豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

22 / 38
第二十一話

 

 

 

 

場所:破軍学園 周辺

 

 

 

 

 

「膨大な魔力による防御…?そんな、嘘よッ!伐刀者が無意識に張れる障壁は防弾チョッキ替わりがせいぜい、例え全力で障壁を展開したとしてもあれほどの攻撃を無傷でやり過ごすなんて――――」

 

 

「葉暮さん、思考を停止してはいけません!そもそも魔力とは世界を改編する力、不可能を可能にするなど伐刀者にはありふれた話です。この方はただの自然体で、普通の伐刀者が全力で障壁展開しているのと同じ魔力を放出している。私達が認識できない理由は、魔力感知は全て()()()()()()()()()()()()、違いますか?」

 

 

「貴徳原さん……」

 

 

 努めて冷静な声音で話す貴徳原だが、葉暮姉妹はとても落ち着くことなど出来なかった。待雪が穏やかな表情のまま否定しなかったことから、恐らく貴徳原の考えは間違ってはいない。しかしそれは、彼がステラの『天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)』を全くの無防備で往なしたことに他ならない。

 

 

 それはつまり此処に居る全員、いやそれどころかこの国で彼に傷つけられる人間は限りなく少数であることを意味している。それどころか彼が()()()()()()()()使()()()()、想像も出来ない災厄をもたらす危険性を示唆しているのだ。

 

 

「正直理解の範疇を超えてるわ、イッキといいハルユキといい、この国って本当に規格外の巣窟ね。……だからこそ分からないの、アンタがこんな馬鹿騒ぎに参加した理由が。悪名を轟かせたいのならとっくの昔にリーグとかに出場してるはずだし、力を持て余してるのならオウマみたいに外へ飛び出す方がよっぽど話が早いわ」

 

 

「何故…ときたか。そうだね、一宿一飯の恩、乗りかかった船、同志からの頼み…色々あるけど一番の決め手は『七星剣武祭の出場権を得るため』かな?」

 

 

「「「「………はあッ?」」」」

 

 

 のんびりと、まるで闘いの最中とは思えない―――事実、彼にとっては目の前にいる四人は敵にすらなりえないのだが――――ほど呑気に首をひねりながら返ってきた返事に、一拍程思考停止した後一斉に呆けた声を上げる。

 

 

「ふ、ふざけてるのアンタッ!?学園でピエロみたいな奴が『参加を認めさせる』って言ってたけど、アンタなら自力で簡単に参加できるんじゃ――――」

 

 

「―――皇女様。それが残念なことに、連盟参加の学園全ての合意で永久追放喰らっちゃってね。七星剣武祭には一生出られなくなったんだ」

 

 

 その一言は、今まで散々常識を木端微塵にしてきた情報の中で一番の衝撃を齎した。七星剣武祭は唯の武闘会ではない。学生騎士の頂点という『栄光』、新進気鋭の強者達と切磋琢磨する『好機』、自らの限界への『挑戦』、己の弱みと強みを知り新たな境地を知る『飛躍』、それらが結集した唯一無二の祭典なのだ。

 

 

勝つにしろ負けるにしろ、ここで得た財産が騎士としての人生を左右すると言っても過言ではない。だからこそ日本に生きる騎士全ての憧れなのだ。それを取り上げるなど、況してやこれ程の男から奪うなど一体何を考えているのだ、と考えるのは伐刀者として当たり前の話だ。

 

 

「学生騎士の頂点を決めるのが目的と言えど、七星剣武祭が大人の都合でやっている以上下心というか狙いってものがある。『学生同士をぶつけ合うことで成長させる、向上心を煽る』というね。

だけど先程生徒会がやられた光景を見ただろう?本来なら錯覚は有っても決して裏切る筈のない『自分自身』に足を引っ張られて敗れた訳だ。『考えるより先に体が動く』ってスポーツでも良く聞くけど、その位練り上げた自分の感覚が信じられなくなるなんて騎士としては致命的だよね。

況してや七星剣武祭はこの国で最も優秀な騎士の卵を集めた祭典、言ってみれば将来の国防を担うエリートたちだ。そんな彼らを再起不能にする輩がいては本末転倒、万一彼らの多くが折れてしまったらどう責任を取るんだ―――――て訳さ。国家の面子と一人への理不尽、どっちを優先するかなんて考えるまでも無いってことらしいよ?」

 

 

「そ、それにしても横暴すぎるわよッ!剣武祭の趣旨に合わないっていうのは百歩譲っても、それならそれに見合う対価なり誠意で返すべきでしょう!?貴方の力を知ったならむしろ積極的に懐柔策に出るべきだと思うのだけど……」

 

 

「そこはお国柄ってやつさ皇女様。外国(そと)からやって来た貴女なら鼻についてるんじゃないかな?伐刀者至上主義にはじまる時代錯誤な選民思想や、どこかの御家騒動のような『理不尽が罷り通る』倫理観の低さを。

あまり自国民が言うべきでは無い事だけど、『WWⅡ(第二次世界大戦)』に勝ってしまった弊害だろうね。治安維持法も、大政翼賛会も、特別高等警察の強権も、タコ部屋労働も、軍部大臣現役武官制も、何もかもが『悪しき歴史』ではなく『時代に合わなかった文化』位にしか思われてない。負けてない以上他所にとやかく言われる筋合いはないし、そんな土台が残ってるようじゃ西洋諸国の様な自由民主主義が根付く訳がない。

後は単純に僕の能力がこの国には受けが悪いからかな。『落第騎士』の環境からも分かる通り、この国は上から蔑むのは好んでも下から下剋上されるのは病的に嫌う。僕の伐刀絶技が『自分を強化するのではなく相手を引き摺り下ろす』能力なのも後押ししたんだろうね。

――――ま、今言ったのは()()()()なんだけどね?」

 

 

今の今まで長々と述べていたのは確かに自分を追放しようとした連中の()()である、そこに偽りはない。しかし彼を排除しようとした本当の理由は別にある。様々な思惑の上でのやり取りのようだが、その全てが彼にとってはとてもくだらない理由だ。

 

 

「発端は僕の能力が世間様にばれたあるくだらない事件だけど、それは君たちの親玉に聞くと良い。不愉快過ぎて僕の口からはとても語りたくはないね」

 

 

「……そうさせてもらうわ、けど余計にわからなくなった。今言ったことが真実なら正直同情するわよ、けどそこまで見限ってるならどうして七星剣武祭に固執するのかしら?そこまでされて参加する価値を見いだせないわ」

 

 

 七星剣武祭はどこまでいっても日本という島国でのイベントに過ぎない。注目度こそ世界屈指であっても、彼ほどの実力があれば箔が無くとも少し力を示せば引く手数多だろう。態々テロリストと手を組んでまで何故参加を熱望するのか?それに対して彼の答えは―――。

 

 

「そんなもの語るまでも無い、『本気になった』兄さんが出場してくるからだよ。あの人は人並のプライドは持ってても向上心が欠片もなかったからね。まあ物心ついた時から()()()()()飼ってるんだから仕方ないけど、凄く勿体ないとずっと思ってたんだ。

 ……兄さんに馬鹿なことを仕出かした連中は心底不愉快だったけど、この一点だけは感謝しているよ。特に連盟支部は最高だった!本部が擁する多国籍軍なんて羽虫に見えるほどの軍勢、アレをたった一年で創り上げた不世出の鬼才と一対一(サシ)で闘り合える好機、これを捨てて何処を目指すと言うんだ!!」

 

 

まるで童心に帰った様に高揚する彼に、指向性を得た魔力が唸りを挙げて追随し視界が歪む。いや、これは表現としては適切ではない。視界が歪んで見えるほど()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

勿論待雪は炎熱系の伐刀絶技など持っていない。しかし人知を超えた魔力量が彼の血潮の滾りにつられ、星の因果すら捻じ曲げてしまっているのだ。

 

 

「――――ッ!!本っ当に何でも有りねコイツッッ!!?」

 

 

「……少ししゃべり過ぎたかな。正直これ以上やる必要はなさそうだけど、後でスポンサーにとやかく言われるのもあれだしここは――――――――がぃッ!?は……急になんだ?」

 

 

 こちらに矛先を向けた途端、今までがお遊びだったかのように凄まじい重圧が降り懸かる。辛うじて動けるのはステラのみで、他の面々は縫い止められた様に動けず葉暮姉妹に至っては気絶すらしている。しかしこちらへ一歩踏み込んだ途端、待雪が突然頭痛でも起きたかのように頭を押さえ顔色を悪くする。

 

 

 

「――――まさかあの先生、あれだけ大口叩いておいて負けたのか……?」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 場所:暁学園 地下

 

 

 

 

 

「――――やってみればどうにかなるものね……けど、頭使い過ぎて気持ち悪い」

 

 

 最大の脅威である《比翼》を兄に食い止めてもらっている間、珠雫は連れ去られたアリスと再会することが出来た。しかしその場には《解放軍》最高幹部『十二使徒』の一人、《隻腕の剣聖》ヴァレンシュタインが待ち受けていた。

 

 

 自慢の魔力操作による面攻撃を浴びせかけるが、『摩擦』を支配するヴァレンシュタインには通用せず、油断と分析不足から必殺の斬撃《山斬り(ベルクシュナイデン)》を喰らい右腕を切り落とされてしまう。

 

 

 流石に分が悪いとアリスを連れて撤退に移ろうとしたが、床の摩擦を消されたことで身動きが出来なくなり、珠雫は成す術無く両断されてしまった。ところが、自らを気化することで疑似的な『死』と『不死』を体現する伐刀絶技《青色輪廻》を土壇場で開眼、その超高等技術に冷静さを失ったヴァレンシュタインの隙を突き見事勝利を得たのだった。

 

 

「珠雫…ホントに、生きてるの?本当に、本当に良かったッ!」

 

 

「それはこっちの台詞よ、私だってもう殺されてるかもって…あんまり心配させないでよ、お姉ちゃん」

 

 

 お互いの無事を、声を震わせながらも喜び抱きしめ合う二人。本心から互いに親愛の情を向け合う尊い光景はしかし―――――。

 

 

 

 

 

 ―――――――ザリッ。

 

 

 

「「――――ッ!?」」

 

 

 再び起き上がった大男の足音によって踏みにじられた。

 

 

 

「そんな、あれだけの傷を負ってまだ――――ッ!!」

 

 

「…いいえ。表情筋は弛緩したままだし、目は白目を向いたまま。ヴァレンシュタインは間違いなく気絶したままよ。この特徴は別の人間による肉体操作、まさか《道化師》が戻って―――ッ!?」

 

 

『……いや、その心配は杞憂だよ。気絶や睡眠は無意識の典型、なら操れるのは当然だ。……本体に死ぬほど負担が掛るけどね』

 

 

 先程までの尊大な物言いとは似ても似つかない喋り方、しかし待雪と一度も会ったことのない二人は何がどうなっているか分からず、ひたすら注意を研ぎ澄ませていた。

 

 

『まったく、僕や兄さんという実例を見ておきながら相手に考える余裕を与えるなんて、長い均衡状態で魂に脂肪が付いたのかな?「同志」の頼みじゃなければ捨て置いたところだ。それはさておき、地上に厄介な援軍も来てることだしさっさと引き上げさせるか』

 

 

 どうやら相当に焦っているらしく、珠雫達には目も呉れずに奥へと消えていくヴァレンシュタイン(?)。状況は分からないが、とにかく脅威が去ったと今度こそ肩の力を抜く二人。ところがそんな油断を咎めるように、突然建物が軋みを挙げて崩れ始めた。

 

 

 原因は侵入当初に派手に床を破壊したこと、そして二度目の《山斬り》によって地下の主柱が両断されてしまっていたことだ。恐らくヴァレンシュタインは元々証拠隠滅のためにここを破壊するつもりだったのだろう、明らかに重要な柱が全て切り刻まれていたのだ。

 

 

「……ッ!珠雫、早く逃げて!!私は《日陰道(シャドウウォーク)》で―――痛ッ!」

 

 

 咄嗟に目の前に転がる自身の霊装に手を伸ばすが、身動ぎした瞬間ヴァレンシュタインに強かに打ちのめされた傷が邪魔をする。そして珠雫も、初めて使用した《青色輪廻》の反動で上手く氷を形成することが出来ず、完全に絶体絶命となってしまった。

 

 

 せめて降り注ぐ瓦礫から逃れようと、小さな体で懸命にアリスを担ごうとする珠雫。しかし体格差が災いして思ったように動けず、そんな二人を無情にも崩落が呑み込もうと牙を剥きそして――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今日は勘が冴えてるな。一輝より()()()の加勢にきて正解だった」

 

 

 

 ―――――突然墜落してきた『何か』に一切合財吹き飛ばされ、小石の一粒たりとも二人に届くことは無かった。怒号を響かせながら落ちてきていた瓦礫は最初からなかったように消え去り、土煙から解放された二人が目にしたのは安堵の溜息を吐く春雪の姿だった。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

場所:破軍学園 周辺

 

 

 

 

「《黒刀・八咫烏》―――――」

 

 

 頭痛に眉をしかめる待雪に、突如黒い稲妻のような魔力の刃が放たれる。それに込められた魔力は質・量ともにずば抜けている。普通の伐刀者なら死を覚悟する死神の鎌に等しいが、待雪は特に慌てることなく、それどころか八つ当たり出来ると言わんばかりに刃を構える。

 

 

「《権能疑似再演―――羽々斬》」

 

 

 腰だめに構えた途端ソードレイピアのような霊装は、形状を待雪の身長をも上回る日本刀に変える。そのまま一閃に振り切り黒刃と衝突した瞬間、まるでそんな事実は無かったように()()()()()互いに交差した。

 

 

「…なんだ、非常勤講師の方が来たのか。破軍理事長であればちょっとした意趣返しを考えていたんだけどな」

 

 

「あ?跳ねっ返りの若造がなに先約を差し置いてくーちゃんに手ぇだそうとしてんだ?百年早えんだよ」

 

 

「西京先生!!」

 

「ネネ先生!?」

 

「…はあ、間に合ったのですね」

 

 

 ステラたちと待雪を分かつように舞い降りたのは《夜叉姫》西京 寧音だった。一合交えた結果、西京()()は無傷だが待雪の方は頬に僅かだが傷を負っていた。しかしその結果に西京は普段の余裕を潜め、むしろ緊張を強めていた。

 

 

「―――ああ良かった、こちらに居たんですね。彼岸さんのお陰で作戦は無事終了、他の方は全員撤退し残るは貴方だけです」

 

 

 西京の到着とほぼ同時に《道化師》平賀も姿を現した。待雪の方も正直遠隔操作の反動がきついので引き時を見計らっていたので好都合だった。二人は西京へと視線を移すが、彼女もいきり立って仕掛けてくる気配はない。

 

 

「……好きにしな。うちがたまたま先生だったことに感謝しなよ、クソ餓鬼ども」

 

 

 西京の悪態に動じることもなく、待雪たちは速やかにその場から姿を消した。生きた心地のしなかった葉暮姉妹は泣きながら西京の元へ駆け寄り、貴徳原はこの場は安全だと判断し東堂達の下へ駆け出して行った。残るステラはいつまでも表情を険しくしたまま待雪たちが去って行った方向を睨みつけていた。

 

 

 

 

 ――――何故なら西京が霊装を仕舞う瞬間、まるで食い破られたように扇の一部が消し飛んでいた事実を見咎めてしまったからだ。

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。