「はぁ!?僕の日記!?」
島田の驚くべき仮説に目を剥いてしまう。なんと『明秋 石雲』さんが僕の日記を漫画にしているというよく分からない事を言ってきたのだ。これには流石に呆れ果ててしまう。
「何言ってんだ、お前。僕は日記なんか書かないし、この漫画を描いた人とは縁もゆかりもないよ」
「そりゃあ、そうだろうな」
彼は相変わらず擦り落ちそうな眼鏡をかけているが、当の本人はそれがないかのように深刻そうな顔で話す。
「だが、気をつけた方はいいと思うよ。もしかしたら、ストーカーかもしれないから」
「なんだよ、あいつ」
島田の家を出て、帰路につく。
あの後、僕はきちんとその結論に辿り着いた理由を島田に訊いた。
彼が言うには、明秋さんの漫画で主人公が友達の家に行ったり、遊んだりしている漫画が出ているのは、島田と僕が遊んだ日によく書かれているという。
確かに言われてみれば、そういう感じがするがよく分からない。何しろ、そんなストーカーを受けられるような行為を僕自身したことはないからだ。それにこの漫画だと女の子が男性に恋をしている。仮にその男性が僕だとしたら、それは違う。僕は女の子を今まで家に上げたことがないし、好意を寄せられたような覚えがない。
「まぁ、どうせガセか……」
そう思って帰路についた。
次の日、パクシブを見ると早速明秋さんの漫画が出ていた。
開いてみると、漫画の閲覧表示の下に一言メッセージ的なのがある。
そこには
『記念すべき百六十五話目!いやぁ〜、ここまで来ると何かずいぶん書いたな〜、相変わらずほとんど進展しないな〜、と思います。あっ!でも今回ちょっとは進展します』
と書いてある。
「へぇ〜、どんな風に進展するんだろうな〜?」
期待に胸を膨らませ、僕は漫画を読んだ。
「いやぁ〜、いい話だったな〜♪」
今回もやっぱり男性が女の子を置いてけぼりにして、友達の家に遊びに行く。
そうしてビールを飲んだり、ゲームをしたりと、楽しんでいる男性に友人が女の子のことについて触れ、『少しは考えろ!』と一喝して終わるという何とも昼ドラチックな展開だった。だが、またそこが良かった。
「なんか、この展開だと終わりが近いな〜。それにしても……」
顎に手をあて、考える。考えていることはもちろんあのことだ。しかし、何回考えても島田の一言はやっぱり違うのではないか、あいつはやっぱり法螺を吹いたのだ、とやはり頭が結論づける。
そう考えると、後はもう単純だった。いつもどおり寝室に行き、寝る準備を済ませ、明日の仕事の予定を確認してから寝た。重い目蓋の主張はかなり激しく、意識が落ちるのもそう遠くはなかった。
ふと目蓋が開く。
辺りは真っ暗で、何があるか分からない。どうやらまだ夜は明けていないらしい。漆黒とも藍色とも言える室内をキョロキョロと見回す。闇に慣れたのか、物の形がぼんやりと分かるようになってきた。そして、近くに置いてある目覚まし時計を見つけ、手に取る。明かりをつけていないとはいえ、目の近くにぐっと寄せるとなんとなくだが分かった。午前三時。まだ、起きる時間じゃない。
(寝よう)
そう思い、薄い掛け布団を掛けようとした時だった。
この部屋から誰かの視線が感じられた。
「誰だ!!」
大声を出し、あたりを素早く目だけ動かして探す。だが人の輪郭と呼べそうなものは何一つもなく、変わりに僕の出した大声だけが残る。
「気のせい……なのか?」
僕はビクビクと怯えながら夜を明かした。
昨夜、僕はあの視線に対する恐怖でほとんど寝れず、結果寝不足の状態で仕事に行く羽目になった。
仕事がなんとか終わり、帰路につく。
眠気がかなりあり、目蓋はいつ閉じてもおかしくはない。
多分、クマも酷いぐらい濃いのだろう。仕事場の上司に『大丈夫?』と心配された。
そう考えると、よく仕事ができたものだと、つい自画自賛したくなってくる。
……それにしても、あの視線は何だったのだろうか?単なる神経の過敏さから出たものなのか、それともやっぱり……。駄目だ、頭がぼんやりする。これ以上考えても特に何もならない。早く家に帰って寝よう。
家になんとかして着いた僕は鍵を閉めて、まっすぐ自室に行き、ベッドに身を投げた。
そして、スーツ姿から着替えることなく、ぐっすり眠った。
朝日を感じて目を覚ます。時計の針は七時を指している。かなり熟睡していたのか、起きていてもまだ若干眠気が残っていた。
ふと、体を見ると、自分がスーツ姿のまま直接寝ていたのが分かり、やっちまったな〜と一人で思い、はぁ、とため息が口から漏れる。
そんな喪失感を埋め合わせようと脳が働いたのか、僕の指はパクシブを開く。画面を見ると、明秋さんの漫画が更新されていた。
「おっ!」
僕はそう歓声を上げると、漫画を読んだ。
「どうなるんだろう、このあと」
僕は胸を弾ませている。今、漫画では男性が散々自分が振り回してきた女の子のことを気にして、葛藤していて、それを部屋の扉から女の子がじっと見ている様子が描かれている。正直言って、この後どうなるか分からない。
「なんか、閲覧表示のところでなんかないかな〜」
そう思って見ていると、僕は次の瞬間ぎょっとした。それは明秋さんの一言メッセージ的なものだった。
『次回で最終回です!まぁ、ちょうど記念日の日にやるので自分的にはいい感じです』
「そうか、次回で最終回か……」
……寂しいな。次回で終わるなんて。この漫画は去年から始まった。ちょうど艦これにあきていた時期だっただろうか。それから毎日毎日更新されていた。第一話からのファンである僕としては少々寂しい。
「まぁ、最終回はいずれ来るものだから……な」
その日はあっという間に夜になった。
僕は家に帰ると、すぐ寝室に行き、寝た。
ガチャ
近くの扉が開く音がする。
その音共に意識が曖昧ながらも覚醒する。誰だろうか?そう思って、ぼんやりと見る。明かりもつけず真っ暗な一部屋なこともあって、見えるのは動く影。その影はこちらに向かっていく。ここで僕の意識は完全に覚醒し、素早くベッドから転げ落ちるようにして、ベッドから降りる。そして、影と相対するかのようにまっすぐ影のいる方向に体を向け、その場にかがみこむ。パジャマが体から出た汗を吸い取って、背中に張り付いてくるようになる。その感触は僕をとてつもなく気持ち悪い気分にさせる。
僕はじっと声を押し殺して、影がいなくなるのを待つ。
しかし……
「酷いなあ……そんな反応させられると、流石の私でも傷つくって」
影はいなくなるどころか僕の姿を捉え、話しかけてきたのだ。これに僕はますます恐怖を感じる。何故なら影の最後の言葉らへんはほぼドスのきいた声で喋っていたからだ。これに僕は若干後退りする。しかし、すぐ寝室にある机の壁が出てきて、退路は塞がれた。僕はこの時はっとする。
(そうだ!助けを呼ばないと!!)
そう思って、机に置いてあるスマホに手を伸ばす。しかし、それよりも早く影がスマホを手に取る。その時、一瞬だけだが影の手と思われるものが窓から入る月光に照らされ、見えた。それは少女のような手だった。はっと影の方を見ると、なるほど確かに夜目を通して見ると、影は小柄で大きさから推定するに大体中学生ぐらいだろうと思われる。さらに、声の高さからして女性であろう。
そんな見た目をした影はスマホを取ると、それを思いっきしスマホを足元へと強く投げ捨てる。バンと強い音が鳴る。しかし、これで影は終わらなかった。そこから足と思われるものが上へと行くと、そこからはジェットコースターのような速さでスマホを踏み潰した。
スマホは一瞬悲鳴を上げると、何も言わなくなる。
「助けは呼ばせませんよ」
影の冷ややかな一言。それは僕自身に破滅に近い感じを身体に与える。
だが、それにしてもこいつは一体何なのだろうか?この部屋とかには心霊現象が起きたりということは聞いたこともないし、見たこともない。
「お……お前は一体……」
かすかすの声で恐る恐る影に訊く。
すると、影はくすくす笑う。
「分からないですか?いつもあなたは私の日記を、漫画を読んでいるのに……」
この時、僕に衝撃が走る。
まさか……
まさか……
お前は……
その時、窓から入ってくる月光が影の姿を照らした。
島田はふと、パクシブを開く。
すると、明秋石雲さんの漫画の最終回が出ていたのに気づく。
島田はそれを速読すると、大きなため息をついた。
さて、肝心の最終回の内容はというと、扉の隅にいた女の子が男性に愛の告白をし、それを男性が受け入れ、結婚する、そんな内容だったという。
なんかやっとホラーっぽくなったかなと思います。
さて、影の正体は誰か?ヒントとしては『名前』です。
ただ、これは前編である『ずっと見ている』を読まないと分からないと思います。