豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

――――Q.天才と凡人の違いとは何か?

 

 

 人生で一回は耳にしたことがあるだろう非生産的な問い。人によって解は違うだろうが例えば天賦の才だったり、類稀な幸運だったり、はたまた主人公補正かそれとも環境か?

 

 

 俺が推す答えは『狂ってる』だ。これも割とベタな答えだと思う。漫画とかでも腹が裂けようが敵に立ち向かう主人公とか、周りの全てが敵になっても知るかとばかりに突き進む英雄とかテンプレだろ?え、飛躍し過ぎ?じゃあ国を代表するアスリートとかなら分かりやすいか?偶にテレビや雑誌の特集に載っていたりするが、あの人たちと同じ生活(特にトレーニングや日課とか)してたら絶対保たない。出来る出来ないじゃなくて『耐えられない』んだ。だるい、しんどい、今日はちょっと…いくらでも常套句は出てくるが、それを跳ね除け続けるなんて凡人には無理だ。そりゃ天才でなくても『辛いけど此処は頑張り処だから』って努力することは出来るけど、それだって十回ぶち当たって一回あるかどうか、または就活とか本当に将来を左右する『一時』だから出来るだけの事だ。

 

 

 ぐだぐだと話が長くなったが、俺が言いたいのは『狂気が無けりゃ人間【普通】より外には行けない』ってことだ。そんでもって、これが俺に降りかかった事態に滅茶苦茶関係してくるんだよ。

 

 

 

 当然知ってるとは思うが、この世界でもっともホットで話題を独占する存在と言えば『伐刀者(ブレイザー)』または『魔導騎士』と言われる存在だろう。詳しい原理は知らんが自分の魂を訣って固有霊装(デバイス)っつう武器や超常を起こす道具を生み出せる人間で、千人に一人しかいない希少と考えるべきか意外と居るなと思うべきか判断に迷う存在だ。そんでもって、俺もまたそんな伐刀者の一人で学費0円っていうだけで選んだ専門学校『破軍学園』に通っている。

 

 

 まあ千人に一人の確率で選ばれたって言うと生まれながらのエリートとか勘違いしそうになるが、先程も述べた通り『狂って』なきゃ程々にしか結果は出せないもんさ。なまじ希少な所為でよっぽどの大外れさえ引かなきゃ食いっぱぐれる事なんざねえし。……まあそのよっぽどと同期になったからあんまり大声で言えねえんだが。

 

 

 ついでだから話題に出しておくか。その同期の名前は『黒鉄一輝』、少し前までは唯のクラスメイトだったが今じゃ傷を舐め合う負け犬仲間ってとこだ。どんな奴かって言えば、良い意味でも悪い意味でもとんでもない奴だ。ルックス良し・性格良し・剣の(・・)才能は神童レベル・肉体は入学時点でYAMA育ちかお前はって位ムッキムキに仕上がってるビックリ人間だ。

 

 

 じゃあ悪い意味って何かと言えば、世界大戦以来の名家『黒鉄』の血が災いして一族に人生台無しにされ続けてるってことだ。いや本当に凄いわ、こいつ一人貶めるために国立学校、それも国防に直結する超重要機関のルールが丸ごと変わったからな。俺も入学前に伝手やら何やらで情報収集したけど『Fランク以下は授業を受けさせない制度(能力値選抜制)』なんて存在どころか噂すら出てなかった代物が突然湧いて出やがったんだから相当陰湿につけ回されてるわけだ。

 

 

 ―――え?周りの人間は何も言わないのか?社会道徳に反する?……おい、もしそんな寝言言う奴が居たら今すぐ引っ叩いて黙らせるか、欧州に高飛びを勧めるかしてやれ。この国がいつから民主主義になったんだよ、封建社会から一歩も変わってないエリート至上主義の官僚国家だろうが。御上が黒って言えばドドメ色だろうが黒なんだよ。

 

 

 …こんなこと言えば非国民呼ばわりされかねんが、もし第二次世界大戦に負けてりゃヨーロッパお得意の自由民主主義が幅利かせたかもしれんが、日本は世界大戦の戦勝国だぞ?つまりは治安維持法も、軍部大臣現役武官制も、特別高等警察も、大政翼賛会も、何も間違ってやしないって言い続けてきた。結局外圧の所為で資本主義や財閥解体はしたみたいだが、日本お家芸の『表面上は』『言葉の上では』『暗黙の了解で』で整えただけに決まってるだろうが。そうでなきゃ一家の御家騒動で国家を担う若人のカリキュラムを弄り回せるわけないしな。

 

 

 

 さて思い切り話が逸れたが、俺と黒鉄一輝の繋がりなんて最初は本当に唯のクラスメイトだった。あえて付け加えるとしたら、偶に晩飯たかる代わりに授業内容を教えてやってたくらいだが、入学当時は一部の馬鹿を除けば理由もないのに積極的に嫌がらせする人間はほとんどいなかったし、同情から似たような事してたやつは結構多かった。なんせ見てくれは本当に良いからな、こいつ。俺としては第一印象から『こいつけっこうイカレてるな(天才の素養があるな)』と思ったから誼を得ようとか下心があったし、半強制的に復習することになってテストの成績が向上したから寧ろ礼を言わなきゃならんかもしれんが。

 

 

 

 

 ――――零落の切っ掛けは本当に単純だった。ただ単に、その件の落ちこぼれFランク騎士に後塵を拝した、それだけだ。『能力値選抜制』が原因で碌に授業に出られなかったあいつも、たった一度だけ学校公認で実践試合をしたことがあったんだ。幾ら『黒鉄家』が名門っても、対抗派閥や商売敵はそれなりに居る。そんな連中に後から付けこまれる理由にならない様、一度は試合をさせる必要があった。そうすれば『授業には出たが、全戦全敗だった』て成績に厚化粧できるだろ?とはいえ、『雷切』や序列上位なんか当てても負けて当然って言われるだけだから、同じ一年から見繕った。それが俺だったって訳さ。

 

 

 今にして思えば、当時の俺は嫌な奴だった。入学当時ではランクCなんて身の丈に合わない評価を貰って天狗になってたし、それに輪をかけて俺の『固有霊装』はとても都合が良かった。程々の実力でも十分潰しが利いたからな、狂ってない(凡人の)俺様じゃ人に『悪くはない』と思われる以上の努力なんて出来なかった。その怠惰が祟ってか、後でどうなるかもよく考えずに言われるままに試合を引き受けたんだよな。

 

 

それに引き替え、当時はあいつも意気軒昂でな。授業を出れない自分が唯一存在価値を示せる絶好の機会がやってきたんだから当たり前だが、これだけでもどっちが勝つか予想を立てるまでも無いだろう?

 

 

勝負は一瞬だった。俺が見立てた通りあいつは天才(狂人)で、あの当時から既に伐刀絶技(ノーブルアーツ)の一刀何某とかいうのを修めてやがった。俺が化物共以外に負けたことのない必勝の布陣が一秒と持たず、敗北に気付いたのはベッドで目が覚めてからだった。

 

 

 

俺にとっても予想外の結果だったが、一番慌てたのは理事の連中だろう。彼らもランクの高さが実力の絶対的証明だと猛進してきたのだから、まさかFランクの落ちこぼれにCランクで入ってきた奴が負けるなど考えてもみなかったに違いない。そしてそれ以上に困ったのは、退学の要因にするどころかむしろ彼の強さを証明してしまったことだろう。御上の要望に応えられないなんて将来が決まるも同然、そういった焦りや予定を崩された怒りの矛先が全部俺に向けられた。

 

 

それからの行動は早かった。何せ翌日の朝刊に、俺や家族が面接官に賄賂を渡してランクの虚偽報告をさせたことが、一面で載ってやがったんだからな。実際の俺のランクはFランクらしく、ご丁寧に中学時代の成績まで改竄する徹底ぶり。だから昨日の試合は落ちこぼれが上位者を下したんじゃなく、FランクがFランク同士で低レベルの戦いをしてただけってことにしたらしい。身に覚えのない罪で周りに槍玉に挙げられた家族は俺に浴びせられるだけの罵倒を浴びせたらさっさと雲隠れしていき、クラスメイトも手のひらを返していった。

 

 

 一番影響を受けたのは黒鉄一輝だろう。まさか連中が此処までするとは思わなかったようで、しかも今回の件で相当当て擦りを喰らったらしい。『お前が上に逆らって余計なことをするから、お前の所為で不幸になる人間が増えた』的なことを延々言われたとか、どの口がほざくのやら。この一件が原因で他人と距離を置くようになり、形振り構わない理事どもを警戒し過ぎて正当防衛すら出来ず怪我の毎日となった。しかも俺の二の舞になりたくないのか、今まで日和見だった奴らまで馬鹿共に便乗しだしたのだから目も当てられん。

 

 

 まあそんなこんなでめでたく帰る家も今までの評価も、ちっぽけなプライドも粉々になった訳だが、何より俺をイカレさせたのは、騒動の中心である一輝が俺に土下座をしやがったことだ。くそがッ!今でも腸が煮えくり返ってきやがる!『関係のない君を巻き込んで本当に申し訳ない。僕に出来ることならどんなことでもする、償いをさせてほしい』だと?

 

 

 そうじゃねえだろうが!お前は当事者かもしれんが加害者じゃねえだろ。むしろお前が安易に話に食いつくから利用されて立場が悪くなったと罵られる方がまだマシだ!大した誇りも持ってなかった俺だが、これ以上ないほど顔に泥を塗られた気分だった。俺の今までの何もかもが、こいつを貶めるため切っ掛け以外何の価値もないものにされたってことだからな。

 

 

 そこから俺とあいつの協力関係は始まった。俺はあいつに『伐刀絶技』の強化に協力しろと迫り、あいつの訓練には俺の『固有霊装』を提供した。あいつの武の理を取り込んで創り(・・)続けた。幸い試運転の相手にも困らなかったしな、あいつに流血沙汰しかけようとする馬鹿を横から殴りつけるだけの簡単な仕事だ。報復に何度か俺の方にも来たが、今更しがらみのない俺が自重する理由もなく全部返り討ちにしてやった。何度か理事に俺が邪魔だと訴えたようだが返事は放逐の一択だったようだ。まあ当たり前か、もし退学させられようものなら、その日の内に求人誌買って犯罪者の皆さんとこ駆け込むだけだし。俺の『伐刀絶技』はテロリストには垂涎物だし、俺としても最低限度の幸福も保障しない国家に立てる義理なんざねえし。恥や外聞なんてのも今更だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――あの日から、脳髄に直接響く声のままに『固有霊装』を行使する毎日だった。授業を出れないのを良いことに自室での引き籠りと、試運転に出かけるだけの寂しい生活は丸一年続いた。学園からの通達は全部無視してたせいで知らなかったが、何時の間にか理事やら教師陣やらが一新されていたというのを一輝から聞いた。他にも『能力値選抜制度』の廃止だの、トーナメントがどうだとかも言ってたが正直興味が湧かない。

 

 

 だが、一つだけ猛烈に惹かれた内容があった。それはランクに関わらず『七星剣武祭』(まあ早い話が伐刀者全国選手権と言ったところか)に出場できる可能性が出てきたということ。まあ目の前のこいつが一番の障害なんだが、俺が七星剣武祭に出場したらどうなる?もし万が一上位入賞などしたら、今までの事態はどう作用する?……是が非でも見てみたいと思った俺は悪くないと思う。

 

 

 そういう訳で、一輝も同じく新理事長に用事があるとのことなので一緒に向かうこととなった。まあ先に行っても良いんだが、今まで散々ボイコットしてきた俺が単独で行くというのも考え物なので、ぜひ同行を願い出た。……この時態々早朝の日課を終えた奴の部屋までついて行かず、現地集合にしておくべきだったとひどく後悔することになった。

 

 

 

 

 

 

「い、いやああああああああぁッ!!!!?」

 

 

 ………一輝、お前さんのこれまでの生活はある程度聞いていたから、女性とのトラブルに関して免疫ないのはしょうがないが、野郎のキャスト・オフは覗き関係なく警察案件だと思うぞ?

 




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