翌週、いつきは珍しく外出していた。いつきが外出すること事態は、つぐみやひまり、あこなどに無理矢理連れ出されることなので珍しいというわけではない。
だが、この日は違った。なぜなら、いつきが珍しく、つぐみやひまり、あこに連れられず外出しているからだ。
男子からすると羨ましい光景だが、いつきにとってはそうでもないらしい。
かといって、いつきも男の端くれ、いくら隈がなければつぐみと顔つきは似ているとは言え、男の子なのだ。現役JC、JKに囲まれると嬉しさもあるが、不安にもなるのだ。主に自分の社会的地位と言うものが。
それ故に、今日くらいはひとりで出かけようと思い、時々親の手伝いで稼いだお小遣い(よく、アコに奢ったりするためすぐなくなる)を使い新作のゲームを買いに行っているのである。それはもう心がピョンピョンするくらいには楽しみにしている。
そして、そのゲームショップについたとき、見覚えのある少女の後ろ姿が目に入った。
「あ、りんりんさん」
いつきが声をかけると、その背中はビクゥッと跳ね、周囲を警戒するかのように見渡している。
その姿が面白く、いつきはホラーゲームをやらせた蘭と同じくらいからかいたい衝動に駆られるが、先週それで(財布が)痛い目を見ているため、ぐっとこらえた。
「こっちですよ」
「あ、いっくんさん。こんにちは」
「りんりんさん。その『いっくん』って呼ぶなら『さん』はいらないって言ってるじゃないですか……」
「あ、うん。ごめんね。あまり男の人とは関わりがなかったから……」
「ゆっくり慣れていきましょうか。今後も男性と関わることもあると思いますし」
「う、うん。ありがとう……い、いっくん」
恥ずかしがる少女にうんうんと頷くいつき。端から見ればカップルのように見えることは間違いなしだ。
それも少女の方が赤面しており、同時にいつきはニヤニヤしているので、少女を辱めているようにも見えなくもない。
「それで、りんりんさんももしかして新作の?」
「……うん。……あこちゃんの分も一緒に買おうかなって」
「あー、なるほど。あこもまだ中学生だからなぁ……」
「……いっくんも中学生じゃないですか」
「俺は授業中寝てるんで」
いつきは決め顔でそう言った。全く持って誇らしいことではないし、授業中ねているから何だというのか。少女、りんりんには分からなかった。
ちなみに二人とも揃って本名を知らない。あこが「りんりんはりんりん、いっくんはいっくん」と初対面の時に言ったため、二人して追求するのをやめた。
そもそも、この二人はネットを通じて知り合っているので、本名を尋ねることに少し躊躇いがある。
「……いっくんは、受験生じゃないんですか?」
「えぇ。まあ、なるようになるんで大丈夫ですよ。最悪、家を継ぎますし」
「……ゲームばかりしていたら、志望校に落ちるかもしれないですよ?」
「りんりんさん。そこにやりたいゲームがあるのに、諦めろと言うんですか?」
「……ごめんなさい。私が間違えてました」
何を間違えたのか一般人にはさっぱり分からなかった。だが、二人の間にあるゲーマ魂的に、りんりんの方が間違えていたらしい。
「……そういえば、あこちゃんの誕生日プレゼント用のアイテム集めは進んでいるんですか?」
「全く進んでないです」
「……その、それじゃあ、手伝いましょうか?」
「いいんですか!!お願いします!!」
「……ネカフェでいいですよね?」
いつきは頭を縦に勢いよく振る。下手すれば首がもげるのではないかと不安になるレベルだが、人体の構造的に自分の力でもげることはないだろう。
いつきたちは欲しいゲームを買い終えると、ネットカフェに向かった。
「……あ、あの。注文とかは、いっくんに任せてもいいですか?」
「えぇ、いいですよ。りんりんさんにはこれから頑張ってもらわないといけないんですから」
「……メインはいっくんですからね?」
「わかってますよ。でも、あこの欲しがってるアイテムがまさかの期間限定でしたからね……」
「……ノルマは?」
「フル強化しようと思うので五千くらいでしょうか?」
「……多すぎないですか?」
「リアルラックの問題です……」
りんりんは「あっ……」とだけ言って、それからは無言だった。何かを察したのだろう。
そう、いつきはゲームも含め運に恵まれていない。そのため、ゲーム内のアイテム集めはドロップ率二十パーセントのアイテムでも体感コンマ一未満と言うドロップ率になってしまう。
当然、そのアイテムの強化にも成功率と言うものがあり、失敗すると再度同じ素材を利用して、強化するという地獄が始まる。
いつきの五千は多すぎではあるが、リアルラック的には少なすぎと言うのがいつきの現在の思考だ。
因みにいつきは十万ほど集めるという苦行をするため、これはほんの一部にすぎない。
「……そういえば、いっくんって、あこちゃんのことどう思ってるんですか?」
「いきなりですね……。まあ、仲の良い幼なじみですよ。あいつ、なんだかんだで面倒見がいいですから……」
「信頼してるんですね」
「まあ、幼稚園の頃からの付き合いですし……」
赤面するいつきに少し保護欲の湧くりんりんだが、それを表に出すと、ただの危ないオタクになりかねないと判断し、心の奥に抑え込んだ。
いつきはそんなりんりんの感情に気づくことなく、ほぼ無心でゲームの素材集めに全力を注ぐ。
時々、りんりんの飲み物を注文したりする事で、ちょっとした休憩をとっていたりする。
「全然貯まんねぇ」
「……こればっかりは運と試行回数だから、頑張ろう」
「運の段階で詰んだ……」
「……でも、それってゲームに限った話じゃないですか。……常に低乱数の計算だけで良いって羨ましいです」
「その分命中不安定になりがちなんですよね……九五パーセントは実質ゼロパーセントなんです……」
「……それは、……ま、まあ、MMOだと命中率は関係ないんですから」
「
目をドロドロと輝かせるいつきに、りんりんは目をきらきら輝かせて、「そうですそうです」と同意している。
この二人は精神的に似通っている点が複数あるらしい。特にゲームに関しては、完全に意見が合うようだ。
因みにいつきはタンカーなので、パワーは最低限に抑えられている。
「……やっぱりいっくんがいるとサクサク進みますね。……私とあこちゃんだけだとどうしても時間がかかりますから」
「魔法職二人でダンジョンに潜るって周回ぐらいじゃないですか。MMOはパーティバランスを考えなきゃ」
「……そうですね。いっくんがいるからとても助かってます」
下心のない、純粋な回答はいつきの汚れたゲーマー精神にクリティカルヒットした。なお、ゲーマー精神という点においてりんりんも同様である。
「ふぅ。あと二時間くらい潜れば漸く半分に届きますよ」
「……それじゃあ、私の方で貯まった素材渡しますね」
「ありがとうございます」
いつきの元に添付メールが送られてきて、どれくらい入っているのか期待していると、
一人でやったら達成できなかったノルマだっただけあって、達成感や満足感は半端がなくある。
「りんりんさん。この後暇ですか?」
「……え、あ、はい。暇ですけど、どうかしたんですか?」
「いえ、お礼をさせて欲しいなと思いまして……」
「そんな……!私は年上ですからいっくんに奢られるのは……」
「気にしないでください。小遣いは普通の家庭よりは貰ってますので」
「……もしかしていっくんってお金持ち?」
「珈琲店の長男です。時々手伝いをしているので」
「……そうですか。安心しました……」
「あの、もしかして失礼なこと考えませんでした?」
「そ、そそそ、そんなことないですよ。いっくんは綺麗な体のままです」
「やっぱり考えてたんじゃないですか!!」
りんりんが、なにを考えてたのかわからないいつきはそれだけいって追求しなかった。りんりん的には、いつきが大人の女性相手、もしくはヤのつく人たち相手に何かしていたのかと心配していたのだ。
もちろん、いつきはそんなことをしていない。
そして、心外だと頬を膨らませる。
そんないつきに、こういう表情もできるんだと、りんりんは思った。
いつきたちはネットカフェからでると、大型ショッピングモールに向かう。
「……あ、あの、ほんとによかったんですか?」
「え?あぁ、はい。いいんですよ。また金が必要になったら手伝いをすればいいんですから」
「……すごい、ですね」
「???」
りんりんが何にすごいと言っているのかわからず、首を傾げるが、いつきは気にしないことにした。
「そういえば、何を買う気なんですか?」
「……今度のライブで使う衣装の生地です。あこちゃんから聞いてないんですか?」
「えっ、あこバンド組んでたんですか?」
「……そういえば、あこちゃんからいっくんには内緒って言われてたんでした……その、忘れてくれますか?」
「無理です。ていうかなんで、俺に知られたくないんだ?今度問いつめてみようかな?」
「……さ、さすがにそれは……」
「ま、あこのことですし、なんとなく秘密にしてたらかっこいいとかそんなところだと思いますけどね」
「そ、そんなことないですよ!あこちゃんもあこちゃんで考えがあるんだと思います!」
いきなり大きな声でそんなことを言われ、いつきは困惑した。ただ、りんりんの目が本気だったことから罪悪感が少し湧いてくる。
「わかってますよ。あこはどうしようもない程中二病ですけど、考えなしの大バカじゃないですから。それにしても、りんりんさん。あこのことしっかり見てるんですね」
「……えっ、あ、そ、それは……」
今度はいつきにりんりんが困惑される番になった。
りんりんが言葉を探しながら目を泳がせていると、りんりんの目がよく知った人物とあった。
「あっれー、燐子じゃん」
「い、今井さん」
りんりんが話しかけられたことで、いつきもその少女の存在に気づく。
当然、いつきが気づいたという事は、その少女も気づくと言うことで、
「あ、もしかして燐子デート中だった?ごめんね急に話しかけて」
「で、デーっ!ち、違います!いっくんとはゲームを買いに行った時に一緒になっただけで……!」
「そのついでにネカフェにも寄りました」
「やっぱりデートじゃん!」
「い、いっくん!?」
突然のフレンドリーファイアにりんりんは目を見開き、いつきの方を向く。いつきはそれそれは、たいそう良い笑顔をしていた。それはもう、怖がって画面を見なくなってホラーゲームをしていたときの蘭をからかう時と同じくらいには。
りんりんは、いつきの放った一言による誤解を解こうと、必死になり、その様を見ていつきと少女は面白そうにくすくすと笑っていた。
一通り笑うと、少女は本題に入る。
「なるほどなるほど……で、二人はどういう関係なの?」
「……ゆ、友人です」
「ネットゲームで知り合った友人です」
「そうなんだ……あ、そういえば、自己紹介してなかったよね?あたしは今井リサ。君は?」
「羽沢いつきです。いつもりんりんさんとあこがお世話になってます」
「いつきくんかぁ。ん?羽沢?」
「あ、もしかして姉ちゃ、姉のつぐみのことですか?」
「そうそう。うーん。でも、姉弟にしてはあんまり似てないよね。髪はボサボサだし、目にも隈がすごいことになってるし……隈は今じゃどうしようもないけど髪は整えてあげようか?」
「結構です」
なぜか、いつきはスラスラと会話ができた。脳と口が直結しているのではないかというレベルでスラスラに。
そんな対コミュ障兵器、今井リサのコミュ力にいつきは圧倒されていた。
「で、いつきくんは燐子のことりんりんって呼んでるけど、どうして?」
「ネット民のマナーみたいなものですよ。ネットで関わる以上は本名は隠さないといけないですし、りんりんさんも俺のネットネームの方で呼んでますし」
「なるほどねー。じゃあ、燐子と出会ったときのこと聞かせてよ」
「すみません。いまはりんりんさんと買い物中ですので」
「そっか、それじゃあ、今度燐子かあこに聞くね」
そう言うと、リサは自分の買い物に戻っていった。と言っても、やることと言えば目的もなく眺めるだけなので、買い物といえるのかは怪しいところだが。
「今井さん、怖い……」
「……えっ?」
「あんなに普通に個人情報抜き取れるって……」
「あの、それは、いっくんが自分から言ってませんでした?」
「あんな風に尋ねられたら、中学生の俺だと何でも答えちゃいますよ……」
「……そ、そうなんですね」
「くっ、チャットならこうはならないのに」
「そ、そうですね……」
弟がこんなことを言っているのを実は、最初からつけていたつぐみは恥ずかしく思った。
幸いにも、つぐみは蘭や巴とは違い目立つタイプではないため、違和感なく人ごみに紛れている。結果、いつきたちは気づかず会話を続けていた。
「つーぐ。なにしてんの?」
「り、リサ先輩!?」
「いつきくんと燐子のデート覗き見してたの?」
「元々はいっくんがゲームを買って返ってくるまで見守ろうと思ってたんですよ……」
「わかってるって。喋ってるときにつぐが見えてたからね。それにしても、あの子小動物みたいで頭なでたくなるよね」
「だ、だめですよ!いっくんの頭を撫でて良いのは私だけなんですから」
「そ、そっか。あれ?でも……ま、いっか」
そんな会話を後方で繰り広げていることを知らない、いつきとりんりんは楽しそうにデート……もとい、買い物を楽しんだ。
お久しぶりです。そして、初めましての方は初めまして。
最近、なろうでの活動をメインにしていましたが、一時的に活動を休止すると言ったので、こちらで執筆中の作品を投稿したら一時的に活動を休止しようと思っています。
一応、来年には復帰する予定ですが、おそらくなろうメインになります。
こちらは来年でも不定期投稿になると思いますが、その時も読んでくださると幸いです。