一撃少女   作:ラキア

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12撃目

 

 

 ポッドの中では、デバイスを起動した状態のレイジングハートとバルディッシュが浮かんでいる。レイジングハートは杖。バルディッシュは斧の姿。双方とも状態に損傷が目立ち、全体に割れている。その様子を機械を弄りながら確認する白衣の女性が居る。

 マリエル・アテンザ。レティの部下であり、エイミィの後輩にあたる人物。時空管理局本局のメンテナンススタッフで、主に魔導師の装備のメンテナンスを担当している。彼女は険しい面持ちで、二つのデバイスの破損をチェックしていた。

 

「まさかこの二基をここまでボロボロにさせるなんて……強力な相手だったんだね」

「なのははともかく、フェイトの場合から考えるとそうなるな」

 

 室内に居るクロノが腕を組んでそう答える。現在の場所は本局のメンテナンスルームであり、先ほど起こった奇襲で壊れてしまったレイジングハートとバルディッシュの状態をチェックしていた。幸い核となる部分は壊れていない為、長くて数日で修理が出来るだろうとマリエルが言う。

 

 なのはが赤い魔導師に襲われていると同時に、フェイトの方にも魔導師が襲ってきたのだ。一緒に行動していたアルフと共に迎撃したが、アルフは敵の使い魔らしき者によって倒され、フェイトも魔導師と全力で戦ったのだが、相手の実力が一枚上手だった為、倒れた。

 その後二人の姿は、なのはと共に捜索していたリンディによって発見され、現在本局の医務室にて安静にしている。発見時、フェイトとアルフの身体は特に外傷は無く、リンカーコアのみが衰弱した状態であった。魔力を奪われたと思われる。

 敵の狙いは魔力のみだったようで、外傷が無いのは敵の者によって治癒を受けたからだろう。わざわざ怪我を治したのは、フェイトがまだ幼い少女という事と考えられる。

 身体を動かす分には問題無さそうだが、リンカーコアが衰弱している為、しばらくは魔法を使えない。こればかりはリンカーコアが回復するまで待つしかない。

 

 さてと声を零してから、クロノは自分の端末からメンテナンスルームにあるディスプレイにデータを送信すると、そこに相手の魔導師の映像が映し出された。レイジングハートとバルディッシュが残した貴重な手がかりだ。レイジングハートには赤い魔導師。バルディッシュのほうには桃色の魔導師が映ってる。

 クロノは記録の映像の中にある、魔導師がデバイスに合図を言った直後の映像で一時停止する。それは赤い魔導師がハンマーヘッドを掲げ、何かを装填した瞬間のもの。その後の映像で薬莢も映される。

 マリエルはそれを見て、このデバイスの仕組みから、これが一体何なのかを口に出す。

 

「ベルカ式、カートリッジシステム」

「その通り。流石だな、マリー」

 

 マリエルが言ったカートリッジシステム。それはベルカ式魔法の一つである。

 ベルカ式とは、なのはやフェイト。そして管理局が主に使うのが、ミッドチルダ式と言われ、それとかつて双璧を為した魔法の体系である。広域や距離、汎用性が高いミッドチルダ式とは異なり、ベルカ式は対人戦闘を前提とした瞬発力に重点を置いており、射程や範囲などはある程度度外視されている。ベルカ式カートリッジシステムは更なる瞬間出力向上の為に開発された。その多くは肉体やデバイスの強化に用いられ、非常に高い個人戦闘力を誇る。だが使用者にかかる負担が大きいため、危険なシステムである。

 

 近接戦闘向きの特性からか、これを操る者は魔導師では無く【騎士】と言われる。その為バリアジャケットでは無く、騎士甲冑。又は戦闘衣服と認識したほうがいい。今回の奇襲した者たちはベルカ式魔法を使う騎士で間違いないようだ。結界や魔方陣の形から見て間違い無いだろう。

 しかし、だとしたらこの者たちは一体何者なのか。それが分からない。クロノはディスプレイの映像を止める。

 

「引き続き映像から情報を探るとする。───話は戻って、デバイスの事なんだが」

 

 レイジングハートの方へ向いて、クロノは苦い表情をしながら言葉を続ける。

 

「修理ついでに、強度の方を高めておいてくれないか? 出来る限り最大に」

「うん、了解。えーと……なのはちゃんだっけ。凄い強いんだよね?」

 

 クロノは端末を弄り、なのはについて書かれたデータをマリエルの端末に送信しながら頷く。データといえど、ジュエルシード事件での報告書みたいなものだ。なのはの身体能力は図れない為、報告書をデータとして送る。マリエルは自分の端末でなのはについて書かれたものを閲覧する。

 

「えーとどれどれー……。……あれ、全部ワンパンって書いてあるけど、これは何かの冗談か何か?」

「冗談だったら良いんだが、事実だ。なのはは今までどんな敵でもワンパンで倒してきた規格外な存在だ。レイジングハートが損傷した直接的な理由は、敵の攻撃をわざと受けたという事だ。しかし、なのはの能力に付いて行けなくなったのが主な原因と見られる」

「うへぇ……」

 

【挿絵表示】

 

 マリエルは驚きを通り越し、呆れるように表情を引きつらせている。確かにデバイスの役目はサポートであるが、レイジングハートのような有能デバイスが使用者の動きについていけないというのは、余りにも凄まじい。レイジングハートが残した映像には、赤い魔導師をどうやって撃退したのかが映っていない為、マリエルはにわかに信じがたいが、クロノが言うなら信じるしかない。

 

 因みになのはの事については正直、実の所アースラ部隊だけしか知られていない。それはクロノが上に報告書を送る際に、一撃で倒すという内容をそのまま送ると、ふざけているのかと文句を言われてしまうのだ。いや、気持ちは分かるのだが、何ぶん事実である為にクロノは苦悩している。その結果、なのはの事について書く報告書には、細かい戦闘の様子を捏造する形で送っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 本局にあるオペレーティングルーム。その一つを現在アースラメンバーで使わせて貰っている。アースラが点検中である為、そう言った場合はこのオペレーティングルームを使う。その室内はまるで時空船の艦橋のように広く、上段と下段にフロアが分けられている。下段には沢山の局員達がディスプレイを弄り、効率よく仕事をこなしているのが分かる。クロノの席は上段にある為、上の入り口から席のほうへ向かう。

 

「あ、クロノくんお帰りー。マリーのところに行ったんでしょ? レイジングハートとバルディッシュはどうだって?」

「ああ。二基とも数日には修理が終わるらしい。ついでにレイジングハートの方には改修も頼んでおいた」

 

 自分の席に付き、隣の席のエイミィと話をしつつ、システムを起動してディスプレイを開く。データを選び、二基のデバイスに記録されていた奇襲者との戦闘映像を見る。レイジングハートの映像は途中で切れている為、バルディッシュが残した映像を重点的に見る。

 戦闘の様子から見れば、この映る桃色の騎士が相当な手練ということが分かり、剣のデバイスを巧みに振っているのを見れば、フェイトが負けたのも頷ける。倒れたフェイトの前に立つ騎士の姿が映し出され、騎士は何かを出現させる。

 

 それは十字で表紙が飾られた本のようなものだった。

 

 

「───!」

 

 その瞬間を一時停止して、その本を拡大して修正。はっきり映ったその本を見て、クロノは気付いた。まず今回の襲撃者の正体も、何が目的でリンカーコアから魔力を奪っているのかを。驚きの余り、しばらく硬直する。

 只ならぬ様子にエイミィは心配そうに声をかけると、クロノは我を気付かせ、もう一度その映像を見た。

 

「───ロストロギア・闇の書」

 

 クロノは鋭く表情を険しくし、その名前を言葉に出した。するとクロノの様子と、その闇の書という単語で、エイミィは昔の記憶の中から思い出す。

 

「え……それって」

 

「───第一級捜索指定がされている、最上級に危険なロストロギア。六六六のページを持つ、黒い外装の書物型ストレージデバイスで、ユニゾンデバイスを管制人格に持つ。初期状態は全てが白紙だが、リンカーコアを吸収する事でページが記載され、全てのページが埋まるとユニゾンデバイスとして本来の機能を発揮、所有者と融合して絶大な能力を与える。完成すれば、取り返しのつかない事になる」

 

 クロノは険しい顔で語る。なぜクロノが闇の書の特徴を知っているのかを、エイミィはそれを知っている。昔クロノに訊かせてもらった話だ。彼はずっとこの事件を調べていた。彼の管理局を志望した動機とも言える。

 そこまで固執する理由、それは───。

 

 クロノの父、クライド・ハラオウンは───闇の書が原因で亡くなった為だ。

 

 

 

 

 

 

 ビル群が並ぶオフィス街の街並みからは、人の気配がほとんど消えている。深夜の為、それも当たり前の事だ。そのビルの一角の屋上に、三つの影が並ぶ。夜風に吹かれ、三つの影のうちの二つ。女性二人。その双方の髪が靡いた。

 一人は桃色の髪が特徴の女性であり、頭頂部にて髪を纏めている。もう一人は金髪の女性で、肩にかからない程度の髪形をしている。桃色の女性は目が鋭く、その凛々しく思える姿は、正しく騎士という印象を受ける。比べ、金髪の女性は、例えるならば癒し。おっとりとした瞳をしており、優しい人柄を印象付けられる。影のうちの最後は使い魔らしき獣。青い狼と例えればいいのか、その姿はアルフと似ている。

 暗くなった街並みを見ながらしばらく待つ。すると背後から開閉音が鳴った為、三人は同時に背後へ振り返る。

 

「……来たか、ヴィータ」

 

 桃色の女性がビルの屋上の扉のほうへ目を向ける。するとそこにはなのはと対峙した赤い魔導師───ヴィータが此方に歩き、寄って来る。

 

「───シグナム。シャマル。ザフィーラ。皆揃ってんな」

「ええ。ヴィータちゃんが最後」

「うっせぇなシャマル。こちとらはやてと寝ているんだからしょーがねーだろ!」

 

 金髪の女性───シャマルには特に悪気があって言ったのではないが、その言い回しから、からかわれていると思ったヴィータが声を上げる。それに桃色の女性───シグナムが笑みを浮かべながら言ってくる。

 

「ならば別々に寝ればいい。子供でもないし、構わないだろう」

「いや、それはその……いいだろ別に!」

 

 シグナムの言葉に対し、言い返しの言葉が見当たらなかった為、怒鳴るしかなかったヴィータ。シャマルとシグナムは微笑んだ後、さてと声を零してから、四人囲うように見合う。それは先ほどの緩んだ雰囲気は抹消され、張り詰めた空気が漂う。

 

「今、何ページだっけ?」

「待ってね。…………二六七ページね」

 

 ヴィータが訊ねると、シャマルが手に持つ闇の書をパラパラと開き、表示の数字を確認する。数字を見て、全体に知らせるように言葉を口にした。対し、ヴィータは目線を下にずらして思考に耽り、顎に手を当てる。

 

「もうすぐ半分か……」

「昨日の子が魔力高かったからね」

「……すまん。あたしも蒐集出来てれば……」

 

 シャマルが言うと、ヴィータは申し訳無さそうに頭を下げて謝ってくる。だが先ほどとは状況が違う為、シャマルは慌てて頭を上げるように言う。

 

「いや、気にするな。問題は、お前を圧倒するほどの実力を相手が持つという点だ」

 

 シグナムはヴィータの実力は知っている。ヴィータは接近と遠距離どちらも臨機応変に対応出来る、オールラウンダーの戦士だ。しかも防御も硬く、接近戦でのパワーもこの中で言えば誰よりも高い。故にヴィータが負けたと知ったのは予想外の事であった。しかも此方が奇襲であるが故、それを返り討ちにした魔導師はかなりの腕だと確信できる。しかしそう言っても、ヴィータ自身が何やらありえないと呟いているのだが。

 

「管理局にも目を付けられている。今回からなるべく離れた世界での蒐集をせねば」

 

 青の獣───ザフィーラが言うと、皆が頷く。

 

「ああ。とっととページを埋めて、はやてと静かに暮らすんだ」

 

 ヴィータは言うと、その手にデバイスを持ち、前に突き出す。シグナム、シャマルも同様だ。決意を確認してから、四人は転移魔法を使用して、別世界へと転移した。


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