豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

31 / 38
第三十話

 

 

 

 

場所:第二治療室

 

 

 

 

「―――おお、解放軍よ。引き立て役になってしまうとは情けない」

 

 

「うるせえ紫乃宮ッ!…クソが、あの牛乳女次会ったらぜってぇぶっ殺すッ!!」

 

 

「ははは、まあ君が真っ先に落とされたのが痛かったね。もし僅かでも意識が残っていれば大番狂わせがあったかもしれないし」

 

 

 どこかで聞いたようなフレーズで煽る紫乃宮と苦笑する待雪。春雪達が観客席で合流していたころ、待雪と紫乃宮も仮の仲間である『暁』の敗退者と合流していた。

 

 

試合直前にも拘らず態々足を運んだのには理由がある。スチャラカなのが多くて忘れがちだが、彼らは立派なテロリストであり公権力の敵。民草の血税で出来たカプセルの利用を拒否される可能性があったので治療をしに来たのと、敗退して一般人の関心が失せたこのタイミングを狙って連盟の刺客が始末しに来る可能性を危惧したからだ。

 

 

「これでよし、と。僕は治療とかそういう精密作業はからきしだから『怪我に至るまでの因果を無かったことにする』ことしか出来ないけど、問題なかったかな?」

 

 

「………いや、全く問題は無いのだが何を言っているのか我には全く理解が出来んのだが。少なくとも絶対『しか』とか言ってはならん御業だと思う」

 

 

 何でも無い事の様に言ってのける待雪に、素でドン引きする風祭。何故なら本気で大したことじゃないと言っているのが目を見て分かったからだ。一体どんな生活を送ればここまでずれた思考になるんだ…と思ったが、良く考えればどいつ(春雪)こいつ(紫乃宮)も規格外だから物差しが壊れてるんだな、と遠い目になった。

 

 

待雪はその馬鹿げた魔力量が祟って制御を要する使い方をすると頭がオーバーヒートする、常人の魔力行使が乗用車の運転だとすると彼のそれはフォーミュラカーで最高速度のまま市街地を駆け抜ける様なもの。同じ所作でも負担は段違いになってしまうのだ。

 

 

 しかしただ垂れ流すままに使う分にはほとんど負担は無く、今しがたやってみせたのも魔力の『現実を改編する力』を前面に押し出した『起きた事実を塗り潰して無理やり空白期に変える』というもの。件の『死者蘇生』もこの使い方の一部であるが、当然ながら制約もある。塗り潰す期間が長くなり過ぎると『今日この場にこの状態で存在する確率』が0に近づきすぎて消滅してしまうのだ。…逆にそれを攻撃に利用する手段もあるのだが。

 

 

「一応理論上では誰でも出来る芸当なんだけどね風祭さん。十分な量の魔力さえあればの話だけど」

 

 

「うんすまん、我が普段弄している言葉より意味不明だぞ」

 

 

「あ、一応自覚はあったんだ。えっと御付きの…シャルロットさん、だったかな。君も酷い怪我だったけど違和感とかない?」

 

 

「―――お嬢様に触った撫でた触れた穢した後でお風呂に入れて差し上げないと羨ましい妬ましい憎いお嬢様お嬢様おじょうさまおじょうさまおじょうさま(ぶつぶつ……)」

 

 

「うん、特に問題なさそうだね。元気になったようで良かった良かった」

 

 

「……それで済ませて良いのか…?」

 

 

 そんなこんなでじゃれ合っていた『暁』の面々であったが、アナウンスで待雪の名前が呼ばれたことで切り上げゲートへと向かう。じゃあ行ってくると言った待雪に、しかし応援する声はない。言う必要が無いからだ、この男が闘志を見せる限り北海道の田舎熊など何する者ぞ。

 

 

例え()()()()()()()()()()()()()()()が相手だったとしても今の彼を止めるなど不可能であると確信しているのだから。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 ―――所変わって闘技場内、入場してきた二人はそれぞれ対照的な歓声を受けていた。加我はその熊の様な体躯と朗らかさに男性のファンは力強さを、女性は愛嬌を感じて各々声を張り上げる。

 

 対して待雪は、何も知らない一般人はその類稀な容姿に黄色い声援を挙げ、事情を知る人間や何らかの探知・分析能力を持つ伐刀者は畏怖さえ篭った視線を投げたまま青褪めた表情で見つめている。

 

 

「がははッ!お前さんが暁学園のトップか、テレビで見るより男前やね」

 

 

「え?総理の放送は聞きましたが写真まで使われてたんですか!?」

 

 

「あー、確か民間の何とか言う放送局で流れ取ったの。ほれ、以前王馬の弟の件で殊更口汚く放送してた所だったはずだべ」

 

 

「………肖像権って言葉を知らないのかな?後で詳しい話を月影総理に聞いとかないと」

 

 

 対戦相手の二人はそんな周囲等意に介さず、実に自然体で向かい合っていた。…微妙に物騒な話が出てしまっているが。

 

 

「それはそうと、お前さんには詫びを入れんといかんの。テレビでお偉いさんが『彼岸青年が敗退したなら『暁』は全員棄権させる』と言ったのを聞いた時は大層たまげた。それはつまりお前さんが王馬より強いってことだべ?小学生で世界一になっても満足するどころか、連盟の外に飛び出して修行しとった奴より上が居るはずないと、大人の下らんパフォーマンスじゃと見縊ってさえおった」

 

 

「まあそれは仕方ないんじゃないかな?僕はリトルにも出てない無名の騎士だし、当時の王馬を知ってる人なら寧ろ自然だよ。実際、彼は口以外とても高水準にまとまっているし」

 

 

「がはははッ、気持ちの良い男だべなあお前さん!プライド高い騎士なら普通怒っとる所だろうに。それに王馬の愛想の悪さは同感だべ、ありゃとことん口下手で損する性質だの。

 …話が逸れた。だが見縊るのも今日この瞬間までだべ、近くで見ればようわかる。お前さんの周囲が陽炎の様に霞んでよう見えん、恐らく()()()()()()()()()()()()()()()()()()べな。そんなもんを文字通り呼吸するようにやってのける規格外の胸が借りれる、まさに騎士の本懐だべッ!!」

 

 

『おおーーーっと!?加我選手、突然制服を引き千切って脱ぎ捨て、ふんどし一丁になったァ!これはどういうことでしょうか牟呂渡プロ?』

 

 

『あれは、ここ一番の勝負どころと考えての気合の表れでしょう。まさか一回戦から見られるとは、彼岸選手がそれだけの難敵だと捉えている証拠だと思います』

 

 

 突然裸になったことには面食らったものの、待雪は加我の気迫を歓迎していた。力を隠して生きてきたがそれでも今までの経験上、少し力を示せばよほどの手合いでなければ直ぐに戦意喪失していた。自分がやる気になっても向かってきた騎士は倉敷以来だったからだ。

 

 

 

『――――それではDブロック第二試合の開始を宣言いたします、Let Go Ahead!!』

 

 

「…じゃあ始めるか。最初の一撃はそっちに譲るよ、君が積み上げてきた全てを賭けて存分に吠えると良い」

 

 

 霊装を展開もせず無防備のままそう宣う待雪に、しかし加我は気分を害することなく行動で応える。『胸を借りる』といったのはこちらであり、肌に感じるプレッシャーと異次元の魔力からも相手の方が遥か格上。ならば挑む立場である以上、向こうの流儀に合わせるのは当然。そう考えた加我は己が切札を開帳する。

 

 

『先手は加我選手!ここはセオリー通りの全身鋼鉄化……いや、違う!!な、なんとォッ!う、腕が増えたッ!!?』

 

 

『なるほど、唯硬化するのではなく整形して第三の腕とした訳ですか。これで手数、攻防全て跳ね上がる…!考えましたね』

 

 

「これが五年かけて編み出したおらの取っておき《鉄塊・阿修羅像》!!彼岸、これがおらが出来る全て!受け取って存分に噛み締めえぇぇぇいッッ!!!!!」

 

 

 身の丈が3メートルまで巨大化した鉄の塊が、怒号と共に押し寄せる。それに対して待雪は身じろぎひとつせず、悠然と待ち構える。この反応に対しある者は愚かと断じ、ある者は錯覚によって裏をかくのかと注視し、一部の人間はただ分かりきった結末を見据えていた。

 

 

 

 ―――――多くの人間が予想した結果は、少数の予想通り訪れず()()()()()()()()()()()()()()()()()()。加我がある一定の間合いに入った瞬間、まるで深海の奥底に居るかの様に目に見えて鈍って行った。

 

 

原因は待雪によって支配されている超高密度の魔力を『加我が前に進む』という現実で押し返し切れないことで生じる反発によるもの。しかしそれでも果敢に猛進し自慢の張り手を撃ちこむが……その一撃ともいえない程勢いを殺がれた6本の腕は、見えない壁に阻まれる様に目前で停止させられてしまう。

 

 

「……構えも取らず、あまつさえ先手を許した男にすら…おらの拳は届かんのか………ッ!!」

 

 

「ああ、届かなかったな。だが一瞬たりとも絶望せず最後まで全霊を賭けて挑んだその蛮勇、他の誰が貶そうとも僕だけは称えよう。見事だった、加我 恋司」

 

 

 業の名に恥じぬ修羅の如き形相で迫る加我に対して待雪は惜しみない勝算を送り、そして勝負を終わらせるために右腕を動かした。それは中指を親指の腹で押え勢いをつけて弾きだす、いわゆる『デコピン』と呼ばれる動きであり、しかも直接加我を撃つのではなく空気を弾くようなそれであった。

 

 

 しかし、超高濃度で充満する魔力がその『現実』に励起し改竄を行い、一瞬にして爆風へと変じていく。そんなものを至近距離で受けた加我は勿論のこと、その放射線状にあったリング諸共吹き飛んでしまった。

 

 

『な……あ…ナパームの直撃にも耐えるリングが…ッ!?か、加我選手の安否は!ここからでは土煙が酷くて確認できませんが―――』

 

 

『審判は何をやっているのですッ!早く試合終了の合図を!!救護班、今すぐに―――「必要ありませんよ」―――え?』

 

 

 観客席からも慌てて委員会の人間が降りてくるなか、ひどく平坦な声音で待ったがかかる。今しがた人を殺しかけたとは思えないほど冷静な声で言った待雪が煙を払うと、そこには五体満足で気絶していた加我の姿があった。

 

 

『おおッ!加我選手、全身を硬化する伐刀絶技で九死に一生を得たようです!良かったですね牟呂渡―――』

 

 

『あ、貴方は何処を見ているんですかッ!彼が生きていることは無論喜ぶべきところですが、何故彼が()()()()()()()()()()()()()気絶しているのですかッ!!?』

 

 

 牟呂渡プロの言葉で、この場に居た全員の表情が強張る。そんなことは知るかとばかりに駆け寄った『白衣の騎士』薬師も伐刀絶技《視診(ドクタースコープ)》で診察した結果に驚愕する。

 

 

あれだけの爆風なら万一表面上は軽傷でも内臓や骨に重大な損傷があってしかるべきだからだ。にもかかわらず、損傷はおろか減少していなければならない魔力すら()()()()()()()()()()()。その事実が齎す意味に薬師は戦慄したのだ。

 

 

「―――当然でしょう?『彼が死んだという事実』は僕の手で塗り潰されたんですから。まあ加減が出来なくて服を脱ぐ前まで戻してしまいましたが、褌が無い所為で全裸(放送事故)よりはマシでしょう」

 

 

 おどけてそう言った彼に、会場は大騒ぎとなる。政府によって即座に火消しされたある噂―――『《騎士殺し》は死者の蘇生が出来る』が事実であったと証明されたからだ。

 

 

騒然となる周囲を気にすることなく待雪はリングを後にし、入口で見ていた紫乃宮と合流する。しかし当然というか、後ろから声が掛り呼び止められる。

 

 

「―――おや、新宮寺理事長。どうしました、こんな所へ態々?」

 

 

「彼岸、一体何を考えている!?おまえの力でも特に知られてはならないものをさらけ出すなど、どうなるか分かりきっているだろう!!」

 

 

「必要だったからです、貴方の後ろで威張ってる人達がこの期に及んで何か企んでる様子だったので。せっかく総理があそこまで啖呵を切ってくれたのに、少なくとも兄さんと当たるまでに台無しにされたら僕、何するか自分でもわかりませんよ?月影総理が余りにも不憫なので『国に害はなさない』という約束を破りたくありませんし。

 それから観客席に居た招かれざる客、その中でも目の色が変な外国人が怪しかったのでつい牽制してしまいました」

 

 

 言うだけ言って待雪が去った後、新宮寺は一人特大の溜息を吐いた。どうやら自分の認識は大分甘かったのだということを。老害たちの執着もそうだが、世界大戦の足音が聞こえるこの情勢で、一国で何人もの『規格外』が発見されるということがどういう反響を生むのか、少し考えれば分かる事だった。なのでこれ以上追い縋ることはせず、親友と相談すべく新宮寺もその場を去って行った。

 

 

 

 こうして七聖剣武祭第一回戦は数多の波乱を生んでようやく終了した。

 

 

 

 




 ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。