放課後。
多くの人が部活動に勤しんでいるだろうこの時間。
高校二年になった私は、あいも変わらず早急に帰宅しようとしていたのだが、今現在ある女性に迫られていた。
別に恋人関係だとか、告白をしてくるとかではない。
どうやら、この女性は私を自分が所属している部活に入って欲しいらしい。
この学校はサッカーに野球、陸上、水泳、テニス、バスケ、バレー、演劇、茶道、花道、美術などなど、様々な分野の部活がある中で、顧問が存在しない部活がある。
〇〇研究会とか、〇〇同好会とかがいい例なのだが、この女性はその非公式の部活、秘封倶楽部というものに私を勧誘しているようだ。
特に部活にも入ってなかったし、アルバイトとかもしていなかったので、別に入ってもよかったのだが。
この女性は宇佐美蓮子と言い、よく目立っている生徒だ。悪い意味で。集会などで何度か注意されたりしているので、いつしか不良扱いになった筈だ。
「お前は宇佐美蓮子だろう。なんで私を勧誘するんだ?」
「私の名前知ってるの? そっか、私も有名人になったものね」
悪い意味でな。
「それで、あなたを勧誘する理由だけど、特にないわ。ただ、あなたが私と同じ目をしてたから」
「…………。」
なんだこいつ!
こ、これが噂の電波系少女って奴か。
「あ、今私のこと電波系とかなんとか思ったでしょ」
「なぜわかった!」
「何にも隠さないんだね。ま、いいや。入る気になった?」
なるわけないだろ。
「なったんだね! ありがとう」
「いや、そんなこと言ってな」
蔓延の笑みをこちらに向けてきやがる。
そんな笑顔をしても私が入る理由はない。
理由は……。
「わかったよ。入ってやるよ」
「やった!」
かくして、私は秘封倶楽部に入ることになった。
〜雑談〜
秘封倶楽部の部室に今私はいる。
今は使われていない旧校舎の一番奥の部屋を使っているらしい。
クラスの友達に聞いたところ、本校舎の職員室から遠くなればなるほど教師に放置されているらしい。
今一番職員室に近いのは水泳部だった筈だ。
それに比べ、旧校舎は基本非公式の部活が占領しており、一番奥ともなると、それはそれはひどい有様で。と、思っていたのだが。
「なんだこれ。これ本当に旧校舎か?」
「フフン。お気にめしたようで何よりだよ」
「何様だ」
そこにあったのは、教室付属のイスや机が全て取っ払われ、ソファが置かれ、おしゃれなテーブルが置かれていた。
ここに来るとき、ちらっと違う部活を見たが、こんなふうにはなっていなかった。いや、なっていないのが普通か?
「まあいいや。その辺にくつろいで。飲み物持ってくるから」
そう言って、ちょうど教卓あたりに行ってしまった。
「飲み物持ってくるから。その言葉を最後に、宇佐美はこの世を去った」
「去ってないからね!?」
「そんな声が聞こえるが幻聴だろう」
「やめて! 生きてるよ!?」
と、軽口を叩いているうちに、コーヒーのいい香りがしてきた。
「ムッ、この香り、コーヒーか」
「せいか〜い。砂糖とミルクはお好みでどうぞ」
「ありがとう」
蓮子はテーブルに自分用の可愛いカップと私用の白い無地のカップを置き、砂糖とミルクが入ったガラス製のシュガーポットとミルクポットを持ってきた。
だが、あいにく私はブラック派なので何も入れずにそのまま口をつけた。
「うまい。自分で淹れるよりも美味しく感じる」
「コーヒーの淹れ方なんてそうそう変わらないでしょ。いつもどうやって淹れてるのよ」
コーヒーを一口飲んだ私は、宇佐美に質問してみた。
「あ、そういえば宇佐美。お前の噂や悪行のことは周りに関心がない私でも知っている。だから、聞いてみたいことが出来た。質問してもいいか?」
「関心がないて、自分で言っちゃうのか。んで? 質問って?」
「うん、まず一つ目の質問。今までのお前の言動や仕草からは不良のそれは一切感じなかった。だから生まれた疑問なんだが、お前が初めて集会の時に怒られた事件を憶えているか?」
「ん〜? なんだっけ? 適当に選んだ一台の自転車のサドルにでっかいソーセージを突っ込んだ時だっけ?」
「それお前がやったのか。おかげであの時は自転車を漕ぐのが恥ずかしくてたまらなかったぞ」
「あー。君だったのか、それはすまん。謝るわ。じゃあ、他クラスの教室の引き出しに好きですと書いた紙と共にキャベツ次郎を入れた時だったっけ?」
「それもお前だったのか。あの時はクラス中から笑いの種にされた。なんでキャベツ次郎なんだ。とな。手紙は即処分しておいたよ」
「なんだ、面白くないな」
「いや、そんなことはどうでもいい」
「いいんだ」
「お前、真夜中の校舎に忍び込んで窓ガラスを割っただろう。あれがあったから今のお前が不良扱いされるようになったと思うのだが…」
「あー、あれね。思い出した思い出した」
「ほんとかよ」
ここでお互い、コーヒーを一口、そういえば、宇佐美は砂糖にミルクを入れていた。完全にカフェオレである。
飲んだ後、宇佐美が話し辛そうに言った。
「あれは、好奇心というか、出来心というか…。家に捨ててなかった高校のパンフレットを見て、最新鋭の警備システムとかなんとか書いてあったから、本当かどうか試したんです。はい。すみません」
「……。」
呆れた。
いや、やっている事にも呆れたがそれ以上に、世間の目があまりにも節穴だった事に呆れた。
教師たちは、宇佐美が学校の貴重品を盗んだり、学校を恨んでいる。とかなんとか集会で言っていたのだ。
これじゃあまるで、宇佐美を悪者に仕立て上げようとしているみたいだ。
「まあ、これは私も悪いしなんも言えないね。ほかに質問ある?」
「うん。この部活って、何やってんの?」
「それを聞いちゃうか」
ここで宇佐美は一呼吸置いて、
「特にないんだよね。そっちでなんか決めてくれたら嬉しい」
と、言った。
「はあ? やることないのに私を誘ったのか?」
「ごめん。ほんとごめん。帰りにコンビニで奢るから、許して」
「そこまで言うなら仕方ない。が、考えても二つくらいしか案が出てこない」
「二つもでて来たんだ。さすがだね」
「まず一つ、お前が好奇心の強いバカだということがわかったので、不良という汚名を返上するために生徒の悩みを解決する。という、まあありがちな感じの案」
「ん〜、ツッコミたいところが色々あるけどめんどいからいいや。続けて」
「二つ目はさっき言った好奇心が旺盛であることを見越しての考えなんだが、この町には不思議な場所が多いことは知っているか?」
「ああ〜、誰もいないのに手入れが行き届いている博麗神社とか突然消失した守谷神社の巫女の謎とか?」
「ああ、他にもあるが、その謎を自分たちで取材や調査を行なって謎をあばく案。はっきり言って、こっちの方が秘封倶楽部っぽいとは思う」
「なるほど」
宇佐美は少し考えたのちに、
「どっちもしてみたい!」
と、答えた。
「どっちも楽しそうだし、やらなきゃ損だよ! さあやろう、今からやろう」
「お、おう」
まさかこんなにも食いつくとは思わなかったが、何もしないよりはマシだろう。
「じゃあ、まず貼り紙とかを校内の掲示板に貼るか」
私と宇佐美はその日作った張り紙をいたるところに貼って今日の活動はお開きにした。
翌日。
非公式部活ということで、校舎や特別棟には勝手にものを貼れないので旧校舎の壁に貼っておいたのだが、予想以上に人が集まっていた。
「秘封倶楽部が学校の悩みを解決します?」
「秘封倶楽部ってあの不良女がいるところ?」
「誰が頼むんだよ」
「すごい不評だな」
わかりきっていたことだが。
「わかってたわよ。こうなることぐらい。私は不良だからね」
いつのまにか隣にいた宇佐美が一言つぶやき去って行った。
「はあ、一筋縄ではいかないな。世間ってのは」
そう思い、というか言って、私はその場を後にした。
放課後になった。
授業も終わって部活に励む生徒が多いであろうこの時間、この旧校舎の一角は重い空気に満ちていた。
「………。」
「………。」
まあ、しかたない。か。ひどい言われようだったしな。正直、あんなに嫌われてたのか。
「Z…zzz。」
「……おい。お前なんで寝てんだ!!」
「ふぇ?」
緊張感が無いのか? こいつは?
「なんの話?」
「お前は不良扱いされて悲しくないのか?」
「あー、もう慣れたからね。今更気にしてないってのが本音かな」
「ふーん。……そのわりにはショックを受けていたよな?」
「ギクリッ」
「それに逃げたよな?」
「ギクリギクリッ」
「その時少し泣いてたよな?」
「ギクリギクリギクリッ」
言って目をそらす宇佐美だったが、私が無言でじっと見つめると、
「しょうがないでしょ! 私もあんなに嫌われてるとは思わなかったんだもん!」
と、逆ギレしてきた。
「あのー」
「「ちょっと黙ってて(ろ)!」」
「ひぃ!? すみません」
「「ん?」」
私でも宇佐美でもない声に疑問を持ち、そちらを見てみると、そこには、金髪で薄紫の目をしている少女がそこにいた。
整った顔立ちをしているのだが、さっきの大声で小動物のようにビクビク震えている。
「あー、ごめんね? 大きな声出しちゃって。そこ座って、今コーヒー持ってくるから」
「あ、お構いなく!」
言われた通りにソファに座り、コーヒーを待つ少女。
「なあ」
「ひぃッ!」
この驚きようである。
何もとって食うわけじゃないんだからそんな怯えなくてもいいと思うのだが……。
「お前の名前を聞いてなかったから聞きたいんだが、構わないか?」
「はい。もちろんでございますです」
「緊張で言葉が変になってんぞ」
「すみません」
「わ、私の名前はマエリベリー・ハーンと言います」
「うん? 留学生?」
「ち、違います。親はどちらも日本人ではないんですが、日本に住んでいるので、一応留学生ではないです。すみません」
「ふーん、そうなんだ。それと、そんな謝らなくてもいいから。肩の力抜いてリラックスしな?」
「は、はい。すみません。……あ、また謝っちゃった」
「おまたせ〜。コーヒーだよ〜」
話がひと段落したところで宇佐美がコーヒーを持ってきてくれた。
宇佐美用の可愛いやつと無地の白いやつ。2つだけだ。
そして宇佐美は無地の方をマエリベリーに置いた。
「おい宇佐美。私の分がないぞ」
「あら? そうだったかしら?」
「とぼけんな」
「あいにくここには私用のと来客用の2つしかコップがないもので」
「本当だろうな? よーし、探してくる。もしこれであったらお前、覚えとけよ?」
「え? ちょ、ちょっと待って。目がガチなんですけど!? 何されんの? 何されんの!?」
「………。」
「わー! 無言で探さないでー! 淹れる、淹れるから〜!」
走ってくる宇佐美と入れ替わりでソファに座りくつろぐ私を見てマエリベリーが、
「おふたりは仲が悪いんですか?」
と、聞いてきた。
どうなんだろう? ケンカや悪態ばかりだが、割と居心地が良い感じ、これはまるで、
「友達だな」
友達である。
どう考えても友達である。
それ以上でもそれ以下でもない。
「そうなんですか」
それから宇佐美がコーヒーを持ってくるまで、私とマエリベリーは喋らなかった。
ソファはテーブルを挟んで平行に並んでいる。1つのソファにマエリベリーが、そしてその反対のソファに私と宇佐美が座っている形になる。
「で。ここにきたってことは、何か悩みでもあるんでしょ? ゆっくりでいいから話して見て、あー。マエリベリーさん」
「あ、あの、メリーでいいです。親がそう呼んでいるので」
「ん。わかったわ。メリーちゃん」
そして、五分くらい経っただろうか?
決心がついたメリーは悩みを話始めた。
「私、ある人から告白されちゃって」
「リア充は爆発しろ」
「ひぃっ! すみません!」
宇佐美がすごい怪訝そうにそういった。
「たしかに私もそう言いたいとこだが、ここに来たということはまだ付き合ってはいないんじゃないか? 付き合っているのならこんな相談の仕方しないだろう」
「……それもそうね。続きを話してみて」
「はい」
この人が不良だっていう噂は本当だったんだ。と、メリーは思った。
「それで、相手の人が一度も知り合ったことのない先輩で……その、別に好きでも無いんですが、あまり断れる性格じゃないので、せめてどんな人なのか知りたいと思いここに来ました」
「それで? 相手ってのは誰なの?」
「……桐生先輩です」
「嘘ッ!? あの桐生先輩!?」
「うん? 誰だそいつは?」
宇佐美と私は対照的な返事を同時にしたが、私の質問に宇佐美が答えてくれた。
「はぁ、あんた本当に周りに興味が無いのね。桐生先輩ってのは3年1組にいる。眉目秀麗、スポーツ万能、成績優秀、クラスの人気も高く、それでいて容姿端麗なのよ。それで、サッカー部に所属していて汗を流しているわ!」
「おい、同じような意味の四字熟語を2回使ってるぞ」
「あ、そこなんだ。まあ、私にとっちゃ高嶺の花ってやつなんだけどね」
「だろうな」
「なんだとぉ!?」
横でうるさい宇佐美を押さえつけながらメリーに話をした。
「まあ。とりあえず、一週間後くらいには情報は集まっていると思うから一週間後また来てくれ。それか毎日連絡しようか?」
「いえ、一週間後にまた来ます。あ、もし都合が悪くて調査ができなくなった時用に……その、連絡先を交換させてもらっていいですか?」
部室に入って来た時のようなビクビクした態度で話を持ちかけてきた。
おそらく、連絡先を交換するだけでも相当勇気を振り絞ったのだろう。
「うん! もちろん! ほら、あんたも!」
「え? 私もするのか?」
「あったりまえでしょ!」
その後、言われたとおり連絡先を交換してその日は帰ることにした。
翌日。
連絡先を交換したことにより、宇佐美とメールでのやり取りができるようになったので、朝に部室で会うことにした。
扉を開けると宇佐美がコーヒーを飲みながらスマホをいじっているのが目に入った。
「おはよう宇佐美」
「ん、おはよう。ちょっと待って、今いいところだから」
「わかった」
それから数分後、スマホを置いた時を見越して話しかけた。
「終わったか? 何してたんだ?」
「いや、ネット小説を読んでたのよ。それで、昨日言ったとおり、どうやって調査するかよね」
「はあ、それさ、昨日から思ってたんだけど、クラスの人とか部活とかに話を聞いてみる。じゃダメなのか?」
「ダメよ! そんなことしたら私が暇じゃない!」
「私的な理由で却下したのか!?」
たしかに宇佐美は不良扱いされていて聞き込みには向いていないとは思ったが、どうにかして言いくるめないと。
「あのな、お前は不良扱いされてんだからできないのは当たり前だろ? それに、この相談は人への聞き込みしか解決できな……いや、ちょっと待てよ。宇佐美、お前の役割が見つかった」
「? 何?」
この世は情報社会だ。
ネットなどを見れば大体なっているもんだ。
「SNSを確認するんだ。それならお前を怖がるやつなんていないし自由に情報を集めることができる」
「ん、わかった。じゃあ、あんたは学校で聞き込み、私はSNSなどの書き込みをみる。これでいいわね? 解散!」
どうやらうまく言いくるめれたようだ。
さて、授業も終わり放課後、聞き込みを開始することにした。
「まずは部活の後輩に話しかけて、その後に3年に聞きに行くか」
「桐生先輩? いい人ですよ! 俺の練習に付き合ってくれて!「桐生先輩が嫌いな人はこの部活内にはいないんじゃないっすか?「お、お前が他人に興味持つなんて珍しいな。桐生先輩? お前男に興味持っちゃったか「あれ? 2年じゃん、聞きたいこと? あー、多分本当に善人なんじゃない?「善人っていうか、神か仏だよあれは「そういえば、前に桐生を見たんだけど、見知らぬおばあちゃんに道案内してたぜ
見事にいい噂しか聞かないな。
これは付き合ってもいいんじゃないか?
一通り話を聞いた私は自分の教室でそんな結論を出した時、
「おい」
と、声がかかった。
「お前最近おかしくない? 急に部活に入ったり、桐生先輩のことを探ったり」
さすがは桐生先輩といったところか、もう下の学年にも伝わっている。こうなると、本人に伝わるのも時間の問題か。
まあ、もう調査は終わっているといっても過言ではないが。。。
「そうだ。お前は桐生先輩についてどう思う?」
こいつにも一応聞いてみよう。
「桐生先輩な〜。俺はあんまり好まないな」
「お、ここに来てやっと違う意見が出て来たな。それで、どんなところが好まないんだ?」
「良い噂しか聞かないところだ」
良い噂しか聞かないところ? そこのどこが好かないのだろうか?
「いいか? 桐生先輩を好きな人が三人いるとしよう。その三人と感性が真逆の人がいたとしたらどうなると思う?」
「そりゃ、嫌うだろ。あっ」
「そう、嫌いな人がいてもおかしくないんだ。クラスの誰もが好きな人間なんているはずがない。だからおかしいと俺は思う。別に嫌いってわけでもないんだが、なんとなく好かないんだよな」
ふーむ、善人だからこその不安か、何を言ってるんだ? 私は。
「なるほどな。でもまあ、お前はただのモブだし記憶の片隅に置いておくよ」
「はぁん? こっちはモブだと? 一応モブ男って名前がありますー、お前みたいに名前がないキャラじゃないんだよ!」
「あ! お前言ったな! 言ってしまったな! この話のトップシークレットに触れやがって!」
「メタい! メタすぎる!」
そんなこんなで一週間がたった。
「まあ、そんなわけで、見事にいい話しか聞かなかった。付き合ってもいいと思うぞ」
場所は部室。
メリーに結果を報告していた。
「そうですか。ありがとうございます」
そう言ってメリーは去っていった。
「これで悩みは解消されたようだな。よかったな宇佐美」
「全然よくないー! 結局私何にもしてないじゃん! つまんないー!」
まあ、その通りなんだが。
こうは言っているが、今までまともに活動してなかったからか。
「次は絶対活躍するからね!」
と、笑顔でそう言った。
そして翌日、悩みを解決したことにより、桐生先輩とメリーが付き合ったという話しで持ちきりになっていた。
まあ、校内の人気者だったし仕方ないか。
だが、このままハッピーエンドではこの話しは終わらなかった。
「なあそこの君、俺を探ってたって人、知ってる?」
「……。それは私ですが。なんか用ですか?」
桐生先輩が私に話しかけてきたのだ。
どうやら、前々から探っているという話しは知っていたらしく、部活の休みの日に探しにきたということらしい。
「君か。今日の放課後暇? 話しがあるんだけど」
「放課後ですか? いいですよ」
秘封倶楽部? そんなもん知らん。
「んじゃ。また放課後」
放課後。なんの話しがあるのだろうか…?
放課後になった。
授業中の描写がないのに本当に勉強しているのか怪しまれそうだが安心してくれ、私の学年順位はいつも8位だ。可もなく不可もなくだ。
「お、ちゃんと来てくれたんだ」
放課後体育館の裏で待ってる。と、いう胸熱な展開を男からもらいそこに行くと桐生先輩がすでにいた。
それにしても、ちゃんと、とはどういうことなのだろうか? 来ないと思っていたのか?
「それで、話しってなんですか?」
「ああ、そのことなんだけど……」
言うと、桐生先輩は運動部で鍛えた剛腕で私を壁に押し、ダンッ、と私を逃がさないように手を突き出した。
完全に壁ドンである。
人生初の壁ドンがまさか男だなんて……。
「あのさぁ、なんで俺のこと探ってんの? やめてくんない? 迷惑なんだけど」
睨みつけながら言ってくる。
私の思っていた壁ドンはこんな脅迫の手段ではなかった気がする。
「たしかに探っていた。それは認めます。でも、もう探ってない。メリーの悩みは解消されたからな」
「メリー? なんでそこにメリーの名前が……あー、なるほどね。付き合ったばっかだけど単純だからすぐ信じるもんな。大方あの張り紙を信じてお悩み相談したんだろ。バカだよなぁ、あんな不良を信じるなんて」
「……。」
この人の目。
人を人と思っていないような目だ。
「チッ。もう俺に関わるんじゃねぇぞ、関わったらタダじゃおかねぇからな」
そう言って桐生先輩は去っていった。
まあ、知らないとは言っても秘封倶楽部には行くのだが。
「よう、宇佐美」
「あ、やっと来た。遅かったじゃん。何してたの?」
「例の桐生先輩から話したいことがあるって言われてついていったんだ」
「へぇ〜」
それだけで宇佐美の興味はなくなったらしい。
宇佐美は教卓辺りに消えていった私の分のコーヒーを淹れてくれるらしい。
「ふぅ。こんな時のためにスマホで録音しておいてよかった」
「ん? なんかあったの?」
教卓からそんな声がする。
「ああ、ちょっと聞いて欲しいから席に着いたら再生するよ」
「りょうか〜い」
しばらくして、コーヒーを持ってきた宇佐美に例の会話を聞かせて、感想を聞いてみた。
「感想っていっても、別に……ただ、結構気にくわない奴ってのは分かったわ。あとこれ、私たちのことをバカにしてるけど、それと同時にメリーちゃんもバカにしている。それに、あんたが思った感想を添えると、人を道具として扱うゴミクズ野郎なのかも……?」
結構エグいこと言うな。
そんな時、私と宇佐美の携帯にメールが届いた。
それも同時に。
『♪〜♪〜♪〜』
『着信だよ〜♪着信だよ〜♪』
「あ、メールだ」
「宇佐美、お前その着信音なんなんだ?」
メルヘンチックな女性が着信が来たことを教えてくれているようだ。けして私のではない。
「何って、プリキュアだけど?」
「……。」
「ッ! ねぇ、これって!」
着信音は置いといて、私もメールを確認する。
そのメールはメリーからのだった。
『メリー:助けて』
たった四文字の言葉だが、それだけでも分かる異常さだった。
私たちが取るべき行動は三つ。
一つ、メリーの無事を確認するためメリーを探す。
二つ、どこにいるのかを可能なら電話で聞き出す。
三つ、先生を呼びに職員室に行く。
ここには二人いるから、一人が一つ目と二つ目を同時に行い、三つ目をもう一人がやる方がいいのだが、不良(に勘違いされている)の宇佐美が職員室に行っても信じられない可能性がある。
かといって、私が考える一番最悪な未来として、桐生先輩がメリーに危害を及ぼしているのならば、相手はサッカー部。女子の力じゃ圧倒的だろう。
そうだ!
メールが来てすぐに私は言った。
「宇佐美! 俺たち二人でメリーを探すぞ! そして宇佐美はメリーに電話しろ! 私は人手を探す!」
「人手って、何かあるの?」
「ああ、私の友達に連絡をする」
私たちは部室を出てメリーを探しに行った。
『もしもし? 何? 俺に電話するとか初めてじゃね?』
モブ男の声だ。
電話は繋がったらしい。
「そんなことはどうでもいい、少し面倒なことになって、頼む、力を貸してくれないか?」
『面倒なこと? 何かあったのか?』
「今外か? 桐生先輩はいるか?」
『桐生先輩? また桐生先輩かよ。て、あれ? いないぞ? まさか、何か関係があったりするのか?』
「ああ、たった今メリーから助けてと言うメールが来たんだ。それで今探している。頼む。力を貸してくれ」
『……。俺も部活があるしな。でも、他ならぬお前の頼みだ。力、貸してやるよ。俺も探せばいいか?』
「いや、お前は職員室に行ってくれ! 今、二人がかりで捜索しているところだ。それと、この電話は切るなよ? メリーを見つけたら場所を教えるから」
『分かった。無理はするなよ?』
そこで、私はモブ男との電話をやめ、携帯をポケットに入れた。
無論電話は繋がったままだ。
「よし、宇佐美、お前は電話繋がったか?」
「全然繋がんない。相当ヤバイ状態と私は思うよ。ワトソン君」
「誰がワトソンだ」
こんな軽口を言う宇佐美でも、顔は真剣だった。
「宇佐美。私が思う一番最悪なパターン。覚えてるか?」
「うん。メリーが先輩に襲われているパターンでしょ?」
「ああ、つまり何が言いたいかと言うと、もし襲われているのなら、トラウマが残る前にその芽を潰した方がいい。だから、サッカー準備室に行くぞ」
「目を潰す? それは謹慎ってレベルじゃないよ? 退学だよ、下手すりゃ牢屋行きだね」
「………。」
私たちは準備室に向かった。
「やっぱりサッカー準備室にいましたか。桐生先輩」
「あれ、もう見つかった。早くない?」
「メリーが連絡してくれたんです。が、一番最悪なパターンだ」
そう言って私は電話を切り、録音をする。これは保険だが。さりげなく場所を言ったのでモブ男も気づいてくれるだろう。
メリーが準備室にあるマットに押し倒されていて、服も若干着崩れている。
さらに、涙目になっている所から完全に無理やりしたということが分かる。
「間一髪か」
「さっき携帯を開いてたのは君たちに連絡するためか」
「そうだ。それと、一つ質問をしてもいか? お前は去年の二学期ごろ、つまり、二年の時に転校してきたみたいだが、今しようとしている行為に関係はあるのか?」
「ああそうだよ。俺は一回転校している。でも、やめられないんだよ。女を無理やり犯すのはなぁ!」
「……お前はとことん人間のクズだな」
と、ここまでの会話は桐生先輩が周りに目を向けさせないためのサクだ。
気づいているだろうか? ここまで、宇佐美が一言も喋っていない事を。
「メリーちゃん! 大丈夫だった?」
「ッ!! 蓮子さん!」
まあ、こう言う事だ。
ここの高校には準備室に二つのドアがある。
体育館に近い方と運動場に近い方だ。
私と蓮子は別々のドアから入り、私が引きつけ蓮子が助けるという作戦。
少し不安だったが成功したようだ。
「チッ! でも、ここには部活の初めと終わりにしかほとんど人は来ないんだぜ? 俺がお前を倒すって考えなかったのか?」
言った瞬間殴りかかって来た。
「考えなかったと思っていたのか?」
そう言い華麗にかわそうとした。
が、運動部だからだろうか? 思いのほか鋭いパンチで。。。
「グハッ!!」
「「「え?」」」
当たった。
盛大に。
「「「「………。」」」」
沈黙が続いた。
みんな唖然としている。
なにこれ、めっちゃ恥ずかしいんだけど。
「く、くそ、なんて鋭いパンチだ」
「いやごまかせてないごまかせてない。えー、めっちゃダサいんだけど」
「や、やめろぉ! 運動苦手なんだよ!」
「ははは、なんだ。ただの雑魚じゃねぇかよ。これは早く片付きそうだな」
「うるせぇ!」
「ヘブッ!」
と、数分殴り合っていると先生が到着したようだ。
「モブ男!」
「間に合ったようだな! と、カッコつけて盛大に滑って恥ずかしい俺は部活に戻るぜじゃあな! 名無し野郎!」
その呼び名はやめろ。
そう言おうとしたが、その時にはモブ男はもうすでにいなかった。
だが、先生が来たとなると、時間は稼げたようだ。
「おい! なにをしている
「は?」
なんでこの場を見て宇佐美が怒られるんだ?
そうか、この場だからだ。
私と桐生先輩が怪我をしていてメリーが泣いているこの場だから。
つまり、宇佐美がメリーを泣かせ、男たちをボコボコにしたと思われているという事だ。
「いつもお前は面倒ごとしか起こさないな。謹慎じゃ済まないぞ?」
「ちがっ、違います! 私じゃありません! こいつです!」
宇佐美がこの事件の首謀者である桐生先輩を指差す。
が。
「口答えするのか!? 退学にさせるぞ! まず生徒指導室に来い!」
と、言われたので反抗すらできない。
俯いて先生の後を歩く宇佐美とは対照的に勝ち誇った顔で私を見る桐生先輩がこう言った。
「ハハハハハッ。先公が来た時はヒヤッとしたが、俺は成績優秀でスポーツ抜群、おまけに生徒会長も務めているからな。あの不良が謹慎になるのは考えてみりゃ当たり前か」
「……こいつッ!」
桐生先輩の言動には全て腹が立つ。
私はその怒りを利用して、渾身の力で殴ろうとした。その時。
ゴキッ。と、メリーが重たそうな物を桐生にぶつけた。
「倒れてください!」
「グハッ!! うぅ……」
うめき声をあげ、桐生先輩は泡を吹いて倒れた。
……これ、大丈夫か? 血はあんまし出てないし大丈夫か……?
「メリー。お前、結構行動力あるな」
「え? あ、すみません」
「いや、別に謝らなくてもいいんだけど……それよりいいのか? こんなクズだったとはいえ一応彼女だが」
「クズだからですよ。元々、好きで付き合ったわけじゃなかったですし、断れなかっただけで……それに、あなたの方がカッコよかったですし……」
「そ、そうか」
最後の方は何を言っているか聞こえなかったが。怖ぇ、好きじゃなかったら人を鈍器で殴れるの?
この後はメリーを帰しておいた。
桐生先輩もそのうち目がさめるだろう。
はあ、疲れたな。
正直もう家に帰りたいが、これからあと一つやることがある。
「くそッ。宇佐美め、ハーゲ○ダッツ一個で手を打ってやる」
「やってないって言ってるでしょ!! どうしてわからないの!?」
「あの場にお前がいて傷だらけの二人がいるのが何よりの証拠だって言ってるだろうが!」
「だから桐生先輩がメリーちゃんを襲おうとしていたから止めたんだってば!」
生徒指導室に先生と生徒の口論が繰り広げられている。
その口論は止まることを知らず、廊下を歩く人まで聞こえてくる。
それを聞いた私は。
「帰りたい……」
と思った。
「でも、帰るわけにはいかないよなぁ……」
ため息をつきながらドアをノックする。
「失礼します」
「ああ? なんだ? なんかようか? こっちは見ての通り忙しいんだ!」
これだから熱血教師は好きになれない。
「その忙しさを解消するために来たんです。とりあえず、そこの宇佐美が言っていることは本当です」
「何!? そんなありえない話しを信じろというのか?」
「ええ。それに証拠もあります」
まさか、保険の録音がここで役に立つとはな。
私はポケットからスマホを取り出し、録音を再生する。
『そうだ。それと、一つ質問をしてもいか? お前は去年の二学期ごろ、つまり、二年の時に転校してきたみたいだが、今しようとしている行為に関係はあるのか? ああそうだよ。俺は一回転校している。でも、やめられないんだよ。女を無理やり犯すのはなぁ!』
ここで私は再生を止める。
「これで分かったか? 宇佐美が真実を言っているということが」
「……。どうやら、この声もあの生徒のものだし、録音を開始した時刻も今日の時間で間違いないようだ。これは教育委員会に報告をするしかないようだ。」
このセリフは信じてくれたみたいだ。
こうして秘封倶楽部の活動記録No.1は幕を閉じる。
そして、ここからは後日談。
私から見た、過去から未来へと変わった事柄を述べていく。
あのあと教育委員会に報告したことにより、桐生先輩はしばらくの間停学になるらしく、何も知らない学校の女子はひどく嘆いていた。
そして、悪い噂はすぐ流れるもので、宇佐美が生徒指導室で口論をしていたのを聞いた生徒から始まった噂話しで、より、疎まれる存在になった。
しかし、先生方の意見は少し改善されたように思える。(少なくとも私にはそう見える)
モブ男は今回の件で、私が他人に進んで話しかけたり、電話をしたり、人助けをしたという秘封倶楽部に興味を示し、今入っている陸上部と掛け持ちで秘封倶楽部に入部することになった。
メリーは実は私と同じクラスなのだが、あの事件のあと、何かとチラチラ私を見たり、私と話しては頬を染めたりしていた。
そして、私たちに恩義を感じたらしく、それを晴らすにはどうしたら良いのかを宇佐美に聞いたところ、「じゃあ秘封倶楽部に入部して!」と言われたそうで、部員が増え、少しばかし賑やかになった。
そして私は、秘封倶楽部という変な部活に強引に入部させられ、事件や不良に巻き込まれ、大変な日を送ったが、それも悪くないと思い始めた。
そして今日も、旧校舎の扉を開けるのだった。