豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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第二十九話

 

 

 

 

 

『――――七星剣武祭が開かれて早62回目、そこには数多のドラマがありました。順当な勝利が、ジャイアントキリングが、冗談のようなラッキーパンチが、圧倒的強者による蹂躙が。

……しかし、これほどの大番狂わせが今までにあっただろうかッ!?歴代でも屈指と名高い現七星剣王、《浪速の星》諸星選手が防戦一方ーーッ!!今大会最大のダークホース《無冠の剣王》黒鉄選手、目にも映らない斬撃の雨が刻一刻と王者の肉体に傷を穿つ!!これほどの騎士がどうして今まで無名だったのか不思議でなりませんね牟呂渡プロ?』

 

 

『(あの剣の理はもしや…いや、そんな筈は……)―――え?ああ、失礼。あまりにハイレベルな戦いに言葉が出ませんでした。そうですね、確かに黒鉄選手の剣技は現役のAランク騎士と比べても逸脱しています。しかし私としてはその絶技を前にして、()()()()()()()()()()()()()()()()諸星選手をこそ称賛したいですね』

 

 

 ―――闘技場では数分前より、Cブロック第一試合が始まっていた。対戦カードは諸星と一輝の二人。当初、周囲からの下馬評は『良い試合になる』と言うものだった。非公式でAランク騎士であるステラを下し、公式試合では前回ベスト4である《雷切》東堂をも討ち取った一輝の実力は誰もが認める所である。しかしそれでも諸星の勝利を疑う声は皆無だった。何故ならそれくらい前大会の彼が凄かったから、そしてその強さに満足せずさらなる成長を果たした彼に適うとまでは思えなかったのだ。

 

 

 しかしそんな周囲の考えは今日、他ならぬ一輝の黒刀で破り捨てられた。試合開始直後、()()()()()()()()()()()で諸星の胸元を朱に染めたことで、ようやく観客は現実を知った。目の前の青年は『挑戦者』でなければ『格下』でもない。何故か人の祭典に紛れ混んだ『化物達』と向かい合うに値する『英雄』なのだと。

 

 

 

「―――ふーん、さっきよりはまともな解説になってるじゃないか。にしても俺の時と随分扱いが違うな?やっぱり顔か、イケメンともやしの差か?(もっちもっちもち…)」

 

 

「ハルユキはもっと眉間のシワを無くして愛想よくしたらモテるんじゃない?……それより流石は『七星剣王』ってところね。()()()()()あれだけの剣戟、一分と持たずサイコロステーキになってるわ(もっきゅもっきゅもっきゅ…)」

 

 

「んー、やっぱり昨日の夜に太刀筋を見られたのが不味かったな。見てみろ、あの充血した目を。多分一睡もせずひたすら反芻し続けたんだろうよ、たかが一昼夜であそこまで合わせてきたセンスと勝負勘は瞠目に値するな(もぐもぐもぐもぐもぐもぐ…)」

 

 

「…いや、話すか食べるかどっちかにしろよ。てゆーか春やんはともかくステラちゃんはまだ食べんのかよ……」

 

 

 控室からゲートへと続く一本道。栄光をひた走る騎士にとっての花道で、ステラと春雪は口々に感想を述べていた。……その横で山積みになっている空箱の山のせいで色々と台無しだが。

 

 

ちなみに、後ろで呆れている西京先生が一緒に居るのは、この山の様な和菓子と軽食を調達してきた功労者だからだ。大仕事を終えた自分へご褒美を与えるべく、会場ではなく繁華街に居たのが運のツキ。人心地着いてようやく我に返ったステラが自分が犯した所業と、となりで洒落にならない殺気を出していた春雪に命の危機を感じたため、SOSの電話を掛けてきたのだ。

 

 

内容は馬鹿馬鹿しくとも、対象が世界有数の危険人物(魔人)となれば話は別。某世界最強の剣士に『行き遅れ』とほざく並にヤバい地雷を踏んだ愛弟子を助けるべく、西京は割と本気で走り回った。どうせ菓子じゃ足りないだろうと軽食もついでに買い込むほど親身になったのは、ステラを腹ペコで放り出した自分に飛び火しない様にという下心もあるのだが。あ、勿論後でステラに代金は請求します、迷惑料込々で。

 

 

「―――にしても、ステラちゃんも大概だけど黒坊も随分化けたじゃないか。まさか1週間で《比翼の剣理》に指を掛けるなんて、相変わらずブっ飛んでんな。大会に参加できてるってことは妹ちゃんも確変したのかい?」

 

 

「本人からすればまだまだらしいけどな、先生。……それにしても《一刀波洵》が間に合って良かった、この光景を見るとつくづくそう思う。やっぱり一輝のこの()()は如何ともし難いな」

 

 

「どういうこと?恋人の贔屓目抜きにしても、イッキの勝利は揺るがないと思うけど。ほら、今も着実に勝ちの目を潰していってるじゃない」

 

 

 ―――剣と槍が鬩ぎ合うこと数分。既に明暗が分かれ始めていた。諸星は致命傷こそ負っていないが、全身血塗れであり素人である観客からは悲鳴がひっきりなしに飛んでいる。一方、勝ち目は薄いと思われていた一輝の方は服が破けてはいるが全くの無傷。しかもいよいよ《一刀修羅》を発動させたこともあり、決着は目前に来ていた。しかし春雪は渋面のままである。

 

 

「ああ、着々と勝利へ近づき《一刀修羅》でチェックメイトだ。だがステラ、そいつは『比翼の剣を以てしても、一輝は諸星を仕留めきれなかった』ということにならないか?世界最強の剣で、剣王とはいえ学生を攻め切れなかったその理由は何だと思う?」

 

 

「……魔力量の差ね。モロボシの魔力ランクは“C”、高くもなく低くもないけど“F”からすれば雲泥の差。例え《比翼》の如き剣の鋭さがあっても、安易に『強化』が出来ない一輝の剣は『魔力障壁』を展開されれば容易く必殺でなくなってしまう。ここまで試合が()()()()のはそれが理由だって言いたいの?」

 

 

「でなけりゃとっくに決着がついてる。お前さん程とは言わんが、せめて同じCランク程度の魔力があればな。あの剣腕に魔力強化が乗ればどんな障壁でも紙屑だろうが、流石に魔力で出来た刀でミサイル並の破壊力が出るほど()()人間辞めてないからなあ、あいつは―――――ん?」

 

 

 ――――その時、絶体絶命の淵に立たされていた諸星の動きが明らかに変わった。そして張り裂けんばかりに吠えたのだ、『任せとけ』と。

 

 

「…ほう、ここに来てあれだけの動きが出来るのか、しかも『0から100への超加速故の対応力の無さ』を突いた投擲か。ここに至るまでの劣勢、流した血も全てこのための布石だった訳だ。だが……」

 

 

「ええ、自分の弱点を誘いの撒餌に出来るのは強者だけじゃないわ。寧ろそういった強かさはイッキの専売特許よ」

 

 

 しかし、大番狂わせは起こらない。いやこの場合は“大番狂わせを絶対に覆せない”と言った方が正しいか。諸星の代名詞、クロスレンジに置いて無類の強さを誇る伐刀絶技《暴喰(タイガーバイト)》を纏った槍は確かに一輝を貫いた――――但し、第四秘剣『蜃気狼』による幻影の、だが。

 

 

 霊装を失い、満身創痍の諸星は成す術無く一輝によって切り伏せられた。しかしその表情は晴れ晴れとしており、力尽きる寸前自分を踏み越えていく好敵手に激励を残していった。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

 ――――それから数時間後、恙無くプログラムが進行していった。ステラの遅刻に関して一悶着起こったが、それも対戦相手だけでなく『同じブロックに居る王馬以外の“暁”も加えた変則マッチ』を提案し、見事鎧袖一触に蹂躙してみせてしまった。他の試合では番狂わせは起こらず、順当に有力選手が勝ちあがっていた。

 

 

「――――まだ一回戦だけど、本当に日本の剣武祭はレベルが高いわね。見てるだけでも凄く勉強になるわ」

 

 

「同感です、特に上位陣と目される方々の駆け引きには驚かされてばかりです。……それにしても、暁学園の暗躍を警戒していた自分が馬鹿みたいです。大人しく試合に臨んでくるのも意外ですが、約半数がステラさんに蹴散らされてしまいましたから。尤も、彼らにしてみればあの人さえ残っていれば何の不都合もないのでしょうが」

 

 

 破軍学園のメンバーの試合は既に消化しており、全員が合流し次の試合を観戦すべく観客席に来ていた。周囲の一般客は前大会で表彰台に上がった諸星・城ヶ崎・浅木の三名が一回戦で敗退するという波乱の展開に沸き立っているが、春雪とステラを除いた学園の生徒は対照的にピリピリと張りつめていた。

 

 

「そうね珠雫。貴方の大お兄様は勿論、春雪の幼馴染さんも随分な強敵みたいよ。一回戦を5秒と掛けずに瞬殺してみせた上、実力を殆ど出していなかったように見えたわ。《白衣の騎士》のどっちが勝ちあがって来るかは分からないけど、3回戦もまた厄介な事になりそうね」

 

 

「いや、この大会において楽な相手なんてものは存在しない。日本最高峰の祭典に偽りなしの強豪ばかりさ、僕なんかが気を抜ける闘いじゃない」

 

 

 一輝もアリス、それから珠雫もいつも通りの軽口を躱しつつもどこか上の空の様に会話に集中していない。それもその筈、この場に居る全員が次の試合に全神経を集中しているのだから。

 

 

間違いなく今大会の最大戦力の一人であり、新宮寺理事長が『比翼と同じ位階にいる』と言った正真正銘の怪物。代表生の殆どがその実力を見ておらず、唯一交戦経験のあるステラも、あの時は完全に遊びであったため全く参考にならない。だからこそ、この大会の頂点の一角を見極めんと研ぎ澄ませていた。

 

 

 

『―――それでは只今より、本日の最終試合となりますDブロック第4試合を開始いたします。禄存学園・加我 恋司選手、それから――――暁学園・彼岸 待雪選手の入場です!』

 

 

 ―――――しかしその決着はあまりにも呆気なく、かつ化物の格というものを思う存分見せつけるものであった。

 

 

 

 

 

 

 




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