豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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や、やっと更新できました。突然引っ越しすることになった挙句、ネット環境は最悪、ようやく一心地ついたと思ったらいつの間にかスランプに陥っていたり散々でしたが、ぼちぼち書いていきたいと思います。


第二十六話

 

 

 

 

 ――――少し時間を遡ること数時間、春雪と別行動をとっていた一輝・珠雫・アリスの三人は、現七星剣武祭であり一輝の一回戦の相手である諸星の誘いでとあるお好み焼き屋さんに来ていた。大阪人特有の人懐っこさと押しの強さはあるものの、威風堂々とした佇まいに地元民の篤い信頼を担う青年の姿に、一輝は改めて自分が挑む相手の『大きさ』を感じ取っていた。同年代相手にこういった敬意を抱いたのは、奥多摩騒動で東堂の『強さ』を知った時以来だろうか。

 

 

 それはさて置き、『大阪でいっちゃん美味いお好み焼き食わしたる』と言って自分の実家が経営する店に招くちゃっかり具合に苦笑しながら、文句なしに『本場の』お好み焼きを一同は堪能していた。しかしここで思わぬ先客と相見えることとなった。

 

 

 『白衣の騎士』、学生の身でありながら日本一の称号に相応しい腕前を持つ天才医師『薬師 キリコ』その人である。あの珠雫ですら『自分より格上』と認める屈指の水使いでもある彼女は、昔施術したという腐れ縁で諸星の元に訪れていたのだ。

 

 

 その場の流れで相席することとなったが、薬師ほどの人物にすらモーションを掛けられる兄の操を守るべく珠雫が間に座り牽制していた。最初はそんな珠雫の態度を微笑ましいと大人の対応をしていた薬師だったが、何かを感じ取ったのか徐々に珠雫にも熱い視線を向け始めた。まさかそっちにも興味があるのかと一瞬邪推しかけたが、薬師の『医師』としての観察眼にそんな気持ちは吹き飛ばされた。

 

 

「――――とても興味深い技術ね、貴方の『右腕』。もしかして、此処に居ないもう一人の代表生さんの仕事かしら?」

 

 

 ほぼ確信をもって告げられて一言は、騎士とは違った『命に対する重さ』を感じさせ、威圧感も殺気も感じないのに珠雫と一輝は気圧されてしまった。ちなみに彼女が注視している右腕は、修行中に一度だけ『青色輪廻』に失敗してしまい《迷宮の看護婦》に再生してもらった部位である。

 

 

「…ここ、本当に細部まで見ないと気付けないけど細胞が新しいの。でも他の細胞と不和を起こさないばかりか、経年劣化まで再現してみせてる。こんな『業』聞いたこともないわ。既に在る細胞を触媒に再生する治療は私でも可能だけど、全く別の存在で人体をここまで完璧に再現した挙句負担もまったくないなんて……あら、黒鉄君の顔色が急に変わったけどどうしたの?」

 

 

「……そっとしてあげてください、まだトラウマが色濃いようなので」

 

 

 目の前にある『未知の治療』に医者としてのプライドが擽られたのか、一切の妥協を許さない『仕事の鬼』の顔で観察する薬師であったが、訓練中散々幼体に群がられた記憶をフラッシュバックしてしまった一輝の顔色の悪さに目が行き中止する。訝しむ周囲だが唯一経緯を知る珠雫が遠い目をしながらフォローに入った。

 

 

「と、ところで何故春雪さんの仕事だと思ったんですか?彼は医療系の伐刀者ではありませんけど…」

 

 

「単なる消去法、それから勘ってとこかしら。自慢じゃないけど医療関係には顔が効くしどんなマイナーな論文でも残さず目を通してるわ、けどこんな技術断片すら入ってきてないもの。あとは……直接見た訳じゃないけど彼については予備知識があるからこれくらいやりかねないと思っただけよ。ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。個人としては尊敬するけど、医者としては(・・・・・・)知りたくもない知識だし」

 

 

 薬師の言葉は二人にはとても意外なものに感じた。失礼ながら春雪の『迷宮の看護師』は薬師の提唱した『再生医療』の上位互換に当たる。膨大なリスクの一切を無視した治癒は医者なら誰もが知りたいと、そして普及したいだろうと考えるのは普通だろう。しかし薬師は首を横に振る。

 

 

「ええとても素敵なことだと思うわ、人の命が軽くなること(・・・・・・・・・・)を除けば(・・・・)。たかがカプセルが世に出ただけで決闘なんて時代錯誤が普及したのよ?痛みも後遺症もない治療なんて生まれた日には、人命が消耗品に格落ちしかねない。

私が諸星君の施術で懲りてそれ以降の治療を取りやめた時も酷かったのよ。世界中からまるで壊れた時計でも持ち込むような気軽さで施術を希望する組織がわんさか、KOKランカーでも耐えられないから無理って断った私を見る連中の目が今でも忘れられないわ」

 

 

 多少酒が入っているからだろう、懇親会ではあれだけ余裕たっぷりな態度だった人物とは思えないくらい素直に表情を顰める。人目をはばかってこの表情と言うことは、よほどアレな連中だっただろうと予想することは難しくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――それから暫くして、本場のお好み焼きを思う存分堪能した一行は拠点であるホテルへと向かっていたのだが、一人一輝だけはその集団から抜け出していた。理由は自分にだけ突き刺さってくる殺気の篭った視線。お店に入る前から感じていた気配に誘い出される形で向かった公園で待っていたのは、一輝の実の兄である王馬であった。

 

 

 

「まさか貴方だったとはね、王馬兄さん。何の用かな?兄弟の親睦を深めに来たって訳じゃないんだろ?」

 

 

「……無論、貴様に会いに来た用件は一つだ。一輝、今すぐ七星剣武祭から身を引け」

 

 

 開口一番非常識なことを言い出した実兄に不快感を抱きながら、辛うじて語気を荒げずに理由を問う一輝。しかしそれにすら侮蔑を隠さず、まるで理解して当然とばかりに訳の分からない持論を展開する王馬。その姿に一輝は元気だった頃の()を幻視した。自分のルールで世界が回っていると一部も疑わない姿勢は全く持ってそっくりな二人だと半ば呆れながら一輝は聞き流していく。

 

 

 

「―――それで?そんな戯言を言いに態々ご飯も食べずにストーキングに勤しむとはご苦労なことだね。『騎士の頂でもう一度闘う』、彼女との誓いは僕にとっての全てだ。それについさっき一人の騎士として譲れない約束も交わしたところなんだ、不良長男の我儘に付き合ってる暇なんてないんだよ。

…それと随分面白いこと言ってくれたけど、その言葉そっくりそのまま兄さんに返すよ。男の横恋慕なんて女々しいことに剣を振える兄さん『如き』には、彼女(ステラ)は過ぎた女性だ」

 

 

「………吠えたな出来損ないが。暫く合わない間に随分口が回るようになったな?いや、デカい口を通せる力もないくせに小賢しさだけは一丁前なのは昔からだったな」

 

 

 ―――想像していた返答より数百倍マシになって帰ってきた毒舌に一瞬たじろぐが、露骨な侮蔑の言葉は逆鱗に触れ一瞬で殺気が充満していく。普段珠雫やステラと戯れているせいで忘れがちだが、一輝と言う男はとても『好戦的』な男である。Cランク騎士の中でも最上位に当たる教師に対して『僕は貴方に勝てます』なんて言ってのける男が、惚れぬいた女性を引き合いに罵倒されればキレるのは当たり前の話だ。

 

 

 

 お互い無言で霊装を顕現させ、合図も何もなく切り結ぶ二人。王馬は自身の霊装である『竜爪』から繰り出される豪剣をもって切り伏せようとするが、それに対し一輝は優に10を超える連撃を一瞬で(・・・)放ち真っ向から弾き返した。

 

 

 

「…ほう、紅蓮の皇女が殻を破ろうとしている時に阿呆面下げて寝ていた訳ではないようだな」

 

 

「珠雫共々頼りになるトレーナーに鍛えられたからね(真面に喰らわせて薄皮を割く程度とはね、相変わらずの規格外っぷりだよ)」

 

 

 余裕綽々といった態度を一貫する一輝だが、内心では苦虫を噛み潰していた。王馬がこちらの力を低く見積もっていた隙をついておきながら、0から100へと瞬時に加速する絶技すら致命傷足りえない事実は一輝に相当な衝撃を与えていた。しかも最大の障害となる彼岸とその兄はこれよりさらに上だというのだから、改めて『魔力』が齎す理不尽を再認識した。

 

 

「(間違いない、こいつは比翼の剣理を完全に自らの小細工に落とし込んでいる。模倣すら剣士の極みに当たるというのに、たかが一週間でモノにしたか。……相変わらず不愉快な男だ、誰よりも『強さ』からほど遠いくせに誰もが羨む剣の才を持つか)」

 

 

 一方、王馬もまた手傷以上の衝撃に歯噛みしていた。ある意味現実の理不尽に憤っている気持ちは彼の方が大きいのだ。王馬は絶対的な力、つまりは『世界を改編する力(魔力)』や『異形』といった人の外側にある力を求める傾向が強い。しかし彼のそんな思考を形成したのは、『出来損ない』と揶揄した目の前の弟に他ならない。

 

 

 小学生の頃リトルリーグを制した王馬は、勉強はともかく強さに関しては既に大人以上に敏い子供だった。そしてそれ故に理解してしまう、天才と持て囃される自分より劣等種と嘲られる愚弟の方が遥かに剣に愛されているという事実を。にも拘わらず100回戦えば100回勝てる彼我の戦力差が『圧倒的な力の前には術理など塵芥』という哲学を培わせた。興味のない存在にはとことん無関心なこの男が弟にだけ妙に当たりが強いのはそういったジレンマが関わっているのかもしれない。

 

 

「どうした、手傷を負わせるのが貴様の精一杯か?なら剣武祭に出ても時間の無駄だ。強者の足を引っ張る位なら潔くここで消えろ」

 

 

「…ああ、()()()()()()()()()()()兄さんを切り伏せるのは難しそうだ。ありがとう、知らない内に少し天狗になっていたことを教えてくれて。感謝ついでに、本当に僕の剣が届かないかどうか兄さんで試させてもらって良いかな?」

 

 

「本当に口の減らん奴だ、そこまでいけば大したものだ。さっさと―――――ッ!?」

 

 

 ―――言葉が詰まる、何故なら先程まで全く脅威を感じなかった一輝の刃、特にその切っ先から言い様のない悪寒を感じたからだ。

 

 

 一輝は隕鉄をしまい(・・・・・・)、小太刀である流星を自らの視線の高さで水平に構える。剣術ではさして珍しくもない『霞の構え』であるが、自らの半身ともいえる『霊装』以外を使うのも異様であれば、リーチで劣る小太刀を使う理由も分からない。

 

 

しかし背筋を舐られるような酷く不吉な感覚に舌打ちし、非常に不本意ながら王馬も己の手札を開示する。

 

 

「疾く失せろ――――《月輪割り断つ天龍の爪(クサナギ)》ッ!!」

 

 

 公共の場で躊躇いなく最強の業を奮う王馬。公園の遊具を粉砕し、直線上の大地諸共一輝を消し飛ばす暴威は、本来ならばあらゆる行動を放棄して回避しなければ死ぬ以外の結末は有り得ない。しかし一輝は目の前に迫る死神の鎌に一厘程の恐怖も焦りも抱くことなく、一言の呟きと共に刃を突き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「伐刀絶技―――――――――《一刀波旬》」

 

 

 

 ―――瞬間、《月輪割り断つ天龍の爪(クサナギ)》をも一飲みにする破壊が王馬へと殺到した。

 

 

 

 

 




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