一撃少女   作:ラキア

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 お久しぶりです。
 アカ作り直したので再投稿です。

※本作を読む際は是非、閲覧設定から挿絵表示をオンにしてご覧下さい。


1撃目

 

 闇夜───静けさが支配する夜の町で、異変は起こった。

 町の一角にある小さな動物病院。そこで何かが暴れ、そして建物を破壊して衝撃が辺りに包む。煙が舞い、その中から現れたのは異形の化け物。それはおよそこの世のものとは思えない光景であった。目は赤く光り、口は何もかもを飲み込むような凶悪な形。その破壊された建物から、新たに一つの影が現れる。

 

 小動物。フェレットに似ている何か。それはこの世界とは別の世界から来た使者、ユーノ・スクライアだ。彼はは異世界から来た【魔導師】である。───魔法。この世界【地球】には存在しない力である。

 

 これだけの騒ぎだというのに、周囲に人影は無い。それはユーノが周囲に【結界魔法】を展開しているからだ。これで一定の範囲と時間はこの騒ぎを周りの世界から隔絶することが出来る。ユーノ・スクライアは魔導師として優秀な能力を持つ結界魔導師。結界魔法による防御・治癒などの補助魔法を得意とし、また豊富な知識を持っている。

 彼は元々このような小動物の姿はしていない。本来は人間である。しかし事情によってこのような姿になり、現在は異形の化け物に襲われている。

 異形の化け物はユーノを見つけ、襲いかかる。しかしユーノはその小さな姿を利用し、化け物の攻撃を回避し、その建物の周囲から脱出する。だが道路に出たからといって安全というわけでは決してない。化け物は直ぐに塀を破壊してユーノの目の前に現れる。

 彼は後ずさりし、苦い表情で噛み締める。自分ではこの化け物に太刀打ちできない。誰か協力者が必要だ。その為に彼は事前に目星はつけている。あの時───自分を助けてくれた少女には、魔法の才能があった。

 彼女には既に念話と呼ばれる方法でコンタクトを取っている。それに彼女が気付いてくれていれば、後は時間を稼ぐだけだ。

 

 ───賭けるしかない。

 

 だが、運悪くユーノは立ち回りを間違え、化け物に攻撃を与える隙を作ってしまった。それを見た化け物はこちらに咆哮と共に襲いかかってくる。ユーノは目を閉じ、己の終わりを悟った。しかし、彼の前に一つの影が現れる。

 化け物の気配ではない。ユーノが瞳を開けると、そこには一○歳くらいの少女が立っていた。そう、彼女だ。自分が救いを求めた人物。

 だがタイミングが最悪すぎる。これでは少女は化け物の攻撃を食らい、命が危ない。ユーノは全力で防御魔法を展開しようとするが、間に合わない。何もかもが絶望すぎる。化け物が少女に触れるその瞬間───。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ───異形の化け物は一瞬で消滅した。

 

 

「……え?」

 

 ユーノは思わず呆気とした声を漏らす。何が起こったか理解できない。数秒瞳を瞬させて、頭を整理する。少女は先ほど化け物とユーノの間に入ってから態勢を変えて、腕を前に突き出していた。まるで何かを殴ったかのような。

 そこでユーノはありえないことを考える。もしかしたら今、少女は素手で、しかもパンチ一撃であの異形の化け物を倒したのだと。そんな筈はない。直ぐに意識を切り変え、別の考えを展開しようとした時───。

 

 

「また……ワンパンで終わっちゃったの……」

 

 虚しさを込めて、少女は呟く。ユーノはもう、考えるのを辞めた。

 

 

 

 

 

 

 三年前。少女───高町なのはは孤独を味わった。

 それは父が大怪我をし、家族全員が父の看病に徹していたからだ。なのはは幼く、母も父も、兄も姉もなぜ自分に構ってくれないのかと、幼い為に感じた孤独感。それを一人だけの家で考え、考え、考える。その結果彼女が求めたのは───強さだった。

 高町家は武術を継承する家であり、父も何代目かの継承者である。いずれ兄がそれを継ぐだろう。そして姉もそんな兄に負けずに毎日稽古を怠らず、強さを磨いている。それに比べて自分はどうだ。自分は運動が苦手だと思い、身体を鍛えるのを諦めていた。

 そんな自分に、家族は見放したのではないかと、なのはは導き出した。

 ならば、強くなればいい。姉は疎か、兄も超え、父も超え、いずれは最強になろうと、なのはは決心した。そこから彼女の努力は始まった。

 まずは毎日のトレーニングだ。三六五日欠かさず、毎日のように地獄のトレーニングを行った。

 

 ───思えばあれから三年経った。

 

 

「ぐはぁぁぁぁああああああーーーーーッッ!!」

 

 朝。道場で兄の叫び声が響く。なのはが兄の稽古に付き合い、パンチを一発入れたからだ。勢いよく吹き飛ばされ、兄の身体は壁に叩きつけられる。壁に穴が開かないのは手加減をしたからだ。姉が慌てて兄に駆け寄って心配するが、この程度で命に別状はないことは分かっている。

 なのはは無気力な感情で兄にタオルを渡し、朝食の時間だから早く来てと伝えて道場を後にする。

 

 ───なのはは死に物狂いで特訓して無敵のパワーを身につけることに成功していた。なりたかった最強になれた筈だった。だが、彼女は心が満たされなかった。

 

 父は大怪我の後、無事に退院した。だが仕事については怪我の事もあり引退して、現在では自営で喫茶店を開いている。家族はその後のなのはの特訓については応援し、そして励ましていた。だがまさかこのような形に変貌するとは思っておらず、なのはの強さを知ってからは驚愕として云い様がなかった。術を継承する父も、自分の今までの努力は何だったのかと悟るくらいに、それは驚愕だった。

 なのははその力を生かそうと、日々トレーニングついでに町に出ては困っている人を助けている。その際に強盗などの事件も拳一撃で解決したことも数回あり、そのあまりに非現実的な光景に、周りの人々は強盗の自滅としか思えず、なのはの強さを知るのは家族や友人だけであった。

 

 

 

 

 

 

 いつもの様に朝、父と母の手伝いで朝食の準備をし、朝稽古をしている兄と姉を呼びにいく際に、兄に頼まれて稽古一本申し込まれ、そしてワンパンで終わらせる。タオルを渡してリビングに来るように伝え。家族で朝食を取る。朝食だというのに肉や魚、野菜などがあるものの、とても朝から食べるには重過ぎる献立だが、皆朝から体力使うから仕方ないと納得できる。なのはは食事を取りつつ、冷静に朝の出来事を頭で整理した。なのはは今年で九歳だというのに、もう精神年齢がかなり成長している。あの地獄の日々のせいであるが、更に最強になってしまった無気力な日々が、なのはの感情を無くしていった。

 朝食を取り、準備を済ませた後は学校に行く。迎えのバスに乗り、友人であるアリサとすずかに挨拶する。

 

「おはよう! なのは!」

「おはようございます、なのはちゃん」

「うん、おはよー」

 

 流すような発音で挨拶を返して、アリサとすずかの間に座る。なのはが無気力な挨拶の返し方をしても怒らないのは、アリサとすずかはなのはの心境を知っているからである。だから悪気がないのは知っている為、アリサとすずかはなのはに話しかける。昨日あったテレビの話や、すずかの家で起こった珍事など、日常らしい雰囲気に包まれる。なのはもテレビは観るし、すずかの話にも笑えるくらいには普通の思考回路をしている。

 しかし、ただ思う。もっと面白い日常は無いかと。今の自分には緊張感も何も無かった。

 

 そんな日の夕方に起こった出来事である。

 いつもの様に授業が終わり、校舎の門を越えてからアリサとすずかと別れ、帰宅しようとした時、なにやら頭に直接響く声が聞こえたのだ。

 

 【助けて】───と。

 

 なのはは駆け出し、アリサとすずかはその只ならぬ様子に後を追う。着いた場所は林の中、自然公園がある場所である。その人が少ないところに、フェレットに似た生物が倒れていた。

 

「(───私を呼んだのは、これなの?)」

 

 なのははとりあえず、フェレットに似た生物を抱える。林から出ると、そこにはやっとの事で追いついたアリサとすずかの二人が息を切らしながらこっちに走り寄って来る。

 

「何この子、フェレット……?」

「この子、怪我しているわ!!」

 

 二人の言うように、直ぐに動物病院に連れて行く。病院について、医師の話によれば命に別状はないらしい。アリサとすずかはほっと胸を撫で下ろし、安堵する。しかし医師はフェレットにしてはおかしいという言葉を呟いていたが、助かったのなら問題は無いだろう。そう思い、なのは達は帰宅する。

 

 問題はその日の夜に起こった。風呂上りに髪を渇かして、いざ寝ようとした時に、また頭に直接話しかけられたのだ。なのはは急いで着替え、家を飛び出す。向かうのは先ほどの動物病院である。近くまで来ると、一定の範囲から空間が変わったことに気付く。こんな経験は初めての事だ。

 体験したことの無い出来事に胸を高鳴らせて、動物病院に着く。そこにはフェレットと、それに襲い掛かる化け物の姿だった。なのはは一瞬でフェレットの間に割り込み、拳を構える。身体を捻り、パンチを一撃叩き込む。

 

 ───普通のパンチ。

 

 すると化け物は破裂するように消し飛んだ。なのははそれを見て、数瞬だけ思考整理する。

 結局、非日常的な化け物が相手でも、なのはのパンチで一発で倒せてしまったのだ。つまりは、相手が変わっただけの、同じ日常。それを理解出来たときには、心のなかでくそったれと叫ぶしかなかった。

 だが、そう思った矢先である。化け物だった細胞が独りでに動き、また集まろうとしている。その中央には青い宝石のようなものが輝いている。

 

「君! 頼みがある!」

「うわっ、喋った!?」

 

 フェレット───ユーノが喋ると、なのはは予想外な出来事に軽く驚き、肩をびくつかせる。

 

「僕に協力して、あの化け物を封印して欲しいんだ!」

「封印? どうやって?」

 

 なのはが首を傾げると、ユーノは自分の首に付いていた紅い珠を銜えて、それをなのはに渡す。ユーノの話によれば、あの化け物はあの青い宝石みたいなものが原因らしく、それを直接解決するには魔法を使わなくてはならないらしい。

 その為、この紅い珠で変身をしなくてはならない。なのはは紅い珠を見る。正式名称は【レイジング・ハート】。デバイスと呼ばれるそれを使って、バリアジャケットと呼ばれるものを装備しなくてはならないらしい。そのために、先ずは使用者登録をしなくてはならないらしく、ユーノの指示に従う。レイジングハートを握り、ユーノに言われたように復唱して、登録を済ませるとなのはの身体にバリアジャケットが展開された。

 姿は学校の制服と似たデザインをしており、魔導師らしい杖が手に握られた。それを使い、本来は魔法を使って戦術を展開するらしいのだが、すでに化け物は戦闘不能なので、なのはは復活しようとしている青い宝石に近づいて、杖になったレイジングハートを近づかせる。

 すると、レイジングハートが自動で封印作業に入り、そのまま青い宝石は杖に吸い込まれるように消えていく。残った細胞は蒸発するように消滅し、先ほどまでの思い雰囲気も消えてなくなった。変身が解除されて、なのははユーノに話を聞こうと、踵を返す。

 

 しかし、そこで結界魔法も解けたのか、騒ぎに気付いて人の気配が復活する。なのはは下手な面倒に巻き込まれたくは無い為、ユーノを掴んでそのまま全速力でその場を後にした。


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