変わり者これくしょん   作:バートリー

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いわゆる説明回


でっかい子供の事情

「ねぇ大和」

 

「なんですか提督?」

 

「君宛てに手紙が来てるよ。大本営からの書類と一緒に来たし、十中八九彼からだよ」

 

「え、またですか?ちょっと前にも来たような…」

 

「うん、最初の手紙から二ヶ月、今回で五通目だね。多いな少ないかで言えば間違いなく多い」

 

 

そういって手紙を差し出すのはこの鎮守府の提督。その手紙を受け取るのは本日の秘書艦である戦艦大和。二人は朝から共同でそこそこの数の書類と格闘しており、その最中に見つかったのがこの手紙であった。

 

 

「んもう、あの方も心配性ですね。この大和の何が心配だというのですか」

 

「落ちてる資材食べてお腹壊してないかとか、なにか物壊してないかとか、気になる娘にちょっかい出して泣かせてないかとか、まぁ色々あるだろうねぇ」

 

「それはもう昔の話です!今はそんなことありません!」

 

「でもこないだの雨の日に出撃も無いのに傘壊して『明石』に泣きついてたじゃない」

 

「!?何故それを……」

 

「同じ日に傘の修理依頼が相次いだらしくてね。特に強い雨でもないのにと不思議に思ってたら、大和が傘持ってきて納得したらしい」

 

「内緒にしててって言ったのにぃ!明石さぁん!」

 

「というか資材の発注をするのは私なんだから、変なことがあったらすぐわかるに決まってるでしょうに。別に皆と遊ぶのはいいけど、チャンバラに夢中になりすぎないようにね」

 

「はぁい……」

 

 

大和が顔を赤らめて俯く。少し空気を変えようと提督は話題を変える。

 

 

「まぁ色々あったとはいえ、自分が建造して短い間ながらも面倒を見た艦娘が異動したんだ。そりゃ心配にもなるだろうさ」

 

そう言いながら提督は、大和が異動した経緯を思い出していた。

 

 

 

 

艦娘の出生、つまり建造については未だに謎に包まれている。

艦娘を動かす燃料と兵装用の弾薬、艦娘の艤装に使われる鋼材とボーキサイトを妖精に渡すことで確実に艦娘を建造出来ること、この四つの資材の量を調整することである程度建造出来る艦種を絞り込めること。幾多の検証によってこの二つの事実が発見されたものの、これらの資材から何故見目麗しい艦娘が出来上がるのか、同じ資材を投入しているのに何故別の艦娘が出来上がるのか、鋼材などを使っているのに何故出来上がった艦娘の肌はあんなにもすべすべもちもちなのか等々、謎は尽きない。

まぁでもそもそも妖精からして謎でしかない存在であり、ちゃんと艦娘が出来てくれるのだからそれで構わん細かいことは気にするなということで、海軍はこの建造方法を採用している。

 

 

そんな摩訶不思議な妖精マジックにより生み出される艦娘だが、時折普通とは違った性格を持って建造されることがある。個体毎に違いはあるが、中には普通の性格を180°反転させた様な性格になることもあるようだ。この様な艦娘は『変異艦』と呼ばれている。

とはいえ、性格こそ違うものの、艤装の性能は普通のものと違いはないことが判明しているため、余程の問題がなければ通常の艦娘と同様にそのまま運用されることになっている。

 

 

今からおよそ一年と半年前、大本営に所属するとある『提督』が建造を行い、生まれたのが他でもないこの大和であった。建造自体は何事もなく成功したものの、この大和は変異艦として少々困った状態で生まれてきた。

一つは戦艦大和としては自由奔放な性格で生まれてきたこと。もう一つが()()()()()()であった。

艦娘という存在は、本人の性格だったり艦の頃の無念を晴らすためだったりで好戦的なものが多いが、この大和はそれがかなり強い状態で現れていた。

朝起きればすぐに

 

 

『司令官、おはようございます!大変気持ちのいい朝です!本日は晴れのち晴れ、傘のいらない絶好の出撃日和です!さぁ、本日も、張りきって、参りましょう!!』

 

 

などと言いながら執務室に突撃し、演習が終われば

 

 

『司令官!本日の演習もばっちり勝利してきました!さぁさぁ司令官!ここに今ノリにノッてる戦艦がいますよ!今出撃すれば空母に戦艦姫鬼級!選り取りみどりのバーゲンセールの開催をお約束しますよ!』

 

 

と、『提督』にこれでもかと出撃出来るアピールをし、さらには秘書艦業務を務めながらどさくさに紛れて自分の名前を出撃リストに加えようとしたりと、彼女はあの手この手を使って出撃させようとして提督を悩ませた。

だがしかし、泊地や鎮守府が増えてきた現状、国の要である大本営の艦隊が出撃することはそうそうなく、中々出撃の機会に恵まれないまま大和は日々悶々と過ごしていた。

 

そんな時、大本営の一部の艦娘を戦力が足りていない別の鎮守府へ出向させてはどうかという話が持ち上がり、出撃の機会を求めていた大和はこれに食いついたのだった。

果たして大和の申し出は受理され、出向が決まったのがこの鎮守府というわけだった。

 

 

 

さて、一方の鎮守府側にも少々事情があった。

 

この鎮守府は約一年前に提督が着任したことでスタートした。この鎮守府の提督は着任してからよく指揮を執り、艦娘と絆を深めながら、轟沈艦を一隻も出すことなく着実に戦果を上げていった。だが一つある問題が発生していた。

 

実はこの鎮守府、戦艦にとんと縁がないのだ。どれだけ資材を投入して建造しようと、どれだけ海域を巡ろうと戦艦に邂逅することがない。

そんな状況でも、空母を主戦力としたり昼戦は回避に徹し夜戦で勝負を仕掛けるなどしてよく戦ってきたが、敵が強くなるにつれて一回の出撃で受ける損害も大きくなっていき、艦隊の負担を減らすためにと思い大本営に打診したのであった。

このような事例は大本営が把握している限りでは初めてであり、またそうでなくても各地の鎮守府から「ある程度ノウハウを持った艦娘の一時出向の要望」が散見されていため、大本営の一部艦娘の出向という流れと相成ったのだ。

こうして大和は鎮守府最初の戦艦として戦列に加わり、華々しい戦果と、ついでに一部艦娘への胃痛をもたらすことになった。

 

 

 

 

 

「それにしても過保護が過ぎると思います!こないだなんか『後先考えずに給料は使いきってはいけないよ。万一の為に少し渡しておくから貯金しておくんだよ』なんて言ってお金まで渡してきて!大和だってそれくらいちゃんとしてます!」

 

 

提督が意識を戻すと、大和はまだブーたれていた。まるで反抗期の子供が親の行動に文句を付けている様だったが、いいや彼女は実際反抗期の子供に近い存在なのだ。

 

 

「愛されてるじゃないか」

 

「流石にお金まで頂くのは恥ずかしいです!それにこの大和が、お金の管理が出来ない様に思われているのが我慢なりません!」

 

「ほうほう、大和さんは懐具合はしっかりした出来る艦娘だと」

 

「もちろん!この大和にぬかりはありません!」

 

「ところで、これはこないだ浜風から聞いた話なんだがな」

 

「マルキューマルマルです。提督、今日の作戦行動はどうされますか?」

 

「給料が入ると『今日くらいは羽目を外してもバチは当たりませんよ!!』なんて言いながら、連日鳳翔のところで呑んだくれては浜風達に介抱される戦艦がいるとかな」

 

「…ヒトヒトマルマル。そろそろ昼食の準備をしないと。何がいいですか?」

 

「月末に近づくと毎食駆逐艦盛りにしては切なそうにご飯を食べてるどこかの大和型一番艦がいるとかな」

 

「ひ、ヒトゴーマルマル。提督、ら、ラムネでも飲まれますか?」

 

「あんまりにも雰囲気が暗いので、見かねた駆逐艦達から戦艦盛りのカレーを買って貰ったとかな」

 

「ヒトキューマルマル!艦隊執務はここまでにして、お夕食にしましょう!!」

 

「今はヒトヨンサンマルだし看板にはまだ早すぎる。さぁ、どこかの大和型一番艦さん、言い分があれば聞こうか」

 

「…イエ、アリマセン。ワタシハオカネガカンリデキナイワルイコデス…」

 

「何故片言。まぁ分かればよろしい。あまり霞や浜風を心配させないようにな」

 

「はい、気を付けます…」

 

 

大和がションボリとした面持ちで俯く。他人から自分の所業を淡々と伝えられるのは思いの外ダメージが来ると実感した瞬間であった。

 

 

「さて、さっきのトンチキな時報はさておきちょうどいい時間だ。ちょっと休憩を入れようか。」

 

「あ、それなら大和がお茶をご用意します!ちょうどいいのが入ったんですよ!」

 

「そうかい?楽しみにしてるよ」

 

「はい!」

 

 

そう言いながら大和は執務室を出ていく。先ほどとはうってかわって、誰かの役に立てる喜びに溢れたその横顔は非常に可憐であり___

 

 

「なんだかんだ言いつつ、皆に愛されるわけだ」

 

 

そう言いつつ、提督は残った僅かな書類に取りかかるのだった。




『提督』
この鎮守府のトップ。何故か壊滅的に戦艦との縁がない。
何が来てものんびり構えて受け入れる妙な懐の深さがある。懐具合は可もなく不可もなくといった具合。

『大和』
いわゆる『変異艦』。通常の大和よりも無邪気な言動や行動が目立つ。
自分が仲間だと認めた者には心を許し無邪気に接してくる。その接し方と無駄な行動力から『でかい夕立』と呼ばれることも。
懐具合はお金が入るや否や皆と一緒に呑みに行ったり駆逐艦達にホイホイ食べ物をおごったりするため、かなり寂しい。

『変異艦』
実はそれほど珍しい現象ではなく、大体20人に2~3人程度の割合で出現する。ただ「普通のものよりちょっと明るいかも?」程度の変化に留まるものも多い。
突然変異的な存在ではあるが特に何と言うこともなく受け入れられている。

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