豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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第三話

 

 

 

 

 ――――あの決闘から数日が経過した。今日は始業式なのだがこれまでは特にトラブルもなく、精々妙に距離が近くなった一輝とステラ(皇女呼びは止めろとうるさかったので)をからかうくらいだった。

 

 

 今日は俺にしても一輝にしても新しい門出なのだが、そんな仰々しい空気など無くいつも通り日課のジョギングに興じていた。……後ろで一人大変な事になってるが。

 

 

「お疲れ様。全力疾走+ジョギングの20キロをもう走りきるなんてやっぱりすごいな」

 

 

「朗らかにしてるとこ悪いが、さり気なく命の危機がリターンしてたんだぞお前」

 

 

「…へ?」

 

 

 まったくこの修行中毒者は妙な所でずれてるな。初日と今日はともかく、二日目は完全にアウトだったろ。初対面の事を不問にして貰ってても、指南役でもないのに皇女殿下にリバースさせれば豚箱にぶち込むのに十分足る理由だ。念のためエチケット袋を用意してなけりゃ公衆の面前で皇室の品位を辱める所だった。

 

 

「ぜぃ…ぜぇ…と、ところで、イッキはともかくアンタもへっちゃらなのねハルユキ。まったく、二人揃ってどういう身体能力なのよ」

 

 

「ああ安心しろ、インチキしかしてないから。そうでもなきゃこんなイカレたメニュー熟せるわけないだろ?」

 

 

「胸張って言うことじゃないでしょ!?」

 

 

 そうは言ってもなあ、『ビショップⅠ』の調整に最適なこの訓練が悪いんであって俺は悪くない。

 

 

 この後はステラが間接キスに炎上したり、一輝の妹の話題が出たりと賑やかに時間が過ぎて行った。しかし、周りの強烈な悪意に染まらず兄を慕い続けた妹……嫌な予感しかしないんだが。

 

 

 

 

 

 

 ――――入学式は非常に簡素で淡々としたものだった。場所によっては在校生のパフォーマンスや学長の有難く長い話があるのかもしれんが、ここの理事長の性格的にどっちもあるはずがない。

 

 

あっという間にホームルームに通されることとなったが、そこで待っていたのは去年も担任をしていた折木有理先生だった。俺この人苦手なんだよな、別に人間性に問題はないし寧ろ唯一の良心レベルだったが、俺達を庇わせた所為で随分迷惑かけた。一時は解雇するか否かまで拗れたんじゃなかったか?

 

 

 教師としては非常に優秀な人で、若そうな見た目に反してベテラン顔負けの、人にやる気を出させる語り掛けをしてくれる。本人自身もかつて現役で鳴らした魔導騎士だけあって言葉にも説得力があるし、言うこと無しな先生なんだが……。

 

 

「それじゃあみんな、これから一年全力全開でがんばろう。えい、えい、お―――ブフォァッ!!」

 

 

『ユリちゃあああんッ!!!?』

 

 

 ―――極度の虚弱体質なんだよなあ。去年も何度提出資料が犠牲になったことか…。とりあえずこの後の事は一輝に押し付…任せて、俺が先生を保健室まで運ぶことにした。

 

 

「ご、ごめんねえ落合君。今日は先生HRだけだし何とかなると思ったんだけど」

 

 

「相変わらずのようで。いっそ休職して『白衣の騎士』にじっくり見てもらっては?当代無比の天才医師なんでしょう?」

 

 

「………去年、見てもらったの」

 

 

「…で、結果は?」

 

 

「…………聞かないであげて」

 

 

 ……この人の病って人知を超越してやしないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――保健室から戻ると、一輝の奴が銀髪の小っこい女と接吻していた。態勢的に小さい方から仕掛けたみたいだが、最近の女の子は進んでるねえ。…爛れてる、の間違いかもしれんが。

 

 

「―――四年間を埋めるならセッ――――」

 

「イッキはアタシの御主人―――」

 

「身も心もイッキの…」

 

 

 ……あいつら、ここが教室だってこと忘れてないか?これこのまま続けたら一輝の奴死ぬんじゃないか、社会的な意味で。あ、なんか雰囲気がおかしな方向に流れてきたな。ここは三十六計逃げるにしかず、か。後始末は任せた一輝、ものすごく大変だろうが頑張ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――そしてその週の休日。

 

 

 …授業って、簡単に消滅するもんなんだな。小さいの(一輝の実の妹とのこと)とステラが教室を消し飛ばしてくれたお陰で座学も二日分吹き飛んだ。後日休日で補填されると思うと今から辛いものがあるな。

 

 

 本日は学校が始まって初の休日である。一輝はステラや妹やらとデートに出て行ったらしい。修羅を気取りながらリア充も兼任するとか何気に凄いことだよな。あいつ位器用なら世の中の鬼職人たちも女房泣かさずに済むのかな?

 

 

 え?俺?…行くわけないだろ。合コンも断じてごめんだが、全員の集中線一人に向いてるデートの付添なんて拷問でしかない。という訳で次の試合の準備とか調整してるんだが、前回全くといって良いほど消耗しなかったからすることが無い。それに新武装とかも考えてみたがインスピレーションが湧いてこない。

 

 

 このまま籠っててもしょうがないから、気晴らしに出てくるか。ネタ漁りと言えばやはり漫画やゲームとかだな。フィクションを容赦なく再現してみせるのが固有霊装や伐刀絶技だし意外と馬鹿に出来ないんだよな。確か学園から一番近い本屋と言えば……デパートの中にあったな。

 

 

 ――――あれ、あいつら何処で遊ぶって言ってたっけ?

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 ―――――ダダダダッ!!

 

―――ガシャアアンッ!

 

 

―――――キャアアアアアアッ!?

 

 

 

 …はい、お約束の展開ですよこの野郎。なんでネタ探しが戦場巡りになるんだよ。本屋のバックヤードで『ビショップⅡ』に命じて姿を隠したが、何とも面倒な事になったな。

 

 

 このままトンズラしてしまっても良いんだが、内申点考えたら手伝い位はしておくべきなんだよなあ。まあこういう時は上司(理事長)の判断を仰ぐか。

 

 

『――――はあ、お前も巻き込まれたのか落合。先ほど黒鉄たちからも連絡があってな、お前の分も戦闘許可を出すから協力してやってくれ』

 

 

 …やっぱりかあ、あいつのトラブルに好かれる才はどうなってるんだか。とはいえ、一輝一人ならともかく、他にも出来る奴が3人もいるなら出番なんざ……いや、ステラと一輝は存外脇が甘いところがある。後詰めとして動けば美味しい所にありつけそうだ。

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

「ぎゃあああッ!?お、俺の腕―――『ゴキッ!』グェ……」

 

 

「―――うるさい、その程度の傷なら『iPS再生槽(カプセル)』で幾らでも治せる。お前がステラにやったことを思えば足も切り飛ばしてやっても良かったんだぞ」

 

 

 おーおー、キレたあいつを見たのは初めてだな。怒るほど情が湧く相手に恵まれなかったってのは不幸だが、まあ良い傾向だろうよ。それに黙らせるついでに喉を潰したのも正解だ。リーダー格を喋れるようにしていたら碌なことしないからな。

 

 

 しかし、『解放軍(リベリオン)』ってのは随分人材豊富な組織なんだな。小遣い稼ぎ程度にあんな面白い固有霊装を差し向けられるんだからな。尤も、育成能力が全く追いついていないようだが。『大法官の指輪(ジャッジメント・リング)』か、威力に関係なく無効化・吸収する異能とそれを魔力に還元しカウンターに仕える異能のセットか。ジャイアントキリングにもってこいだな。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 しかし、やはり腕は立つんだが実戦経験の無さが酷いな。自分がやって見せたことをどうして相手がしないと思い込んでしまうんだか。どう見ても計画的犯行なんだから、スパイや伏兵は真っ先に懸念すべきだろうに。なまじ上手く奇襲をかけられたのが不味かったか。

 

 

「動くなアアッ!!ガキども、動いたらこのババアの頭を吹っ飛ばす!!」

 

 

 ほーら、言わんこっちゃない。にしても頭を潰して置いて良かったな、命令聞くしか能のない雑魚だから、せっかく人質を取ってもどう動いて良いか分かってないな。…にしても、見学してる方から見たらひどい茶番だな、両方とも。

 

 

 今更婆さん一人の命で逆転できる盤面じゃない。そうでなくともヴァーミリオン皇国の殿下と一市民が釣り合う訳が無い。大人が出張って来た時が雑兵と婆さんの終わりだな。

 

 

 そして一輝たちの対応も悪手だ。水使いでかつ制御に優れた伐刀者なら背後から不意討ちするなり、銃のスライドを氷結させて撃てなくするなりできるだろ。若しくは一輝なら人質を考えなければ充分引き金を引かせずに斬れるってのに。―――()()()()()()()()

 

 

 

 ―――――『タンッ』

 

 

 

 久しぶりに使ったが、頼りない音だな。こんなしょぼい音が命を奪うってんだから銃ってのは恐ろしいもんだな。

 

 

 

「あ…あなた何をやってるんですかッ!人命を最優先するのが我々の役目ではないんですか!!ステラさんがどれだけ耐えたと思って――――ッ!」

 

 

 何か妹御が捲し立ててくるが喧しいことこの上ない。()()()()()()()()()()()()()、何のために『幻想形態』があると思ってるんだ。

 

 

「――――あッ」

 

 

「幻想形態ならどれだけ致命傷でも気絶しかせん。しかも熟練の剣士ですら意識を保てないほどの脱力感を雑魚が持ち応えて引き金を引けるわけないだろうが」

 

 

 俺個人の主観になるが、『幻想形態』こそ伐刀者が常人に勝る最大の長所の一つだと思う。こういった人質救助は勿論、唯の警察なら困難な首魁の生け捕り、あと薄暗い話も含めればどれだけ拷問しても死なせずに済むってのも利点だろうよ。せっかく生まれ持って得た技能なんだから最大限活用しないでどうする?

 

 

「……ところで、いつまでコソコソ隠れてるんだ桐原?」

 

 

「ひどい物言いだなあ、落合君。こういう荒事は君みたいな人が適任だと思って譲ってあげたのに」

 

 

 さも驚愕したとばかりに表情を変えるステラたちだが、新入生はともかく、一輝は予想付くだろ。普段からギャーギャー喧しい取り巻きがあんだけ人質になってたら分かりそうなもんだが…ああ、ステラ以外眼中になかったんですね分かります。

 

 

「―――久しぶりだね…桐原君」

 

 

「ああ久しぶり、黒鉄一輝君。前は同じクラスだったけど―――君、まだ学校に居たんだ?」

 

 

「……うるせえよ桐原。こっちは今機嫌が頗る悪いんだよ。いつも通りの無駄口吐くならテロリストの犠牲者を一人でっち上げるぞ?」

 

 

 俺には一輝の様な武人特有の威圧とか出来んから、殺気と『ビショップⅠ』が流す人に聞こえない重低音で代用だ。というより、自分で言うのも何だが今の提案が魅力的過ぎるな。テロリストの、しかも伐刀者を多く内包した『解放軍』相手なら殉職者が出ても不思議じゃない。それに、今なら()()()()()()()()()()()

 

 

「―――わ、わかったよ、君なら本当にやりかねないしね。ああ、じゃあ最後に一つだけ。どうやら僕の選抜戦の第一戦はそこにいる黒鉄君みたいだからさ、まあお互いに精々頑張ろうじゃないか。僕も誰かさんみたいに人殺しにはなりたくないしね」

 

 

 

■■■■

 

 

 

『――――そうか、上手くやってくれたか。助かったよ落合』

 

 

「ええ、デパート内の監視カメラ及びデータは全部破壊しました。銃弾で派手に壊しといたんで警察もテロリストの仕業だと考えるでしょう」

 

 

『……はあ、態々留学生として招いておきながらテロに巻き込まれた挙句、公衆の面前で大層な辱めを受けることになった。これが外に漏れたらヴァーミリオン皇国との関係が非常に危うくなるところだった。これで何とか学園に口出しされる要因を潰せたかな?』

 

 

 さてな、政府…いや、『黒鉄』が余程の馬鹿じゃなければ問題ないんだが、正直期待薄だな。国家機関を抑えて好き勝手する一門の理性なんぞ発情期の動物以下だろ。

 

 

「……ところで理事長さんよ、ごみの一掃本当に出来てんのか。初戦で学年違いと当たるとかおかしくねえか?前途有望な芽を潰さんよう、特に一学年のDランク以下は第一戦と二戦は同学年で当てるって話じゃなかったか」

 

 

 これは公表されてないが、第0戦まえに受けたレクチャーで聞いた話だ。新入生なんて『騎士の卵』というより『元中学生』だ。どれだけ固有霊装に恵まれてようが実戦経験なんて皆無だ。そんな状態で経験者の上級生と当てたら勝敗は明らかだ。変に自信喪失して芽を潰さないための方策で、その中には実戦授業未経験の一輝も対象になってたはずだ。

 

 

『黒鉄から対戦相手を聞いたのか?……すまない、私の落ち度だ。対戦の組み合わせは機械処理によるランダム制だった。しかも何故か抽選が決まった途端我々の決裁を通さずにそのまま君たちの端末へ送られたらしい。技術者を呼んだらほんの僅かなシステムの不具合だそうだ』

 

 

「…再抽選の予定は?」

 

 

『無理だ。全ての対戦表を見たが、有り得ない対戦カードになっていたのは黒鉄と桐原だけだった。初の試みでエラーや不具合が起きたとなれば生徒に不必要な不安を与えるだけだとな。折木先生は再抽選に賛成してくれたが、他は『どうせ後か先かの違いだ』とばかりでな』

 

 

「……全然改善されてないじゃないですか」

 

 

『これでも大分マシな人材を集めたつもりなんだがな。だが、ランクを盲信する流れは今や日本全体に蔓延してしまってる。こればかりは私の伝手でも締め出し切れなんだ』

 

 

「そういえば選抜制を採用してるのウチ位でしたね」

 

 

 そういうことだ、との返事の後は特に連絡事項もないので通信を切った。それにしても、ここまで執念深いと気持ちが悪いな。何処からでも湧いて害を及ぼすさまなんぞまさに害虫だ。

 

 

 偶々システムエラーが出るのはまだ分かる。そしてそれが一輝にのみ該当したというのも、確率だけで言えばない話じゃない。だが対戦相手が数百人いる上級生の中で桐原が当たってまだ偶然というのは冗談がキツイ。学校内での人気を見ればどちらがヒーロー役でどっちがヒール役になるかは考えるまでも無い。況してや一輝にとっては、学校公認の暴力行為などという、トラウマになってても可笑しくない因縁を持った相手だ。この二人を初戦で当てる以上、対戦カードからは悪意しか見えてこない。

 

 

「明日の試合、どうなることやら」

 

 

 ま、俺に出来ることなんて皆無だ。それに悪意が絡みついてくるなんてのもある意味今更だ。ここで堕ちるようなら所詮それまでだったってことだ。

 

 

 

 

 ―――――しいて異なることと言えば、俺が人殺しになる理由が一つ増えるくらいか。

 

 

 

 




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