一撃少女   作:ラキア

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 友達と通話で盛り上がり、静かなリビングで自分の声だけが響く。

 

「───あ、もうこんな時間や。ごめんなー、すずかちゃん、長電話して」

『別に大丈夫だよ。こっちこそごめんね?』

「いやいや、私も気付かなかったし、ほなお互い様という事で、そろそろ」

『うん、おやすみなさい』

 

 こちらもお休みと返してから、受話器を耳から離して、相手が電話を切るのを待つ。しばらくしてツーツーっと音が聞こえたので、終了ボタンを押してから電話の子機を充電スタンドに差し込む。

 後ろの食卓を見れば、そこには家族で食べる予定に用意していたすき焼きの準備がされている。部屋自体が冷えているので、冷蔵庫には入れずにラップだけして置いていたのだが、家族は一向に帰ってくる気配は無い。仕方無いので、食材が悪くならないように冷蔵庫に仕舞っていく。食卓には鍋とお皿だけ用意しておき、はやてはソファの横に車椅子を停め、窓の外を見る。

 時刻はもう遅い時間であり、外はもう闇夜の静けさが漂う。

 皆は一体何処に行ったのだと、心配もする。と、その時だった。

 

「あ、闇の書」

 

 はやての頭上に、十字の装飾がされた一冊の本───闇の書が転移してきて、そっとはやての膝まで降りてくる。はやては闇の書の表紙を撫でつつ、おかえりと言った。他の皆───シグナム、ヴィータ、シャマル。ザフィーラはどうしたと訊ねるが、反応が無いことから、まだ帰って来ないと察する。

 

「皆の為に、今日は頑張ってご馳走作ったんやけど、全然帰って来んからな」

 

 言って、はやてが苦笑いを浮かべると、闇の書は反応するように浮く。どうしたのかとはやては目で追うが、闇の書ははやての頭上にまで浮いて、表紙で頭を擦る。それはまるで頭を撫でているように、いや、頭を撫でてくれているのだろう。

 

「あはは、平気やで。少しくらい離れててもウチら家族や。寂しいことないよ」

 

 はやてが笑みを浮かべながら言うと、闇の書ははやての正面に戻ってきて浮遊する。はやては闇の書を手で持ち、自分の膝元に置いた。

 

「そやけど、闇の書と二人っきりだと、何だか昔を思い出すなー……」

 

 目を閉じれば、今でも鮮明に思い出せる。あの日起こった、全ての始まり───。

 

 

 

 

 

 

 非現実な出来事が起き、更に自分が幼少の頃から持っていた本がそれのきっかけになったら、普通の人は冷静でいられるのだろうか。魔方陣の中心で固まることしか出来なかったはやては、とても冷静に思考できる状態ではなかった。

 ただ、自分に向かってきたトラックはどうなったのかと、下に視線を向けると、そこには横断歩道を突っ切って停止したトラックがある。運転手は慌てたように辺りを見渡していた。とりあえずトラックには特に何も起きなかったことに安堵した。

 しかし、やっと思考に頭が回せると思った矢先に、右から声が響く。

 

「闇の書の起動を確認しました」

 

 女性の声だが、低く、そして凛々しい声色で言葉を放つ。顔を右に向ければ、そこには桃色の髪が特徴の女性がはやてに跪いている。

 

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を守る、守護騎士でございます」

 

 今度は左から声が響き、此方は柔らかい声色の女性だった。顔を向けると、そちらも同様に跪いているブロンド髪の女性が要る。もう何が起こっているのか理解出来なくなり、両手で頬を抑える。だが続いて後ろからは低い男性の声が響く。

 

「夜天の主に集いし我ら───」

 

 最後に正面に、赤い髪の少女が現れる。

 

「───ヴォルケンリッター」

 

 皆がはやてに向かって跪いている。それぞれ足元には魔方陣が展開されており、色も様々だ。

 ヴォルケンリッターは自分達の存在を名乗り、後ははやてがどのように言うかだ。説明か、或いは命令か。いずれにせよ、はやてが何かをするまでヴォルケンリッターたちは姿勢を崩す訳にはいかない。

 だが、無言が長すぎる。瞼を閉じ、はやての様子は確認出来ないが、気配から察するに魔方陣の中心から動いていないことは確かだ。自分達を見て、様子を伺っているのか。しかしそれにしても静か過ぎる。待ちかねたのは正面に位置する騎士、ヴィータだ。目を開き、はやての姿を見る。

 その様子を確認したヴィータが、他の騎士に念話で尋ねる。

 

『……あのさぁ』

『ヴィータちゃん! 静かに!』

『黙っていろ。主の前で無礼は許されん』

 

 しかし、騎士二人、シャマルとシグナムがそれぞれ念話でヴィータに注意をする。二人の言うように、主の御前にて無礼はしてはならない。本来ならば念話で会話するのも駄目だ。主が魔導師であった場合は筒抜けになる為である。

 だがヴィータは念話どころか、立ち上がってはやての目の前まで行き、言う。

 

『無礼っつうか……こいつ気絶してね?』

 

 ヴィータが屈んではやての様子を見る。はやては目を回して気絶していたのだ。それにはシグナム、シャマル、ザフィーラも驚いた様子で目を開け、慌ててはやての元に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 全身を包む浮遊感。だが不安は無い。むしろこの感じが心地よく感じる。

 自分は今、夢を見ているのだと、理解出来る。だが、それには違和感があった。夢というのに、やけに意識がある感覚がある。まるで現実の空間にいるようであるが、目を開き、周りを見ても何もない空間が広がっているのみ。

 と、その時だった。

 

「───おはようございます」

 

【挿絵表示】

 

 正面に、跪いた女性がいた。銀色の長髪が美しく、その体躯も実に美しいと思える女性。その身に纏う衣は先ほどの四人と酷似している。

 

「お目にかかるのは、初めてになります。私はこの本の───夜天の魔導書の、管制融合騎です」

 

 言って、女性は手元にある本を此方に見せる。それははやてが幼少の頃から手元にあった本だ。

 

「貴女は先ほど正式に、我らが主と成られました。夜天の魔導書と守護騎士四基は、貴女の知恵と力になり、御身に尽くさせて頂く所存です」

「えっと、はあ……」

 

 はやては一度その場にぺたりと座り込んで、女性と視線を交わらせてから、とりあえず肯定しておく。

 

「お伝えしたい事は星のように御座いますが、このまどろみから目を覚まされれば、貴女は私が伝えた殆どを忘れてしまわれるでしょう」

「そう、なん?」

 

 いきなりの事で訳が分からなく、なるがままにしか出来ないはやては、その言葉を鵜呑みにするしか出来ない。しかし、妙な感覚があった。

 

「というか、変な感じやな。貴女とは、初めて会った気がせーへん……」

 

 そう、まるでずっと一緒にいたかのような感覚である。自分にはもう家族が居ないが、もしかしたらそれに似た感覚かもしれない。そんな疑問を口にすると、女性は抱えた本を持ち、此方に言葉を伝える。

 

「この動かぬ本の姿でですが、貴女がご幼少の頃より、共に過ごさせていただきました」

「ああ、なるほど……」

 

 それならば納得はいくが、それならばこの女性は本の本当の姿とでも言うのだろうかと思う。それも確認したいと思い、疑問を口に出そうかとした時だった。

 全身が浮遊し、同時に意識が薄れていく感覚がする。

 

「な、なんやこれ?」

「まどろみの時が終わるようです。もう、お会いすることも叶わないかもしれません。ですから、貴女にお願いが……」

 

 浮遊していくはやてに合わせるように、女性は手を伸ばしながら言う。

 

「あの優しい騎士たちは、ずっと望まぬ戦いをして来ました。どうかあの子達に、優しくしてあげて下さい」

 

 自分の意識がもう消え行く寸前に、女性が寂し気な表情を浮かべる。

 

「それから何より───何より、貴女が幸せでありますように……!」

 

 

 

 

 

 

「……狭っ苦しい街だな」

 

 ヴォルケンリッターが一人、ヴィータが、朝日に照らされる街を見ながら呟いた。

 現在、はやての自宅にて、ヴォルケンリッターは待機している。何とかこの家を見つけ、はやてを寝床に寝かせたのだ。それからはシグナムとシャマルがはやての傍に待機し、ヴィータとザフィーラは二階のベランダから外を見て監視。

 しかし、この街は自分達の記憶の中ではかなり平和であった。魔力が欠片とも感じられない。

 

「少なくとも、騒乱や戦争が渦巻く街ではないようだ」

 

 ザフィーラはヴィータの斜め後ろから同じように街の様子を眺め、印象を述べる。

 

「何が闇の書の守護騎士だよ……。適当に決められた主とやらの為、闇の書のページ集めだけに戦うだけの存在。───どうせ一生こうなんだろ、あたし達は」

「いつか壊れて果てるまでは、な」

 

 感慨深い思いになりながら、二人は言葉を露にした。

 

『ヴィータちゃん、ザフィーラ、戻って。───新しい主さんの、お目覚めだから』

 

 シャマルから念話を貰い、ヴィータとザフィーラははやての寝室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「えっと、この本(こ)は古い異世界の、ベルカってとこの魔法の本で、名前は闇の書。皆はその守護騎士。で、わたしはその主っと……」

「はい。これまでの日々や覚醒の際、闇の書の声を、聞かれませんでしたか?」

 

 はやてが確認するように言葉を述べて、それにシグナムが肯定すると同時、そのように問うと、はやては箪笥を引きながらそれに答える。

 

「うーん……そんな夢を見たような、見てないような……───あ、あった!」

 

 言って、はやては箪笥の中からある物を見つけ、それを手に取ってから引き出しを閉める。そして車椅子を押して、向きをヴォルケンリッター達に向ける。

 

「せやけど分かった事は一つある。私は闇の書の主として、守護騎士たちの衣食住、きっちり面倒見なアカンゆう事や」

 

 その言葉に、ヴォルケンリッターたちは皆目を丸くし、思わず姿勢を崩してしまう。ヴィータは立ち上がって驚愕の表情を浮かべていた。

 

「幸い住む所はあるし、料理は得意や。あとは……お洋服!」

 

 言ってはやてが出したのは、先ほど箪笥から見つけたメジャーだった。そこからは皆の服のサイズを調べ、服を買いに行く。ザフィーラに関しては唯一の男性という事で、はやても男の服についてはそんなに詳しくは無いのでどうしようかと悩んだが、ザフィーラが普段は狼の姿でいると説明し、服は不要と伝える。

 服を買ってくれば、後は好みに合わせて着てみるだけだ。それぞれ現代の服に関して戸惑いながらも、適応の早いシャマルが率先して着替えを手伝って、何とかシグナム、ヴィータも着替えを済ませる。シグナムは未だに慣れない感覚で眉根を八の字にしながら、はやてに訊ねる。

 

「主はやて、本当に良いのですか? 我らにこんな施しを」

「ええって。正直な所、闇の書の主として何して良いか分からへんし、皆で一緒に、静かに暮らしていければ、それでええ」

 

 そこからの暮らしは、実に平和なものだった。

 服を着て、そこからはこの地球の事を教えたりなど。一気に家族が増えたので、食材を買いに行ったりした。ご飯の前にヴィータと一緒に風呂に入って洗いっこしたりして、どうもはやてに接するのに戸惑っていたヴィータと打ち解ける事も出来た。

 夕食では、皆に箸の使い方を教え、なんでもそつなくこなすシャマルが中々なれないことに微笑みつつ、ヴィータがご飯を夢中で食べる姿は良い思い出だ。

 

 

 

 

 

 

 数日の時が流れ、シグナムとシャマル、ヴィータと一緒に買い物に出かけた時の事である。ヴィータは早速お菓子売り場に向かって行った。シグナムが呆れ、シャマルが苦笑いしつつ、はやては買い物リストを確認しながら店の中を見て回る。

 そんな時だった。

 

「騎士甲冑?」

 

 車椅子を押してくれているシグナムと、買い物カートを押すシャマルから、騎士甲冑のイメージを決めて欲しいと頼まれた。

 

「はい。我らは武器はありますが、甲冑は主から賜らなければなりません」

「自分達の魔力で構築しますから、イメージだけ伝えてくれれば」

 

 二人がそう言うが、はやてには甲冑のイメージなど想像もつかないものである。

 

「私にそんな知識はないし、皆を戦わせるつもりもないからなー……あ、なら服でええか? 騎士っぽい服」

 

 振り返って訊ねると、二人は笑みを浮かべて、それで構わないと答える。そうと決まれば早速イメージの参考に、近くの玩具屋に向かう。そこで売っているもので、皆に会いそうなものを探していく。その時に、ぬいぐるみ売り場にある商品の中に、ヴィータが立ち止まって見るものがあった。 

 察したはやては、それをヴィータに買ってあげた。帰り道にヴィータがとても嬉しそうにしていたのも、良い思い出だ。

 

 

 

 

 

 

 そして、数ヶ月経った頃。

 夕食後に、はやてはシグナムに頼み、抱えられながらウッドデッキに出て夜空を眺めた。冬に入って寒くなったお陰か、空がとても良く見え、星の輝きが綺麗だった。感想を口から零していると、シグナムがこちらに微笑みを浮かべつつ、訊ねてくる。

 

「主はやて。本当によろしかったのですか? 貴女が望めば、我らは直ぐにでも闇の書の蒐集に取り掛かり、大いなる力を手に入れることが出来るのですよ?」

 

 言うが、はやては首を横に振った。

 

「そんな事したら、色んな人に迷惑がかかる。私はそんな事は望まへん。最初に言ったやろ、私は皆と静かに暮らせれば、それでええ。……だからな、シグナム」

 

 すると、はやては手を伸ばしてシグナムの頬に触る。

 

「───私が主の時は、闇の書の蒐集の事は忘れてな。約束できる?」

 

 視線を真っ直ぐ、シグナムに向ける。シグナムは数瞬だけ目を丸くしたが、直ぐに笑みを浮かべ、答える。

 

「───はい。騎士の誇りにかけて、誓います」

 

 はやての気持ちに答えるべく、シグナムも視線を真っ直ぐ合わせ、そう誓った。はやても微笑みを浮かべ、ほっと安堵する。すると、リビングから足音が聞こえ、そちらにシグナムが身体を向けると、そこにはぬいぐるみ【のろいウサギ】を手に持ったヴィータがやって来た。

 

「ねぇねぇはやて! 冷凍庫にあったアイス食べてもいい?」

「お前……夕食あれだけ食ったのに、まだ食べるのか?」

 

 そんなヴィータにシグナムが呆れたように言うが、ヴィータははやての時とは打って変わり声を荒げて煩いと返す。別段シグナムを貶しているわけでは無く、シグナムに対して対等でいる故である。ヴィータは、だって、と言ってから顔を呆けて笑みを浮かべる。

 

「はやての作る料理がギガうまだからな!」

「しゃーないなー、一個だけやで?」

 

 そんなヴィータを見て、はやてが笑みを浮かべて言うと、ヴィータは大喜びで冷凍庫に向かって駆けて行った。その様子にはやてとシグナム二人微笑を浮かべつつ、寒くなってきたので室内に戻るとする。

 

 力なんて欲しくは無い。ヴォルケンリッター───家族皆が居てくれれば、はやては満足だった。

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