一撃少女   作:ラキア

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17撃目

 

 

 蒐集に失敗し、管理局からの追ってもやっとの事で振り切ったのは、翌日の早朝であった。シャマルとザフィーラは先に家に戻り、そっと玄関の扉を開け、靴を脱いでリビングへ入る。

 

「すみません、何の連絡も無しに……って」

 

 良いながら、シャマルは扉を開けると同時にはやてに謝ろうとしていたのだが、はやてはリビングで車椅子に座ったまま寝ていたのだ。考えれば当然の事である。シャマルは直ぐ様ソファの隅に置いてあった毛布を手に取り。それをかける。

 はやて抱えて寝室に向かい、ベッドに寝かせてからリビングに戻ってくる。その際にテーブルに置かれた鍋の用意を見て、シャマルは申し訳ない気持ちで一杯になった。

 

『はやてちゃん……待ち疲れて寝ちゃったようね』

『無理もない』

 

 通信でその事をシグナムとヴィータに伝える。シグナムはそう返し、ヴィータは通信越しに俯いていた。二人も申し訳無さそうに言葉を返してきた。

 

『……後でちゃんと謝る。けど、こんな所で止まるわけにはいかねぇ』

「……そうね」

 

 ヴィータの言葉に、皆が頷いた。はやてに心配させてしまうとしても、ヴォルケンリッターたちは蒐集をしなくてはならない。そうしなければ、ならない理由がある。

 

 

 

 

 

 

 はやては幼き頃から足が不自由である。それは現在でも深刻であり、毎週何日か市内の病院に通っている。そこで主治医の先生にいつも面倒を見て貰っているのだが、ヴォルケンリッター達が付き添いでやって来た時に驚いたのは今でも良く覚えている。主治医には親戚ですと誤魔化しておき、何とか納得してくれた。

 それからも付き添いでシグナムやシャマルが来ると、医師も安心したのか、笑顔で出迎えてくれる。

 

「こんにちは、はやてちゃん」

「お世話様です。石田先生」

 

 診察室に入ると、医師は笑顔で出迎え、はやても挨拶を返す。シグナムとシャマルも付き添い、一緒に室内へと入る。シャマルも丁寧に、シグナムは控えめな声色で挨拶を返す。その日も、はやての足の検査をして、医師は眉根を八の字にしてから、はやてに薬の調整の話をした。

 

「今回の薬も、正直言ってあまり効果は見られないわ。また別のお薬に変えてみて様子を見ようと思うけど、はやてちゃんは大丈夫?」

「ええと……石田先生にお任せします」

 

 薬や治療法の変更は今までよくあった事なので、はやては特に気にせず主治医に任せると答える。その笑顔につられ、医師も複雑そうであるが笑みを浮かべた。

 この日はヴィータも付き添いで来ていた為、ロビーで待っているヴィータとはやては会話をしている。シグナムとシャマルは、主治医から話があると言われ、診察室に残った。

 

 そこで聞かされたのは、衝撃的なものだった。

 

 はやての病は、足だけでは無く、やがて麻痺が全身を侵し、内臓を停止させる恐れがあると言った。聞いた時、シグナムとシャマルは驚愕に表情を染め、後半から医師に治療法についてなどを聞かされたが、耳に入って来なかった。

 二人には分かっていたのだ。

 故にシグナムは診察室を出て、人気の無い廊下に来ると、そこで壁に拳をぶつける。シャマルも傍にあった腰掛に腰を下ろし、手で顔を覆う。

 

「───主はやての身体は、病気などでは無い。……闇の書の侵食によるものだ……ッ!」

 

 シグナムが奥歯を噛み締めながら言う。

 闇の書は本来、主の手に渡ればページを揃えるために魔力蒐集を行う。だがはやては一切蒐集を行わなかった。その結果、闇の書の施された防衛プログラムによって、一定期間蒐集が無いと、主の身体を蝕み、そして死に至らしめるのだ。足が不自由なのは、その初期段階である。

 

 夜。はやてが寝た後にヴォルケンリッターは公園にて集まり、街灯の下、シグナムとシャマルはヴィータとザフィーラにその事を伝えた。ザフィーラは深刻に事態を理解し、同時にその記憶が抜け落ちていた我に悔いる。

 

「……け……きゃ……」

 

 その時、ヴィータが俯きながら拳を握り締め、言葉を零した。三人が意識をヴィータに向けると、ヴィータは顔を上げる。その表情は悲しみに染まり、涙を流していた。

 

「───はやてを助けなきゃ!!」

 

 だが、同時に強い決意が現れていた。ヴィータの気持ちはヴォルケンリッター皆同じ。今までに居なかった優しい主、はやてを死なせたくない。強く思っていた。

 だから、決めたのだ。

 

 ビルの屋上に、ヴォルケンリッター四騎が揃う。囲うように並び、円を描く。

 ヴィータ、シャマル、シグナムは魔方陣を展開し、それぞれデバイスを前方に掲げる。ザフィーラは既に人型に変身し、デバイスの代わりに拳を前方に突き出す。

 

「はやてちゃんを蝕んでいるのは、闇の書の防衛プログラム。なら、ページを蒐集して……」

 

 シャマルが良い、姿を騎士甲冑へと変える。その手にはクラールヴィントを装備している。

 

「完成させて、主が正式に闇の書の主となれば、少なくとも侵食は止まる!」

 

 ザフィーラが拳を合わせる。

 

「はやての為にも、人殺しはしない。でも、それ以外なら何だってやってやるッ!!」

 

 ヴィータが騎士甲冑を纏い、鉄槌───グラーフアイゼンを構える。

 

「主はやて。御身の命を救うため、貴女との誓いを───破ります!」

 

 シグナムが騎士甲冑を身に纏い、レヴァンティンを構えた。

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 シグナムとヴィータが帰宅し、リビングにてはやてが起きるのを待っていた。ご飯の時間を過ぎても帰って来ず、いつまで経っても帰って来なかった為に、はやてに心配をかけてしまった。その事については反省している。故にただジッと待っていた。

 

「……あ、寝てもうたか……」

 

 目を覚ますと、視界には寝室の部屋の天井が映る。そこで疑問に思ったのが、自分はベッドで寝た記憶が無いこと。確かと記憶を振り返り、思い出す。昨日は結局闇の書と昔話をしているうちに眠くなってしまい、そこで意識が途切れたのだ。自分がここで横になっているのは、ヴォルケンリッターの誰かが寝かせてくれたからだろう。

 後でお礼を言わないとと思いつつ、時刻を確認すると、既に夕方に針は回っていた。朝方に寝た為にこの時間に起きてしまったのだ。慌ててベッドから起き上がろうとして、ベッドの傍においてある車椅子に手を掛けようとした時である。

 

「───ッ!?」

 

 

 ───強烈な胸の痛みが発生したのだ。

 

 痛みは酷く、とても正常に呼吸すら出来ない程だった。腕に入れた力を落とし、身体がベッドに倒れる。その際に車椅子が転倒し、鈍い音が家の床に響く。

 

「───ッ! はやてッ!!」

 

 その音に気付いたヴォルケンリッターたちは直ぐ様寝室に駆け付くと、そこには胸を押さえて震えているはやての姿があった。ヴィータは必死な声で傍に寄って名前を叫ぶ。シャマルは直ぐに魔法でどうにかしようとするが、この症状は闇の書のプログラムの影響なのでどうしようも出来ない。

 

 直ぐ様病院に連れて行き、主治医の医師からはしばらく入院と告げられる。痛みが引いたはやては平気だと言って帰ろうとしたのだが、それは主治医とヴォルケンリッターたちの説得によって止め、はやてを入院させる。

 

「御見舞い、毎日来るから!」

「ありがとうヴィータ。でも平気や。直ぐに戻ってくるよー」

 

 はやての膝元でヴィータが言うが、はやては心配そうにするヴィータの頭をそっと撫でながら返す。それからははやての入院についての説明を一通り受けて、シグナムとヴィータは先に帰ることにする。ヴィータは去り際にもとても寂しそうな様子を見せていたが、いつまでもそうしている訳にも行かず、切り替えてから病室をあとにする。

 シグナムとヴィータは先に病院を出る。はやてには先に帰ると伝えたが、勿論そうでは無い。蒐集に向かうのだ。

 

『こっちにはシャマルとザフィーラが残る。私達は、蒐集のほうに向かう』

『あたし達は面会以外の時間は全部収集に使う!』

 

 病室からシャマルは念話で返事を返す。はやてには悪いが、入院して貰ったほうが蒐集活動しやすいというのも本音であった。はやての身体も限界を迎えつつある。急がなくてはならない。そのためにも、早く蒐集を終えねばならない。

 そして、クリスマスには全て終わらせたいと、考えていた。

 

 

 

 

 

 

 リンディが襲撃に遭ったあの日を境に、リンディは急遽休暇を返上し、仕事に復帰した。現在は本局にてアースラの最終点検に取り掛かっている。そしてなのはとフェイトも、今回の闇の書の件に本格的に協力することになり、現在はクロノからの指示待ちである。

 しかし、あの日からヴォルケンリッターたちは非常に慎重に行動するようになり、管理局でも情報が少ない湿原が広がる原生世界などで蒐集を行うようになった。その為、見つけた時には既に尻尾をまかれている方が多くなり、なのはとフェイトも出撃は無かった。

 故に学校にも普通に登校でき、フェイトと共に学校へ登校する。海岸沿いを通り、学校の門まで来た。するとそこにはバスから降りてくるアリサとすずかの姿があった。

 

「おはようなのは、フェイト!」

「おはよう、アリサちゃん」

「おはよう、アリサ」

 

 相変わらず元気に挨拶してくるアリサに対し、なのはとフェイトも挨拶を返す。いつもなら次にすずかが落ち着いた声色で挨拶をしてくるのだが、今日はその様子が無かった。こちらに手を振りながら寄ってくるアリサに対し、すずかはどこか元気が無く、俯いて意識が上の空であった。アリサが顔を覗くと、気付いたとたんに慌てて挨拶を返す。

 

「どうしたの、すずかちゃん?」

「それがね、さっきからこうなのよ」

 

 なのはが何かあったのかと訊ねると、アリサは手を振りながらそう口にする。するとすずかが一呼吸挟んだ後に、その重い口を開いた。

 

「あのね、話すと長くなっちゃうけど……」

 

 すずかの話を聞き、教室へと移動して鞄などをロッカーに仕舞い、すずかの机に集まる。話の続きを話して、全てを話終えると、すずかは眉根を八の字に歪めて机に突っ伏した。話の内容としては、友達が病院に入院したと言ったのだ。それなら余りに気分が沈んでいるのにも納得できる。

 

「そうだよね、心配になるよね」

 

 フェイトは心配そうな表情で、そうかと言葉を返す。しかも近日にはクリスマスというイベントが控えているのだ。子供である自分たちにとってはとても嬉しいイベントであるが、それが病院で過ごさなくてはならないと思うと、とても残念に思える。

 するとアリサが何かを思いついたように表情を明るくして、掌を重ねた。

 

「それなら、お見舞いに行きましょうよ! ついでにクリスマスパーティもやってさ! プレゼントも持って行ったら喜ぶよきっと!」

「ああ、うん! 良いと思う!」

 

 病院に見舞いに行くついでに、クリスマスパーティもやろうという事だ。それを聞いたすずかも先ほどまでの落ち込んだ態度も一変し、ぱあっと表情を明るくした。それにはなのはとフェイトも賛成である。そうと決まれば、早速今日の放課後からプレゼント選びに行こうと話になった。

 

 

 

 

 

 

 夜。

 はやての病室は個室であり、プライベートな空間である。真夜中という事もあって、部屋は暗く、静かであるが、そんな病室にうめき声が響く。もちろんはやてしか居ない。はやては布団の中で苦しそうに声を上げて、辛そうに胸を抑えて身体を丸めている。

 皆の前では平然を装っていたが、実際はかなりの痛みである。内臓が麻痺を起こす事によって、血液の循環が悪くなり、それによって障害が起こり、痛みとなっているのだ。


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