「ねぇ瑞鶴」
「なあに翔鶴姉?」
「今日は随分と眠そうだったけど、あまり夜眠れなかったの?」
「う…それは、あの、夜寝るのが遅かっただけというかなんというか…」
「寝るのが遅かったってそんなに長く……あ!ひょっとしてまた夜遅くまでゲームしてたの!?」
「えっと、いや、その………はい」
ここは鎮守府母港にある空母寮の廊下。言葉を交わしながら歩くのは正規空母の『翔鶴』と『瑞鶴』。かつての第五航空戦隊、通称『五航戦』の二人はこの鎮守府に配属されてからメキメキと実力を伸ばし、今や装甲空母として鎮守府きっての実力を持つ実力者である。
「ダメよ瑞鶴!夜はしっかり寝ないと次の日に響くし、お肌も荒れていいことないのよ?」
「いやー、それはわかってるんだけど止め時がわからなくなっちゃってつい…」
「んもう、今日はちゃんと寝るのよ?」
「はーい」
とはいえ、海から離れ母港に戻れば二人も日常を謳歌する艦娘。演習と座学を終え一日のやるべきことを終えた二人は、とりとめのない会話を続けながら歩みを進めていた。
そんな二人の進む先から、一人の艦娘が歩いてくるのが見えた。
「あっ」「げ」
その艦娘に気付いた二人の口から声が漏れ出る。二者の内片方は心なしか嬉しそうに、もう片方は露骨に不味いというような反応を示す。
向こうもそんな二人に気づいたようで、二人に近づきつつ声を発する。
「あら、今戻りかしら」
「こんにちは加賀さん!演習と座学を終え、今戻りました」
「こんにちは翔鶴。演習の結果は聞くまでもないだろうけど、結果だけ見て満足しないように。学ぶべきことはいくらでもあります」
「わかってます。今回の演習でも上手く出来なかった部分はありますし、後でまた振り返りを行うつもりです」
「いい心構えです。一層精進するように」
「はい!」
翔鶴と言葉を交わすのは同じく正規空母の『加賀』。かつては『赤城』と共に第一航空戦隊、通称『一航戦』に所属した空母中トップクラスの実力を持ち、翔鶴と瑞鶴にとっては先輩にあたる。
そんな彼女はしばらく翔鶴と会話を続けていたが、やがて翔鶴の後ろにいる瑞鶴に目を向けた。
ジッと見つめてくる視線に耐えきれず、瑞鶴は声を掛ける。
「…えっと、こんにちは、加賀さん…」
「こんにちは瑞鶴。今日は翔鶴と一緒の艦隊で演習だったと聞いたけど、しっかり動けたかしら」
「…ほとんど上手く行ってたけど、一回だけ動きを間違えて、翔鶴姉の邪魔をしちゃいました…」
「問題点がわかっているのなら結構。戦場では常に状況が変化するのだから、不測の事態も起こるでしょう。その時に冷静さを失わずに対応できるように励みなさい」
「…はい、わかってます」
「……ところで瑞鶴、貴女朝からずっと眠そうな様子だったけど」
うっ、と瑞鶴が呻く。このあとの展開が予想できたからだ。
さて、一般的に提督の間で『加賀』と『瑞鶴』といえば、まず真っ先に挙がるのがその相性の悪さだろう。加賀は後輩たる瑞鶴をまだ未熟だと考えて接し、瑞鶴はその態度への反発を示す。瑞鶴は感情的な物言いをし、加賀は一見冷たく見える物言いをすることもあり、喧嘩や衝突が絶えないのである。
実際のところ、別に両者とも互いを否定しているわけではない。むしろ加賀は自分たちの跡を継ぎ立派に戦った瑞鶴たちを認めており、瑞鶴も加賀を含む先輩空母に対しては尊敬し見習うところの多い、いつか超えるべき目標としている。ただ当人同士の気質が水と油であり、中々上手くいかないのである。
ではこの鎮守府における両者はどうかというと___
「ひょっとして夜眠れなかったのかしら?それとも昨日何か怖い話でも?悩みがあるなら聞くわ。よければ話してもらえないかしら」
「いや、そうじゃなくて…」
「もしかして枕が合わなかったの?ちょうど【Numazon】に三つで二つ分の値段になる低反発枕と得も言われぬ姿勢のト○ロがプリントされた最高品質抱き枕が売り出されてるのだけど」
「いらないってそんな微妙なやつ!」
「それともなにか物音や光?それならこの三つセットなのに二つ分の値段の耳栓とアロマの香りがするアイマスクの方がいいかしら」
「だからいらないってば加賀さん!」
この通りである。
一般的には不仲で有名な二人だが、ここでは「加賀が瑞鶴を気にかけまくり、瑞鶴があしらう」といういささか以上に奇妙な光景が見られるのだ。それもかなりの構いぶりである。
「瑞鶴は夜遅くまでゲームをしてたらしいんです、先輩。どうも面白くて止め時が分からなくなったらしく…」
「そ、そう!そうなの!だから枕とか耳栓とかじゃなくて…」
「あら、そうなの。ならブルーライトカット加工された最高級鼻眼鏡がうってつけね」
「ちがーう!ゲームで夜更かしよ!?もっとこう、先輩として言うべき言葉があるでしょう!?」
「私はことゲームに関しては全くの門外漢なの。なにもわかっていない者が口を出すことほどおこがましいものはないと思わない?」
「叱って!いっそ偏見バリバリで良いから叱ってぇぇぇ!!」
誤解のないように言っておくと、何も加賀はいつでも瑞鶴を始め後輩の空母に甘いわけではない。普段の鍛錬や座学では厳しく指導し、出撃の際には特に厳しくなる。瑞鶴たちの具申を跳ね除け一から十まで完全に論破し口論になったことも一度や二度ではない。ただし海を離れると一転、まるで孫を可愛がる祖父母のごとく後輩空母に甘くなるのだ。海と母港とで様子が一変するのは一航戦の特徴ともいえる。
「なんなら私自ら子守唄を歌った方がいいかしら。」
「いやいや歌わなくていいし、大体何を歌うつもりなのよ」
「【加賀岬~子守唄ver. 伴奏付き】よ。伴奏といっても私が一人で付けるだけだけど。クオリティと効果は大和で実証済みよ」
「寝かせる気ないでしょそのセレクト!というか何子守唄歌わせてるのよ大和は!」
「たまたま眠れなくて休憩室にいた時に声を掛けて歌ってあげたの。すぐにぐっすり寝てたわよ」
「ええ…なんであの歌で眠れるの…というかなんで『加賀岬』を子守唄にしようと考えたの…」
「やりました」
「あんたなんでもそれ言えばいいと思ってるなら大間違いよ!!」
加賀が瑞鶴に可愛がりつつ絡んでいき、瑞鶴が律義に相手をし、翔鶴や赤城を始め周りが面白おかしく見守る。この鎮守府ではよくみられる光景である。
「瑞鶴」
「今度はなによ!?」
「明日には届くらしいから楽しみに待っていて頂戴」
「なにポチってるのよあんたは!ってうわさっき言ったの全部注文してる!?」
「やりました」
「だぁあああからあああああ!!!」
『瑞鶴』
五航戦のツインテの方。癖が強い正規空母の中にありながら至って普通の女の子。
先輩たちを尊敬してはいるが、すべてを受け入れるとただの駄目艦娘になるレベルの可愛がりだけはどうにかしてほしいと思っている。
ちなみに瑞鶴限定全肯定らぎ太郎こと『葛城』は未着任。的を分散させる意味でも彼女の着任を心待ちにしている。
『翔鶴』
五航戦のストレートの方。おっとり優しいお姉ちゃん。
瑞鶴にとって良き姉ではあるが、受けてて恥ずかしいレベルの先輩からの可愛がりを平気な顔で受け止めるため瑞鶴を悩ませる一因にもなっている。
バランスボールの上でポヨンポヨンするのが好きで暇さえあればポヨンポヨンしている。
『加賀』
一航戦の青い方。頼れるみんなの46スロ。
涼しい顔をしてトチ狂ったことを言ったりやったりラジバンダリ。
瑞鶴を始め後輩空母に対して異様に甘く何かにつけてご飯を奢ったり物を送ったり優しくする。顔に出ないだけで割と変なことを考えてる。
ネット通販サイト【Numazon】を巡り商品を眺めるのが最近のブーム。そしているのかいらないのかわからない物をポチっていく。