※9月2日修正「元服前の→元服してそこそこの」
場所:騎士連盟日本支部
「―――以上が今日に至るまでに起きた経緯ですぅ。んっふっふ、お付き合いしている御嬢さんの意向に縋られた時用に
「……」
一輝の強制連行から一夜明け、連盟支部にて黒鉄 巌は今回の騒動の下手人『赤座 守』から事の次第を聞いていた。その姿は普段と全くといって良いほど変化は見られないが、もしこの場に一輝レベルの洞察力を持った知人が居れば彼の背後から見え隠れする不快感を感じ取ったかもしれない。
「(事後の配慮は全く行わず小国とはいえロイヤルファミリーの顔に泥を塗ったか。確かに手段は問わんといったが、この男は50を過ぎていながら収支の帳尻すら数えられんのか。任せる相手を間違えたか、いやこんな愚物を上位組織に置き『黒鉄の理念』を穢した私の不明か)」
確かに赤座の計略は今のところ順調であり綻びは見当たらない。しかしそれは今この瞬間のみを切り取って判断した場合だ。彼が取った手段は、第三者が冷静に見れば如何にリスクが高いか浮彫なのだ。
まず第一がマスコミだ。今回彼らが大人しく従ったのは、彼らにとって突然強烈な圧力を掛けられるという不意討ちによって後手に回ったからだ。だからこそ冷静になった今、自分たちがどれだけの屈従を飲まされたのか、そしてどれだけ危険な爆弾を抱え込ませたのかを知り怒りに震えている頃だろう。
連中も素人じゃない。少し調べれば今回自分たちが出した記事がどれだけ根も葉もない作り話なのか直に感づく。しかも関心を向けているのはヴァーミリオン公国の王族、そして彼らに公式での抗議を受けた政治家たちだ。もし自分たちが碌にソースを確かめもせず世に出したと知られれば未曽有の危機に陥る、かといってありのまま真実を話すのも論外だ。国家相手ならいざ知らず一機関の権力に屈してペンを曲げる報道など誰が信用するものか、彼らが業界で食べていけなくなるのは明らかだ。
これが週刊誌の三面記事で在ればまだやりようもあったが、可及的速やかに情報を普及させるために日本でも有数の新聞・出版社を使ってしまったのだから言い逃れは出来ない。しかもやり方が彼らの横顔を札束と暴力ではり倒したに等しい。
連中は自分たちの持つ既得権益の巨大さを良く知っている。それに比例して肥大化しているプライドを傷つけた以上関係修復は絶望的だ。もしこちらに逆風が吹けば有らん限りの力で脚色してくれることだろう。それどころか、この機会に伐刀者そのものへのヘイトスピーチをやりだしかねない。そもそも心象操作は向こうの専売特許だ。
そしてもう一つの問題がロイヤルファミリー、ではなく日本の政治家たちだ。戦後軍部の暴走が問題視され文民統制が声高に広まったこと、そして1000人に1人という希少さも相まって政治家の殆どは非伐刀者だ。それ故か彼らは伐刀者という存在に対して常に一定以上の不安を抱えている。
そんな彼らに一切話を通すことなく外交問題確実なトラブルを引き起こしたのだ。しかも目的は一門の子供一人を寄ってたかって嬲り排除するため。非伐刀者にとっては間違いなく『そんなことで』としか思えない理由でここまでやってのける自分達がどう映るのか、慎重に考えればもっとやりようがあっただろうに。
アイデンティティーが『霊装』という暴力機構である以上ある程度の増長は仕方がない。しかし何をしても許されるという空気は必ず組織を腐敗させ無秩序化させる。そして子は親の行動を真似るものであり、自身が咎められれば親の振る舞いを引き合いに出して居直る物である。『黒鉄家』として、これほど本末転倒な事案は他にないだろう。
そんな巌の内心など気付くはずもなく、赤座はまるで自身を稀代の策士とでもいう様に大げさに自身が仕出かしたことを話し終わると退席していった。当然ながら巌のスケジュールは予定より遥かに忙しくなった。如何に一任したとはいえ、組織の長である彼には部下の仕出かしを丸く治める義務があり、また黒鉄の当主としても自分たちの存在意義に疑念が持たれるなどあってはならないことである。しかし―――――。
「(PiPiPiPiッ!!)―――――私だ。今日の予定はすべてキャンセルしろ。外務大臣および総理に今回の騒動に関してのアポを取れ。……それと、行程は2日以内に済ませるようスケジュールを組んでくれ。3日後には絶対に予定を入れるな」
――――この時、何故当主としての務めより地下に閉じ込めた一人が気に掛ったのか、それは当の巌本人すら良く分からなかった…。
場所:破軍学園 食堂
――――食堂。現在は昼休みであり、普段であれば活気にあふれているこの場所は絶賛お通夜のような有様であった。その原因は噂話の渦中の人物でありながらあえて中心部に陣取る少女――――ステラの存在である。
控えめに言って『不機嫌』どころの話ではなく、その他大勢は目に見える逆鱗を決して踏むまいと息を殺して昼食を掻き込み早急に出て行こうとしていた。かろうじていつも通りの体を成しているのはステラと同席している珠雫・アリス・春雪・加々美の4人だけであった。
「―――それにしても、イッキとシズクのお父さんは何を考えているの?家名が命より大事ならこんな醜聞に仕立てたら本末転倒だし、イッキが憎いのなら自分が前面に出てくる筈。貶めて利益が出る相手でもなければ後継者争いならシズクが狙われてなきゃおかしい、本当に何が目的だってのよッ!?」
「…身内の恥を晒すようですが、これまでの人生で一度として父を理解できたことはありません、恐らくはお兄様も。もうあの人はそういう生き物だと納得…というより諦めるしかありませんでしたが、だからこそ何を仕出かしても不思議じゃありません」
一通り現状―――この国のマスコミに対する失望や一輝を取り巻く状況の不味さ、そして自分たちの無力感を整理し声を荒げた後、話題はこの騒動の元凶である黒鉄 巌へと移っていた。ステラはもしこの男を落とすことが出来れば若しくは、と一抹の希望を持っていたのだが、当の
これでは今でも父との和解を望んでいる一輝が不憫でしかないと、あの熱に浮かされた一夜を思い出してステラは未だ見たこともない未来の義父を内心罵倒する。
「―――『至らせない為』若しくは『価値基準の崩壊を防ぐ為』か?何にしても随分遠回りをするもんだな、ここまで来ると不器用とか言うレベルじゃないな」
「あら、何かわかったの?」
二人して悶々としていたステラと珠雫だが、横からの呟きにガバリと顔を起こす。彼女達からすれば春雪が口を出してくることが心底意外だったのだ、何せ彼は巌とは根深い因縁がある。例え直接かかわっていたかは不明だとしても、自分を『落第騎士』に仕立て上げた元凶なのだから耳に通すだけでも不快だろうと。
「……一つ聞くが、才能の差と限界に至るまでの時間差って比例すると思うか?」
「何ですか突然?それは…比例する、と思います。才能が優劣を決める絶対条件だなどと戯言を言う心算は有りませんが、才能は出来ることや選択肢を増やします。限界に至る、というのがそれら全てを極めることを指すというのであれば、当然同じ時間と努力を掛ければ選択肢が少ない方が先に極みに達するのでは?」
一見無関係な話題を振られたことに困惑しながらも、自身の意見を述べる珠雫。とにかく今はどんなことでも兄の一助になればそれで良い、彼女にとって兄こそが全てに優先し得るのだから。
「ああ、俺もその考え方に同感だ。つまりは下手に才能がある奴より無い奴の方が先に壁に
「「「「……???」」」」」
途中から独り言のようにぶつくさ言い始めた春雪だが、聞いていた4人には内容が全く理解できなかった。壁にぶつかるということはそれが成長の限界であり、全ての伐刀者が嘆くそれをまるで歓迎するかのように言う理由が分からない。まるで
「まあ、とはいえ――――」
「あ、ちょっと……ッ!!?」
一人で納得して席を立とうとする春雪を、勿論彼女達は止めようとした。勝手に話を終わらせるな、こっちはまるで理解できないぞ、と。
しかし――――――見上げた先にあった肉食獣を思わせる双眸に誰もが凍りついてしまった。そこで彼女達はようやく自分たちが勘違いしていたことに気付いた。彼は落ち着いて等いなかった、ただ時間を潰していただけなのだと。その内心はようやく訪れた機会にむせび泣く飢餓狼のそれと同じだということを。
「――――人生を台無しにされた負け犬が遠慮してやる理由にはならないよなあ…?」
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「俺の予想だと別段『愛情』に欠けてるって訳じゃないらしいな。となれば…いろいろ火消が済む頃合の今日、顔を見に行く可能性は高い。それでなくとも家の方に帰れば政治家や関係各所からの突き上げがある、支部で活動している可能性は極めて高い。……く、はっははははッ!!最低でも卒業まではお預けだと思っていたがこんなにも早くツキが回ってくるとはなあ!!」
あっという間に春雪は校門まで辿り着いていた。そもそも彼は一輝と違い交友関係はとても狭く、その上獣の形相で歩く彼を遮るような生徒など存在しない。結果呼び止められることなく外へと歩みを進めていた。このまま一瞥すらせず門を超え、目的地に向かおうとするがしかし――――。
「――――こらこら、短気は損気だぜ?うちはともかく、くーちゃんが見過ごすとでも思ったのかい?」
生徒以外に、その歩みを止めようとする人間が居た。壁に背を預けながら声を掛けたのは『西京 寧々』《夜叉姫》の2つ名で知られる世界ランキング3位の怪物である。しかしそんな自身に呼び止められても振り向かず、肩越しに視線を向ける彼に気を悪くするでもなく話しかけていく。
「イケないこと企んでるみたいだけど止めときな、ここで君が動けば黒坊はお終いだ。なにせ君と彼は1年間濃い付き合いをしてきた仲なんだろ?そんな奴が殴り込み掛ければ、彼もそんな奴だと示す動かぬ証拠になる。勿論せっかく内定を決めた七星剣武祭出場は取り消されるだろうしそれになにより――友達の親を斬れるのかい?」
「…友達ねえ、そんな清い付き合いじゃないですよ俺達は。罪悪感と自尊心の残骸が最初の繋がりって時点で真面じゃないし。あと、正直な所七星剣武祭にはそこまで興味はないんですよ、ぶっちゃけるとあの糞ふざけたでっち上げを完全否定できるのならね。
俺は偶々風変わりな霊装をもった小市民ですからね、だから―――――目の前の餌に耐えられる『気高さ』なんぞ持ち合わせちゃいねえんだよ」
―――――『カランッ』
「(……うっそだろ、おい)」
―――下がらされた。あの《夜叉姫》が、獲物すら抜いていない子供相手に。彼が素直に言うことを聞くなどとは初めから思っていない。まだ学生に過ぎない彼が、憎き怨敵が手の届く場所に居て自制など出来るはずがない。だからこそ自分たち教師が、道を踏み外さない様大人の甲斐性をみせようと思っていたのだ、この瞬間までは。
それ以前にそもそも、彼女と春雪には隔絶した力の差がある。試合の様に面と向かって準備を整えた上でなら彼もやりようがあるだろう。しかしこの間合いで人形も用意できていない彼なら、驕りでも誇張でもなく1秒で鎮圧できる。
彼女が気圧されたのは春雪に、ではないのだ。彼の背後で見え隠れしていた『ナニカ』、姿こそ晒さなかったがあの圧力・存在感はまるで――――。
「(ありえねえだろ、まだ元服してそこそこの餓鬼だぞあいつはッ!!そもそもあのモヤシボディのどこが『限界』だよ!?)」
もう既に春雪の姿はない。隠したのかそれとも高速移動したのか、少なくとも西京の間合いからは居なくなってしまった。しかし追いかけようとする気にもならない、いや追いかけても無駄だというのが正しいか。
「(――PiPiPiッ!)ごめんくーちゃん、しくじった。何処に行ったか見当は付くけど、多分被害がヤバくなるだけだよ」
『――――――――はっ?』
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