「――――ありがとう、それじゃ決闘までにまたいろいろ教えてね落合君」
…はあ、随分軽い足取りだこと。最初は処刑台に上げられる罪人みたいに重かったのが嘘みたいだな。つうか感謝よりまず2,3話するだけで1時間も掛ったことについて返事が欲しかった、何だよ『知らない男の人と目を合わせるのが恥ずかしい』って。あんなんで良く反則に手を出そうとしたな、あいつ。
「…あら、一輝の前に現れなくなったと思ったら貴方の所に顔出してたのね彼女」
「アリスか。何だ、お前もあのオボコ女と顔見知りだったのか?」
「ええ、一輝に稽古付けてもらってた所を珠雫達と一緒にね。それよりついさっきまで喋ってた人の名前くらい憶えておきなさいよ」
「そもそも名乗られてないからな」
『まったくもう』とため息つかれても俺の管轄外だ、あの女に言ってくれ。アレが突然やってきた用事は昨日の弟の件だ。道場破りだって知ってるのは何故だって聞いてきたから答えてやっただけだ。
具体的な日にちは忘れたが、数年前弟が通っていた道場にあの髑髏半裸がやって来たらしい。果し合いが望みとかで、偶々師範は留守だと伝えるとメッセージ代わりになれといきなり門下生に襲いかかって来たとか。当時から並外れた腕前だったそうで剣の腕なら到底適わなかったようだが、何というかまあ相性が悪すぎた。妙な違和感から固有礼装まで抜いてきたそうだが、剣客があいつに剣を抜いてる時点でもう手遅れだ。看板の話すら出る前にお帰り頂いたってのが話のオチだった。
あと話したことと言えば、素人でも分かるくらいSAN値が削れてる様子だったからカマかけて吐かせた位だ。何でも今日の夜にあいつを呼び出して罠にはめるつもりだったとか、具体的なことは伏せたが狙いは『一刀修羅の封印』だとか。アホらしい。
「…確かに浅はか過ぎる考えね。この数日の付き合いだけでも彼女がどれだけ純粋に剣に打ち込んで来たかわかるわ。そんな愚直な女の子が自分で納得しきれない策を実行して、まともに剣が振れると思ってるのかしら?しかし大したもんだわ、それだけ追い詰められた子をどうやって説き伏せたのかしら」
「何か認識の齟齬があるようだが、俺は止めさせたとは一言も言ってないぞ?寧ろ全力で煽ってやったくらいだ」
俺がアホだと言ったのは、せっかくの罠があんまりにも杜撰だったからだ。一刀修羅を封じたくらいで勝てるような薄っぺらさなら、一輝はとうに刀を置いてるだろうよ。あと視野狭窄になってるのか知らんが、あれの本命は半裸髑髏であって一輝じゃないはずだ。どうせ悪辣さを学ぶのなら奴にも応用できる手管を身に着けないでどうするのやら。
「……貴方、自分が何をしようとしてるのか分かってるの?貴方の入れ知恵があれば確かに勝率は辛うじて生まれるかもしれないわ、でもたとえ万が一が起きても彼女は七星剣武祭には―――ッ」
「まあまず無理だろうな。特に珠雫と当たれば悲惨だ、間違いなく再起不能になるまで痛めつけるに違いない。だが目的を果たすのに代表になる必要なんかないだろう?
あの半裸髑髏の反応から見て、間違いなく一輝に目を付けてる。それなら遅かれ早かれ『
後は罠に飛び込んだ獲物を狩れば終いだ。地の利は当然こちらにあり、必要なら伏兵を用意すれば良い。―――は?卑怯?そもそも先に身内に手を出して死合いを強制させたのは向こうだ。都合の良い時だけ尋常の勝負を気取る方がどうかしてる、因果は応報させるもんさ。
「……随分彼女に肩入れするのね?貴方がそこまで御膳立てする理由なんてないと思うのだけど」
「ほう?お前から見てもそう思って貰えるなら建前としては上出来だな」
「―――え?ちょ、ちょっと待ちなさい。どういうこと?今長々と話した内容は綾辻さんを教唆するための方便だっていうの!?」
「嘘は一言も吐いてないさ、あれが
この学校セコイ癖に肝の小さい奴ばかりだからな、あいつに一番必要なこの経験が中々得られそうになくてやきもきしてた所なんだ。こんなにも都合が良い役者が居れば利用しない手はないだろう、大根役者なのが玉に瑕だが。
「理解できないわ。そりゃあたしも縁を切る覚悟を説いたけど、進んで状況を悪化させるなんて獅子の子落としにしても度が過ぎてる。まさか一輝の『眩しさ』に嫉妬してるんじゃないでしょうね?」
「はは、本当にどう割り切ればあれだけ擦れずにいられるんだろうな?まあ、羨ましくないと言えば嘘になるが、とはいえ矯正するなんて偉そうにするつもりはないさ。現状維持もよし、切り捨てる冷徹さを得るもよし。ただ、今のスタンスを貫くなら卑怯も邪道も呑み干して叩き伏せるだけの度量を身につけてもらいたいもんだ。善性は尊いが、身の丈に合わないそれは必ず周囲に代償を払わせる。そうなったら全員が不幸だ」
流石に桐原の阿呆と闘り合った時の様な醜態はもう晒さんだろう。だが裏切られたという事実、『誇り』に対する意識の落差に傷つくだろうな、だがそれじゃあ温いんだよ。冷徹さや一線を引く孤独を拒否するんだったら『その程度じゃ裏切りにすらならん』って言ってのける泰然さを身につけろ。学生に求めるもんじゃないが、あいつを取り巻く環境はそこまで要求するし出来なければ容赦なく潰されるだろうよ。
まあそういう訳だ一輝。お前からしてみれば絶対に欲しくないプレゼントだろうが、いつも通りの気合と根性で乗り切ってくれ。精々こちらも手を掛けさせてもらうとしよう。
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――――翌日になり、オボコ女に逢引きの首尾を確認したが上々だったようだ。基本的な方針は変えていない、実利としての目的は『一刀修羅の封印』であり流石にここを変えられるだけの時間が無かった。
手を加えたのは話運びの方だ、当初アレは一輝の熱意など歯牙にもかけていない、所詮七星剣武祭までの通過点に過ぎないというスタンスで揺さぶりをかけようとしていた。方向性としては悪くないんだが、普段とかけ離れた対応というのはやはり違和感を持たれやすい。
なのでアレにはあえて剥き身の感情で訴えかけさせてみた。それも熱意や意地などでは無く、暗く濁った憎悪や妄執といった負の感情を、だ。こちらは演技などするまでも無い。
『ラストサムライ』と半裸髑髏の決闘は確かに二人だけのものかもしれんが、それの実害を被ったのは二人ではなくアレであり、そこから発生した憎しみも恨みもアレだけのものだ。二人が口を出す資格はない。しかもそれが2年だ、年季の入った憎悪は生やかなもんじゃない。
普段感情を制御して生きてる一輝にはさぞ馴染の無いものだったろうな。そしてそれはあの半裸髑髏にも当てはまる。あいつは逆に感情を抑えることも責任を負うこともせず生きてきたクチだ、そうでもなきゃ壊すだけ壊して尻ぬぐいも碌にし得ない屑は出来上がらん。
そういった手合いは『この手で臓腑を抉り回し、死ぬ一瞬前まで苦しみ抜かせてからでないと絶対に死なせない』なんて狂気を捌ける筈が無い。例え剣の腕が劣ろうがスペックで負けてようがそんな些細な違いで退けられるほど安いモノじゃない。故に両者に有効な手だと言える。
加えて、このやり取りを七星剣武祭なんてややこしくせずあくまで二人だけの話に留めておいた。『黒鉄一輝に勝利した事実』が必須ということは『君が勝った瞬間僕の2年間は水泡に帰す』ということにも繋がる。はっきり言って責任転嫁も良い所だが、感情に正論を言ったって時間の無駄だ。こういった正論を返しても無駄だと思わせ、かつ後味をとにかく悪くすることで少しでも剣閃が鈍れば値千金だ。
流石にここまで上手くはいかなかったらしいが、成果としては上々のようだ。もう少し時間があれば徹底的に半裸髑髏への悪感情を引き出して名演をさせてやれたんだが。まあ俺が干渉するのはここまでだ。あくまで用があるのは選抜戦が始まるまでのやり取りで、勝敗が分かりきった試合になんぞ興味はない。道場の件とやらもあの御人好しなら勝手に首突っ込むだろうし―――――『Pipipipi!』―――ん?次の対戦相手か。
……ほほう、これは予想外の相手だ。不戦勝やら一つ白星が多いやらで俺はもう選抜のノルマが終わってる。だから最終試合はなしかと思ったが、こいつはまた都合が良い。是非本選前に試したいこともあったし、さっそく理事長に相談してみるとしますか。
『落合春雪様の相手が決定しました。
―――――三年三組 東堂刀華様』
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――――国際魔導騎士連盟・日本支部。
首都を一望できるほど大きなビルのある一室、手元に
「―――選抜戦の結果は以上です。他に特筆すべき点としては『最後の侍』の娘に剣の指導を行っていたとか。必要であれば捏造できるだけの資料は揃えておりますが…」
「不要だ。『最後の侍』の名は派手すぎる。徒に秩序を乱すことは『黒鉄』の方針に反する」
「承知いたしました。…ところで、何故『出来損ない』の資料まで態々―――」
「一輝の資料こそ目を通す必要があるからだ。他に報告が無いのであれば下がれ」
当主の命に逆らえるはずもなく退席する部下であったが、その表情は理解できないものによって歪んでいた。
「やれやれ、保存が必要なほどの価値もないだろうに。それに何故態々名前で呼ばれるのだろうな?存在する価値が無いなら『アレ』で十分だろうに」
一人ごちたが、万が一聞かれてはことなので早々に離れていく。対して一人になった巌は引き出しから一枚の写真を取り出す。そこには今は亡き妻と、三人の子供たちが映っており、彼にとって唯一家族が全員そろった写真なのである。
「一輝には指導者の才も有ったのか。…外へ出し、多くを知れば分相応の道を見つけると期待していたが、何故お前は名刀にも勝る才能を捨てて鈍ら以下の剣を握る?」
それは彼にとって永遠に理解できない事柄だった。彼は決して息子を軽んじたことは無い。軽んじているのは彼の伐刀者としての才能であり、不幸なのは生まれながらに当主となるべく育てられた彼と『黒鉄』の家に伐刀者以外の世界など存在していないことだ。
それ故彼は息子を『(伐刀者としては)無価値』としか評価できず、黒鉄家には非伐刀者の席が無い事を熟知しているが故に一輝が家を飛び出すことを了承したのである。そも、秩序の奴隷ともいえる彼が『扶養放棄』とみられても当然の行為を実施したこと自体が異例中の異例と言える。尤も、これで家族への情を理解しろというのは無理があるのだが。
「努力は評価する、実績も認めよう、望むならその強さを祝福もしよう。だが伐刀者としてその先を求めることだけは認められん。僅か10年で、加えて我流で黒鉄の剣を修めたお前だ、必ずその身を限界まで練り上げるだろう。だがその先は―――『バタンッ!』―――ここには顔を出すなと言ったはずだぞ、『蘇芳』」
突然部屋へと入ってきたのは華奢な体躯の少年だった。巌の次男と長女を足して二で割った様な中性的な整った顔立ちで、黒い髪に銀のメッシュが特徴の美少年である。
「お仕事中申し訳ありません。ですが、いよいよ
「…結果が出る前に外に出るのは契約違反だ。早く失せるかそのまま―――」
「ああ、はいはい分かりました。このままだと『宣誓』で本当に死にかねませんので失礼しますね」
言い終わるより前に退出した少年を、巌は絶対零度の視線で見つめていた。『黒鉄 蘇芳』は表沙汰にされていない巌の四番目の息子…と戸籍上では記録されている存在である。
巌の一輝に対する態度をどう勘違いしたのか、『血』を蔑ろにする黒鉄なら最優の伐刀者を生み出せば当主と主家の座が得られる、と考えたとある分家が畏れ多くも中興の祖である『サムライリョーマ』の遺骨にiPS再生漕に使われている技術の応用を用いて生み出された。下手人は早々に排除したが彼の存在までは消すことが出来ず、表に絶対出せないことから巌が『管理』しているモノである。
「…国防という観点から『■■』の存在が不可欠なのは理解している。だが、あの化物の同類になるくらいなら、お前は何もできない人間のままでいてくれ一輝」
普段からは想像できない声音で発せられた言葉は、しかし誰の耳にも届くことは無かった。
イッキパパの『これじゃない』感が凄いですが、この辺は作成予定のキャラ紹介で詳しく書きたいと思います。あと、雪春による某女子の扱いが悪いのは、彼女が三年生(在学生)なのが主な原因です。
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