豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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第四話

 

 

 

 

 

『い…一射目を見事に防いだ黒鉄選手、ですが二射目からは全く反応できず試合は一方的な展開になってきました』

 

 

 

 ……やはりこうなるか。手も足も出ない、ならまだしも動かしてないんじゃそりゃ防ぎようがないわな。トラウマが原因って訳じゃないのは意外だが、なら何故ここまで動けてないのかが良く分からん。有栖院とやらはあがってるとか言ってるがそれだと余計に謎だ。

 

 

 まだ一年だけの付き合いだが一輝は何でああも精神的に健常者なのか、俺には永遠の謎だな。本人から聞けた範囲だけで推測しても、あいつに味方が居た時間がどれだけあるか不明で、此処に来る前からかなり綱渡りな人生を歩んで来たらしい。敗北すればそれで終わりとか今更な話(・・・・)だし、敵意しか向けてこないその他大勢にああも気を遣れる精神が何故未だに擦り切れてないのやら。いっそ心から修羅になってしまえば楽になれるだろうに。

 

 

 それにしても、やはりこの試合マッチは指向性が働いていたな。桐原の阿呆が吐いた言葉で確信が持てた。何でお前が一輝の卒業条件を知っている?理事長が持ち出した特例はあくまでFランク(俺達)だけのものだしあの人が理由もなく他人に触れ回るとは思えん。それに例え教師と言えど一生徒の卒業に関して口出しをする権利はないしそれを聞くこと自体が不謹慎だ。つまり、それに関して理事長の口を割らせられる権力者がいて、無関係の生徒に漏らしたという事になる。周囲の反応が、全く周知されていないことを物語ってるしな。

 

 

 

「Fランクにそんなこと出来るわけないじゃん」

 

「七星剣王になんてなれるわけねえだろ!」

 

「ネットでもヤラセって定着してるんだぜ」

 

「Fランクの癖に背伸びしてんじゃねえよ!」

 

 

 

 …うるせえなあ。つーか、審判も試合に関係ねえ駄弁りなんざ止めさせろよ。妨害行為も良いとこだろうが。あと、Fランクを馬鹿にしてるってことは俺にも唾吐きかけてるってことで良いんだよな?

 

 

 

「―――そういえばもう一人Fランクの人いたけど、そいつは?確かデモで生徒会役員に勝ってたけど」

 

「あ?『落第騎士(ワーストワン)』が卑怯者なんだからあいつも裏で八百長したに決まってんだろ!なんたってアイツは『虚言(スウィン)――――」

 

「おいバ――――ッ!?」

 

 

 ……………………………あ゛ぁ゛?

 

 

 

「だまれええええええええええッ!!!!」

 

 

 

 ――――み、耳があッ!?……黙らせるんなら是非もっと早くにしてほしかったんですがステラさん。それかもう少し遅ければ物理的に(・・・・)黙らせられたんだが、完璧にタイミングを逃した。

 

 

「――――そういう訳なんで、いい加減銃口降ろしてくれませんかね理事長?」

 

 

「…さも心外と言わんばかりの表情はやめてくれ、去年お前が何を仕出かしたか知らないとでも思ったか?」

 

 

「だからですよ。あいつはステラに五体投地でもして拝んどくべきですね、明日からも枕を高くして寝てられるんですから」

 

 

 もし『あの呼び名』を言い切ってたら手遅れだったのになあ。しかしまだあれを口にする死にたがりがいたとは思わなかった。……間引いた数が少なかったかな?

 

 

「……はあ、まったくお前が関わると溜息ばかり出てくるな。それで、試合の方は見なくて良いのか?先程よりはマシになると思うが」

 

 

「いやあ、青春してますよねえあの二人。寧ろあそこまで調子が戻れば後は消化試合でしょ、俺の『切札達』と今まで遊んできた一輝なら、たかが(・・・)ステルス如き見飽きてるでしょうから」

 

 

 しかし初めて守りたいと思った女性からの言葉で奮起とは、中々ロマンチックな展開じゃないか。是非このまま上手くいってもらいたいもんだ。ここでどれだけ大事なものを創れるかがきっと分水嶺になるだろうしな、前回出場者を下したとなれば連中も本腰上げてくることになる。形振り構わなくなったあいつらが何考えだすかは想像すら出来んが、無茶をする時ってのは必ず脇が甘くなる。もしその状況になれば…、悪いが最大限利用させてもらうぞ一輝。

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

『――――さあ!大どんでん返しが起こり、会場の騒つきが収まらないまま第二回戦へと参ります。まずは対戦相手の紹介をいたします。一人目は第0戦で生徒会書記からまさかの白星をもぎ取ったFランク騎士、落合春雪選手!そして対するは、本校にDランク騎士として入学してきた新鋭、有栖院 凪選手!!』

 

 

 ―――散々ハラハラさせられたけど、一輝は何とかプレッシャーと恐怖に打ち勝って勝利を手にした。彼に続いてあたしも…と言いたいけど、よりによってこの人と当たるなんてツイてないわね。

 

 

「それじゃあさっそく始めましょうか。早く愚痴を聞いてあげないとあの子(珠雫)が膨れちゃうから」

 

 

「安心しろ、俺が使うのは基本『幻想形態』だからすぐに帰れる」

 

 

 ――――慢心…じゃないわね。してくれたらありがたいけど、良く考えたら何十回も切られ刺されしたら、急所じゃなくても普通に死んじゃうから当然の配慮なのかもね。

 

 

 対戦カードが組まれたときから調べたけど、彼のデータはほとんど見つからなかった。授業に出られなかったんだから当然だけど、とにかく不確定要素が怖いのよね。私の土俵は固有霊装『黒き隠者(ダークネスハーミット)』による接近戦だから相手のクロスレンジの得手不得手は勝敗に大きく関わってくる。

 

 

 

『始まりました第2試合!!落合選手は先の戦いと変わらず20体の人形の様な兵隊を呼び出しております。はたして有栖院選手はこの数の暴力に対して攻略法を持ち合わせているのでしょうか!?』

 

 

 ―――分からないことを考えていても仕方ないわ。目の前の事に集中しないと!思った通りかなりの練度と連携ね、でもこのスピードなら――――ッ!

 

 

 

『おおッ!素晴らしい動きです有栖院選手!まるで舞踊の様にしなやかな動きで落合選手の布陣を躱し切っています。今年の一年生は文句なしの粒ぞろいですね西京先生!』

 

 

『うははッ!あの動きには馴れを感じるねえ。有栖院って子もどうして修羅場をくぐってるなあ。はー、出来れば後半戦で見たかったなあ。こんなの初っ端からしたら後が霞みまくりっしょ!』

 

 

『……あーもう、どうしてこの先生はそういうことをッ!!――――っと失礼しました。おや?有栖院選手、突然敵陣のど真ん中で膝を着いたかと思えば、周りの敵兵も突然動きを止めました!これは一体どういうことでしょうか!?』

 

 

 ふぅ。ヒヤッとした場面もあったけど何とかなったわね。なまじ攻撃の密度が濃いお陰で楽に影の集約点を突けたわ。

 

 

「……?ほう、影を媒体に干渉する能力か。面白いな、それに随分白兵戦に手馴れてるんだな。一輝が質実剛健とすれば有栖院は変幻自在と言ったところか」

 

 

「あらありがとう。でも私の業は一輝のまっすぐなそれとは比べるのも烏滸がましいわよ。あと、呼んでくれるなら『アリス』って呼んでちょうだい」

 

 

 まったく、こっちがやっとの思いで封じたってのに余裕そうにしてるんだから。倒しても消えて再召喚されるなら縫い止めてしまえばこれ以上使役できないんじゃないかしらって淡い期待してたけど……流石にそう甘くはなさそうよね。

 

 

 

『―――おおっと!?動かなくなった人形に見切りをつけたのか、落合選手そこからさらに兵隊を呼び出した!しかも30体もの数で形状が先程と違います、これは有栖院選手絶体絶命かッ!!』

 

 

 ……この人本当に元Cランクなのかしら?計50体も運用して顔色一つ変えないなんてどういう絡繰りよ。

 

 

 新手の兵隊さん達は胴体から上は変わらないけど、下半身が馬状で所謂ケンタウロスみたいな姿をしてる。それにショッピングモールで見たライフルを装備してる個体もいる。『影縫い(シャドウバインド)』を警戒して遠距離用で揃えてきたわね。……狙い通りよ。

 

 

 

『―――え、あ、有栖院選手が消え…ッ!?』

 

 

 落合くんとの決闘、他の人に比べて沢山の不利を押し付けられるけど唯一つ、あたしだけが拾える有利がある。障害物が無い所為で普段は『日陰道(シャドウウォーク)』が機能しないけど、彼だけは人形がつくる影があるおかげで有効に扱うことが出来るのよ。

 

 

 狙うは彼の影から飛び出しての奇襲。初見・背後から・潜行故に足元からの襲撃という人間にとって最も対応が困難な場所からの一撃は、例え事前に察知していたとしても回避は至難の業よ。これで何とか盤面を優位に―――――――――え?

 

 

 

『な、なんと落合選手、瞬間移動もかくやという有栖院選手の奇襲に対して見事なカウンターを決め、逆に喉を掴み片腕で釣り上げてしまった!あの平凡な体躯のどこにそんな怪力があるのか不明ですが、どうしてあれだけ優位な状況で畳み掛けないのでしょうか!?』

 

『春やんの足元見てごらんよ。掴み上げられる直前に固有霊装を足元の影に打ち込んでる。ジェットコースターばりの緩急の中で咄嗟に動けたのは大したもんだけど、頸動脈が極まってるからもって30秒か、そうでなくても兵隊共が追い付いたらアウトだ。この数秒で決着がつきそうだな』

 

 

 ―――ありえない。過去の経験から相手の動きや身体つきでどの程度動けるか大凡想像が出来る。その感覚が、『彼は白兵戦の経験は皆無』だって教えてくれているわ。なら、さっきの奇襲を捌くなんて絶対に不可能な筈(・・・・・・・・)よ。ましてや人形が固有霊装なら尚更……ま、まさか?

 

 

「まさか一戦目から『ビショップ』を2機とも使わされるとはな。お陰で気合が入ったよ」

 

 

「――――そういうこと。あなた、人形そのもの(・・・・)が固有霊装なわけじゃないのね。あの時の、正確に一発でテロリストを仕留めてた時に気付くべきだったわ」

 

 

「そういうことだ。ま、機会があったら一輝に教えてもらうんだな。それじゃあ幕引きだ」

 

 

 何とか振りほどこうともがくあたしだったけど、袖口から黒い液体の様な『ナニカ』が頬を横切った瞬間、後頭部からの衝撃であたしの意識は沈んでいったわ…。

 

 

『―――――試合終了!勝者、落合 春雪選手!!』

 

 

 

 ――――そんなアナウンスをどこか遠くに聞きながら。

 

 

 

 




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