―――――闘技場を思わせる施設、学校への申請が通れば自由に使用できる訓練場で一人の少女が佇んでいた。目を閉じ微動だにしないその姿は、祈りを捧げる聖人にも武者震いを抑える戦人のようにも見える。
彼女の造形も合わせるとまるで芸術家の絵画のような一面は、その静寂を切り裂くように現れた4つの人型によって戦場へと変貌する。燃えるような赤い髪の少女は自らに接近する存在など脅威に値しないとばかりにゆっくりと瞼を開き迎撃する。
躍り掛かる3振りの軌跡は彼女の思い人のそれに酷似しているが、技術に置いては数枚劣る。しかし人ならざるゆえに人以上の膂力と骨格から放たれる一撃は偏に下位互換とは切り捨てられない。しかし彼女にとっては脅威に値しない。
自らの大剣で二振りを粉砕し、残る一刀は驚異的な魔力量によって強化された腕で掴み取って握り砕く。そして仕上げに全身から噴出した焔によって離脱する隙を与えず薙ぎ払った。
しかし、残る一振りが行動の終わりの一瞬を縫って強襲する。その一撃は先の三振りを遥かに凌ぐ鋭さであり、まともに受ければ終わりだと告げる勘に従い形振り構わず回避する。必死の一撃を躱された小太刀は、それを意に介することなく顔が付くほどの近さで連撃を振う。
少女の獲物は大剣であり、ここまで接近されれば引き離すか下がるかしなければ真面に振うことは不可能である。ところが彼女は嵐のような連続攻撃をその場に止まり全て受け止める。勿論手詰まりなどではなく、単純に下がる必要が無いからである。確かに剣を振ることは出来ないが、相手を止める方法は何も攻撃だけではない。
――――パキリ、と頼りない音が響く。しかしそれは当然の帰結であり、有り余る超高密度の魔力で編まれた大剣に全力で打ち続ければ起きないはずのない結果だった。況してや彼女自慢の『
「いやーお見事。流石は学園屈指のパワーファイター、期待以上の成果だ」
「……アンタねえ、これどういうことよ!」
『イッキ~』
襲撃―――ではなく、春雪の実験に付き合わされたステラは彼をジト目でにらみながら足元に転がる『ソレ』を指差す。それはいつものマネキンのような人形…とは異なり、つい最近彼女と恋人になった少年『黒鉄一輝』を、某スマホアプリに登場する『ノッブ~ッ!』と鳴く不思議生物風にデフォルメした人形であった。
「ハルユキはアタシとイッキの関係知ってるでしょ!?どうして恋人の似姿を切ったり焼いたりしなきゃいけないのよッ!アタシ達への嫌がらせ!?それとも真性のドS!!?そういえば試合でもよくえげつない手を使ってたような……」
「…お前の中で俺がどういう扱いされてるのは良く分かったが、そういうお前も結構ノリノリだったろうが。それに、『実験の内容には文句を付けない』って言質を取った筈だろ?」
話は数日前の事。その週の休日に特に予定の無かったステラは、春雪から人形の耐久実験に付き合って欲しいと頼まれた。模擬戦なら二つ返事で受ける彼女だが『実験』という熱意に欠ける誘いは興が乗らず最初は断ったのだが、彼が前金として渡してきたこの『ぐだぐだイッキ(春雪命名)』にハートを撃ち抜かれ、碌に話も聞かずに了承してしまったのである。
「うっ…。だ、だったらあのシズクもどきは何なのよ!?やたら強いし『幻想形態』じゃなかったし急所を容赦なく狙ってくるし、耐久の実験じゃなかったの?」
『メスブタ~、アシフト~(プスプスッ)』
「おっかしいなあ、側だけ変えて中身は弄ってないはずなんだけどなあ?入れた覚えもないボイスまで喋るし、ブラコンが魂にまで染みこんでんのか?」
ちなみに、ぐだぐだイッキは本人に無許可で作成したが『ぐだぐだシズク』の方は本人の許可の元作成されている、というより創れと圧を掛けられた。兄への用事で入室した珠雫は、緩んだ表情のステラの胸に沈むぐだぐだイッキを見た瞬間彼女に入手経路を吐かせ、その足で彼に自分の分を強請ったのだ。
春雪としては、技術提供の報酬ということもあり割と吹っかけた値段を要求したのだが、彼女は即金で3つ購入するという、普段見せない
「ふう、まあ良いわ。アタシも久しぶりに良い訓練が出来たし。―――あ、っとごめんなさい。明日にちょっと用事が出来ちゃったんだけど……」
「ん?別にもう良いぞ、充分データが取れたからな。けど今日と明日は用事ないんじゃなかったか?」
「………ちょ~っと一輝とプールにね。二人っきりって言葉が付かないのがアレだけど、セクハラ対策兼監視に、ね。じゃあ本当にごめん、埋め合わせはきちんとするから。あ、そうだ!せっかくだからハルユキも一緒に行かない?」
「(…また女ひっかけたのか、アイツ)いや、せっかくだけど遠慮しとくよ。ちょっと弟と会う予定があってな」
「え、弟さん!?でも貴方家族とは―――ッ!ご、ごめんなさい…」
「いや、噂聞いただけでもそう思って当然だ、気にすんな。あの
■■■■
「―――へえ、じゃあ無事再スタートが切れてるんだね。世界ランキング3位を招いた甲斐は有った訳だ」
「……お前なあ、人の心配してる場合か。小さいころから口酸っぱくして言い聞かせたはずだよなあ?お前の『伐刀絶技』は
久しぶりの再会場所がファミレスってのはアレだが、学生の財布事情は厳しいので仕方がない。俺は臨時収入があるから問題ないがこいつ絶対俺の奢りは拒否するからなあ、妙な遠慮が抜けん奴だ。
まあ、釣り合いって意味じゃ最初から取れてないから今更か。かたや高身長高APPで魔力特化型のCランク騎士、かたや中肉中背に色々拗らせてるせいで顔つきの悪い
文武両道・礼儀作法も完璧と、どこぞの世紀末覇者の『兄に勝る弟なぞ存在しない』を真っ向から否定するこいつは、ただし現代で一番重要な
「うん…、正直かなり厳しいと思う。でも何とかしてみせるよ、幸い当ては有るからさ。」
『当てがある』って顔色じゃないが、『
「それより、兄さんこそどうなんだい?破軍は今年、一年による群雄割拠が凄いってネットに流れてたけど勝算は?動画じゃ序列上位を完封してたけど」
「あーどうだろうな、残り試合は戦績上位の潰し合いになるから何とも言えん。だがあと残り2試合だし、鬼札を2枚とも引かなきゃまず問題ないだろ」
「鬼札…一人は序列一位の『雷切』として、もう一人は『紅の淑女』?」
「いや、俺と同じFランク様だよ。あいつと選抜戦やるくらいならいっそ棄権するさ、負けるとは言わんが『半分は持っていかれる』だろうさ。そうなったら本戦はパアだな」
これは冗談とかじゃなく本気だ。もし俺と当たったらあいつは初動で『一刀修羅』を抜いて速攻をかけてくるだろう。『ポーン』と『ビショップ』じゃ反応速度で負けるし『ルーク』は絶対に抜かせないだろう。
となると切札の『ラウンズ』だが、あれらには一輝も製作に一枚噛んでるから手の内はバレバレだ。情報が出てないってアドバンテージをこんな所で失うのは論外だし、『クィーン』『キング』『アウターシリーズ』は例え七星剣武祭決勝でも晒す気はない。『あいつ等』のためのとっておきだからな。
「うわさに聞いてたけど本当に凄い人なんだ…。是非会ってみたいね、兄さんがそこまで褒めるのも珍しいし」
「やめとけやめとけ、馬鹿が揃うと碌な事にならねえ」
「……えー」
「トラブルメイカー二人とか周りが過労死するか心労で倒れ――『ガシャンッ!!』――――うわあ、噂をすればなんとかって奴か。おい、会いたいならあそこに…って居ねえし」
だからお前は馬鹿だってんだよ。前言撤回、自分から揉め事に突っ込んでんだからそりゃ足も付くだろうよ。ただ、自分に関係のないトラブルに率先して動けるような奴が騎士として大成できないってんだから、やっぱこの国なんかおかしいわ。
■■■■
――――ガシャンッ!!
「いっっってえええええぇッ!!?」
「―――え?」
自分の真後ろで悶絶している、サングラスに厳つい髑髏のタトゥーの半裸男を見て一輝は唖然としていた。このガラの悪い男が自分の想像している男だったなら例えボトルビンだろうと間合いを測り損なう筈が無く、ましてや振り切って自分の足を強打するなど有り得ない。しかし目の前の男は戸惑うことなく、周りを見渡すとすぐ唸るような声とともに一点に目を向ける。
「この気色の悪い感覚、やっぱテメエか『
「うわあ、その二つ名もう他校まで広まってるのかい?それはそうと久しぶりだね道場破りさん、ざっと2年ぶりってところかな」
声と共にこちらへ男性が歩いてくる。外見からは自分達と同年代に見えるが、随分落ち着いた雰囲気の青年だ。しかし一輝はそんな男に対して妙な違和感を感じていた。
「(なんだろうこの違和感は、初めて会った人なのに不自然なくらい……?)えっと、あなたは―――って、え?春雪!?」
「よう、何というかまあ奇遇だな御三方。また妙なことに巻き込まれてんな?それはそうとそっちの半裸男さんよ、殺る気満々の所悪いがこわーいお姉さん方が見てるってよ。それでもやんのか?」
「―――チッ、興ざめだ。それにせっかく面白そうな剣客見つけたってのに『毒』で楽しめなくなんのは御免だ」
そう言い捨てると半裸の骸骨男―――改め『倉敷 蔵人』は取り巻きを連れて引き上げて行った。状況が呑み込めない一輝達だったがとりあえず春雪と見慣れないお互いの連れを紹介し合う。
その後は生徒会の大物二人と出くわしたり、見慣れない女性『綾辻 絢瀬』が血相を変えて飛び出したりと色々起こったが、それ以外は特にトラブルなく全員が帰路へと着くこととなった。
ここまでご覧いただきありがとうございます!感想・質問等いつでも大歓迎です!!