あとすまない王馬、君とステラの戦いは全面カットなんだ。本当にすまない……。テコ入れしてない二人だと原作から変化させづらいんだ、本当に申し訳ない。
『―――――さあ、第二試合も終了し残すところあと2戦!しかし西京先生が仰られた通りヴァーミリオン選手と王馬選手は末恐ろしい二人でしたね。まさしく火力対火力と言った感じでッ!』
『まあ火力もそうだけど技術も相当なもんだったぜ?素人受けする戦いぶりなのは確かだけどさ。まあそれよりも何よりも、そんな才能の原石を2週間足らずで磨き上げたこの寧音先生こそがあの試合のMVPなんだけどな!』
『あ、はい』
会場を粉砕しながら白熱した第二試合は、実力伯仲の接戦と言う大衆の予想を覆すものであった。人に在らざる『竜』の力―――幻想の領域にある力を開花させたステラは、その圧倒的な力を思う存分王馬に叩き付け勝利を収めた。
しかし、このステラによる大躍進を以てしても連盟を取り巻く逆風を吹き飛ばせるほどではなかった。何せベスト8に残った選手は半数が連盟脱退派の暁学園であり、しかも残る半数のうち二人は連盟規定に置いて『戦力外』とされるFランク、さらに輪を掛けるのは全員が一年生と言う有様だ。
これでは連盟のカリキュラムの精強さを主張しても何の説得力もなく、仮に暁学園を全て撃破したとしても脱退運動を抑えきれない可能性が高い。そして、それ以上に悩ましいのが、次に出場してくる選手の存在だ。
『さて西京先生、お昼休みを挟んで始まる後半戦ですがどのように予想を立てられますか?破軍学園一年の黒鉄珠雫選手は1回戦にて、昨年ベスト3にして謂わば先生の妹弟子にあたる浅木椛選手を下したことからもその実力は本物です。しかしあの反則染みた魔力を持つ彼岸待雪選手は厳しいのではないかと』
『誰があのタコジジイの弟子だってッ!?……こほん、ま、まあさっきのステラちゃんの試合があるからそう思うのは仕方がないかもねえ。けど、
まあ期待して待ってなよ、男子三日会わねば括目せよってね。唯の野郎でそれなんだ、
~~~~~~
『―――それではもう間もなくインターバル終了時刻となります。関係者は15分後までに所定の場所へお越し下さい。それでは次のコーナーです!観客席から前半戦を終えた感想を皆さんに聞いて回ることにしましょう』
『いやあ今年も凄いねえ。ワシはあの紫乃宮っちゅう子が一押しやわ!最初はなんやなよっとした坊主やなて侮っとったけど、《無冠の剣王》に切った啖呵に惚れたわッ!!ホンマもんの『漢』はあの子のことを言うんやろなあ』
『―――正直言うと旦那の付添いなんです。血が出たり刃物が体に入る瞬間なんて身が縮こまりそう……けど、何故か『野蛮』とは思えないんですよねえ。直で見ると分かるんですけど、彼ら皆の表情がとても綺麗なんですよ、だから文句を言いつつも毎年来ちゃうんですよね』
「……これは後できちんと録画して見せてあげないと。この人たちが抱いた混じりっ気なしの称賛は、君自身が掴みとったんだよ。まあ、この寝顔を見れば欠片も未練はないんだろうけど」
適切な治療を受け眠っている紫乃宮に話しかけているのは彼岸である。健闘を称えたかったのと、第四試合に予定されている兄の試合に間に合うよう治療に来たからだ。しかしあまりにも満ち足りた寝顔を見てその考えを改める。どうせ消える傷とはいえ今の彼にとっては紛れもなく勲章であり、それを外野が安易に穢すわけにはいかない、と。するとそこに――――。
「―――おや、まだ此処に居たのかね。そろそろ行かないと間に合わなくなるよ」
「ふははッ!さしもの《
「彼岸様、お嬢様は『紫乃宮ちゃんは私達が見てるから、とびっきりの弔い合戦をお願いねッ!』と仰っております」
やってきたのは月影総理と風祭凛奈、そしてメイドのシャルロットだった。前者はともかく後ろの二人がやってきたのは、単純に彼岸以外で最も親交があった『暁』が彼女だったと言うだけだ。
自身ではなくその能力に比重が大きい《隷属の首輪》というシンパシーもあるが、親が厳格かつ進行形でテロリストであるが本物の愛情を貰って育ち、日本屈指の財閥令嬢に生まれ、何より
こことは違う有り得た可能性の世界であれば、絶望に染まった紫乃宮はその境遇に嫉妬すら覚えたのだろう。しかし親友、そして憧れに支えられた彼はとても社交的なこともあり、非常に友好的な関係を結んでいる。流石のシャルロットも、触りだけとはいえ紫乃宮の境遇は聞いているので彼に関してはいつもよりブレーキを利かせて大人しくしているのも理由の一つかもしれない。
「それにしても、《夜叉姫》は随分盛り上げてくれるね。新宮寺君―――私の教え子は君の兄だけでなくあの子たちまで君を打倒し得ると思っているそうだ」
「そうですね、しかしそれほど不思議ではないでしょう総理。彼らは放っておいてもきっと『そこへ至る』。何れそうなるというのなら、それが今日であっても不思議じゃない。という訳で行ってきますね」
あっけらかんとした姿勢のまま彼岸は退室した。彼の強さを知る者達はその後ろ姿に全幅の信頼を寄せているため今更いうことなど無い、
「――――チッ、気に入らねェ」
「む?お主も来ておったのか《不転》。我と同じく見舞いに来たのか?」
「……クライアントを一人にする訳にいかねェだろ、まだ報酬も受け取ってねェ内に死なれちゃ困るからな」
部屋の死角から姿を現した《不転凶手》多々良はそう風祭に返す。普段月影と行動している王馬が今日試合な上に満身創痍になってしまったため、代理として彼女が護衛もどきを担当している。実際問題『暁』の躍進と上級生の不甲斐なさから連盟の運営陣はかなり頭を抱えている。ここで短絡的な馬鹿が阿呆な真似に出ないとは言えない状況にあるのだ。
「面倒を掛けるね多々良君。……ついでに聞いておきたいのだが、君は彼の何が気に入らないのかね?敵なら理不尽の極みだが、これほど頼もしい味方はそう居ないよ」
「アタイが気に入らねェのはあいつが妙に『
そう、経歴だけで見れば待雪は『才能だけは最高のひよこ』な筈なのだ。一度も本気の殺し合いの場に立ったことのない『
それを念頭に置いて考えれば、一昨日の試合は異常としか言いようがない。《鋼鉄の荒熊》は確かに真っ直ぐ過ぎる攻め方であったが多々良から見ても優秀な伐刀者だった。『王馬を打倒するために鍛え上げた』と豪語するだけはある覇気を纏っており、あんなもの素人が正面から迎えれば普通はビビッて固まるだろう。
だが待雪は涼しい顔をしてそれらを流し、触れることすら許さず粉砕してみせた。あの時殺しても直せるからとはいえ、あっさりと実行してみせた『慣れ』も堅気とは思えない。あの姿は、まるで物語の
「―――やはり君は優秀な『殺し屋』だ多々良君、よくそこまで観察してみせたものだ。君の気付きは正しく正鵠を射ている。まあ彼の司る『因果』を知ればその不信は払しょくされる筈だ。もし新宮寺君の教え子が真実優秀なら、それが何なのか分かるだろう」
それだけ言い残すと風祭たちにこの場を任せ、今度はサラと王馬の所へ向かうべく月影も病室を後にした。
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『―――ご来場の皆様、大変お待たせしました。これより午後の部第三試合を開始いたします。それでは選手の入場です!!』
ほぼ同時のタイミングで入場する珠雫と待雪、どちらも緊張や強張りなど一切ない自然体で在りながら、長々と双方の説明に入る解説など欠片も届かない程全神経を集中させていた。
「……なるほど、《隻腕》が言っていた通り大した御嬢さんだ。本当に『黒鉄』の人達には驚かされる」
「それ、貴方にだけは言われたくない言葉だと思いますが」
気安く話しかけてくる待雪に対し、元々饒舌でもない珠雫は短い返答で早々に打ち切り開始の合図を待つ。元々語り合うような間柄でもないし、それ以上に声を聴いた瞬間まとわりついてくる感覚が面倒だったからだ。
待雪が有する伐刀絶技の一つである『無意識へ干渉し好意的な感情を植え付ける能力』、制御不能で好き勝手にまき散らすお世辞にも趣味の良い力ではないが珠雫には特に嫌悪感は無かった。常日頃自身へ媚び諂う人々の悪想念が身に染みている彼女だからこそ、この能力に悪意が籠められて無い事を感じたからだ。埒外の力を持つ『異端』である彼が人の輪に留まる為の処世術なのだろうと推測する。
「(それになにより、下手にこの人を怒らせたら冗談抜きで人が少なくなるでしょうし。……馬鹿や屑が減るのであれば個人的にはむしろ歓迎しますが」
「……?何か途中から口に出てたけどどうしたの?物騒なワードが聞こえたけど」
闘いの直前とは思えないくらい、言い換えればとてもらしくない行動をする自身の体から、珠雫は自身が思っているより遥かに緊張しているのだと自覚する。例えどれだけイメージを固めて戦う準備を進めても、目の前の化け物が放つプレッシャーは想像を遥かに超えている。
「(やはり正面きっての戦いは無理、とにかく『奥の手』が発動できるまで如何に時間を稼ぐかが勝負の鍵ッ!)」
努めて冷静さを取り戻すべく、珠雫は試合前に散々組んだシミュレーションを反芻する。そして自身に『水使い』の能力を浸透させ無理やり意識を鎮静化させる。そして――――丁度落ち着いたタイミングで、試合開始の合図が放たれた。
『さあ始まりました第三―――なあッ!?か、彼岸選手が初手から動いたあァッ!!突如珠雫選手のいた場所を中心に爆発が発生しましたが西京先生、これはッ!?』
『……なるほどねえ、妹ちゃんが居た空間を大気諸共揺さぶって超振動を創った訳か。しかも開始の合図からコンマ3秒とかそりゃ避けれんわ』
『これは流石に珠雫選手も万事休すか……いやッ!な、なんと珠雫選手無傷で土煙から姿を現しましたッ!!?予期していたのかそれとも対応してみせたのか、どちらにしても並大抵の業じゃありませんッ!!』
大気で編まれたミキサーに粉砕される直前、『青色輪廻』で何とか離脱した珠雫は、命の危機によってようやく空回りを止めた頭で冷静に待雪を睨みつける。その当の下手人は―――。
「これが噂の『青色輪廻』か、一瞬で発動できるとは素晴らしい魔力制御だ」
呑気に称賛、拍手さえ送ってくるが視線や意識は欠片も緩んでおらず、油断なくこちらを観察している。
「(どうせなら少し位隙があると良かったのだけど。まあ良いわ、『青色輪廻』が使えたなら第一段階は突破。次は……)――『青色輪廻・略式』」
再び珠雫から青い燐光が発すると、それらが集まり別の個体へと変性する。姿を現したのは、一頭の有翼の白馬。そして無数の白鴉が嘶きと共に飛び出してくる。
『青色輪廻・略式』。これは自身の肉体の一部―――より正確に言えば老廃物や不要物のような『元に戻さなくても特に支障が無い部分』へ『青色輪廻』を施し、且つ気化させたそれらを別の個体へと造り替え使役する能力である。これにより自身へかかるリスクを極限まで減らし、さらに乗り物や攻撃手段とすることで珠雫の矮躯を補うことが出来るのだ。
お誂え向きに昼休みを挟んだこともあり、小食な珠雫が周囲(特にアリスや一輝)に本気で心配されるレベルで胃に食料を詰め込めたので大量の軍勢が召喚されることとなった。
天馬に跨った珠雫は空へと上がり猛スピードで駆け続ける。待雪は自身へと襲い来る白鴉を加我の時と同様圧し止め粉砕するが、気化した存在は割いても砕いても暖簾に腕押し。再び集まって体を成すか、もしくは合わさってより大型の個体へ再構成されていく。
「(…さて、何を企んでるのかな?こんな軟な攻勢じゃ年を跨いでも倒せないのは承知のはずだけど。それに、『青色輪廻』を解除して馬で逃げるってことはまだ連続使用は長時間出来ないのかな。
まあ何にせよ状況を変えるか、『略式』とやらに無意識は存在しないみたいだし)」
天馬や白鴉の距離感や体感速度へアクセスするも成果はなし。どうやら内部に強力な演算装置でも用意されているらしく、無意識が介在する余地が無いらしい。ならば力尽くで面制圧と行きたいが白鴉が視界を遮り、蹴散らしても制御された水分が的確に太陽光を目に向けて反射させて来るので無理やり視線をずらされてしまう。
ならばと待雪が手を翳した瞬間、一瞬稲光が発生した後無数の白鴉と天馬は消滅した。以前破軍学園でもやってみせた、『気温』を概念強化することで瞬く間に水分を吹き飛ばしてしまったのだ。かなりの高度から落下する珠雫だが、武芸を身に着けた魔導騎士にとってこの程度大したことではないが着地までの隙は如何ともしがたい。完全に失せた水分を再び発生させる隙など待雪は与えはしない。そのままケリを突けようとする彼は――――。
「……?―――ッ!?な、なんだこのにお……げほ、ごほッ!?くっっっっっっさッ!?」
突然鼻に飛び込んで来たとんでもない『異臭』に意識を持っていかれ追撃を断念させられた。
「―――あら、賭けに勝ったのは私みたいね。確証は無かったけどやはりあってしかるべき『自然物』に対しては自動防御は発動しない様のね」
「うえええ、な、何をしたんだッ?毒の類は聞かない筈なんだけどな……ッ!?」
「ええ、そうだと思ったわ。『死んだ事実さえ塗り潰せる』なら毒を調合しても『食らう前』に戻せば良いだけだもの。だからさっきの『青色輪廻・略式』にはある細工をしておいたのよ」
先程も説明してたが『青色輪廻・略式』には戻さなくても不都合が無い物質が使われている。その中で珠雫が着目したのは、人間が自ら生み出し無害化した元猛毒『尿素』だ。強力な臭気をもつこの物質を気化した際に更にその異臭レベルを強化し、その上で『略式』に潜伏させる。完璧にコントロールされている間は匂いを一切感じさせることは無いが、一度制御の要である『水』が消えてしまえば、手綱を放たれた最臭兵器はその猛威を発揮する。
しかも自身にとっては解除されても無害なのを良いことに、匂いを『ホンオフェ』以上に高めているのだ。世界で2番目に匂う食材であり、口に含んだまま深呼吸すれば失神しかねないほどの異臭を上回るその暴力は、しかし成分上匂って当たり前な上害も毒性も無い為知らなければ無意識の防御も発動しない。そのため待雪にとっては下手な猛毒より余程効果があるといえよう。
「……正直自分から醜態を晒すようで嫌だけど、この闘いに勝つためならこの程度の恥は甘んじて受けるわ。お陰で準備も整ったことだし」
ようやく前後不覚から解放され、『匂いがあった事実』を消した待雪はその『声』に違和感を覚えた。先ほどより少し低いその声はまるで大人が発するそれであり、涙で霞んだ視界を拭えばその正体がなんなのかはっきりと認識した。
『――――――は?』
『――――ゑ?え、な、は…?し、珠雫選手が居た場所が白霧に包まれたと思えば、中から特徴の良く似た別人が……???』
観客席からも素っ頓狂な声が漏れるがそれも無理からぬことだろう。身長は10センチほど伸び、肩甲骨あたりまで伸ばした銀髪、そして魔力で編まれた白無垢のような衣装に身を包んだまるで『大人になった』珠雫が現れたのだから。
「――――――『青色輪廻・極式
そう一言呟き携えた霊装《宵時雨》を待雪へと向けた瞬間―――彼の右腕がまるで『青色輪廻』を受けたかのように気化、霧散した。今まで傷どころか接触すらさせなかった待雪のクリーンヒットに、会場のどよめきがさらに大きくなる。当の待雪すら信じられないものを見る目をしている。
「お兄様以外の男にこんなにも時間と労力と感情を費やしたのは生まれて初めてなんですよ?もし期待外れだったなら……私、どうしてしまうか分かりませんよ?」
――――酷薄な冷笑を浮かべ、絶氷の美姫は降臨した。
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