豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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第二十五話

 

 

 

 

 

 ―――――七星剣武祭開催まであと二日となり、春雪達破軍代表生一行は開催地である大阪の選手宿舎にいた。可能なら直前まで調整を行いたかったところだが、当日偶発的な交通トラブルに巻き込まれないように、そして本日行われる交流立食パーティへ参加するために切り上げてきたのである。

 

 

 

「……珠雫の悲鳴が聞こえてきたから何かと思えば、一輝お前……ステラにやらかして懲りたんじゃなかったのか?」

 

 

「いやあれと今日のは意味合いが全然違……はッ!?」

 

 

「………お兄様、今何か聞こえた気がするのですが、この後じっくり二人でお話してくださいますよね?」

 

 

 入学前のドタバタを知らない珠雫が聞き捨てならないワードに暗雲を背負って一輝に詰め寄っているが、先程までの馬鹿騒ぎに春雪とアリスは溜息を吐いていた。

 

 

 騒ぎの原因は、珠雫が一輝のセクシーショットに鼻血を出しオーバーヒートしてしまったのである。実家のしがらみの所為でこういった行事に慣れていないのではと心配した珠雫がアリスを伴って様子を見に来たところ、未だ服を決めきれず半裸だった一輝と遭遇したという訳だ。アリスから経緯を聞いた春雪は呆れていたが同時に意外そうにもしていた。

 

 

「……アホらしい。だが珠雫も意外と奥手なんだな、日ごろの押しの強さを考えればその場で襲い掛かりそうなもんなんだが」

 

 

「貴方私を何だと思ってるんですかッ!?そんな淑女の風上にもおけないこと誰がするものですか!!」

 

 

「(……ステラの日頃の行いについては黙っていよう、うん)」

 

 

 顔を真っ赤にする珠雫とそれを冷やかす春雪、それから明後日の方向を向いて渇いた笑いを浮かべる一輝。ここしばらくの特訓で大分打ちとこけた姿を喜ばしく思いながら、アリスは三人を先導する。

 

 

「それより、一輝もだけどあなたも良く似合ってるわよ春雪。ベストを重ね着してるから、身体つきに厚みが出て良い感じに貫禄が出てるわね。でも燕尾服をチョイスするなんて意外だったわ」

 

 

「……スーツは全部肩幅が合わなかったんだよ。剣武祭出場者なんて殆どが一輝みたいにムキムキばかりだからな、モヤシ用のなんて在庫がないんだと」

 

 

 げんなりした返事にアリスは思わず苦笑する。流石に熊のような大男は剣武祭でも珍しいが、参加者の殆どは細身に見えても着痩せしてそう見えるだけなのが少なくない。そういった基準で行けば一般男性より少し痩せている彼は逆に珍しいスタイルとなってしまった。今来ている燕尾服も、式典を飾る楽団から無理を言って予備を借りてきたらしい。

 

 

 そうこうしている内に会場へと辿り着き、取材班の方へと別れたアリスを除いて場内へと入っていく。一輝の方は何やら気圧されていたようだが、そんな可愛げのある神経など持たない春雪は目的の人物目掛けて真っ直ぐ足を進めていった。

 

 

「―――おや兄さん、こんな騒がしい席に出てくるなんて珍しいね」

 

 

「…そういえば元服してから吸い始めたとか言ってたな。お前の方こそ随分静かじゃないか、顔と刷り込み(・・・・)で寄ってくるのが鬱陶しくてこういう席は嫌いじゃなかったか?」

 

 

「いやあ、流石にテロリスト相手に寄ってくる物好きはいないと思うよ?悪名も随分轟いたみたいだし。天音ちゃんは煙が苦手だって逃げちゃったから一人を満喫してるんだ、兄さんも一服どうかな?」

 

 

「遠慮しとく。……で?そっちの御仁が噂の月影総理とやらか」

 

 

 向かった先は会場に併設されている喫煙ルーム、そこには二人の人物が寛いでいた。一人は春雪の弟であり、紫乃宮と並んで破軍学園壊滅の実行犯である彼岸 待雪。若造がシガーとコニャックを嗜んでも背伸びが見え隠れするが、恐ろしく整った顔立ちに手慣れたモーションも相まって映画のワンシーンのように決まっている。

 

 

 もう一人は一連の事件の黒幕である月影総理、公務が控えているからかお酒ではなくコーヒーで葉巻を楽しんでいる。こちらは壮年のいぶし銀と恰幅の良さが見事にダンディズムを醸し出していた。

 

 

「おぉ、君が落合 春雪くんだね。紫乃宮くんと彼岸くんから君のことは良く聞かされている、会えて嬉しいよ」

 

 

「そうだな、俺も一度はあんたに会っておきたいと思ってた所だ。色々と話してもらいたいこともあるし……?何の真似だ」

 

 

 とりあえず席に着き話を聞く態勢となった春雪に対し、まず話を切り出すより先に月影が取った行動は―――――土下座だった。

 

 

「―――私が今更どれだけ謝罪しようと無意味だろうが、それでもどうしても謝っておきたかったのだよ。君の名誉と当たり前の生活を奪ったことを、何一つ守ることが出来なかったことを政治家(われわれ)の無力を」

 

 

「しかし総理、あの一件は黒鉄の―――」

 

 

「そうだ彼岸君、あれは巌君傘下の独断専行だろう。そして連盟の決定に政府が何一つ異議を唱えられないのも事実だ、だがそれがどうしたというのかね?国民を守る立場でありながらそれを果たせなかった事実は変わらない、ましてや黒鉄の後援を得て政治家となった私が責任から逃れるわけにはいかないだろう」

 

 

「…大した人たらしだな、だからどうしたと言いたところだがその様じゃ話が出来ん。謝罪は受け取るから早く話を進めてくれ」

 

 

 特に付き合いがあった訳でもないので、冷めた表情で席に着くよう促す春雪。とはいえ今までの大人がアレだったため、月影に対する評価はそう悪くなさそうである。

 

 

「―――見苦しい姿を見せて申し訳ない、さて何から話していこうか。まずは彼岸君についてからいこうか。彼は私と直接の協力関係にはない、あくまで彼自身の要望と盟友の目的に沿うから暁学園に在籍しているにすぎない」

 

 

「だろうな、こいつに愛国心だの伐刀者の矜持だのが旺盛とは思えんしな。どこかの放蕩長男のように海外に飛び出すかと思ってたから、七星剣武祭に無理やり参加してきたのには驚いたが」

 

 

「意外…かあ、兄さんとは滅多に衝突してこなかったけど、ことこの話題に関しては意見が合いそうにはないね。『本気の兄さんと全身全霊を賭して闘いたい』それが今の僕が抱く最も強い願いだ。今までは叶わなかった、やる気のない人間を幾ら急き立ててもどうしようもないからね。自分の持てる全てを吐き出せる相手、しかもそれでも叶わないかもしれないなんて最高に滾る戦いだ。せっかく諦めかけたのにここに来て本気になるなんて、僕の方こそ青天の霹靂だったよ」

 

 

 ―――ミシリ、と音が聞こえるような錯覚をその場に居た人間は感じた。グラスと葉巻を置いた待雪の表情は非常に好戦的な色に塗れており、殺気こそ放っていないが空気を張りつめさせている。

 

 

「これが卒業後なら魔導騎士免許を使って海外に飛び出てるところなんだけどね、そんなことをしなくても良くなって本当に嬉しいよ。この行事が日本でやる最後の仕事(・・・・・・・・・・)になるだろうからね」

 

 

「……はあ、良いだろう。今まで散々『良い子』を熟してきた弟の最初の我儘だ、こっちも精々『本気で』相手してやる。それで、肝心のお前の『雇い主』の目的は何なんだ?総理が黙認か容認かは知らんが協力できているあたり、今回の件とも関係あるように見受けられるが」

 

 

「ああ、それは―――」

 

 

 月影が答えようとしたその時、喫煙ルームの扉が開く。全員がその方向を見ると新宮寺理事長が入ってくるところだった。

 

 

「失礼、取り込み中でしたか月影先生?」

 

 

「おぉ滝沢君じゃないか、久しぶりだねぇ。……落合君、ここから先の話は機会を改めた方が良いな。君たち二人には他にも連盟加盟国の長として伝えておくことがあるのでね、日を改めて席を設けよう」

 

 

「分かった、それじゃあ失礼する。……理事長、一応言っておきますが―――」

 

 

「別に疑ってないから安心しろ。彼岸青年もいるならプライベートな話も多分に含んでいるだろう?なら詳しくは聞かん、それよりも黒鉄の方に行ってやってくれないか?」

 

 

 言われて外の方へ視線を向けると、一輝が顔を真っ赤にしながら武曲学園の代表にオーバーリアクションを取っていた。何が何やら良く分からないが、珠雫に任せたら此処に来る前みたいになりかねないので春雪はフォローをしに行くことにした。

 

 

「――ああそうそう、最後に一つだけ。僕の雇い主から『伝言』があるのを忘れてた、『剣武祭の後になりますが、貴方に関する公文書偽証疑惑が冤罪だったと公表します。関係改善の第一歩とさせてください』だって。僕も協力した甲斐があったよ」

 

 

 出て行こうとする直前、慌てて待雪が放った言葉に春雪と新宮寺は目を見開く。ランクの虚偽報告と思われた当時の反応は相当なものだった。つまり待雪の雇用主は、今更とはいえあれが表に出れば相当なスキャンダルになるというのに、総理が止めようともしない人物ということになる。

 

 

 また考えることが増えたと内心頭を抱えながら、気を取り直して会場の方へと足を進めていった。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 ――――パーティから翌日、春雪は大阪の繁華街へ足を延ばしていた。当初の予定では一輝が『現七星剣王』諸星 雄大から夕食を誘われたので同行するつもりだったのだが、とある事情で其方をキャンセルすることとなった。その理由とは――――。

 

 

「ここが道頓堀かー、写真で見るより大きい橋だねハル君!あの諸星って選手が勝ったら飛び込んだりするのかな?」

 

 

「……流石に今は無いだろう、規制とかうるさいだろうし。しかし綺麗でもないのに観光スポットになるってのは不思議な感じがするな」

 

 

 ―――そう、朝突然ホテルの自室へ飛び込んで来た紫乃宮 天音にせがまれて観光することになったからだ。久しぶりに会った親友と旧交を温めるのは何も不満は無いし楽しめているのだが、周囲から『めっちゃレベル高いやんあの美少女!!』とか『リア充爆発しろッ!!』など色々騒がれている状況には内心辟易していた。何が悲しくて男二人の観光に嫉妬されなければいけないのかと。……積極的に引っ付いてくる紫乃宮との絡みは、真実を知らない人間からはデートにしか見えないのが事態を悪化させている。

 

 

 食道楽、カラオケ、冷やかしなど散々天音に連れ回された結果、あっという間に日がおちる時間になっていた。

 

 

「はー楽しかった!けど何でハル君カラオケのレパートリー更新されてないの?今時『村下 ○蔵』歌う高校生なんていないと思うけど」

 

 

「カラオケに行く機会そのものが皆無だったからな、更新する必要性を感じなかった。…にしても凄いな。完璧にコントロール出来てるみたいだな、お前の『伐刀絶技』を」

 

 

「えっへん!伊達に二人と離ればなれになってた訳じゃないよ」

 

 

 今日廻ったお店の中で、カラオケでは待たされたり百貨店では興味が湧いた限定商品が売り切れていたりと、天音の代名詞である『凶運』はまったく姿を見せなかった。それもそのはず、彼はこの為に《比翼》の誘いを受け入れて二人の前から姿を消したのだから。

 

 

 

 ―――警察署で火事があったあの日、礼を言いながら二人に泣きついていた天音にある推測が頭をよぎった。自分の伐刀絶技《過剰なる女神の寵愛(ネームレスグローリー)》は本心から願えばどんなものでも叶う、そしてその中に『自分の不幸』も対象内であることはこの日証明された。ならば自分の『ある程度の不幸』を『本心』から願えば、この空気の読めない幸運を中和することが出来るのではないか、と。

 

 

 しかしこの仮説を実証し、かつ加減を覚えるのは並大抵のことではない。何故なら誰も自分を知らない新天地で一念発起したとしても、『不幸』の加減が小さければ幸運を相殺できないため同じ轍を踏みかねず、逆に『不幸』の度合いが高すぎれば今回のようにとんでもないことになるし間違いなく周りを巻き込んでしまう。

 

 

 それでも一度見出した希望を捨てられず、二人と一緒にまた仲良く遊びたいと思った天音は強く願った。都合の良い願いであるが、踏み出す一歩を支えてくれる人と巡り合せてください、と。そしてその願望は、世界最強の剣士との縁を結ぶこととなった。

 

 

 そして数年後、《比翼》の元で様々な体験を経て成長した天音は彼女の伝手で月影総理と出会い、彼から新しい身分と生活基盤を提供されたことで待雪と再会することが出来たのである。月影は一切見返りを求めなかったが、流石にそれでは収まりがつかないので暁学園に参加することになったのだ。

 

 

「―――なるほどなあ、お前も相当頑張ったんだな。……ん?じゃあ何で剣武祭に参加するんだ?総理のサポートだけなら、別に伐刀絶技使うだけで十分だろうに」

 

 

「それはねえ、『諦めたくないから』だよ。この大会には凄い人達が大勢いるよね?僕がどう頑張っても勝てないくらい凄いのが。マツ君はそもそも刃が肉に入んないし、ハル君は一人百鬼夜行だし、イッキ君はきっとどれだけ『不幸』になっても這い上がってくる強さを持ってる。

もしこんな凄い人たちが相手でも最後まで諦めずに戦えたなら、その時僕は初めて胸を張って言えると思うんだ。『負けちゃったけど、自分自身には勝った(・・・・・・・・・)』って!最後まで諦めずに、女神様よりも先に白旗は挙げなかったって!!」

 

 

そういって瞳を輝かせながら闘志を燃やす天音は、春雪の記憶にはなった彼の姿だ。その成長ぶりについ頬を緩ませながら、『これで女なら惚れてたんだがなあ』と微妙に残念に思う自分に脱力する。

 

 

それはさておき、流石に時間が遅くなったのでそろそろ食事処に入ろうかと思案しだす二人。見れば時計の時刻は午後7時、まだまだ繁華街は盛況だが逆に席が埋まってしまう時間帯である。調べる時間も惜しいので何処か目に付いた店に入ろうかと思ったその時――――。

 

 

「「――――ッ!?」」

 

 

 ―――突如、抜身の殺気を感じた二人はすぐにその出所を探る。どうやら繁華街から少し離れた場所の様だが、そこらの雑魚が放つ様な殺気ではなかった。面倒だとは思ったが、こういうトラブルの中心に何故か居やすい人物の顔がよぎったため現場に急行することにした。

 

 

 現場へは5分も掛らずに到着した。春雪が見たのは、やはりというか予想通りと言うべきか。そこら一帯が無数の斬撃痕で包まれたその場に居たのは、食事に出ていたはずの一輝と、体に幾つか切り傷を付けた(・・・・・・・)王馬の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 




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