本文を考えながら書いていたら気づけば長くなっていました。
今回はいつものギャグ要素は少ないかもです。
それでは、本編へどうぞ
いつきが風邪を引いて一週間が立ったある日、いつきはいつも通りNeo Fantasy Onlineを立ち上げ、レベル上げにいそしんでいた。
「今日はりんりんさんもあこもいないし、モチベあがんねぇなぁ」
「ほほぉ~、これがいつもいっくんが言っていたMMORPGという奴ですか~」
ゲームに集中していたいつきに声を掛ける人がいた。
そう、それはAfterglowのギター担当自称謎の美少女、青葉モカがそこにいた。
「うわっ、モカ姉っ!?」
「やっほ~いっくん。遊びに来たよ~」
「あ、そう。それじゃ、姉ちゃんでも誘って遊んできたら?」
「残念ながらその姉ちゃんから頼まれたのだよ~」
「いやいや、何でまたそんなことに?」
「ひーちゃんが膝枕したから?」
「なんで、モカ姉がそのことを!?」
「ひーちゃんが自慢してきたんだよ~」
「なんで、そんなことが自慢になるのさ……」
「さぁー?あ、でもー、つぐがいっくんが何かしなかったか聞いたら、口ごもってたよ~?」
ー寝てた俺、ひま姉になにしたんだ。
と、ますます寝ていたときになにをしたのか気になるいつきだが、このマイペースの権化であるモカに聞いたところではぐらかされるのが落ちなので、無駄な労力を割かない。
「まさかだけど、モカ姉も膝枕するとかいわないよな?」
「おやおやぁ~、いっくんはもしかしてモカちゃんの膝枕も堪能したいのかな~。このむっつりさんめ~」
「ち、ちがわい!!……それで、モカ姉、本当のところはなにしにきたの?」
「およよ~。弟がお姉ちゃんを疑うよ~」
「ひでぇ棒読みっぷりにつっこみ放棄するわ……。それと、俺はモカ姉の弟じゃねぇから。姉ちゃんの弟だから」
「いっくん~?それじゃ、姉ってつけて呼ばれてるあたしたちもお姉ちゃんって事になるよ~?」
「モカ姉たちは姉貴分だから、本当の姉じゃないから」
なんともまぁ、酷い言い分である。これをひまりが聞いたら、「お姉ちゃんとして認識してよー!」とか言い始めるだろう。
ここにいるのがモカでよかったのかもしれない。
「その台詞ひーちゃんに聞かせられないねぇ~」
「でも事実なんだよなぁー」
「そうだよねぇ~。あたしはそこまでじゃないけど~、ひーちゃんはそうじゃないからね~」
「なんでひま姉は俺の姉になりたいのかねぇ」
「いっくんが可愛いんだと思うよ~」
「モカ姉、それ、全くうれしくない」
と、まぁ、モカがうまくはぐらかすせいで、いつきは聞きたいことが聞けずにいる。
「って、そうじゃなくて、結局なにしにきたのさ!?」
「いっくんてばもう忘れたの~。モカちゃんはいっくんを外につれて遊ばしたいのだよ~」
「そう言う嘘はいらないから。そもそも、姉ちゃんに頼まれたのも嘘なんだろ?」
「それは、ほんと~。あ、でも~、つぐが外に連れて行ってって言ってたかも~」
「なんで、そこは曖昧なんだよ」
「だって~いっくんの不健康な生活を改善するために~モカちゃんは派遣されたのですから~」
ーなんだそれは……。
いつきはそんなことを思っていたが、先週の風邪の原因をつぐみはいつきの生活習慣にあると睨んでいる。
そのため、いつきに健康的な生活習慣を身につけさせるために、Afterglowのメンバーに相談したのだ。
その結果、巴とひまりが乗り気になり、やる気の無かった蘭とモカが巻き込まれてしまった形で、いつきの生活習慣改造計画が企画された。生活習慣の悪い弟を持ったつぐみがかわいそうだ。
そして、勘違いしてはならないのは、モカが最初からこの計画に乗り気じゃないことだろう。
つまるところ、モカはこの計画を適当にやるつもりなのだ。
「それじゃ~いっくん、ツイスターゲームでもしよーかー」
「何でまた!?ていうか、そもそも、それ二人でできるゲームじゃないでしょ!?」
「そうだね~。だから、いっくんだけでやって貰おうということなのだよ~」
「はぁ!?それなら、モカ姉一人でやれば良いじゃん!!」
「おやおやぁ~。いっくんはモカちゃんにあんな事やこんなことを指示して苦労している姿をニヤニヤ眺めてみたいのかなぁ~?」
「なっ!ちがっ、そうじゃないし!!」
蘭がよくするようなツンデレ的な言葉回しになったいつきだが、実は少し見てみたかったりする。
先ほど自称美少女といったが、モカは相当な美少女のため、中学三年生の思春期真っ只中で美少女に囲まれているいつきは、ちょっぴり、ほんのちょっぴりだが、そんな美少女が自分に為すすべもなく従う姿は見てみたいものがある。
やはり思春期男子はむっつりなのだろう。
「いっくん~、隠し切れてないからね~?ていうか~そんなことしたらつぐが怒るよ~?」
「うぐっ。て、別にそういう訳じゃないって言ってんじゃん!!」
「ふふふ、この天才美少女モカちゃんに隠し事が通用すると思わないことだ~」
「あー、もう!やればいいんだろ!やれば!!」
いつきはやけになり、ツイスターゲームをやることを決意する。
もし、これをモカやひまり、つぐみたちのような超絶美少女組がやるとなれば全力を賭して描写しようと思ったが、やるのは身長が低い男っぽさがちょっと薄い、中学三年生の思春期男子だ。そんなダレとく描写はやる気がない。
と、言うわけで、いつきは肩で呼吸を整えていた。
「な、なぁ、モカ姉。これ、意味あったのか?」
「うーんあるんじゃない~?いっくん一応運動してるわけだしね~」
「うぅ。モカ姉、外いかね?散歩したくなった」
「もしかして、デートのお誘い~?そういうのはひーちゃんとかあこちんに、やった方が良いと思うよ~?」
「別に付いてこないならそれでいいよ。山吹ベーカリーで適当にパンを買う予定だっただけだし」
「それを早く言ってよ~」
「はいはい。それじゃ、ちょっとモカ姉着替えるからでてってくれない?」
「はいは~い」
そんなこんなで、いつきは着替え終わり、モカと山吹ベーカリーまで散歩するようだ。
その際、つぐみが、「お出かけは許したけど、デートは許してないよ、モカちゃん!!」と文句を言っていたが、どこが違うのかさっぱりだ。
「姉ちゃんそれのどこが違うの?」
「違うよ!ニュアンスが!」
「それじゃ説明になってないよ~。でも~、今から山吹ベーカリーに行くのは休憩の為なので、決してデートではないのだよ~」
「そう?それならいいんだけど……」
と、つぐみのブラコンっぷりをいつきたちはてきとーに流しながら商店街を目指す。
「ねぇ、モカ姉」
「なぁに~いっくん?」
「いや、何で姉ちゃんって、あんな感じなんかなぁって」
「あぁ~、それ~?」
「そうそう。こういうのって、なんだかんだ言ってモカ姉の方が聞きやすいから」
「ほうほう、そのこころは~?」
「いや、単純にひま姉たちみたく言いふらしたりはしないだろ?聞かれない限りは。それにひま姉とか姉ちゃんとかだと、ほら、なんか恥ずかしいし」
いつきは普段からちょっと以上に子供っぽいところはあるが、こう言うところは中学生らしく思春期特有の感情が支配しているんだなぁ、ということがわかる。
というのも、普段からひまり作のAfterglowのマスコットのぬいぐるみを抱いて寝てたり、クラスメイトから押し付けられたエロ本をテンプレートなベッドの下に隠したり、その押し付けられたエロ本の内容をちょっぴりみただけで顔を真っ赤にするほどピュアな心の持ち主だったりする、小学校低学年の精神性と中学三年生の精神性が複雑に混ざり合っているというのがわかるからだ。
「そっか~。でも~なんであたしなの~?別に蘭とかともちんでもよくない~?」
「ほら、蘭姉はこう言うこと聞いても『別に、どうでもよくない?』とか言いそうだし、とも姉は『いつきが弟だからじゃないか?』とかいって、結局聞きたいこと聞けないと思うし……。そう考えたらモカ姉が一番知りたいこと答えてくれるかなぁーって」
「ふむふむ、つまりあたしは消去法で選ばれたわけか~」
消去法で選ばれたことにショックを受けたモカだが、さすがはぐらかしスキルEXをもっているだけあって、その雰囲気を一ミリたりとも出していない。
そのことに少し違和感を覚えるいつきだったが、直ぐに頭を切り替え、モカに聞き直す。
そのとき、モカが少し昔を思い出すような仕草をとり、こういった。
「いっくんが覚えてないなら、それでいいんじゃないかな~。少なくともあたしはそう思ってるよ~」
「……どう言うこと?」
「そのままの意味~」
はぐらかすことに定評のあるモカに聞いたところで、ちゃんとした答えが返ってくることはなかった。
いつきの覚えていない事情というものがあるのは間違いないが、それを今聞いたところでモカがちゃんと答えるはずもないので、いつきは諦める。
「モカ姉が答える気がないのはわかったよ」
「そんな言い方されるとお姉ちゃん困っちゃうな~」
「モカ姉は俺の姉じゃないから」
「およよ~、いっくんとはあんなことや、こんなこともした仲なのに~」
「変な勘違いされるようなこと言うなよ!ツイスターゲームしただけじゃねぇか!」
「いっくんの方が勘違いされること言ってるよ~」
「はっ!」
というやりとがあったが、まぁ、どちらも同じような勘違いを引き起こすワードをいっているので、どっちもどっちだろう。少なくともつぐみとひまりが聞いたら「年頃の男女がそんなことしちゃいけません!!」と叱っているところだろう。
そして、その会話は近くを通る人に聞かれているので、ものの見事にその勘違いが広まった。
まぁ、ツイスターゲームはもともと一人でできるようなゲームじゃないし、誰かともみくちゃになってやることが前提となるため、そういった勘違いが起きてもおかしくはない。
だが、実態はいつきがモカの指示するマスに手足を置いていくだけのダレとくゲームだ。そう、本当に男が困っているところを描写しても、女の子がセットじゃないと面白味に欠ける。
言うなれば、シロップの掛けられていないかき氷並みに需要がない。
と、まあ、そんな大人の事情はおいておき、モカとの山吹ベーカリーへ向かっているいつきだが、だいぶ息が整ってきた。
そして、目的地が目の前に現れたモカは目を輝かせ、いつきはそんなモカをみて、どこにそんな興奮する要素があるのかわからないでいた。
「ねぇ、モカ姉」
「なぁに~?」
「いや、なんで、山吹ベーカリーについただけでそんな興奮してんのかなぁって」
「そんなの決まってるじゃ~ん。この外からでもわかるパンの香り、今日のパンはいつも以上においしいよ~」
「いや、なんでにおいだけで?」
いつきとモカはそんな会話をしながら店内に入る。
「いらっしゃいませー」
山吹ベーカリーの看板娘、
「モカにいつき?珍しい組み合わせだね?」
「ふっふっふ~。今日はいっくんがモカちゃんにパンを奢ってくれるみたいなので~、奢られに来たのだよ~」
「はぁ!?俺、自分の分だけ買いにくる予定だったんだけど!?」
「て、いってるけど?」
「そ、そんなぁ~。いっくんが奢ってくれると思って財布持ってきてないよ~。ポイントカードは持ってきたけど~」
ーなんでだよ……。
と、いつきは思った。というより、誰もが思った。
それは、言わずもがな、モカが最初から奢られる気でいたことだろう。そして、奢られる癖にポイントカードだけは持ってきていることもそう思わせる要因の一つといえる。
「あ、モカ姉。なんでもかんでもとってくるなよ。金払うのモカ姉じゃなくて俺なんだから。それに、ここが経営難になりかねないし」
なんだかんだで奢るあたり、いつきは甘いといえるだろう。
そして、その言葉を受けたモカは「さすがいっくん~でも~」といって、
「モカちゃんも~さすがにそんな非常識な事はしないよ~」
と続けた。
それに対していつきは、というと
「と、言ってますけど本当のところはどうなんですか?沙綾さん」
「うーん。二十個近く買っていくからなぁ、私的にはグレーかな?」
沙綾とひそひそと話していた。
「そんなぁ~。こんなに沢山の美味しいパンがあるのにその中から数個だけ選ぶなんてモカちゃんには無理だよ~」
「うーん、この反応は嬉しいんだけど、やっぱりほかのお客さんの事もあるからね。なんとも言えないかなぁ」
沙綾の気持ちが分かるあたりいつきも一応商売というものが何なのか理解し始めたと言うところだろう。
露天の存在するMMORPGだと需要によって一つのアイテムにかかる値段が相当高かったりするのだ。なんでも、ドロップするから気にしなくても良いという理論は存在しない。
そういう点ではいつきはゲームに鍛えられているのか下手するとモカが山吹ベーカリーのパンをいつきの財布分奢らせる事を察したことにより、それを回避する。
「まぁ~、いっくんの財布は二週間前にあこちんに空っぽにされてるからねぇ~。そんなに多く買う訳じゃないから安心してね~」
「多く買う訳じゃないっていって、『これでも少なくした方だよ~』っていうのはなしだからね?一桁で押さえてよ?」
「善処しよ~」
「それ、だめな奴だ」
「そんなことないよ~。ちゃんといっくんの分も含めてモカちゃんが選んであげるんだからねぇ~」
そうモカはいっているが、後に「ねぇねぇおなかいっぱいになった~?食べれそうにないならモカちゃんが食べてしんぜよ~」と言い、いつきからパンを横取りするつもりだ。
そして、それをわかっていないいつきではない。
いつきは、「自分で選ぶから、モカ姉はモカ姉の好きなもの選らんできなよ。一桁以内でだけど」といって、トングを持ち欲しいパンを物色し始める。
ちょっと、姉弟っぽいやりとりを期待していたモカは落ち込んでいるが、その様子は欠片も感じさせない。
「さ~て、いっくんはなにを選んだのかな~」
そう言ってモカはいつきのトレーを覗き込む。
「いや、別に確認しなくても……」
「ふむふむ。クリームパンとアンパンとカレーパンか~。王道を行くねぇ~。それにこれはアニメ意識でくんだのかなぁ~」
「外見からじゃ検討付かないはずなのになんで当ててるんだよ……」
「いやいや~。カレーパンは見た目でわかるし、臭いも強いからねぇ~。すぐ気づいたよ~。ま、他は勘なんだけどねぇ~」
「女の勘怖ぇー」
「あははー」
いつきとモカのコントに沙綾は苦笑しか出なかった。
といってもモカはどうか知らないがいつきは、至って真面目にコメントしたので、なぜ沙綾が苦笑したのかわかっていない。
いつきの人誑しとまではいかないものの、それなりに面倒を見てあげたいと思わせる人柄は、学校や地域で思いっきり発揮されており、クラスで羽沢当番なるものが発足されても、ぶつぶつ言いながらもかまわせるそれは、天性のものだといえるだろう。
さて、結局なにがいいたいのかというと、この姉という概念の象徴ともいえるキングオブ姉である沙綾はいつきのそう言った性質に思いっきり影響され、時々商店街に顔を出されると面倒を見てしまっているのだ。
そして、その都度いつきの頭をなでたい衝動に駆られ、顔に出さないように必死にこらえながら、手を頭の方に動かさないよう必死に耐えながら、いつきにかまっている。
これは余談だが、その衝動に耐え切った後、沙綾の妹である沙南と弟である純を徹底的に撫で回し、衝動を発散していたりする。
それは、現在進行形でも言えることで、見事なまでに顔に出していないが、甘やかせたいチキンレースは始まり掛けている。
そう、まだ始まっていない。
それは、いつきが沙綾と言葉をあまり交わしていないから。
だから、今、沙綾は冷静さを保っている。きっと、いつきがレジに並んだとき、それが沙綾にとっての戦闘の合図だといえる。
「モカ姉は決まった?」
「決まったよ~。今日もチョココロネなかったけど~」
「ごめんねー、うちのチョココロネは結構人気ですぐなくなっちゃうの。今度来たときにとっておくこともできるけど?」
「それじゃ、お願いします。モカ姉もそれでいいよね?」
「うん、いいよ~。沙綾、おねが~い」
「りょーかい。またのお越しをお待ちしてまーす」
沙綾はなんとか衝動を抑えることに成功したみたいだ。
そして、その帰り道、いつきはモカに頭をなでられていた。
「モカ姉なんで俺はなでられてるの?」
「いっくんがモカちゃんのために動いてくれたのが嬉しかったんだよ~」
よしよしと撫でられているいつきは恥ずかしくて顔を赤くしているが、その手を振り払おうとしていない。
また、モカが素直に自分の感情を伝えたことが珍しく目を丸くしていた。
「それに~いっくんは頭を撫でられるの好きだもんねぇ~」
「う、うるさいなあ!別に良いだろ、頭撫でられると安心するんだから」
「いっくんってそういうところは子供っぽいよねぇ~」
「うぅー……」
いつきはモカにそういわれ、いじけてしまう。
それでもやはりモカの手を払う事はしない。それどころか気持ちよさそうに目を細めるくらいだ。
周りから見れば髪の色は違うがまるで小学生と高校生の姉弟のようにみえるだろう。
「そう言えば~いっくんってあたしの手だけは振り払わないよね~」
「モカ姉のはなんて言うかいろんな意味で安心できるんだよ」
「というと~?」
「ほら、ひま姉みたいに人をだめにする撫で方じゃないし、姉ちゃんは……恥ずかしいし、蘭姉はそもそも撫でないし、とも姉はちょっとがさつだから……そういう意味ではモカ姉は一番なんだよ」
「このこの~ういやつめ~」
「えっ、ちょっ、待って」
いつきの抗議を無視しモカはムギューっと抱きしめる。いつものモカらしくない行動にいつきは困惑し、ちょっと真面目に死を覚悟する。
こんな幸福を味わいすぎて誰かの嫉妬で殺されないだろうか……、と。
その光景を周囲の人はどのように見ていたのだろうか?
微笑ましい姉弟の様に見える者もいれば、はたまた足りない何かを補おうとしているようにも見えるだろう。
だからこそ、そこから感じる虚しさというものを感じ取る者はいなかった。