追記:11/1 ブロック分けについて編集。組み合わせを間違えておりました。大変失礼しました。
――――――凄まじい轟音と土煙が止み、公園だった場所は見る影もないほど荒れ果てていた。
「………これが、『騎士殺し』を破るために捻り出した貴様の真打ちか。貴様らしい、ペテンの極みだな」
「敢闘賞に甘んじる様な可愛げがないことくらい良く知ってるだろう?兄さんのお陰で少し自信が付いたよ」
「確かに大した威力だ、だが
一際土煙が吹いていた箇所から王馬が姿を現す。見た目には大した怪我には見えないが、それは一輝の切札《一刀波旬》が半端だったから、だけではない。彼が衣の下に纏っていた“ある物”が完全に消し飛んでしまっている、もしこれが無ければ王馬の異形を以てしても重傷は避けられなかっただろう。
しかし当然一輝の方も無事とはいえない、王馬が落とした視線の先にある
「兄さんに心配されなくても、ちゃんと発動できればこんなことにはならないよ。《流星》は公式試合では使わないから木端微塵でも問題ないし、何より今から治療なんて受けてたら諸星さんへの『借り』が返せなくなるからそっちを優先させてもらったよ」
「貴様なんぞ頼まれても心配せん、騒ぎを大きくして俺を引かせようなどと狡い算盤を叩くような奴など。…そら、互いに迎えが来たようだぞ」
流石にこうなっては王馬も興が冷めている。どう闘いを急いでも間違いなく横槍を入れられるだろうし、何より二人とも近づいてくる見知った気配に気が付いていた。
「――――また随分派手に暴れたな、出場を前に失格処分にされても文句言えんぞ」
「うわぁ、すべり台が根元から引っこ抜けた挙句スクラップになってるや」
「やっぱり君だったか春雪、それに……紫乃宮君も?」
殺気や衝撃に気付いて駆け付けた春雪と紫乃宮、既に闘争の空気ではないから特に何かすることもないがその口調は完全に呆れのそれだった。今はともかく黒鉄に絡まれてた頃の一輝や、現在進行形でテロリストの王馬が下手人だとバレれば冗談抜きで失格ものの惨状だから仕方がない。
「それで、一応聞いとくがまだやるのか?そろそろストレスで胃穿孔起こしそうな総理や理事長辺りが飛んできそうだが」
「……問われるまでも無い、続ける気は失せた。最低限あの舞台に立つだけの資格は持っているようだからな、強者を磨く試金石になれれば少しは価値を示せるだろう」
「えー、そんなこと言って結構心配してるくせに。『ここで自分を引かせられない程度じゃ挑むだけ無駄だ』っていう兄心が全く表に出てこないあたり、本当に口で人生損してるよね君」
「黙れ紫乃宮。……《奏者》、貴様もまた俺を恐怖させるに値する怪物だ、非常に残念なことだが対戦表を見るに相見える機会はない。―――次だ、次貴様と会った時こそ全霊を以て喰らい付いてやる」
一瞬殺気を滾らせたが、そこまでで収め踵を返していく王馬。そういった暑苦しい話は余所で遣ってくれ、と冷めた表情で見送る春雪だったが、隣りに居た紫乃宮が衣……は吹き飛んでいるので、袴をむんずと捕まえる。
「……何の真似だ紫乃宮。もう話すこともすることもない、これ以上俺が動くのは貴様にとっても不都合だろうに」
「いや、何の真似はこっちの台詞だよ?壊すだけ壊して何しれっととんずらしようとしてるのさ、ちゃんと関係者の所に行って弁償しないと。すべり台ひとつでも軽くゼロが6つ並ぶ値段だった筈だけど、そんな大金あるの?」
――――ピシッと軋むような音が聞こえた気がした。当たり前の話だが、小学生で家を飛び出した彼は親の支援など受けていないため大金など持っておらず、寧ろどうやって肉体作りが出来るくらいの資金が調達できたのか不思議なくらいである。
彼の旅路はひたすら武者修行の日々であり、傭兵稼業には手を出していない。何故なら名が売れれば義務教育を放棄した家の醜聞に繋がりかねず、当時の実力では柵や魑魅魍魎がひしめく裏の世界に飛び込むのは危険すぎたからだ。やっぱりというかこの男、変な所でお坊ちゃんらしい気遣いが出来る。そういった理由から凄い速度で悪化する顔色のまま王馬は一輝の方へ視線をやる。
「あ、壊したのは一輝君とかそんな男らしくないこと言わないでね。間違いなくそれって正当防衛だし、放蕩ドラ息子なテロリストと品行方正な学生騎士じゃどっちの証言が通るかなんてわかるよね?僕らも当然一輝君の味方するし。月影総理なら揉み消せるだろうけど、修繕費までは出せないと思うよ?今更かもだけどテロ屋の尻拭いに税金なんて即首が飛ぶ案件だし」
容赦なく逃げ道を潰された王馬はますます面白い顔色になっていたが自業自得でしかなく、しばらくしてやって来た総理秘書に紫乃宮と共に連行されていった。まったく同情の余地はないが、まあうん、強く生きろと生温かい目で弟とその親友は見つめていた。
「相変わらず
「……神様なんて信じてなかったけど、一回お祓い受けた方が良いのかな。春雪は紫乃宮君と一緒に?」
「ああ、大阪観光を満喫してさあ晩飯でもってところでお前らの殺気を嗅ぎ付けてな。まあ、無事で何よりだが……流石に腹が減った。何処か良い店知らないか?」
ちらっと確認した限り、煤けてはいるが一輝には怪我どころか疲労も僅かしかない。これなら特に治療せずとも明日にはベストコンディションで試合に臨める。それが分かっているから春雪も大げさにせず話を切り替え、一輝もそれに応じる。
「ああ、それならさっき僕らが行った―――『ウチに寄ってってや!』―――うわッ!?……って諸星さん!どうしてここに?」
「よう黒鉄、さっきぶりやなあ。いや、お前が生徒手帳忘れとったから届けに来たんや。んで来てみたらえらいことになっとるし、ヤバなったら助太刀しよう思とったんやけど出るタイミング逃してな。あの王馬を無傷で追い返すとは、流石俺が見込んだ男やで!」
突然背後から会話に割り込んできたのは現七星剣武王の諸星だった。会場では全く交流できなかった春雪だが、素直に彼の実力に感心していた。常在戦場を旨とし、先程まで切り結んでいてギアが上がっている一輝の背後を容易くとってみせたのは流石としか言いようがない、と。
「お、よう見たらそっちは破軍代表の落合か。懇親会じゃ碌に交流できんかったからこりゃ好都合や、薬師先生がごっつう警戒してる第二のダークホースにもたっぷりウチで英気養ってもらおか」
「諸星さんの家がお好み焼き屋さんなんだ。さっきまで僕も居たんだけどすごく美味しかったよ」
「じゃあせっかくだから寄らせてもらうか。一輝、流石に一人で暖簾潜るのはアレだから付き合え、つまみと飲み代は出すから」
「…そうだね、愚痴の一つも溢したいし御相伴に与ろうかな?珠雫にメールしとかないと。あ、諸星さん手帳ありがとうございます」
「まいど♪」
話が纏まったところで三人は来た道を引き返していく。ちなみに何時まで経っても警察は現れず、代わりに黒ずくめの人達が復旧作業に入っているので事情聴取なんて面倒なイベントは省略された。
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―――――そんなトラブルから一夜明け、いよいよ第六十二回七星剣武祭の幕が上がる時が来た。総勢32名と暁学園の大暴れが原因で近年まれに見る少数での開催であるが、優勝候補や前年度上位陣が欠けずに参加しているため盛り上がりに優劣は無い。
それはさて置き、今大会では4つのブロックに分かれて争い、Aブロックの覇者とDブロックの覇者が、Bブロックの覇者とCブロックの覇者で準決勝をぶつかり合い勝者で決勝戦を行うこととなっている。それぞれのブロックで名の通った選手を挙げると以下の通りとなる。
Aブロック:1.落合 春雪 2.《血塗れのダヴィンチ》サラ・ブラッドリリー 3.《剣士殺し》倉敷 蔵人 4.《天眼》城ヶ崎 白夜(前大会2位)5.《氷の冷笑》鶴屋 美琴
Bブロック:1.《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァ―ミリオン 2.《風の剣帝》黒鉄 王馬 3.《道化師》平賀 玲泉 4.《不転》多々良 幽衣 5.《魔獣使い》風祭 凛奈
Cブロック:1.《無冠の剣王》黒鉄 一輝 2.《七星剣王》諸星 雄大 3.《凶運》紫乃宮 天音 4.《白衣の騎士》薬師 キリコ
Dブロック:1.《騎士殺し》彼岸 待雪 2.《深海の魔女》黒鉄 珠雫 3.《鬼火》浅木 椛 4.《鋼鉄の荒熊》加我 恋司
対戦表を最初に見た時、珠雫は結構落ち込んだのは言うまでもない。ブロック決勝で最凶の敵である彼岸に当たり、万が一勝利しても準決勝で春雪に勝たねば一輝もしくはステラ(または王馬)と闘えない。まさしく死のブロックといって良い。
一輝の方もクジ運が良いとは言えない。紫乃宮の能力は不明だが、要注意人物の薬師はおよそ真っ向勝負をする性質ではない。剣術が通じる間合いに持ち込むまでが最大の勝負であり勝敗を分ける境目になるだろう。幸い2回戦は無名の選手であり、ブロック決勝は薬師か紫乃宮のどちらかとしか戦わないですむのだが。
ステラのブロックについてはあからさま過ぎて何も言えない。どう考えても『大人の事情』が全力で介入している、これが厳正なくじだと言われても鼻で嗤うしかないだろう。万が一でもテロリストに優勝旗は持たせないという悪意と、
『―――間もなく、Aブロックより第一回戦が始まります。関係選手および職員は速やかにお集まりください。繰り返します―――――』
とはいえ、選手のそんな何とも言えない心情を運営が慮るはずがない。粛々と開会は済み、いよいよ開戦の幕が切って落とされる。会場の掲示板、およびパンフレットにはこう記載されている。
『Aブロック第一試合:《天眼》城ヶ崎 白夜 対 落合 春雪』
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