豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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第一話

 

 

 

 

 

 

「――――まったく、初日からとんだ不祥事を起こしてくれるとはなあ黒鉄。しかも再三の召喚要求を無視してきた問題児がその片割れとは」

 

 

「ならせめて名刺くらいよこせ。あれだけのことをしてくださった御方々のために動く訳無いだろが」

 

 

「…?ああ、そうかそうだったな。すまない、私の前任が随分身辺整理の上手い男でな。君に関してはニュースでやっていた以上の事は知らなくてつい失念していた」

 

 

「知る気もなかった、というべきでは?自分が赴任する学校で起きた、それも新聞の一面に載るような案件を知らないとは随分不勉強なことだな」

 

 

「そう苛めてくれるな。私は醜聞屋がどうにも好きになれなくてな、変に先入観を植え付けられるよりこの目で見て判断したかった。不勉強のツケは改革で返そう、少なくとも私が居る限りは部外者に土足で踏み入られるなんて醜態は晒さんよ」

 

 

「是非そうあってほしいものだ、大切な生徒を拉致されても『国家権力には勝てませんでした』などとほざかれては適わん」

 

 

「ああ、期待してみていてくれ」

 

 

「(か、帰りたい……)」

 

 

 ふん、この女性が新しい理事長か。…ダメだな、連中とは無関係と知ってても条件反射で敵意が湧く。この人が常識的な大人で助かった。隣の奴が居た堪れなさそうにしてるがお前が離席できないのはほぼほぼ自業自得だぞ?

 

 

「さて、話が逸れたな。といってもどうしたものかな?貴賤に関係なく乙女の柔肌を許可なく穢した挙句少女の目まで汚そうとしたんだからな」

 

 

「フィフティーフィフティーで紳士的だと思ったんですよ、あの時は」

 

 

「確かに紳士的…と言えるかもしれんが」

 

 

「いや…変態紳士って意味じゃなくて」

 

 

「おい一輝このヒト何も言ってない、それじゃ変態的行動だったと自白してるようなもんだぞ?しかし脱いだのが上半身で良かったな、もし半裸じゃ釣り合わないとか考えて下から脱いでたら――――」

 

 

「その時は弁解の余地なくヴァーミリオン公国に突き出してたな」

 

 

「ふ、二人とも初対面とは思えないほど息ぴったりですね。…さっきの空気がウソみたいに(ボソッ)」

 

 

 すまんな、お前弄るのが楽しくてつい。

 

 

「…そろそろ、か。じゃれ合いはこの辺にしておこう。例え悪気が無くとも、乙女の純情に傷をつけたのは事実だ。それ相応の責任は取って貰おうか?―――入ってくれ」

 

 

 …いつから待ってたかは知らんが、怒気に溢れてないあたり外に声はもれてないらしい。叱られてると思いきや漫才みたいな事してたらふつうはキレるからな。なんて考えてたら一輝が頭下げて何か言っていた。誠意に満ちた見事な45度だが、安易に何でもするとか言うもんじゃないぞ?そんなこと言ったら……。

 

 

「―――じゃあ、特別に……『ハラキリ』で許してあげる♪」

 

 

 ほら、調子に乗って足元見て……what?なんて言ったこの子?

 

 

「え、ええっと、冗談…だよね?」

 

 

「冗談でここまで譲歩なんてしないわよ!」

 

 

「譲歩して切腹なの!?」

 

 

「(セップク…?)なによ、ハラキリは侍には名誉なことなんでしょ!?」

 

 

 ―――――あ、大体察した。こいつ多分言葉の意味わかってないな。外国人あるあるの間違って覚えちゃったパターンだ。流暢な日本語だから忘れてたがそう言えば外国の留学生だったな。………あ、良いこと思いついた。

 

 

「大体事故だし、そんなことで命なん―――『はーいストップ』―――え?春雪(ハルユキ)?」

 

 

 そうそう、俺の名前は今呼ばれた通り『落合 春雪(おちあい はるゆき)』ってんだ。作者も『あれ、そういえばプロローグで名乗ってなくね?』ってなってたから唐突に入れたぞ。ここテストに出るからなー?

 

 

「あら、そういえば貴方も居たわね覗き2号。まさか貴方まで不服なの?」

 

 

 俺が前に出ると、むっとした表情で睨みつけてくる他称『乙女』。いや、巻き込み事故の被害者とはいえ、覗きが近づいてきたら普通もっと警戒するだろうに。実力に自信があるのか、それとも世間知らずなのか。…多分両方っぽいな。

 

 

「いや…、そちらの憤りは至極真っ当。故に、そこのヘタレに代わり我が割腹しかと御照覧あれ」

 

 

 

 時代劇にかぶれた物言いに合わせて虚空から固有霊装のような(・・・・)懐剣を一振り出してみせる。皇女様はキョトンとした表情で、後ろの二人も先程の台詞もあって本気にはしていないようだ。

 

 

 

 ――――なので、誰からも止められることなく深々と切っ先を自身へ埋めることが出来た。

 

 

 

「「「………は?」」」

 

 

「―――って、何でヴァーミリオンさんまで驚いてるの!?これがやらせたかったんだよね!!?」

 

 

「そ、そんな訳無いでしょ!?は、ハラキリってあれでしょ、日本の伝統的な『ど根性試し』のことじゃなかったの!!?」

 

 

「言ってる場合かッ!!黒鉄、直ぐに担架を!その間の時間は私が――――」

 

 

 ―――なんとかする。そう言おうとした理事長殿を手と視線で制し、さも死に掛けですと言った風情で皇女殿へと訴えかける。

 

 

「お…俺や一輝は、み、身一つで…ここまで、だから―――」

 

 

「ちょっと!?しゃべったら駄目!何考えてるのよアンタは!!?」

 

 

「だから、これで…どうか、収めて…くだ……」

 

 

「わ、分かったから!ヴァーミリオンの名に懸けて不問にする!だから早く――――ッ!!」

 

 

 その言葉を聞いた俺は安心したように息を吐くと、そのまま全身から力が失われていき、眠る様に瞼を閉じると……。

 

 

 

 

 

 ―――――ポンッ。

 

 

「いや~そう言って貰えると助かるよ。何せ天涯孤独の身でね、どう頭をひねっても対価を払えそうになかったから一安心だ」

 

 

 

「―――え?いや、だっていま……ゑ?」

 

 

「じゃ、後は一輝と二人で仲良く話し合ってくれ。まさかとは思うが皇女様ともあろう御方が一度交わした約束を反故にするなんてありえませんよね?いや、良かった良かった」

 

 

 突然背後から肩を叩かれた皇女殿は幽霊でも見たかのように目を見開いたまま視線を前方と俺を何度も往復させる。さっきまで真摯に声を掛けていた方はもぬけの殻で、俺の方はというと当たり前だが傷一つない(・・・・・)

 

 

 やがて自身が化かされたと知った彼女は、しかし育ちの良さとプライドが邪魔をして前言を撤回できないようで全身を震わせていた。しかしやがて首を錆びついた歯車みたいにギギギ…と軋ませながら、憤懣遣る方ないといった表情で事態についていけてない一輝の方に向き直る。

 

 

 

「……えっと、どうしたのかなヴァーミリオンさん?」

 

 

「―――――――――――――やって…」

 

 

「へ?」

 

 

「―――だから、今度はアンタがやりなさい!!今度は血反吐はこうが泣いて謝ろうが赦してあげないんだからッ!!」

 

 

「ええッ!?さっき赦すって言ってたよね!」

 

 

「ええ言ったわ、()()2()()()()()()()。私二人とも許してあげるなんて一言も言ってないわよね?」

 

 

「あ、いやそれは……」

 

 

「乙女の良心を弄ばれたこの気持ち、まとめてアンタで晴らさないと私の気が済まないのよ!!」

 

 

「それに関しては僕何もしてないよねッ!!?」

 

 

 悪いな一輝、今度は過失0%だろうが俺の分もまとめて清算しといてくれ。

 

 

「…楽しそうだな、落合?こちらは覗きなど比べ物にならんトラブルに肝を冷やしたんだがなあ」

 

 

 いつの間にか理事長席に座り直していた人がジト目でこちらを睨んでくるがスルーしておこう。生憎一輝の様に甘いマスクにジゴロスキルも持たない俺はああいう責任云々はさっさと潰しておかないとオチオチ眠れもしないんでな。とはいえ――――。

 

 

「楽しいですね。ああして飾らず言葉をぶつけてる一輝を見るのは久しぶりだからな。俺にしてもふざけたのなんてあの一件以来だからテンションがおかしくなってるのかねえ」

 

 

 あの一件で犯罪者扱いされた俺は言うに及ばず、一輝も周囲は馬鹿に便乗する阿呆か、俺の二の舞になりたくなくて踵を返す奴ばかりだったからな。負け犬二人じゃ盛り上がるのも一苦労だ。

 

 

「…巻き込まれる方は堪ったものではないがな。まあ良い、そっちの二人もじゃれ合ってるところ悪いが、いい加減時間が圧している。お前達も騎士の卵なんだ、言葉で決まらないというなら剣で決着を付けたらどうだ?」

 

 

 ほほう?面白い流れになったな、あいつにとってはあの一件以来の公式戦か。皇女殿はたしか伐刀者としての腕を買われて日本まで来たんだったか。詳しい話は知らんが新しい門出を飾るのに相応しい手合いって訳だ。

 

 

「―――何他人事みたいな顔をしているんだ、今日戦うのはお前もだぞ?」

 

 

 ……なんですと?

 

 

「今回のトーナメント制は何分初の試みだからな、決闘(意地の張り合い)がどういうものか理解していない人間も少なくない。そういった連中に分かりやすく教えてやるために記念すべき第一戦の対戦カードがお前だ。光栄に思えよ?」

 

 

 何処が光栄なんだか。七星剣祭に出たいなら遅いか早いかの違いかもしれんが、態々見世物になってまで受けるメリットが無いな。一輝と違って今更実力を示す必要もないしな。

 

 

「まあそう言ってくれるな。ちなみに対戦相手は生徒会―――つまりはこの学園の序列最上位の一人だ。君が本気で七星剣舞祭を狙っているなら、良い試金石になるんじゃないか?それに私の勘だが…黒鉄とヴァーミリオンの決闘は恐らく見届ける人間は少数になるだろう」

 

 

 …?一輝はともかく皇女殿は注目の的だと思うんだが。まあ良いか、出来れば馬鹿共の一人の方がヤル気が出たんだが好都合だ。せっかく見物人が多いんだ、精々楽が出来る試合運びを練るとするか。

 

 

 

 

 




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