豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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第二十三話

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――理事長との話し合いが終わってすぐ、春雪達3人は有る場所へ向かっていた。そこは破軍学園施設内にある広場で、少し前に一輝が綾辻に剣を教えていた緑あふれる憩いの場『だった』ところだ。

 

 

「……あれ、少し見ない内に様変わりしてるんだけど。こんな所にお城なんてあったっけ?」

 

 

「間違いなく昨日までは存在していませんでしたよお兄様、あとこの施設魔力反応がとんでもない事になってます。……まさかこれも貴方の駒なんですか?」

 

 

「ああ、俺の決戦霊装であるアウターシリーズの『不洛要塞(フォートレス)』だ。こいつの中に招いた人間はお前らが初めてだよ」

 

 

 眼前に聳える堅牢な要塞に黒鉄兄妹は呆れたようにつぶやくしかなかった。しかもただ要塞があるだけでなく、ざっと外観から見える限りでも300を越えるポーンが巡回を行っている。もはや霊装の枠に収まっていない文字通り『決戦兵器』というべき威容だ。

 

 

 ふと端に見えた、要塞に踏みつぶされているベンチを見て一輝は心の中で理事長に合掌した。事実兄妹二人が先に理事長室を退出した後、残った春雪が許可を取る時新宮寺は膝から崩れ落ちた。『また…修復しないといけないのか、一区画まるごと……しかも直したばかりなのに……』と言って。

 

 

「けど春雪は良いの?あれだけ手の内を秘匿してたのにこんなに堂々と」

 

 

「そこら辺は抜かりないさ。ちゃんと“虫除けカーテン”は張ってる」

 

 

 パチン、と指を鳴らすと先程まで立っていた場所の光景が歪む。一瞬だったが春雪の言葉通り膜の様な何かが外を隔てており、自分達の真後ろには『ラウンズ』の一騎であるヴェインが立っていた。

 

 

「……なるほど、道理で近づくまで気付かなかったわけだ。にしてもこれほどの大質量すら隠蔽してみせるなんてすごいな」

 

 

「その代わり隠すネタの質量に比例してヴェインのスペックが低下する欠点もあるがな。他にもここら一帯の側溝には200体の『ビショップ』を循環させて監視してあるし、警邏代わりにポーンも50ほどカーテンの外を巡回させてる。理事長の許可も取ってあるし、立ち入り禁止令も出してもらってるから侵入者は許可なく撃退しても構わんそうだ」

 

 

「凄く厳重な警備ですね、理事長の目が届くこの敷地でそこまでする必要があるのですか?私達はこの学園を背負って立つ代表なのに」

 

 

「お前らは評判良いから問題ないだろうが、俺は色々と(・・・)覚えが悪いからな。一輝って言う本命が居る分、俺の情報なんて小遣い稼ぎ感覚で売ってやろうって馬鹿も珍しくないんだよ。いや、評判ってのは腹の足しにならんわりに足だけは引っ張るのが不愉快だよな」

 

 

 卵が先か鶏が先か、一年生を除けば彼とこの学園の仲はもはや修復不可能と言って良い。一輝と違って思う存分反撃出来た彼は一切手加減しなかったし、見て見ぬふりをしてきた全生徒を平然と“塵屑”と言って憚らなかったため直接関係のない生徒からもたっぷりヘイトを集めてきた。というよりそもそも彼を■■そうとした人間が居た時点で騎士と言う存在を見限っているのだが。

 

 

 そうして話しながら足を進めている内に彼らは要塞内の大広間へと辿り着いた。そこは漫画や映画に出てくる『まさに城内』といった様相で、重厚な真紅の絨毯に瀟洒な燭台、豪勢なシャンデリアと訓練場には似つかわしくない華美な内装だった。しかしこれは『凝れば凝るほど強力になる』春雪の伐刀絶技ならではの必然ともいえる。

 

 

「さて、おしゃべりはこの位にしておいて早速始めるか。といっても俺は教師じゃないし、戦闘技術に関しては師にあたる一輝にアドバイスなんぞ出来ん。だから俺が提供してやれるのは、ひたすら調整役と仕合わせることと愚弟対策の立案くらいだ。とりあえずお前らがどこまでやれるのか知りたい、まずは一輝からだ」

 

 

「分かった。こうやって彼等(ラウンズ)と闘うのもなんだか懐かしく感じるよ」

 

 

 既に訓練場にはせ参じていたラウンズから、一輝と瓜二つな『八重垣』が前へと歩み寄る。圧倒的な剣速とスペックの暴力で攻め立てる純白兵戦型のコレなら、確かに実力を測るのにちょうど良いだろう。剣を教授したプライドが擽られたか、俄然闘志を燃やしながら一輝も相対する。

 

 

「それでは、僭越ながら私が号令をかけさせていただきます。準備はよろしいですねお兄様?―――――それでは、LET`s GO AHEAD!」

 

 

 

 

~~~三秒後~~~~

 

 

 

 

「…………うん?」

 

 

「なッ!?お、お兄様ッ!!」

 

 

 ――――観戦していた二人はあまりにも予想外な結果のせいで咄嗟に行動できなかった。如何にスペックに絶望的な差があれど、一輝はラウンズにとって師匠に当たり、純粋な白兵戦であれば剣技と見切りによりその差を大幅に減らすことが出来る。

 

 

ところが一輝は、『八重垣』相手に3合と持たずに切り伏せられてしまった。しかも敗因は『明らかに反応出来ている攻撃に対し、肉体のみ(・・・・)追い付けなかった』という不自然なものだ。しかもまさかここまでバッサリ斬られるとは思わなかったので、幻想形態にしておらず色んな意味で大変な光景が広がっている。

 

 

「―――がぁッ!げほ、あ…ぐぅ……ッ!!」

 

 

「お兄様、しっかりして下さいッ!すぐに治療を――――『ボトッ』―――え?」

 

 

 

 

 ~~~※BGM『旧○配者の○ャロル』を流してお楽しみください(笑)~~~

 

 

 

 

 ――――激痛に苦しみながらも、それでも健気に患部に視線を集中する貴方は突然降ってきた『それ』を目撃した―――いや、してしまったのだ。傷口の上に着地したにも拘らず痛みも重さも感じさせない、一見すると饅頭か御餅のような白く丸いフォルム。

 

 

 だがそんな可愛らしさも、『それ』が一斉に開いた無数の赤い目によって即座に嫌悪の対象に変わるだろう。その異様に竦んだ貴方は、幸運(・・)にも『それ』が傷口から貴方の体内に潜り込んでいくのを止められなかった。

 

 

 ――――モゾリ…モゾリ………ガサ、グチュリ………。

 

 

 腸を縦横無尽に駆け巡られるという、想像を絶する不快感に悲鳴を上げなかった彼の忍耐力は百万の称賛ですら到底足りないだろう。だがそれでもこの悍ましい光景に平常心を保てるはずが無く、青年も……そして同じ光景を見ていた妹も形振り構わず『それ』を摘出しようとした。

 

 

 ――――ところが今まさに獲物を手に握り再び視線を傷口に戻した時、そこには化物はおろか、不快感も異物感も……それどころか傷そのものが(・・・・・・)消失していた。

 

 

 この悍ましい現実に直面した貴方達は、成功1D6、失敗で1D10のSANチェックです。

 

 

~~~

 

 

 

「「~~~~~~~~~~ッッッ!!!!!!??」」

 

 

「………あ、しまった。そういえば『あいつ』紹介するの忘れてたな」

 

 

 顔面蒼白になりながらも必死に元傷口を調べる兄妹だったが、ポツリとこぼれてきた独り言に『ギギギ……ッ!』と軋むような動作で元凶(春雪)へと顔を向ける。

 

 

「……説明を、してくれるかい?」

 

 

「あー、うん。まああれだ、『医療型拷問兵器』って言えば良いのかな?先に言っとくべきだったな、とりあえず上見てみろ」

 

 

 言われるがままに見上げると、天井に先程目撃した『化物』が張り付いていた。しかも先程見たものの1000倍巨大な個体が。……しかも何故か頭にちょこんとナースキャップが乗っているのがこの上なくシュールである。

 

 

 アウターシリーズNo.3『迷宮の看護婦(トロハイエ)』、主な役割は次の2つ。一つは先程春雪が言ったように、自らが産み落とした幼体を使った『治療兼拷問』である。幼体は要塞の膨大な余剰魔力によって精製された万能細胞で構成されており、ターゲットの体内に潜り込んで遺伝子(せっけいず)を把握する(傷口が無ければ口から潜り込もうとする)。そして欠損部位へ融合することで寸分違わぬ肉体を復元させる。脳細胞すら再生させてみせる驚異的な治癒能力を持っているため、極論すれば死んでさえいなければどれだけの損傷でも治してみせる。

 

 

 もう一つの役割は『肉体・魂・精神補強による超ブラック労働の強制』である。これは幼体ではなく『迷宮の看護婦(トロハイエ)』本体の伐刀絶技であり、無着色の『魂』を大気を通じて対象に送り込むことで『肉体および精神への疲労・損傷を強制的に補整する』能力だ。つまり、『迷宮の看護婦(トロハイエ)』がいる限り、どれだけ疲労困憊でも弱音を吐くことが出来なくなり、また拷問等で精神を病んだり心が壊れても強制的に修復されてしまう。使い方によってはメンタルセラピーに仕えそうだが、ビジュアル的にかなり厳しいだろう。

 

 

「何考えてるんですか貴方はッ!緊急事態とはいえお兄様の治療に拷問兵器を使うなんて馬鹿じゃないですか!?」

 

 

「いやだって他に治療手段とか無いしな。元々コイツ創った目的が馬鹿共への躾と俺自身が24時間創作活動に打ち込めるようにするためだし。自分への応急処置なら幾らでも方法あるから他の治療とか用意してないぞ」

 

 

「ならカプセルの導入を!基本的人権の保障を要求させてッ!!」

 

 

「治療と引き換えに疲労感が発生するうえ時間が掛るから却下。分かってると思うが時間無いんだぞ?SAN値を犠牲にしたくないなら、どうにかして珠雫で治せる怪我で済ませるんだな」

 

 

 その返答と予想される未来に、二人が悲鳴を上げたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

~~~2時間後~~~

 

 

 

兄「(ちーん……)」

 

 

妹「(何度も冒涜的な光景を見た所為でSAN減少なう)」

 

 

 度重なるモザイク修正不可避な光景に二人の精神は酷く消耗していた。しかし天井に居る蜘蛛と饅頭を足して二で割った様な看護婦による『闘魂注入(物理)』の所為で延々と戦い続けている。なにせ修羅道に片足突っ込んでいる二人だ、どれだけ摩耗しても無理やり補強されて『動ける』状況にされては、否が応にも体を『動かしてしまう』のだ。

 

 

「うーん、色んな装置で撮影しながら見てるが肉体的には何にも不都合は無い筈なんだがなあ。ちょっとアプローチを変えてみるか……」

 

 

「……もっと早くそうして欲しかった」

 

 

 心底げっそりした風に返す一輝だが、彼らがここまで酷い目にあった最大の原因が彼自身であるためあまり強く言えないでいた。そう、あれから幾度となく『ラウンズ』と仕合った一輝だったが、始まった途端突然体が言うことを利かなくなり無惨に切り伏せられ続けたのだ(ちなみに幻想形態を使わないのは凶器に対して変な慣れや癖が付かないようにするためなので悪気はない)。

 

 

「とりあえずお前は修行云々の前にその不具合を治さなきゃ話にならん。とりあえず要塞の奥行って右の通路の突き当りに行け。そこがメンテナンスルームになってるから詳しく調べてくれる」

 

 

「…え、メンテナンス?に、人間が使っても大丈夫な施設だよね?尊厳や肉体的苦痛とかの意味で」

 

 

「安心しろ、そこは俺も偶に使う施設だから。レントゲンの大げさな奴みたいなのだから痛くも怖くもない」

 

 

「………その配慮を医療設備にも用意してよ」

 

 

 先程のトラウマからか少し足取りが重くなりながらも言われた通りにその場を離れる一輝。彼とて現状のままだと七星剣王どころか、一回戦をまともに戦うことさえ怪しいのだから不安どころの騒ぎではない。ある意味先程までの生理的恐怖のおかげでそういった現実を忘れているのは、妙な焦りを生まないという意味では効果的だったのだろう。…本人が負った心の傷と等価値かと言えば悩むところだが。

 

 

「―――さて、と。呆けてる場合じゃないぞ珠雫、あいつも厄介な爆弾抱えているがお前も大概なんだぞ?」

 

 

「……ええ、春雪さんが言いたいことは分かってるつもりです。ただお兄様に聞かせられない程とは思っていませんでしたが」

 

 

「馬鹿か、対処法が分かってるだけで爆弾のヤバさはお前の方が遥かに上だ。詳しい経緯とか興味ないから聞かんが、お前さん相当無茶したみたいだな?例えば体を一回バラバラに引き裂くみたいな」

 

 

 一輝の異常が顕著な所為で隠れがちだったが、珠雫もまた異変が起こっていた。10回に1回だが魔力操作に突然凡ミスが発生したり、以前よりも疲労が溜まりやすくなっているのだ。これは魔力関係に疎い一輝は気付いていなかったが、人型の造形を熟知している春雪にはとても顕著に映っていた。

 

 

「医者でもないのに良く分かりますね?一応カプセルの治療は受けたのですが……」

 

 

「伊達に造形美の探究や人型造りに没頭してないってことさ。寧ろ碌にそういった知識もないくせにそんな博打を一発で成功させた才能に恐れ入るよ。まあその所為で所々に粗が出て本来の力が出せてないようだが」

 

 

 春雪の見立て通り、この不具合は珠雫がヴァレンシュタインとの戦いで使った伐刀絶技『青色輪廻』の副作用だ。一度帰化した60億を超える細胞を元通り再構成する、これだけでも神業だが人体は唯モノがあれば良いというものではない。骨一つとっても配置が僅かにずれるだけで慢性的な痛みや代謝不良を起こし、体幹が僅かにずれるだけで万全のパフォーマンスが不可能となってしまう。一つ一つは些細な不具合だが、それが無数に折り重なることでとんでもない負荷となってしまっている。

 

 

「カプセルで治せないのは、再構成によって『今のその状態こそが正常』だと誤認されるからだろう。流石に俺は医者じゃないから治療は無理だし、もし日本最高の医師とアポが取れても剣武祭に間に合わん」

 

 

「ッ!?それは――――ッ!」

 

 

「分かってる分かってる、治療は出来んが応急処置くらいはしてやるとも。それともしその伐刀絶技について教えてくれるなら、ちょいととっておきの業を伝授してやれるがどうする?」

 

 

 その一言に、詰め寄ろうとしていた珠雫は僅かに驚いたようにキョトンとしていた。何故なら自分がそこまでしてもらう理由がないからだ。

 

 

以前ステラが春雪作の『ぐだぐだイッキ』を持っていたことに対抗して注文した時も貸しが無い為に随分渋られた。そのことからも分かる様に基本春雪と言う男はよほどの付き合いが無い限り、貸し借りなしで行動してくれないのだ。なのに自身の技術をタダで教えるなんてどういう風の吹き回しかと訝しむのも当然である。それにたいして春雪は――――。

 

 

「…まあお前さんが訝しむのも無理はない、こっちが勝手に貸しだと思ってるだけだからな。一輝には幸い最近返せたから良いが、お前にとってもあの『勘違い男』は一応父親だからな。正直やり足りんし早く現実を直視して俺を愉しませろ…とは思うがそれはそれ、これはこれだ」

 

 

「そのことでしたらどうぞお気になさらず。あの人は私にとって最も理解出来ない人物でしかありません。親愛の情はおろか、散々お兄様を傷つけたあの人のことなんて――――」

 

 

「―――残念ながらお前がどう思うかなんて知らん、勘違い男に無関心なのと同様にな。単に『殺したい命を殺して良い命とすり替えるな』って俺の自己満足だからな、枕元に居座って吠えられたら適わん。…にしても兄妹揃って世渡り下手だな、勝手に寄越すんだから大人しく貰っとけ」

 

 

「………人付き合いの下手さを貴方に言われたくありません」

 

 

 何とも不器用な善意の押し売りに、これまた不器用な少女が無愛想だが親しみをもって返す。まあここに居る人間は人生において赤点レベルの不器用たちなのでこれでも大分成長している方だろう。

 

 

「ああそうだ、ひとつ聞いときたかったんだ。……お前さんとこの実家なんだが、ついこの前まで散々やらかしてマスコミのおまんまにされてたが、ここ最近になって急に統率が取れてきたのが妙に気になってな。何か知らないか?」

 

 

「……?すみません、実家のことなんて本気で興味が無かったものでまったく知りませんでした。しかし、父は未だ意識不明ですしもう一人の兄も家の窮地に立ちあがるような殊勝な方ではありません。他は末端はどうか知りませんが、本家の人間は全て同じ息を吸う価値もないゴミしかいませんでしたし、立て直すなど不可能だと思っておりましたが」

 

 

「俺も同感だ、同感なんだが…何時の間にか『当主代行』の座についた奴が居るらしいんだよ。次期当主最有力だった珠雫なら何か知ってるかと思ったんだが、たしか名前は

 

 

 

 

 

 

―――――――――――『黒鉄 蘇芳』とか言ったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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