豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

37 / 38
 新年あけましておめでとうございます。
……はい、盛大に大遅刻をして申し訳ありません。寝正月からなかなか意識が切り替わらない所為で書き方を忘れた章介です。

 こんなダメな作者と作品ですが、今年もよろしくお願いします。


第三十七話《深海の魔女》 VS 《騎士殺し》 ②

 

 

 

「―――な、ななななによあれッ!?し、珠雫が、あの可愛らしい子が大人の女性にッ!!!?」

 

 

「・・・シズク・・・大きくなっても胸は慎ましいままなのね・・・・・」

 

 

「おいお前ら、気持ちは分かるが現実逃避から早く帰って来い。あとステラ、それ絶対あいつの前で言うなよ?今のあいつと闘り合うのはお前さんでも少しキツいぞ」

 

 

 目の前の事態に頭が追い付かないアリスとステラが其々の反応を示し、春雪が何とも言えない表情でそれに応対する。隣で苦笑して見遣る一輝も事前に知っていたから余裕の反応だが、初めて見た時は似たようなものだった。

 

 

「ほらアリスもステラも落ち着いて。春雪、ちょっと解説をお願いしても良いかな?僕も詳しい仕組みが知りたいし、ステラたちも少しは落ち着くと思う」

 

 

「わかった。あの伐刀絶技『青色輪廻・極式 観骨雨迦』はその名の通り『青色輪廻』の派生技だ。一度肉体を気化し、その後再構成する―――その大元は同じなんだが、最大の違いは再構成を自分ではなく『運命に定められた括りの内側で大成した最盛期の自分』へ造り替える点だ」

 

 

 一輝からの要望に春雪は上機嫌で答える。本来ならこういった手の内を晒す行為は好きではないのだが、どうやら自分が関わった才能の開花を自慢したいらしい。人付き合いが無さ過ぎた所為で本人も無自覚だが、意外に師匠馬鹿の気があるようだ。

 

 

「珠雫が考え抜いた、マツだけじゃなくお前達との戦いを見据えて編み出した鬼札さ。どうしても温室育ちのあいつじゃたかが2,3週間地獄を見たくらいじゃ彼我の経験差は埋め難い。道理を万象ごと捩じ伏せる魔力馬鹿や、剣のみの試合とはいえあの《無缺》南郷を間合いに踏み込ませなかった剣術馬鹿を相手にするのに、『学生』に過ぎない肉体は脆すぎる。

 

 

 ―――だから『造り替えた』んだよ。学生で無謀なら大人で挑めば良い、魔力制御においては間違いなく『神童』の天才様が血反吐流した果てに至る境地で挑むなら、不足なんざある訳ない。そうだろ?」

 

 

 言葉にしてみれば単純なこと、アマチュアの試合で勝てないのでプロ選手を動員しただけの話。必ずしも公平である必要のない魔導騎士の理屈で言えば正しいが、そう簡単なものではない。

 

 

「いや、確かに一輝達みたいな規格外と闘うならそれくらいしなきゃいけないのは分かるけど……そもそもどうやって『未来の自分』なんて用意できたの?知る筈のない存在を創り出すなんて不可能でしょう?」

 

 

「ああ、そっちの話か。あるじゃないか、自分の何がどれだけ成長してどこまでもつかを先んじて決めてる、まるで運命みたいなものが」

 

 

「……まさか、遺伝子のことかい?」

 

 

 困惑するアリスに対し、一輝は半信半疑ながら珠雫の業の要を予想する。そしてその気付きは正しく正解だった。

 

 

 人の成長や限界は遺伝子を基に作られている。勿論それは生まれた時点で全てが決まっているなどというものではなく、環境や食物、教育といった外的要素によって大部分が決定する。とはいえ、珠雫は高校1年生であり成長期は終盤に差し掛かっており、DNAに埋め込まれた設計図はほぼ珠雫の運命といって差し支えない。その因果関係を触媒にこの魔術を完成させたのである。

 

 

「まあ負担も洒落にならんがな。俺の餞別も考慮したとしても良くて5分が限界だ、だがそれまでのあいつはKOK世界ランカークラスの化物さ。そら、試合が動くぞ」

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「………『征こう、《偽・創世神器(ホツマツタヱ)》』」

 

 

 呆けた表情もすぐに納め、待雪は今大会で初めて自身の霊装を呼び起こす。動揺は一切ない、まさか理の内側にいる人間から傷を負うとは思っていなかったがある意味で()()()()()()。せっかくこんな騒がしい舞台まで待ったのだ、兄以外肩すかしなどそれこそ興醒めだ。

 

 

 とはいえ、目の前の少女―――現在は何故か淑女になっているが―――は待ち焦がれた難敵に違いない。だからこそ彼もようやく『戦う』気になったのだ。

 

 

『おおっとォッ!!彼岸選手、ここに来てようやく霊装を抜きました!しかし今の彼は隻腕、少々黒鉄選手を舐め過ぎていたということでしょうか、西京先生』

 

 

『どうだろうねえ、あの坊やの『底』はウチでもなかなか―――ッ!?あいつはッ!!』

 

 

 突然、西京が椅子を蹴飛ばしかねない程勢いよく席を立つ。何故なら彼岸の霊装から迸る黒い瘴気は彼女に真新しい『屈辱』を思い出させるからだ。

 

 

『くーちゃん、絶対に観客席(うしろ)に通すな!そいつはマジでやばい!!』

 

 

『ちょッ!?さ、西京先生!!急にどうしたんで―――』

 

 

『後にしなッ!あれはウチの黒刀・八咫烏(あいとう)を霊装ごと『消し去った』業だ。生身なら掠っただけでどうなるか分かんだろ!?』

 

 

 本気で焦る西京の口から出た一言に新宮寺以下職員、そして何より相対する珠雫の警戒度が一気に最大まで高まった。魔力総量こそステラに劣るが、日本でも最強クラスの魔力量と何より地上から宇宙にまで届く絶大な干渉力を持つ《夜叉姫》の伐刀絶技を霊装諸共破壊する一撃。それが如何に規格外なものかは、伐刀者なら誰でも理解できるからだ。

 

 

「――――ッ《凍土平原・氷蛾》!」

 

 

 珠雫が繰り出したのは、学園でも幾度となく披露した十八番。辺り一面を氷で覆うことで彼女以外にとって最悪の足場へと変え、加えて既に出現している氷を触媒にすることで他の業の発生を格段に早めることが出来る伐刀絶技。そして今この状態だからこそ出来る()()()を終えて迎え撃つ態勢を整える。

 

 

 それに対し待雪が仕掛けたのはその場で剣を一振り、ただそれだけ。しかし音が聞こえない見事な一閃はまるで振り払うように黒いナニカを引きはがし、そしてそれは三日月状に姿を変えて()()()()()()()()()()()()()珠雫へと飛来した。

 

 

 遠距離攻撃は想定の範囲内、珠雫は瞬時に厚さ5メートルを超える氷塊を精製し時間稼ぎに使う。…がしかし、次の光景は流石に想定外だった。何せ通常時の数十倍の密度と強度を持った塊が、金剛石にも勝る強度が豆腐の様に引き裂かれ一瞬すら持たなかったからだ。

 

 

 氷塊がリング諸共砕け散り爆発、珠雫の姿は煙の中に消える。そこかしこから安否を気遣う声が上がるがそれ以上に不味いことがある。珠雫を襲った凶刃がそのまま勢い衰えぬまま観客席へと向かっているのだ。慌てて護衛役の騎士が総掛かりで魔力障壁を展開し盾となるが――――。

 

 

「――――へ……?」

 

「な、なんで止まら――――ッ!?」

 

 

 ―――まるで先程の焼き直し、防ぐどころか衝突音一つせず障壁が()()()()()()。その様に騎士達の表情がありえないと青褪める。魔力で編まれたものであれば、それが炎だろうが剣であろうが、はたまた非物質であろうが障壁は必ず干渉することが出来る。障壁を飛び越して本体へ干渉する、若しくは粉砕すると言うのであればともかく手応え一つ無いまま迫ってくる“黒”に全員が死を覚悟した。

 

 

「―――あれ?止まって……し、新宮寺理事長ッ!」

 

 

「早くしろッ!空間ごと“そいつ”を抑えているが長くは保たん!!」

 

 

 しかし間一髪のところでそれは停止した。新宮寺黒乃の伐刀絶技《時間凍結(クロックロック)》を最大稼働して辛うじて食い止めたのだ。しかしこの均衡も長くは続かない為早急に対応しろと、常の態度からは考えられない焦りと共にそう告げた。

 

 

 だが、護衛役達はどうすることも出来ず狼狽えることしか出来ないでいる。それも当然の話であり、障壁が効かない以上物理、概念、因の果何れかで潰すなり矛先を変えるなりしなければならない。と言っても珠雫の氷塊以上の盾は作れず、新宮寺より上の因果干渉系能力者等連盟に居る筈もないためどうすることも出来ないのだ。そう、()()()()()()()()

 

 

「――――第七秘剣《雷光》」

 

 

 一太刀、目にも映らないほどの斬撃が彼等の間に割り込み“黒”をカチあげる。空の向こうに消えたそれに全員が安堵するなか、何故自分達が手も足も出なかったそれを一輝が防げたのかを新宮寺は()()()()()()()読み取った。

 

 

「助かったぞ黒鉄、それから落合も。しかしさっきのあれは何なんだ?どうやって止めた」

 

 

「なに、ちょっとコツがあるんだよあの黒いのは。あれは概念干渉でも因果干渉系でもない、高次元干渉能力とでも言えば良いか。

例えるなら、俺達の世界が別の世界から見れば漫画や小説のようなもので、その上の次元の人間がコーヒーをぶちまけたとする。するとその下の字や絵が塗り潰されて『見る』ことが出来なくなり他の存在から認識できなくなる。そんなトンチみたいな方法で存在を“上から塗り潰して消滅させる”、それがあいつの伐刀絶技《羽々斬》さ。

……それよりも、向こうはそろそろ佳境のようだぞ?」

 

 

 

 春雪の言葉に一輝と新宮寺が舞台へと視線を戻すのとほぼ同時に、会場のあちこちから大きな悲鳴が響き、空中に鮮血が舞った。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 ほんの少し時間を遡る。黒刃に氷塊を両断された珠雫は、()()()身体を気化させ紙一重で避けきった。そして反撃に身を転じるべく再構成を果たした次の瞬間、

 

 

 ――――カツンッ。

 

 

 氷原を踏み込む足音がひとつ。そうたった一歩で届く間合いに、しかもちょうど袈裟切りの軌道に全身がすっぽり入る位置に珠雫は姿を現したのだ。

 

 

「(しまったッ!?無意識の侵食、あれ程警告されてたのに……ッ!)」

 

 

 己の失策を悔いる彼女であったが、既に眼前へと迫る黒刃に成す術は無い。まるで《雷切》との一戦のように、珠雫は無防備なままその一閃を叩きこまれた。しかし―――――。

 

 

「………どういうことだ?胴を吹き飛ばしたつもりだったが」

 

 

 宙に浮かんだ鮮血は僅か、精々薄皮一枚掠めた程度だった。だが待雪の眼前に漂う蒼い蛍の様な灯りにその疑問の解を察した。

 

 

「―――《朽草雹舞》、大気に含まれる水分を触媒に、相手の魔力に浸透しこの『蛍火を生み出す』という何の意味もない伐刀絶技を相手の術式に紛れ込ませる。私自身で考案した貴方やステラさんに春雪さん、そしてお兄様に対する切札です」

 

 

 珠雫の窮地を救ったのは《朽草雹舞》の能力である『伐刀絶技の封殺』であった。通常、伐刀者は系統・触媒・伐刀絶技と自身の可能性を極限まで専門化させなければ世界に干渉することは出来ない。例えば、世界トップクラスの魔力量を持つステラや西京といえど、重力や焔龍と無関係な『水』で奇跡を起こすことは不可能である。

 

この伐刀絶技の最大の利点はそういった魔力の特性を利用したものである。この能力が浸透していることを知らぬまま伐刀絶技を使用すれば、まるでシステムエラーの如くその技は不発する。仮に水を司る能力者であっても、強者であればあるほど魔力制御の高さから無駄な魔力消費などしないため、この余計な術式分の浪費が影響し威力が激減するか最悪業として成立しなくなる程だ。しかも季節は夏、日本の大気には掃いて捨てるほど湿度が混入しており逃れることは困難を極める。

 

 

とはいえ珠雫の表情は依然暗いまま。何故なら切り札と見込んだ業を以てしても眼前の男を止めきれなかったのだから。原因は彼岸が真実『何でもあり』な男であり、制御不能な魔力の海に溶け込んだ術式ごと伐刀絶技を発動させてしまい、威力を殺ぐことが精一杯だったのだ。

 

 

 加えて、何時の間にか()()()()()()()()()()彼岸に珠雫は舌打ちしたくなった。あのドサクサに紛れて自分の腕を元通りにしたのだろう。死者蘇生が叶うならそれ位簡単だろうと頭では理解するがそれを瞬きの間に、しかも全く消耗もせずにやられたら気が滅入りもする。そこに加えて、さらなる一手が状況を悪化させる。

 

 

 

『――――キャッ!?な、なによこれ……ッ!』

 

『地震!?い、いや木も照明も揺れてねえ。じゃ、じゃあ震えてるのは……()()()?』

 

 

 観客はパニックを起こし、魔導騎士達も怯えを隠せないでいる。素人は地震と錯覚するほど自らの四肢を震わせ、伐刀者は理解不能な魔力の奔流に言葉が出ない。しかし本能的な恐怖が邪魔をするのか、はたまた原因が“余計なことはするな”と言外の恫喝を浴びせるからか。試合を中断させるような騒動は起こっていない。

 

 

 こうなった理由は単純明快――――怪物が本気になっただけだ。

 

 

 待雪にとって最大戦力である伐刀絶技《権能疑似再演》の一柱を受けて生きている以上、もう珠雫は路傍の石でも『成長を期待する手中の雛』でもない。全力を以て倒すべき、いや倒したいと切望する宿敵に他ならない。そんなバケモノの喚起に曝された珠雫は――――

 

 

 

 ―――()()()()()

 

 

「この瞬間を、貴方が出し惜しみなく本気を出すこの時を待っていたわッ!!」

 

 

 そして珠雫は最後のカードを切る。今日の試合全ての行動がこの瞬間のための布石、全魔力を注ぎ込み()()()伐刀絶技を発動する。

 

 

 

「永久氷結―――降臨せよ、《白亜の(きざはし)》」

 

 

――――ゾワリ、悪寒を感じた待雪は反射的に空へと手を翳し頭部を守ろうとした。が、その瞬間()()()()()()()。驚愕に目を見開くも、空には何もない。だがほんの僅かに月明かりのような白い光が自身を覆っていると認識した途端、僅かな間だが待雪の意識は暗転した。そしてその瞬間を珠雫は逃さない。

 

 

《白亜の(きざはし)》。それは珠雫が西京の禁技(シールドアーツ)《覇道天星》から着想を得た伐刀絶技であり、簡単に言えば大気の層の一つ『中間層』にある水分や氷に干渉し気化させ地上へと降り注ぐもの。夏場はマイナス100度以下となるその冷気をさらに天才的な魔力制御によって概念強化、液体窒素を遥かに上回る絶対零度をライデンフロスト効果を起こさせない様に作用させる。

 

 

地球で起こせる冷気や水で勝てないのなら、地球より外にある物を使えば良い。それが出来るだけの力が『青色輪廻・極式 観骨雨迦(いま)』の自分にはある。これで仕留めきれれば行幸だが、予想通りこの切札では待雪の命には届かない。そのための最後の鬼札であり、そのための布石は既に打ってある。

 

 

珠雫が組んだ術式が発動し氷を精製する、それは先程まで何度も見た光景であるが唯一にして最大の違いがある。それは珠雫が()()()()()()()()()()氷塊を編み上げている点だ。

 

 

布石の正体は大量にばら撒かれた《朽草雹舞》。さきほど蛍火を何の意味もないといったがそれはあくまで攻撃手段としての意味。この業の真骨頂は伐刀絶技の封殺ともう一つ、相手の魔力へと介入するという謂わばハッキングの入り口となることだ。

 

 

通常時であれば意のままに操るなど不可能だがこの一瞬、意識が明滅し制御が完全に失われたこの瞬間なら話は別。相手の全力の魔力に珠雫自身の魔力が相乗された、理論上は絶対に中から壊せない永久氷結の牢獄が完成する。

 

 

「―――永遠に咲け、《死想凍華(スノードロップ)》。……《ガランサス》の通り名を持つ貴方にはお似合いの華でしょう?」

 

 

 先程まで蔓延していたプレッシャーは完全に鎮まり、残っているのはリング中央に出現した光すら通さない蒼黒の氷柱のみ。それに相対する珠雫は魔力の全てを吐き出したせいでいつもの小柄な少女へと戻っているが、自分の意志で力強く立ち上がっている。状況に頭が追い付いた観客から順に、俄かに歓声が起こり始めている。

 

 

 

「………これで終わりよ」

 

 

 




 ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。