
すると、俺の数メートル手前に、洞窟の地面にちょっとした水溜りが出来ていた。
やけに都合が良いな、それはともかくあの程度の水溜りなら俺の顔も見られるはずだ。
恐る恐るながらも、俺はその水溜りを上から覗いてみる。
その水面に写っていたのは――青白い炎だった。今にも燃え尽きそうな程小さな炎だったのだ。
何故かは知らないが、真ん中には可愛らしいつぶらな瞳がついている。
何だこの炎……。
ちょっとまてよ、まさかとは思うけど。
水面に写る炎をジッと眺めていた俺は試しに身体を右に動かしてみる。
するとそこに写っている炎も、右へと動いたのだ。
次に俺は身体を左に動かしてみる。案の定、水面の炎も左へと動く。
……何だと?
という事はまさか、俺は宙に浮く炎になってしまったのか!?
しかもこの青白い炎、例えるとするなら、人魂。
そっか、俺は死んじゃったんだな。
脳裏に蘇ってくるあの光景。
助け出した謎の少女に突き飛ばされ、亀裂の中へと吸い込まれていった記憶。
つまり俺はあの時死んで……、人魂として化けて出たと、そういう事だな。
そんな……、俺は二度とマイちゃんに会えないというのか!?
あの神にも等しいエロゲーや有名なRPGゲームも二度とプレイできないとでも言うのか!?
一人部屋に閉じこもりながら、ティッシュを用意して、オ◯ニーで自分を慰めることも出来ないのか!?
嘘だろ……。
俺の人生その物と言っても過言じゃないゲームが、もう二度とプレイできないなんて。
クソッ、こんな事になるならあの少女なんて助けるんじゃなかった!
あの少女と最後に見た妹の姿と照らし合わせ、無駄な幻想を抱いたばかりに、俺はゲーム人生を全て投げ捨ててしまったのか。
……嘆いても、仕方ないな。
死んじゃったんだし、もう諦めて成仏するしかないだろうに。
こうして、俺は全身の力を抜いて、ゆっくりと目を閉じたのだった――
――成仏ってどうやってするんだ?
なんかお祓いとかしてもらえれば、出来るのかな。
というかそもそも、ここはどこなんだ? 日本なのか、外国なのか、そもそも地球なのかも分からない。良く良く考えてみれば、青い岩で出来た洞窟なんて本当に存在するのか?
これは少しばかり、探索してみた方が良さそうだな。
今の俺にあるのは人魂になったという情報だけ、これでは状況判断も糞もない。
探索、それはRPGに於いては基本中の基本でありながら、最も大切な作業。これを怠っては大切な情報が得られず、高難易度のRPGはクリアすることも出来ないと言われている。
それは街や王国などに限った話じゃない、こういう洞窟にも思わぬ情報が潜んでいる事もある。
ともかく一旦、マイちゃんの絶対領域の事は忘れよう。
自分の状況を知るため、この謎めいた洞窟を回ってみようじゃないか。
心の中で深呼吸し、冷静さを取り戻した俺はフワフワと身体を動かしながらも、辺りを探索してみることにしたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
薄暗い洞窟の中を人魂として動き続けること数分。
俺は世にも悍ましい者と遭遇してしまった……。
いや、確かにゲームやら、仮装やらで見たことはあるのだけど。
まさかご対面する日が来るとは夢にも思っていなかった。
洞窟の通路の真ん中、その中央に佇んでいるのは何と動く人体模型――ではなく、動く人骨だった。
動く人骨、つまりゲームや神話用語などで表せば、スケルトンと言う奴だ。
ゲームの雑魚キャラでお世話になっているし、お目にかかれるのは非常に嬉しいのだが……、現実で見るとやはり不気味だな。
――カタカタカタッ!
スケルトンはポッカリと空いた目の窪みをこちらへと向けると、まるで笑っているかのように骨を軋ませた。
生き物は骨だけでは動けない、それは自然の絶対なる摂理である。
だが、スケルトンはその摂理を嘲笑うかのように俺の目の前に立っていたのだ。
化け物同士、姿は見えるようだな。
だが、こっちは既に霊体なのだ。攻撃やらの心配はないはずだ……。
こんな物を見せられると、本当にこの世界が俺の元いた地球なのかすらも、怪しくなってくる。
下手したらここ……、地獄の底なんじゃないか? 或いはお化けとかが集結する世界だったりしてな。
どちらにせよ、溜まったものじゃない。
一先ず、この謎の洞窟にはスケルトンが存在する! それだけでも情報価値はある。
よし、引き続き探索を続けるとしようか。
そう思って、スケルトンの横をすり抜けようとしたその時だった。
先程までは人魂である俺を見守っていたスケルトンが突然、俺に殴りかかってきたのだ。
その拳の速さは俺でも分かるぐらいに遅かった。
だが、フワフワとしているせいか、俺はその拳を咄嗟に避けられず、その身に受けてしまう。
——グフッ!?
霊体なんだ、どうせすり抜けるだろう。
そんな俺自身の過ちを擁護するような淡い期待は、全身を走り抜けていった非情なる痛みによって容易に打ち砕かれる。
そして、人魂である俺は何も出来ず、そのまま吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
——ば、馬鹿な。てっきり俺は霊体だと思っていたが、違うのか?
それか、あのスケルトンも霊体なのか?
ともかく、今はそんな事どうだっていい。
二度も死ぬような痛みに晒されてたまるか、全身全霊で抵抗してやる!
俺は拳を構える——自分の姿を想像して、スケルトンと対峙した。