豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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 *9/23 加筆修正を行いました


第十九話

 

 

 

 

 ―――――――パチンッ。

 

 

 

 

 指を鳴らす音で意識が覚醒する。周囲は木々に囲まれており、その場に居るのは破軍生徒会と葉暮姉妹とステラのみ。

 

 

 では先程までの光景は全て夢か幻なのか……と一抹の期待を抱くが、遠くから見える黒煙と消失した校舎、そして同じ方向から響く爆音がそれを否定する。なにより、眼前にいる青年――――彼岸待雪の存在が彼らの意識を叩き起こす。

 

 

 

「ここは、いったい……?」

 

 

「ああ、やっと気づいてくれたか。ここは校舎から2、3キロ離れた林道の外れだよ」

 

 

「――――ッ!イッキがいない!?貴方、彼をどうしたの!!」

 

 

「状況把握より優先とは、噂に違わぬ骨抜き具合ですねヴァ―ミリオン皇女殿下。心配しなくとも、彼なら先に起こして妹さんの後を追わせてるよ。その方が面白くなりそうだからね。それより、思ったより記憶の混濁が激しいね?確かにとんでもない事になったけど」

 

 

 待雪の言葉で全員がようやく気付いた。何故こんな所に居るかもそうだが、それ以前の記憶が酷く曖昧になっていることに。眼前の青年が全く殺気を放たず霊装すら顕現していないことに()()()()彼らは記憶の掘り返しを行った、いや()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~回想中~~~~~

 

 

 

「――――あたたたッ。やっぱり兄さんは怒らせるものじゃないね、肉親に殺意を持つような人じゃないけど、昔から慣れてる分死なない程度に容赦ないし」

 

 

「……いいから早くどけ」

 

 

 巻き添えを喰らって一緒に吹き飛んだ王馬が青筋を立てて抗議する。突然の事態に思考が停止していた面々だったが、いち早く正気を取り戻した東堂が春雪へと声を掛ける。

 

 

「落合君、これは一体…?合宿に参加していた貴方は替え玉だったんですか!?」

 

 

「ああ、『まるで破軍から戦力を根こそぎ吐き出させる』ように見えたのが気になってな。理事長公認でこっちに残ったんだよ。ただそっちに『本命』が出る可能性もなくはなかったからな、どこかの馬鹿を踏ん縛れる戦力を割いておいた。それに『クィーン』なら下手に接触させなければ欺ける」

 

 

 現に、お前ら全員気付かなかったろ?と宣う春雪に、葉暮姉妹の片割れが声を荒げる。

 

 

「じゃあこの有様は何なのさッ!理事長先生に許可まで取ったのに学園がボロボロじゃない!!」

 

 

「……論点が致命的にズレてるぞ。まさかつい最近までゴミの吹き溜まりだったこの場所に、態々守るだけの入れ込みがあるとでも?」

 

 

「――――は?」

 

 

「理事長に話したことなんて100%建前さ、非行に走った愚弟に網を張る為のな。学園の連中が仮に死んでたとしても欠片も興味が湧かんな」

 

 

 絶句する彼女に生徒会の面々が宥めに入る。運営サイドに立ち入ったことのない生徒は彼と学園(というより後ろで糸を引いていた黒鉄家)の確執を知らない、むしろランク虚偽を行っておきながらお情けで学園に席を置かせてもらっているくせに、という意見の方が多い。

 

 

 だから生徒会としてはこれ以上口を開いてもらっては困るのだ。特に葉暮姉妹は直情的で言葉を選ばない節がある。もし彼女らが『あの名前』を口に出そうものなら、破軍はせっかく決まった代表を二人決め直す必要が出てくるのだ。勿論彼女達が何故出場できなくなるのかは語るまでも無い。

 

 

「―――ぬうう、あれが先生や人形師の言っていた男か。貴様が下手を打つとは珍しいではないか『ヘーミテオス』よ。あやつは『戦乙女(ブリュンヒルデ)』と死合わせるのではなかったのか?」

 

 

「…あ、それ僕の新しい渾名かい風祭さん?また派手なチョイスだね。それは置いてといて、途中までは何とか誘導できていたんだけど、突然矛先をこっちに変えてきてね。多分『クィーン』に何か細工でもしてたんだろうけど、そうなると僕としても追わざるを得ないし攻め気を出した途端強烈なカウンターを貰うしで大変だったよ。

 ……それにしても、何で学園に残ったのか分からなかったけど僕と接触するためだったのか。本当に僕は兄弟に恵まれてるね天音ちゃん(チラっ)」

 

 

「そうだよねー。いきなり殴り愛から始まるところは同じでも、どこかのお兄さんとは違ってアガペーに溢れてるよねー(チラっ)」

 

 

「………何故俺に視線を向ける」

 

 

「「別になんでもないよ」」

 

 

 さて、破軍の生徒たちが話し合っている頃、暁学園サイドもまた話し込んでいた。……暢気すぎるメンバーに多々良の忍耐が急速に摩耗してしまっているが。しかし彼女が怒鳴り散らさないのにも理由は有る。この状況は彼らにとっても想定外であり、具体的な方針が決まる前に春雪の注意が向くことを避けたかったからだ。

 

 

 意外かもしれないが、テロリスト集団と思われている暁学園の中で生粋の殺し屋は多々良一人だ。そしてこの中で最もプロ意識の高い彼女にとってクライアントのオーダーを破るのは最大級の禁忌である。

 

 

 『可能な限り圧倒的な、議論の余地がないほどの壊滅』、このミッションを満たすうえで落合 春雪という存在は無視できない。況してやこの男の実力が《解放軍》最高幹部をして『勝てない』と言わしめる以上直接の激突は絶対に避けるべきだ。

 

 

 だからこそ、この中で『殺すことが出来ない人物』でかつそんなバケモノとやり合える待雪に任せたというのにこの様だ。何とか軌道修正を図りたいところだが―――――。

 

 

「……ところで、良く見れば懐かしい顔も居るな。確か『初めて見た時気合の入ったコスプレイヤーにしか見えなかった女』にお前が着いて行った以来か。久しぶりだな、紫音」

 

 

「うん、それ絶対本人には言わないであげてね!?…まあ確かにあの初対面は強烈だったけどね。それよりも久しぶりだねハルく―――――」

 

 

「――――ところで、この訳分からん騒ぎに居るってことはお前も一枚噛んでるってことだよな?なら好都合だ、お前ならどこまでやっても良いか加減は良く知ってる。他のはあんまり頑丈そうじゃないしな」

 

 

「ひえ、この人他人に出来ない様なこと僕にしようとしてるッ!!?」

 

 

 元々破軍側への興味が薄かった春雪は、居るとは思わなかった旧友に声を掛ける。しかし彼らにとっては何でもない会話でもタイミングが悪過ぎた。彼らを見ていた破軍に対して波紋を広げるには十分だった。

 

 

「ちょっと待ってッ!落合あんたテロリストと知り合いな訳!?学園が無茶苦茶になった時に居なかったことといい、有栖院だけでなくあんたまでスパイなんじゃ――――」

 

 

「いい加減なこと言わないでハグレ先輩ッ!!ハルユキとアマネは幼馴染ってだけで……」

 

 

 学園を無茶苦茶にした連中と親しげに話していれば当然疑いも出る。それは当たり前のことであり、()()()()春雪なら耳障り程度にしか考えなかっただろう。しかし今この瞬間では悪手でしかない。何故なら彼は今()()()()()()()()()だからだ。

 

 

「………いちいちうるさい奴等だな、こっちは聞きたいことが山ほどあるってのに。さっさと吐かせて親友や弟と旧交を温めたいところだが、そっちにもこっちにも不愉快の種が多すぎるな。だから――――――少し()()()か、モルドレット」

 

 

 他の騎士と違い瀟洒な意匠を一切廃した血塗れの騎士が主の横に立った瞬間、暁だけでなく破軍にも悪寒が伝わった。目を見ればわかる、見なくても声音で分かる、聞き逃しても殺気で分かる。今この男は敵味方の選別など一切していないと。

 

 

 何をしようとしてるか知っている一輝と、百戦錬磨の王馬だけがその場から動けたが間に合わない。騎士がその名の由来に相応しく、主の体に懐剣を突き立てた瞬間――――饒舌にし難い激痛に、認識することを拒絶した脳が意識を強制的に断ち切った。

 

 

 

 

~~~~~回想終了~~~~~

 

 

 

 

 

 

「――――――思い出してくれたかな?君達は一人残らず気絶して、向こうは気合と根性で耐えた変態と幸運な少年、それからプロの殺し屋さんが請け負ったってところだね」

 

 

 敵の目の前にも拘らず思考に耽っていた生徒会+αは、聞こえてきた声音で現実に帰って来る。今自分がしていた愚行に総毛だった東堂は、改めて気を引き締め直し待雪と相対する。

 

 

 

「……ええ、ちゃんと思い出せましたとも。質問ばかりで申し訳ないですが、どうして私達はこんな所に居るのですか?貴方が運んだとも思えませんが」

 

 

「まさか、これから蹴散らす相手にそんな労力を割くほど酔狂じゃないよ。ここに来てもらった理由は単に引き離す為さ、僕達が事実として残したいのは『圧倒的に殲滅された君達』だけだからね。観測者が居なければ現実は事実にはなりえない。……さて、疑問が解消されたことだし―――――――じゃあ、やろうか。『征こう、《偽・創世神器(ホツマツタヱ)》』」

 

 

 開号と共に吹き出す銀の煙、それが待雪の手に凝縮すると一振りのソードレイピアへと姿を変える。その変化にこの場に居る全員が一瞬で意識を切り替える。

 

 

「(銀の煙……?霊装の展開にそんなものは出ない。武器の変性、それとも貴徳原先輩のような絡め手が本命?)」

 

 

「……葉暮さん、お二人は此処から今すぐ撤退してください。彼は我々生徒会が相手します。ここで代表選手である貴方達が敗れてはいけない、本当ならステラさんも離れてほしいのですが言っても聞かないでしょう?――――もしもの時は『私達には構わないで』(ボソッ)」

 

 

 最後の一言は至近距離に居るステラにしか聞こえないほど小さな声で伝える。その一言に含まれる覚悟を汲み取ったステラは、一切反論することなく霊装を構えて佇んでいる。葉暮姉妹は自分達も残ると言いかけたが、眼前からの視界が歪むほどのプレッシャーに折れて走り出していった。

 

 

「―――さて、態々待っていてもらって感謝します」

 

 

「別に、必要の無いことはしない主義なんだ。ここで意志を貫けないような小物を追い立てる労力は割くだけ無駄だ」

 

 

「聞き捨てならない言葉ですね。彼らは破軍を代表する騎士、ここから離れたのは我々だけで十分だったからだと証明してみせます。行きますよッ!!」

 

 

「「「「――――応ッッ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:山奥の林道

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――お兄様、そこを脇道に下ってください。魔力の間隔からみるに、もう到着まで5分とかかりません」

 

 

「了解。……珠雫、ここまできて言うことではないけど覚悟は出来てるね?」

 

 

「……?例えどんな罠が待ち受けていようとアリスを取り戻す覚悟、ではありませんね」

 

 

「うん、()()()()()()()()()()。取り戻した後どうやって奪われないようにするかまで考えておいた方が良い」

 

 

 一輝と珠雫は、道中『快く』貸して貰ったバイクを使ってアリスを追跡していた。珠雫が咄嗟にアリスへ仕掛けた魔力の糸のお陰で迷うことなくその背を追えている。もうじき目的地に到着するだろう。

 

 

 だが問題は取り戻すことではない。そもそもそれは大前提であり、出来ない時は二人が死ぬ時だ。死ぬ時のことなど死んだ後にでも考えれば良いのだ、しかし罠を打倒した後の帰り道が無事だという保証はどこにもない。

 

 

 彼らの兄である『黒鉄 王馬』、彼も確かに大いなる脅威だろう。遥か昔のリトルリーグですら『最強』の2文字を戴いていた男が、当時とは比べ物にならない修羅道を潜った以上安全圏に住んでいた騎士達が勝てる見込みは薄い。とはいえ、正真正銘の規格外である春雪に勝てるかといえば『実際にやってみないと分からない』としか言えない。脅威ではあれど絶望には程遠い。

 

 

 問題はもう一人の男、今や春雪にとっては唯一の家族と言える『彼岸 待雪』だ。彼は此方に吹き飛ばされるまでの間、春雪と闘っていたにも拘らず無傷だったのだ。

 

 

春雪が家族に本気で殺意を向けるとは思えないからどの程度手心を加えていたかにもよるが、それでも彼は13騎全ての『ラウンズ』と闘りあえているのだ。この国の対伐刀者防衛機構である連盟支部を陥落させた時ですらその半数だったことから、この事実がどれだけ危険なのか理解できるだろう。

 

 

そしてもう一つ、離し方や動作からほぼ確信を得ているがもし彼が『日本支部で会った人物』であるのなら、服にすら汚れ一つ付けていないあの防御力と伐刀絶技の性質に矛盾が出来る。その絡繰りが読めないまま彼と闘うのはあまりに無謀だ。

 

 

最悪の事態を考え、一輝はこの罠を如何に消耗せず突破するかに思考を巡らせていたが―――――到着と同時にその淡い考えは吹き飛ばされた。何故なら彼らを待ち受けていたのは、()()()()()()()()()()()()だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

場所:破軍学園周辺

 

 

 

 

 

 

「―――――《クレッシェンドアックス》ッ!!」

 

「《ブラックバード》ォッ!!」

 

 

 葉暮姉妹を逃がした後、破軍生徒会は4人の騎士を待雪と対峙させていた。会話の合間にチャージを完了させていた砕城、同じくステップで初速を充電していた兎丸と彼女におぶられている禊祓、そして彼らから離れた所で霊装を展開している貴徳原だ。東堂とステラは瞬きする間も惜しいと戦場を凝視していた。

 

 

 貴徳原以外は全員痛感している、自分達はこの男と同じステージには立てていないことを。感じるプレッシャーから実力の差くらいは分かる、だからこそ捨て石になることを選んだのだ。

 

 

 彼らは会長が戦うための『物差し』だ。貴徳原の伐刀絶技で倒せればよし、しかしそうでなくとも彼らの伐刀絶技なら相手の秘密を暴くことに適している。

 

 

砕城は選抜戦と異なり、ひたすら間合いギリギリからの、それも撫でるか突く程度の攻撃に徹している。これが彼の本来の闘い方だ。『累積斬撃重量の加算』を伐刀絶技とする彼は、本来大仰な振りや刺突など必要ない。10トンもの補正があれば触れる程度の接触でも十分寸断できる。この特性とリーチを活かすことで、相手の中距離戦に対する戦術や得手不得手を暴こうとする。

 

 

兎丸と禊祓のタッグは『持久戦による消耗と切札の開示』を担当している。二人はこういった事態の為に徹底して訓練を積んでおり、禊祓からのサインに即応できるように仕上げ伐刀絶技《絶対的不確定(ブラックボックス)》によって『兎丸が回避100%できる状況』へ誘導している。最高加速の《マッハグリード》は瞬間速度では東堂や一輝に劣るが持続速度では圧倒的に勝るため非常に捉え辛い。そして最も危険な攻撃に移る際の接近や偶発的なヒットは禊祓が封殺する。つまり彼らを倒すには『《マッハグリード》をもってしても回避不可能な攻撃』、つまり強力な手札をさらけ出すしかない。

 

 

 3人の『人柱』による包囲網に対し待雪は取った手段は―――――――不動。あろうことか面白そうに見ているだけで何もすることなく佇んでいた。既に闘いの火蓋はとっくに切られており、普通なら既に数十の打突と斬撃を喰らって倒れ伏している頃だろう。

 

 

 しかし、未だに待雪の体には傷どころか服の解れすら生じていない。その理由は唯一つ、傍から見れば遊んでいるのかと勘違いするくらい二人の攻撃が当たっていないのだ。それも、全ての攻撃が()()()()()()()()()()()外してしまっている。

 

 

「(ど、どういうことだ!?偶々目測を誤るなら分かる、プレッシャーに押し負けているのならまだ理解できる、しかし振るたびに調整を加えているはずなのに()()()()()()()()()など有り得ないッ!!?)」

 

 

 混乱する砕城のそばで、さらに有り得ないことが起きる。兎丸が転んだのだ、禊祓が能力を行使しているにも拘らず。それだけでも有り得ないのに、その転び方が異常なのだ。走っている最中に()()()()()()()()()()のだ。転ばない筈がないその動きに、一番動揺していたのは兎丸本人だった。

 

 

「(――――え?どういうこと、アタシはちゃんと体を動かした筈!こんなこと今までなかった、こんな、()()()()()()()()()()()()()()()()())『―――兎丸、前ッッ!!』――――あ…」

 

 

 我に返った時にはもう手遅れだった。横倒れになった所為で身動きが取れなくなっていた禊祓諸共、一閃で首を薙がれ意識がブラックアウトする。激昂した砕城が今度は外さない、と必要以上に踏み込んで霊装を振ってしまい、心技体全てがズレた一撃が通る筈もなくカウンターで胴を切り裂かれる。

 

 

 それでもこのままでは終われないと立ち上がるが、その瞬間足元から生えてきた無数の銀の杭に貫かれ、高々と捧げられてしまう。それは奇しくも、彼の兄がやったのと同じ決着だった。

 

 

「さて、こんな所か。……さっきから妙にムズムズするんだけど、これは君の仕業かな御嬢さん?」

 

 

 息一つ乱していない(動いていないのだから当然だが)待雪の視線の先には、蒼褪めた表情で立ち尽くす貴徳原があった。彼女は今この瞬間も伐刀絶技《星屑の剣(ダイヤモンドダスト)》を使用している。半端な助力では却って足手纏いになる東堂に対し、彼女の能力は乱戦に非常に適している。

 

 

目視できないほど砕かれた刃を使って相手を内側から切り刻む、しかも彼女の卓越した操作能力により敵が吸い込んだ物だけを凶器とする絶技は確かに待雪を捉えていた。なのに彼は血反吐どころか身動ぎすらしない。肺や血管を直接攻撃しているにも関わらず、だ。

 

 

 震える彼女を庇う様に、東堂が二人の間へと割り込む。貴徳原は東堂にステラを連れて逃げるように訴える、自分達が何一つ暴けなかった以上無暗に突撃するのは危険すぎると。しかし――――。

 

 

「カナちゃん、お願いがあるの。―――――()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ただ貴徳原を安心させるように、孤児院で見せていたあの笑顔を向けられ貴徳原は落ち着きを取り戻す。それを見届けた後、今度はステラへ視線を一瞬投げてから彼女は必殺の剣を抜き放つ。

 

 

「―――――《雷切》」

 

 

 一切の力みなく、欠片の怯えもなく抜かれた一閃。一輝との戦いで放ったものと同じ―――いやそれよりもさらに疾く、さらに鋭く、あの程度が全盛な筈がないと野心が籠められた―――――雷切は、しかしあまりにも呆気なく追い抜いてきた斬撃に主共々打ち砕かれてしまう。

 

 

「―――――――えッ!?」

 

 

 東堂以外の全てを意識と視界から取り去っていた貴徳原は、唯一人待雪が持つ能力、その絡繰りの真実に指を掛けていた。しかし彼女がそれを口に出すより早く―――――。

 

 

「(ステラさん、今ですッ!!)」

 

 

天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)!!!」

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 ――――崩れ落ちる寸前、磁界によって地面から自身を突き飛ばした東堂を掠める様に、渾身の爆炎が待雪へと殺到していった。

 

 

 

 




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