豚も蹴落としゃ宙を飛ぶ   作:章介

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 久々にこっちを投稿します。……お盆休みなんてなかった(笑)


第七話

 

 

 

「はっはっはッ!道場破りが七星剣武祭レベルの死闘になるとか、相変わらず『持ってる』な一輝」

 

 

「笑い事じゃないわよ、仮に他人事だからってアンタに笑う資格なんかないわ。綾辻先輩に色々仕込んでおいて、イッキがどれだけ大変だったか……」

 

 

 春雪は見なかった試合だが、綾辻綾瀬の霊装『緋爪』はこの男の助力により容赦なくその猛威を振るうこととなった。

 

 

 試合前夜に『緋爪』の能力である『刀傷を自在に開く能力』とその応用である『空間に付けた刀傷を開くことで疑似的な鎌鼬を発生させる技』で会場中に罠を設置した。しかもただ設置した訳ではなく、春雪の指導によって、一輝の癖や体捌きを徹底的に計算した上でだ。

 

 

 このお陰で開戦当初から関節や足の腱といった重要な部位に傷を負い、左腕一本しかも普段以上に機動力を殺がれた最悪の状態で戦う羽目になった。その上避けども避けども未来予知を疑うほどの精度で罠が設置されており、開始一分で一輝は満身創痍に陥った。しかもいちいち出血がひどくなりやすい部位を狙って鎌鼬が仕掛けられているという悪辣さで、見た目の酷さから一時はTKO(テクニカルノックアウト)を取られかけた。

 

 

 さらには、罠は武闘場だけでなく観客席にすら万遍なく仕込まれており、『もし私が劣勢に陥った時は今観客席に居る君の大切な人の首を吹き飛ばす』とまで脅してくる始末。勿論実行するつもりのないハッタリであるが、『一刀修羅』と自慢の機動力を失った一輝にとっては、万一自棄になって実行された場合防ぐ手立てがないため相当な焦りを見せることになった。

 

 

 一輝としてはこの状況でも唯勝つだけ(・・・・・)ならどうとでもなる。しかし彼女の誇りを取り戻したいと考える一輝は、しかし自分の我儘と大事な人(ステラと珠雫)を危険に晒し続けることを天秤にかけるというジレンマに精神をすり減らし続けた。最終的には綾辻が人質を取ってすら倒し切れない事実と罪悪感から自爆したことで説得が可能となり勝ちを拾うことが出来たのだが。

 

 

 

「何を言っている?()()()()()一度も手を差し出さなかった癖に泣きついてくる恥さらしが、一輝のための良い肥料になったんだ。出来栄えとしては三流も良い所だが、まあまあな予行演習になっただろう?こっちとしても手を掛けた甲斐があった」

 

 

「あ、アンタねぇ……」

 

 

 絶句するステラに対し、一輝の方は唯苦笑するばかりだった。一年の付き合いで彼がこういう人物だというのは良く知っているし、実際あれは間違いなく絶体絶命に窮地だった。綾辻先輩が元々高潔な人物だったからどうにかなったが、もしあれが『黒鉄家の連中』だったら果たして自分は勝つことが出来たかどうか…。

 

『日本の秩序』と『黒鉄家の面子』しか眼中にない彼らなら珠雫はともかく、所詮余所者でしかないステラや一般人のアリスや春雪を『必要な犠牲』と見做さない保障はないのだから。

 

 

「それよりも、今日の対戦相手は今までとは比べ物にならない強者だ。自身で前線には出ない春雪なら『雷切』の間合いには入らずに済むけど、それだけじゃ彼女は攻略できない」

 

 

「まあ何とかするさ。それに俺の勝ち星なら別に無理して勝ちに行く必要もないしな、せっかく七星剣武祭本選を前乗りできるんだから、精々試させてもらうよ」

 

 

 あくまでいつも通りの姿勢を崩さない春雪であるが、その瞳の奥が実験中のモルモットを見るかのように光っているのを、一輝とその場に居合わせたアリスだけが見咎めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――えーそれではお待たせしました!これより第五訓練場本日最後の試合を開始いたします。流石にこの一戦は会場だけでは収まらず、別室にてモニター観戦が行われるほど注目されていますが、それも当然と言えるでしょう。対戦カードは、早くも事実上の七星剣武祭出場内定を決めた実力者「落合 春雪選手」!そしてもう一人は、本校が誇る生徒会長であり、前回七星剣武祭ベスト4!校内序列第一位「東堂刀華選手」!!』

 

 

 

 会場が歓声で大きく揺れる。第零試合にて序列四位たる砕城 雷を破って以来有栖院アリスに唯一の黒星を付け、その他は殆ど棄権による勝利によって凄まじい速さで勝ち名乗りを得た春雪。かつての因縁から恐れる者、新入生故良く知らずその力に憧れる者、そして嫉妬する者と様々な立場の人間が多種多様な思惑を持って見つめている。そして共通するのが『今日をもって全勝記録に土が付くのか、将又学園最強の騎士すら退けるのか』の一点だろう。

 

 

『両者霊装を構えます。東堂会長はいつも通り抜刀術の構え、対して落合選手もまたいつも通りの人型……ではありませんッ!?これまではマネキンの様に味気のない人形でしたが今回はまるで騎士甲冑の様に精巧で傍目には芸術品の様な細工です!これは一体どういうことでしょうか、解説の折木先生』

 

 

『えっとねえ、彼の伐刀絶技は「細工が細かければ細かいほど、技術が優れていれば優れているほど性能が強化される」というものなの。本人曰く技術を注げば注ぐほど内包できる魔力が増えてスペックに反映されるらしいわね』

 

 

 解説二人の会話に会場でどよめきの声が広がる。殆どの学生が春雪と親しい会話したことが無いため真偽を確かめるすべはないが、もしそれが事実ならこれまでの試合ずっと彼は殆ど実力を出さずに戦ってきたということなのか、と。同じ疑問を持った解説係が折木に問いかけるが彼女は首を横に振る。

 

 

『そうじゃないよ~?確かに細工を掛ければ強くなるけど、当然創り直す手間も増える(・・・・・・・・・・)。マネキンさん達みたいに半永久的に供給することはできなくなる。それにあれはあくまで限定生産された随伴歩兵。ほら、本命(・・)が来るわよ?』

 

 

 そう言い終わるか否かのタイミングで再び会場が揺れる、しかし今度は喚声による比喩ではなく物理的な重量によってだ。現れたのは身の丈3メートルを超す異形、蜘蛛を模した八本足を持つ下半身にカマキリの様な胴体、頭部は複眼を持った鬼のような兜で両手は人のような形状にそれぞれ大型のハルバードを携え肘の部分にはタワーシールド、下腹部にもかなり物騒な形状のドリルが二本配備されている。

 

 

 

「ルークシリーズの『キメラ』か。いきなり性質の悪い手札を切って来たね春雪は」

 

 

「ルーク…あれがですか?チェスの駒ではルークは主に塔や戦車、砦を模していると聞きますが」

 

 

「そうだよ珠雫、まあパッと見だと分かりにくいけど後部から乗り込むことが出来るんだ。今回は相手が屈指の雷使いだから避けたけど、あの超高密度の装甲は物理防御に対して絶大な効果を発揮する。僕や桐原君だと2時間かけても足の一本がやっとだろうね」

 

 

「…アタシの時に出てこなくて本当に良かったわ。蜘蛛は瞬発力なら動物の中でも相当よ?神経とか筋肉は必要ないらしいから強度と重量バランスさえ整えばあの図体でも再現できる。もし全速で突撃してきたらなんて考えたくもないわね。仮に避けたところで態勢が崩れればハルバードで薙ぎ払われ、それを往なしても随伴が足止めしてくる」

 

 

 観客席で見つめるステラ達は、製作に深くかかわってきた一輝の解説を聞きながら固唾をのんでいた。恐らく両者ともに七星剣武祭に出場するであろうことから、この一戦から勝筋が見えなければ本選は絶望的になると皆が感じていたからである。

 

 

 そうこうしている内に試合開始の合図が放たれる。まず動いたのは生徒会長、開始と同時に抜刀術で放った剣閃を二振り嗾けるが、眼前で仁王立つ『キメラ』には傷一つ付けられない。その強度に目を見張りながらも、御返しとばかりに文字通り飛んできた怪物を迎撃する。

 

 

 彼女の選択は回避でも後退でもなく前進、それも無数に地を踏みしめる足元を潜るという彼女以外にとっては自殺でしかない道を。自身の肉体を魔力で補強し、さらにその上自らの伐刀絶技の応用で伝達信号(インパルス)を強化・最適化し人間では不可能な速度で突進する。

 

 

 肉体に多大な負荷が掛る為一度きり、しかも一瞬しか使えない捨て身業であるがその一瞬で無数の踏み足を掻い潜り『キメラ』を回避してみせた。一気に間合いを詰めたい東堂であったが、随伴歩兵に予想外の苦戦を強いられることとなる。今まで見てきたポーンを遥かに上回る性能というのも一因だが、最大の理由は二つ。

 

 

 

「(『―――閃理眼(リバースサイト)』も『抜き足』も通じない。切断面から神経回路を持たないとは思いましたが、複数の探知機構まで備えているとは…)」

 

 

 春雪の兵隊に神経回路や筋肉は存在しない。よって伝達信号を読み取ることで先読みする『閃理眼』は効果が無い。ならばと師匠たる『闘神 南郷寅次郎』直伝の体術『抜き足』で突破を図るが、視覚以外に熱源探知・エコーロケーションも備えているポーンの包囲は乱れることなく彼女を追尾する。

 

 

 もしもう一度『キメラ』が突撃してきたら捌き切れるか分からない。それ故全力の雷を纏わせ随伴歩兵を一合で切り伏せ距離を詰めていく東堂。対する春雪は、壊されるだけ無駄とポーンを追加することなく剣閃による牽制は袖口より飛び出した黒い液体―――アリス戦でも用いた伐刀者補助用の兵隊『ビショップ』によって弾き飛ばす。しかしここまで接近してしまえば『キメラ』は脅威ではなくなる、その図体故に春雪自身を巻き込むリスクが出てくるからだ。

 

 

 ようやく自身の戦いが出来る間合いへと辿り着いた東堂。これ以上厄介な奇襲が敢行される前に、彼女は最大の切り札を切った。クロスレンジにおいて不敗を謳う最強の伐刀絶技、強力な磁界を発生させ鞘から抜き放つ神速の居合『雷切』を解禁し勝負にでる。

 

 

 『ビショップ1』が春雪の周囲に展開し迎撃に出るが、あまりの速さ故に刃が触れるより早くその『鋭さ』で吹き飛ばされ、最強の伐刀絶技は春雪の肉体を深く穿っていった。

 

 

 全ての力が失われ、重力に惹かれ崩れ落ちていく肉体。しかし彼が地面に接触する直前、『閃理眼』が信じられないものを捉える。渾身の『雷切』を放ちこの一瞬だけとはいえいかなる変化も出来なくなった彼女の米神に、銃口を突き付ける(・・・・・・・・)落合春雪の姿があった。

 

 

 視線を横から前に移す。そこには変わらず胴を深々と切り裂かれ沈黙している春雪の姿がある。しかし依然として米神に感じる重量もまた変わらない。仮にどちらかが精巧な偽物であれ、どうして直前まで自分が捕捉することが出来なかったのか?思考を繰り返す東堂であったが、突然銃口が引かれ、ついで鳴り響いたアナウンスに今度こそ混乱する。

 

 

 

『―――た、ただいまの試合は没収試合(・・・・)となります。これにより勝者、東堂刀華選手!!』

 

 

 

 突然の宣告により会場は喧騒に包まれる。誰もかれもが状況について行けず騒ぎ始めるが、当の当事者である春雪は一言の反論も口に出さず苦笑い一つ浮かべただけで会場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――没収試合ってどういうことよッ!?あれって私と初めて会った時のハラキリと同じ絡繰りでしょ!何が反則だっていうのよ!?」

 

 

「…確かに腑に落ちません。最初からすり替わっていたのなら生徒会長程の手練れが見抜けないとも思いませんが、もし仮に途中ですり替えたのだとしたらあの激戦の最中に誰にも気づかれずにやってのけたことになります。少なくとも私は一切見破れませんでしたが、分からないからと言って反則呼ばわりするのは聊か乱暴に過ぎるかと」

 

 

 理解できない、とばかりに憤慨するステラと冷静ではあるが彼女と同意見の珠雫。何だかんだ気の合う二人に苦笑いしながら、一輝は口を開く。

 

 

「……春雪は反則なんてしていないよ。あれは彼の切り札『ラウンズ』から3騎も引っ張り出しての荒業だ。一度見た人間であれば完璧に化けられる伐刀絶技『千変万化』を持つランスロット、『狩人の森(エリア・インビジブル)』から着想を得た伐刀絶技『百中の不意打ち』のヴェイン、そして七星剣武祭準優勝者である『天眼』の伐刀絶技の劣化模倣『所有者とその兵隊に限り座標位置を入れ替える』伐刀絶技を担うモルガンを使った、ね」

 

 

「とんでもない話ね。複数の伐刀絶技を扱う人は少ないとはいえ存在するけど、まさか伐刀絶技を『生み出せる』人がいるなんて。それはともかく、どうして春雪は抗議しないのかしら?物的証拠の開示請求は勿論、何よりあの会長さんなら自分から撤回を求めそうだけど」

 

 

「確かに撤回は難しくないだろうね、説明できない事由で反則なんて横暴だし理事長に決を求めればそれで済む。学園の中ならね(・・・・・・・)

 

 

 一輝の言葉に余計に首を傾げるステラだが、残る二人は今の言葉である程度納得することが出来た。

 

 

「なるほど。お兄様が言いたいのは、『七星剣武祭にて同様の事態に陥る可能性がある』ということですか?」

 

 

「…多分春雪は審判と折木先生に事前に話を通してると思う。七星剣武祭の審判は現役の騎士、その中でも探知や観察に秀でた人が担う。その人たちが果たして学生に過ぎない僕たちが彼らすら出し抜いたと認めるかどうか」

 

 

「本番でどう判断されるか不明だから、この試合を踏絵に利用したということですか。『ラウンズ』が優秀であればあるほど、やってないことへの立証もまた難しくなりますから。悪魔の証明を要求される可能性がありますね」

 

 

 最後は呟くように話す珠雫。彼女にしてみれば、あの人(父親)のような人間が牛耳る騎士連盟が、剣武祭という大舞台での誤審を認めるか甚だ懐疑的だと嘲る思いがあるからだろう。

 

 

 

 こうして、満員御礼となった対戦は、誰もが釈然としないままに決着と相成った。

 

 

 

 

 

 




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