一撃少女   作:ラキア

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15撃目

 

 

 結界の内部に進入し、フェイト・テスタロッサは守護騎士の一人───シグナムの視線上まで降下し、そこで浮遊して足場を固定する。

 シグナムは此方に攻撃を仕掛けては来ない。こちらが仕掛けてくるのを待つ辺り、彼女の騎士の誇りの高さが窺える。別段構い無しに攻撃を仕掛けられても大丈夫なように用意はしていたが、それをする必要がないと分かった為に、その事に感謝しつつ、目線を交差させる。 

 凛とした表情に、鋭い双眸。桃色の髪を頭頂部で結い、騎士甲冑と呼べる戦闘衣服を纏い、力を振るう刃であるデバイス───レヴァンティンを鞘に収め、フェイトの姿を確認する。

 フェイトも同様にバルディッシュを構える。手に持つデバイスは斧の形状したフォームであるが、その柄には以前とは違う装備が搭載されている。ベルカ式カートリッジシステム。カートリッジはリボルバータイプだ。弾数が六発と少ないが、その分一発のエネルギーはマガジン式より遥かに凌駕する。近接戦闘を目的とすれば、一撃の突破に優れたリボルバー式の方が良いと分かる。漆黒のバリアジャケットも以前とは違う点が見受けられる。細部の装甲が異なり、カートリッジシステムを搭載した事によって、その装備も合わせて一新されているのだ。

 そしてフェイト自身を確認し、先日よりも身のこなしが変わっているのが、構えを見ただけで分かる。

 

「先日とはまるで別人だな。装備も違うが……それ以前にお前自身が変わったと分かる。特訓でもしたか」

「装備も整え、特訓もしました。全ては───貴女に勝つためです」

 

 言って、バルディッシュを握る手に力を込める。その意思を明確にシグナムに伝える為である。シグナムはその覚悟を確認した後に目を閉じ、そうか、と言葉を零す。烈火の将と呼ばれる騎士シグナムにとって、フェイトの戦いにおける姿勢に、騎士としてとても心地よく感じた。不意打ちを仕掛けたり、小賢しい手段を使うものが相手の場合には容赦はせず、己の力で相手を叩き潰す。一方で戦の礼儀をわきまえている者には、こちらも相応に相手をしたいと考える。

 

「お前のその覚悟、確かに伝わった。ならば、こちらもそれに応えるとしよう」

 

 シグナムはレヴァンティンの柄を握り、抜刀術の構えを取った。心を澄ませて集中して、その神経を研ぎ澄ませている。フェイトも斧形態のバルディッシュを握り、構えを取る。数秒の沈黙が訪れ、互いに息を整える。辺りで爆発音が響くのが分かる。ヴィータかザフィーラ、どちらかが相手と戦闘になっているのだろう。

 そして───。

 

「───ッ!」

 

 シグナムが先に踏み込んだのを合図にし、互いに相手の間合いに踏み込んで行く。一瞬の速さでいえばほぼ互角。シグナムはレヴァンティンを抜刀し、肉薄する。それに触れないように上体を横に捻って回避しつつ、バルディッシュをサイズフォームと変えてから横に凪ぐ。鎌の特徴は、剣とは違って振り下ろすのでは無く引いて裂くことであり、変則的な動きを上手く合わせることによって相手の死角を奪うことが出来る。

 だが、死角を狙う武器だと言う事は、幾つもの戦を潜り抜けてきたシグナムにとっては経験済みの事であり、フェイトの動きは既に体験済みの動きでしか無い。故に視界をズラす事無く、見切る。レヴァンティンを当てるようにして刃を殺し、そのまま沿うようにしてバルディッシュの柄に刃を滑り込ませる。

 が、フェイトもバルディッシュの使い手である以上は、こういった動きで回避されることは当然知っている。かつての師である使い魔に教えて貰ったことだ。柄に刃を届かせる前に、鎌を思い切り下に振り下ろすことによって、滑った刃を下に落とす。

 

「良い動きだが、まだ若いな」

 

 言って、投げられた勢いを利用するように一回転してから、シグナムはレヴァンティンを上から叩きつけるように振るう。フェイトはダッキングで回避し、反撃にフェイトが鎌の凶刃を水平に凪ぐ。身体の勢いと合わさり、レヴァンティンを握る腕は伸びきっている。

 右手の鞘で鎌の斬撃を受け流しながら、その空いている胴に蹴りを叩き込む。それにフェイトは膝を合わせ、衝撃をぶつけることによって回避しようとする。

 だが、それでもシグナムの方が上手である。蹴りの衝撃はシグナムが抜き、フェイトの身体の体勢が崩れるのを確認する。この隙を見逃すことは無い為、合わせるようにレヴァンティンを振る。一撃で胴を引き裂き、非殺傷といえど昏倒するレベルだ。

 しかし、既にそこにはフェイトの姿は無い。プロテクトを壁にし、蹴ることに寄って瞬時に回避したのだ。後ろに飛び、フェイトは既に弧を描くような動きで宙返りし、大きく距離を開けている。斜め上に浮遊し、バルディッシュを一度斧形態に戻し、構え直す。

 連続した残撃というものは、二撃目から相手に動きを見切られ、効果が薄い。特にシグナムはそれを瞬時に見切り、此方の動きを理解している。どう動けば一番有効なのか、どうすれば自分のペースに持っていけるか。それを熟知し───あえてフェイトにチャンスを与えてくれている。

 悔しい、とフェイトは感じた。

 シグナムの戦術は、自分の目指す完成形に近い。ただ近づいて斬る。相手に見切られないように初撃で仕留める。単純故に鮮麗されている。それがシグナムがヴォルケンリッターとして幾年もの時の中で経験し、積み重ねたからだ。

 初撃でフェイトが無事なのは、シグナムが手加減しているからに他ならない。

 フェイトはバルディッシュを構え、シグナムの間合いに入らぬように警戒しつつ、攻める。連続での残撃は見切られたならば、次は速さを生かす。ヒット&アウェイの戦法でシグナムに攻め入る。速さではシグナムより上を行く。踏み込みの速さにさえ気をつけて、バルディッシュを振るう。

 しかし、シグナムはレヴァンティンを上に掲げ、それにバルディッシュの刃が当たり、噛み合う。

 

【挿絵表示】

 

 動きを見切られている。

 シグナムの目は、フェイトの動きを捉えている。速さに追いつける訳ではない。しかし分かるのだ。フェイトのような相手がどのように動き、そして攻撃してくるかが。シグナムにとってフェイトの動きは繰り返しの動きの再生に等しい。経験済みなのだ。

 

「───ふんッ!!」

 

 レヴァンティンに力を入れ、交わる刃を滑らせて離す。そのまま振り抜き、勢いに乗せてフェイトの身体を吹き飛ばした。フェイトは後方に飛ばされつつも飛行魔法を調節し、踏ん張る。追撃は来ない。シグナムはあくまでも受身の戦術を取っている。それはフェイトの動きを見たいからという理由からなのだろう。

 体勢を整えつつ、シグナムを見ると、彼女は瞼を少しだけ閉じ、目を細めた。

 

「───成る程。確かに別人のようだな。その若さで、しかもこの短期間でここまで成長するとは驚いたものだ。このまま経験を積み、鍛え続ければ、私をも超えるやもしれん」

「……ありがとうございます」

 

 フェイトと視線を交わし、シグナムはそう言葉を吐く。フェイトは警戒しつつも、純粋に強さを褒められている為、礼を露にする。シグナムは呼吸を整えつつ、レヴァンティンを一度鞘に収める。

 

「ヴォルケンリッターが一人、シグナムだ」

「フェイト・テスタロッサ」

「フェイト・テスタロッサ。お前はいずれ強い刃となる───故に、残念だ。ここで芽吹く可能性を、断ち切らねばならない。ここから先は、私も本気で行かせてもらう。未熟な私を恨んで欲しい」

「恨みなどしません。私とバルディッシュは、こんな所で断たれる訳にはいきませんから」

 

 言葉を交わしたと同時、シグナムは柄を握る手に力を入れ、足の構えを整える。すると彼女の足元に紫色の術式が展開され、鞘からは薬莢が射出される。カートリッジを使用したのだ。レヴァンティンのAIがシグナムに装填を伝える。

 フェイトも同様に、バルディッシュのカートリッジシステムを起動し、リボルバー部が回り、カートリッジを一発装填し、完了する。魔力光が一段と輝き、フェイトの足元にも金色の術式が浮かぶ。効果は短いが、その分爆発的に魔力が向上し、バリアジャケットが連動し、比例して身体能力も向上する。

 レヴァンティンには炎が纏い、バルディッシュは雷を纏う。

 

「プラズマ……スマッシャーーッッ!!」

 

 叫び、バルディッシュを前方に突き出して、その先端から射撃される電力を伴った砲撃魔法。射程距離は長くないが、今のシグナムは射程内に入る。だがシグナムもレヴァンティンを構え、そして鞘から抜いた。

 

「飛竜……一閃ッッ!!」

 

 魔力を刀身に集め、繰り出すと同時に炎を纏った純粋な魔力攻撃が、巨大な残撃と化して【砲】となる。

 二つの砲撃が交わり、互いに押し合う状態になる。だがそれも一瞬であり、相殺されるように閃光が辺りを包む。魔力の衝突で、凄まじい衝撃であるが、今のでどちらか片方にダメージは入っていない。状況から判断し、プラズマスマッシャーと飛竜一閃は同等の射程と威力を誇ることが判明する。

 煙で互いに視界が安定しないが、直ぐ様二撃目を繰り出すように構え直し、カートリッジを装填。フェイトは足に魔力を集中させて、自分の持つ最大の速さをぶつける為に、溜める。一気に斬り抜く。

 フェイトの身体は一直線にシグナムへ突撃する。駆け引きや小細工などせず、真っ直ぐ攻める。故に全力をぶつける。対しシグナムは、レヴァンティンを鞘に収めた状態で、剣技を繰り出す。

 

「紫電……一閃ッッ!!」

 

 魔力を刀身に集めて、上に凪ぐように縦の斬撃を繰り出す。シグナムとレヴァンティン、双方の資質である炎熱変換効果が追加で付加されており、フェイトの突撃は炎の斬撃によって止められ、再び爆煙が辺りを包む。フェイトは直ぐ様ヒット&アウェイの戦法で離れ、呼吸を整えつつ、煙で隠れた前方へと視線を向ける。肩で呼吸するほどに息が荒く、体力の消耗が激しいのが自覚できる。バルディッシュからは再び熱が放出され、バルディッシュにも負荷が掛かっていることが窺える。

 そんなフェイトに対し、シグナムの様子には余裕があった。以前として炎を纏うレヴァンティンを、シグナムは構える。

 

「(……クロスレンジでも、ミドルレンジでも圧倒されている。どうすれば……!)」

 

 既にシグナムは次の斬撃を繰り出そうとしている。全てにおいて、自分は彼女に追いつけない。勝つにはまだ、必要な欠片が欠けている。シグナムに勝つには、何としてでもそれを見つけなくてはならない。思考し、バルディッシュを構える。

 ───と、その時だった。

 

『シグナム! ヴィータちゃんが!!』

「───む、ヴィータがどうかしたのか?」

 

 シグナムに念話でシャマルから通信が入る。フェイトにはシグナムの意識が途切れたように見える。シグナムはレヴァンティンを構えつつ、慌てた様子のシャマルにどうしたのかを訊ねた。

 だが、内容を訊ねようとした瞬間に、爆発のような大きな音が聞こえる。ヴィータかザフィーラが戦闘しているものかと思ったが、それは違った。

 

 ───結界で覆った範囲内にある、一際大きなビルが粉砕されて、そこから吹き飛ばされるヴィータの姿があった。

 

 

「───なッッ!?」

 

 レヴァンティンの構える手が解け、目を見開いて驚愕を露にするシグナム。彼女が驚くのは当然ヴィータが吹き飛ばされたのを見たからに他ならない。先日にもヴィータは奇襲に失敗して撤退してきた。しかしヴィータもヴォルケンリッターの鉄槌の騎士であり、同じ相手に二度も敗北を食らうほど、経験は浅くは無い。

 なのに、この短時間でヴィータが敗北する。驚かずにはいられなかった。

 フェイトもシグナと同じ方向に視線を向けると、フェイトは目を半開きにして、半ば呆れたような表情を浮かべていた。数秒呆然としていたが、シャマルから通信が来る。

 

『管理局の増援も来ているわ。撤退よ!』

『───了解した』

 

 未だに動揺は隠せていないが、シグナムはフェイトに向き直り、抜いたレヴァンティンを鞘に収める。

 

「───勝負は預けるぞ、テスタロッサ」

 

 言って、シグナムはその場から立ち去って行く。フェイトには既に追撃するほどの余裕は無い。故に溜めていた空気を吐きだすように、大きく呼吸する。シグナムが去った方向を見れば、先ほど上空に飛ばされたヴィータを、ザフィーラが受け止めて抱えるのが見える。

 次の瞬間には閃光弾が放たれ、一瞬の光と共に、ヴォルケンリッターの姿も、結界も無くなっていた。

 一度ビルの上に着地して、上空を見ると、そこにはクロノを先頭に管理局の魔導師が連携を組んで飛んでいるのが見える。ヴォルケンリッターを追跡する為だろう。と、思考していると、なのはが此方に飛んで来るのが見える。

 

「フェイトちゃん、そっちは大丈夫?」

「……うん、何とかね。なのはは?」

「またワンパンで終わった」

「あはは……」

 

 もはや苦笑いしか出て来ない。フェイトは胃が痛くなるのを感じ、帰ったら胃薬の服用を考えた。

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