「―――――はあ、やれやれ。苦労したけどやっと手に入った」
合宿終了が明日に迫った日の夜、破軍学園新聞部の日下部はとあるデータを開いていた。きっかけは彼女が特に贔屓して注目している騎士からのタレこみだった。
東堂との決闘から一段落したある日、日下部は一輝から『彼岸 待雪』に関する情報はないかと尋ねられた。情報通である彼女であったがその人物についての情報はほとんど持っていない。新入生ということもあるが、通り名が『
しかし一輝が並々ならない空気で尋ねてきたこと、そして苗字は違うがあの春雪の実の弟だということで食指が動き調査を開始した。この重要な時に本当に優先する価値があったのかと一抹の不安を感じてはいたが、開いたデータを見た瞬間そんな考えは吹き飛んで行った。
「――――なによ、これ。『七星剣武祭出場権の永久剥奪』?それも連盟傘下の学園での連盟措置って何考えてるのよ!?」
そこに書かれていたのは目を疑うような内容であった。七星剣武祭は国内どころか世界中で注目される祭典であり、日本の学生騎士全ての憧れといって良い。成績不振が原因で出場できないのならともかく、こんな特例措置聞いたこともない。
「しかもこの人の実技成績、ある日を境に全部相手の不戦敗になってる。しかも棄権した生徒はその試合を無かった事にまでされてる。こんなんじゃまるで、この人に剣を取らせないようにしてるとしか……」
さらにこの人物は丁度一輝が綾辻とやり合った後くらいの時期に学園を退学し行方をくらませている。こんな理不尽な扱いでは当然だとも思うが、気になるのはその後の足跡だ。
連盟支部の人間が家庭訪問を行ったが両親は行方不明届を出しておらず、かといって目撃情報は犯罪歴も含めて存在しない。バイトも就職もしておらず家にも帰っていない学生がどうやって食べているのか、何とも引っかかる内容だった。
それからの行動は本当に興味本位だった。こんなとんでもない情報が、よりにもよって自分の様な人種の耳に入らなかったという事実。口の堅さで信頼できる同業にも確認したが、彼らにとっても寝耳に水だったという。まるで強力な力でフィルターを掛けられているような不信感に駆られた彼女は、まさかと思い代表選手全ての資料をひっくり返し精査を始めた。
その二つの事柄はほぼ無関係であるといって良い。しかし繋がりが無くとも何が呼び水となるか分からないのが世の不思議。言い知れない悪寒と好奇心、それから報道に携わる人間としての矜持は彼女を突き動かし、とうとうある事実へと辿り着かせてしまう。
「……この七校の中に………もう一校、いる…!」
――――――しかしその瞬間、焼けるような痛みが後ろから彼女を貫いた。
―――――合宿最終日、もうすぐ夕方になろうかという時間。生徒会及び代表選手団が居ない所為かいつもより静かになった破軍学園のすぐ近くに、一台の車が停車していた。ただの車であれば特筆することもないが、その中から今年度の七星剣武祭出場者が何人も出てきて、しかも全員が降りた途端くしゃりと紙屑の様に消えたのなら話は別だ。
「さて、そろそろ僕は別行動に移るよ。まあ間違いなくしくじるだろうけど、何とか
降り立った人物たちの中で唯一
「分かりました、期待していますよ?それにしても本当に貴方のお兄さんは
「ああ、残念なことにね。多分
「……ほう?」
「『破軍代表の手の内を探るため合宿の参加を強制した』、なるほど
もっと言えば騎士にとって狡猾さは称賛されてしかるべきものだ。巨門の代表にして昨年のベスト8である《氷の冷笑》鶴屋美琴などは、小細工だけでは勝てないと嫌みを入れるかもしれないがその徹底ぶりは評価するだろう。
「……なるほど。不自然な参集という予備知識があれば、今回の合宿の目的が『山形に誘き出すこと』かもしくは『破軍から引き離すこと』であると予想できる、と」
「ついでに言えば、何時ぞやの『奥多摩巨人騒動』も引っかかるだろうね。手伝いとして生徒会が抜け《世界時計》と《夜叉姫》まで出張でいない中、下手人が見つかっていないというリスクを抱える学園からさらに戦力を放出させるのは流石に分かりやす過ぎるんじゃないかな?」
実際に春雪は理事長への辞退申請時に同じことを建前として述べている。目的、人数ともに不明で、かつ生徒への殺人未遂を行ったという危険人物が野に下ったままなのに一人も鎮護の留守居を置かないのかと。新宮寺もこれは一理ありと巨門へ伝えたが、平賀の裏工作でごり押しされてしまった。恐らくここで確信を持たれたに違いないと彼岸は言う。
「フフフ、新しいハブの試運転がこんな所で裏目に出ちゃいましたか。でもそれならお兄さんは破軍にいらっしゃるのでは?」
「だから僕が離れるんだよ。別にあの人は学園に愛着があるわけでも、『暁』に感づいたわけでもない。ヴァレンシュタイン卿の言伝で、僕が危ないことに首突っ込んでることを知ったから動いただけだ。それに、多分もう捕捉されてるはずだよ?」
「なら可及的速やかに離れてください。情報通りなら危険すぎます」
「あ、はい」
突然嘲り口調から大真面目なそれに代わったことに驚きながらも彼岸は移動を始める。それから約10分後、少し離れた山道で爆発音が響き渡ったのを合図に、彼らは行動を開始する。――――ところが、突然紫乃宮が残った面々に待ったをかけた
「あ、ちょっとごめん。急に言って悪いんだけど、あそこに居る
「アァ!?ここまで来させておいていきなり何言って―――「『大掃除』の続きがしたいんだ♡」―――ッ!!?」
朗らかな笑みを浮かべておいて
「新理事長さんに追い出された馬鹿な大人には
「好きにしろ。雑魚に興味はない」
「ククク、我が僕たる魔獣も今は興が乗らぬようだ。貴様のカルマに刻まれし宿業、疾く果たすが良い」
「……チッ」
和服姿に身を包んだ長髪の男と裸エプロンの女性は無関心に、黒い獅子に跨る少女と多々良は虚勢を張りながら、それぞれ了承の意を伝える。それを受けた紫乃宮は、右手に十字架の様な銀剣を顕現させると思い切り空へと放り投げた。
所属も思想も何もかもが異なる集団であったが、この瞬間だけは『さわらぬ神に祟りなし』という考えで一致していた。
「――――そうですね、僕はアリスを信じてみようと思います」
さて、少し時間が飛び舞台は破軍代表生たちを乗せたバスへと移る。遠目からでも見える黒い煙、そして
曰く、アレは『暁学園』なる狼藉者の仕業だと。
曰く、自分は《解放軍》のスパイであり、連中も闇に生きる精鋭集団だと。
曰く、しかし珠雫との出会いと暮らしが自分に彼らとの決別を選ばせたのだと。
曰く、この事態を描いた『スポンサー』については話せない、知らない方が良いとのこと。
曰く、彼らは強すぎる、だから自分という後背の刃で奇襲を仕掛けるしかない。自分達は此処から逃走することすら悪手であると。
アリスが信じられない者、信じたい者、冷静に事態を分析する者、それぞれが其々の意見を抱くものの議論を躱している猶予は存在しない。そこで生徒会長である東堂がイニシアチブをとり、選手団団長である一輝に全てを一任した。そしてその答えが上記の一言である。
その後、到着した彼らを待ち伏せる暁学園に対し理想的な奇襲を仕掛けることに成功する。連中の中には見知った人間も見受けられたが思案する暇など無く、言葉を交わすこともなく切り伏せた。
しかしそれらは、全てを読み通していた敵の罠だった。一瞬の隙を突かれたアリスは無数に飛来した銀剣によって貫かれ、幻想形態特有の意識のブラックアウトに陥った。
「――――うん、惜しかったね。後少し早ければギリギリ間に合ったかも」
「アリスッ!!…ッ!?珠雫、迂闊に前に出るなッ!」
姉と慕った人物の窮地に飛び出した珠雫だったが、突如横から透明な『何か』に殴り飛ばされる様に吹き飛んでいく。その射線上に居たのは、今しがた切り伏せた筈の人物――――一輝と珠雫の実の兄、『黒鉄 王馬』だった。
先程奇襲に成功し地に這いつくばらせたのは自分が生み出した芸術だと呟くのは暁学園の一人、《血塗れのダ・ヴィンチ》『サラ・ブラッドリリー』。彼ら破軍はまんまと引きずり出されたのだ。
「イッキ、ここは任せて。アリスの助けが無くてもアタシ達が叩き潰してやるわ!さあ、お望み通り相手してあげるわ。私と闘いたかったんでしょう、《風の剣帝》!!」
平賀に連れ去られたアリスを救うべく、珠雫は単身追いかけている。一刻も早く一輝に追わせるため、声高に挑発するステラ。一度たりとも視線をステラから逸らさなかった王馬は、挑発に応じる様に一瞬で一輝とステラの視線を振り切り―――――――――――二人ではなく
「―――ッ!?駄目、ハルユキッ!!」
「なッ!?しまった…ッ!!」
しかしこの場に居た全員の思考は根本からズレていると言えよう。暁はともかく、破軍の面々は十分にヒントを与えられているのに気付けなかった。すれ違いによる距離か、何時も違う彼の反応に対する疑念か、それとも無知がそうさせたのか。そもそも彼が戦場で生身を晒しているということ自体がおかしいのだ。
春雪とて自身の脆弱さを良く知っている。試合ならともかくここで『ルーク』に引き籠らない理由など存在しない。此処に居る全員が本気を出してようやくという防御を放棄する意味など、『出来ない』という選択肢が存在しない以上『
―――――少なくとも、嵐を刀身に纏う王馬の一撃を指二本で止める存在が人間である筈がない。
「「……はあッ!?」」
「―――――ッッ!!」
「………きれい」
荒れ狂う風の刃に払われるように、窮屈な着ぐるみが剥されていく。その『業』は本来
―――純白の衣を身に纏い、八本の腕全てに主の騎士の
王馬が衣の下の肉体にどれだけの修練を費やしたかなど知るかとばかりに容易く切り刻んでいく『
だが、今の戯れで肉塊にならなかったことで今度こそ攻撃として剣を持ち上げるが、直後木々やコンクリートを薙ぎ倒しながら砲弾の様に飛んできた『何か』に王馬が巻き込まれたことで取りやめ、ついで姿を現した男へ臣下の礼を取る。
「「………えーと。何だこの状況?」」
根が似た者同士なのか、はたまた血の成せる業か。13騎全ての『ラウンズ』を引き連れて姿を現した『本物の』春雪と、彼らと今まで激突し、且つここまで吹き飛ばされたにもかかわらず
ガチファイトまで行けなかったorz 最近文字数ばかり増えて進行が遅くなった気が……。
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