リンディが現場に復帰して、アースラも整備が終わった。闇の書が万が一暴走した際の為に、特装砲【アルカンシェル】を搭載した。管理局の保有する魔導兵器の中でもとびきり強力な高出力魔導砲である。現在アースラはなのはとフェイトのサポートをする為、地球の衛星軌道上にて待機している。
リンディはアルカンシェルの起動キーを手に握り、出来る事ならばこれが使用される事なく、事件を解決したいと思った。
◇
ヴォルケンリッターたちの足取りもつかめぬまま、クリスマスイブの日がやって来る。
なのはとフェイトはアリサとすずかと共にはやての病院へと向かった。アリサの車にて病院にまで送って貰い、降りて病院内へと入る。すずかははやてから事前に病室を教えて貰っていた為、受付にはやての事を伝えると、看護師もその事が分かっていた為、すんなりと病室へと案内してくれた。
そして病室の扉の前にやって来る。すずかが一度扉をノックしてから室内へと入った。
「はやてちゃん、こんばんわー」
「すずかちゃん、こんばんわー。わざわざありがとうな」
すずかが入室してはやてに挨拶すると、はやてはベッドにから状態だけを起こして出迎えてくれる。続いてアリサとなのは、フェイトも病室へと入り、はやてに挨拶した。
「はやて、メリークリスマス!」
「アリサちゃん、メリークリスマスや」
アリサはいつものように元気良く挨拶する。アリサはすずかを通し、連絡は取っていた仲なので面識は既にある。初対面なのは、フェイトとなのはである。はやては二人に視線を向ける。
「それで、二人がなのはちゃんとフェイトちゃん?」
「うん、そうだよ」
訊ねると、すずかが頷く。なのはとフェイトは笑顔で自己紹介を始めた。
「はじめまして、はやてちゃん。私、高町なのは」
「はじめまして。フェイト・テスタロッサです」
「はじめまして。八神はやてと言います。あ。別にそんな堅くならんでええよ。普通にはやてと言ってな」
「うん、じゃあ私もなのはで、宜しく、はやてちゃん」
「宜しく、はやて」
互いに紹介を済まし、それからは色々と談笑を始める。入院になった事や、プレゼントの事など。両親は何をしているのかと訊ねると、現在は両親は居ない為、親戚の方と暮らしていると話した。どうやら今日も御見舞いに来るそうなので、折角なので挨拶をしたいと思った。
プレゼントを渡し終え、そこから普段通りの談笑に入る。小一時間経った頃だろうか、扉をノックする音が聞こえる。
「あ、来たみたいや。入ってええよー」
はやてが扉に向かって声をかける。親戚の人たちはどういう人なのだろうかと思いつつ、四人も視線を扉のほうへ向けた。そしてゆっくりと扉が開かれる。
その瞬間───。
「「───ッ!!」」
それは扉を開いた者、そしてなのはとフェイトが同時に驚愕の表情を浮かべた。はやての親戚として現れたのは、紛れもなくヴォルケンリッターのシグナム、ヴィータ、シャマルの三人だったのだ。
「あ、こんばんはー。はやてちゃんの友達のアリサ・バニングスです」
「同じく月村すずかです。今日ははやてちゃんの御見舞いに来ました」
「はい、初めまして。いつもはやてちゃんがお世話になっているわ」
一瞬の表情の変化だったが、シグナムとシャマルは他の皆に心配されないように直ぐに平静を装い、アリサやすずかと挨拶を交わす。しかし唯一ヴィータだけが直ぐ様はやてのベッドの前に駆けつけ、はやてを守るように両腕を広げる。表情も敵意剥き出しにして、眉根を寄せた。
「こらヴィータ、何やその態度は。なのはちゃんたちに失礼やろー」
しかしはやてはヴィータのその態度を人見知りと考え、軽く頭を小突いた。ヴィータははやてに向き直ってから、はやてにだってと言葉を零すが、はやてはいう事を聞かない子に叱るように鼻をつむいだ。
「ごめんなー、皆。うちの末っ子が迷惑かけてもーて」
「あ、うん、大丈夫なの! 気にしてないから……」
謝るはやてに対し、なのはは苦笑いしながら言葉を返す。シャマルはまるで何事も無かったように、皆のコートを預かり、それをクローゼットに仕舞う。フェイトはヴォルケンリッターと遭遇してから直ぐ様アースラに事態を伝えようとしたが、念話が使えないことに気付いた。
「……念話が使えない。これは」
「……シャマルはその手のエキスパートだからな。これくらい造作もない」
皆に聞こえないように、フェイトはシグナムと小声で会話する。フェイトはシャマルがクローゼットの扉を閉める際に、その指に填められたクラールヴィントを確認すると、微かに翠色の光が輝いていた。
「……本当に、今日は御見舞いに来ただけなんです。ここに来たのは偶然で。……御見舞い、続けても?」
「……構わん」
フェイトがそう言うと、シグナムは目を瞑りながら答える。ここで騒ぎを起こすほど、ヴォルケンリッターもフェイトたちも愚かでは無い。
その後は気にしないようにして談笑を続けたのだが、終始ヴィータがキツイ視線をこちらに向けていたのは言うまでも無い。やがて面会時間は終了し、病室から出て病院の正面口から外に出る。迎えに来ていたバニングス邸の車に、アリサとすずかが乗る。なのはとフェイトは寄り道して帰ると言って、二人には先に帰ってもらう。車が発車し、双方手を振りながら分かれる。
車が見えなくなってから、なのはとフェイトは手を振るのを止め、シグナム達へ向き直る。
◇
場所は移り、結界を張った空間内のビルの屋上へと着く。ヴィータの姿は途中から見えなくなり、今相対しているのはシグナムとシャマルだ。シャマルは結界とジャミングに専念している。今なのはとフェイトに向き合っているのはシグナムだけとなった。
「はやてちゃんが、闇の書の主……?」
なのはが聞かされた事実に目を丸くする。
「ああ。主はやては今、闇の書の防衛プログラムによって身体が蝕まれている。止めるには、闇の書を完成させ、主はやてを正式なる闇の書の主へとしなければならない」
シグナムは俯きながら言葉を述べる。しかし、その言葉には引っかかるものがあった。確かに闇の書の蒐集が防衛プログラムによって強制的なものになっているのは分かっている事実。しかし、その後の言葉に問題があった。
闇の書を完成すれば、はやては救われる。そうシグナムは思っている。それは恐らくヴォルケンリッター全員が思っていることなのだろう。しかし違うのだ。ユーノが調べた資料には、重大な事実が書かれている。
闇の書が完成すれば、直ぐ様暴走を起こし、その主を自滅に追いやると。
「───待って! 闇の書が完成したら、はやてが!!」
フェイトはシグナムたちが誤認している事を伝えようと声をあげるが、その言葉を遮るようにヴィータが死角からグラーフアイゼンを構えて強襲してくる。フェイトは完全に反応が遅れたが、直ぐ様なのはがフェイトの前に入り、代わりに吹き飛ばされる。
「なのは!!」
フェイトは飛ばされた方向に向け声をあげる。地面をバウンドした際に粉砕されたコンクリートが粉塵を巻き起こす。
しかしフェイトに向けてもシグナムがレヴァンティンを構えて斬りかかって来る。魔力反応に気付き、バルディッシュを構えて刃を食いつかせ、身体ごと吹き飛ばすように振り払う。シグナムは衝撃を足のバランスを取りつつ、態勢を保ったまま後方へと下がる。
一度レヴァンティンを鞘に収め、抜刀術の構えを取る。
「───お前たちが何を言おうが、もう聞く耳は持たん。我らは主はやての為なら、騎士の誇りをも捨てた」
言って、シグナムの身体に騎士甲冑が展開される。結界で歪められた月光に当てられ、頬から涙を流すのが見える。
「───止まる訳にはいかん。もう……止まれんのだッ!!」
強く示されるシグナムの思い。それを分からなくもないと思うフェイトではある。だが、それが間違っていると分かった以上、フェイトとしても、ここで通す訳にも行かない。瞳を閉じる。バルディッシュを構えると、バルディッシュがバリアジャケットを展開してくれる。しかし、その姿は通常のものとは装備が違うものだ。最低限のインナー部に、手足の装甲のみという、かなり薄い装甲である。
涙を拭ったシグナムが、その姿を視認して目を細める。
「普段より薄い装甲を、更に薄くしたか」
「その分、速く動けます」
「……掠っただけでも死ぬぞ」
「貴女に───勝つためです!!」
言って、フェイトはバルディッシュを構える。狙うは初撃。しかしそれはシグナムも同様である。互いに抜刀する形を取り、タイミングを見計らう。そして数瞬後、両者は互いに間合いへと肉薄した。
◇
ヴィータに吹き飛ばされ、地面に突っ伏すなのはの下に、ヴィータが騎士甲冑をその身に纏わせながら近づく。その頬には涙が伝っている。
「……邪魔……すんなよ……」
ゆっくりとグラーフアイゼンを上に掲げる。
「今ここで止まっちまったら……はやてが死んじゃうんだ! ……だから……邪魔……すんなぁぁぁーーーーッッ!!!」
スイングするようにグラーフアイゼンを振るう。なのはは特に回避する動きを見せず、そのままハンマーヘッドが直撃し、後方にあった燃料タンクへと衝突する。その衝撃で中身の燃料が爆発し、ヘリポートが炎に包まれる。
ヴィータの目の前には炎が広がっている。グラーフアイゼンでの直撃、さらにこの炎の中だ。致命傷とはいかなくとも、かなりのダメージは通っている筈である。しかし───。
その炎の中から、人影が現れる。平然と炎の中を歩いて出てきたのは、バリアジャケットを装備したなのはの姿だった。
「───悪魔め……ッッ!!」
「───……悪魔で……いいよ」
なのはは拳を構え、言い放つ。
「───話を聞いて貰う為なら、悪魔でもいいッ!!」
いつもの無気力な表情では無く、その瞳に意思を灯させた。ヴィータはそんななのはに対し、叫びをあげてグラーフアイゼンを振った。
「シュワルベフリーゲンッッ!!」
鉄球のような魔力弾を精製し、それを宙に放ってからグラーフアイゼンで思い切り振り、ハンマーヘッドが鉄球にぶち当たる。同時に魔力に包まれ、されに衝撃は増して、それが誘導弾となってなのはへと襲い掛かる。
なのはは一旦飛んでそれを回避して、戦場を屋上から空中へと変える。当然シュワルベフリーゲンは追撃してくる為、方向転換してから鉄球に向けて拳を構える。
「連続普通のパンチ」
一瞬の速さで繰り出された拳によって、シュワルベフリーゲンの鉄球が全て粉砕される。だがヴィータもシュワルベフリーゲンを直撃させようとは思っていない。なのはが空中に場所を移した事によって、位置はビル群の間だ。
背後のビルの角からグラーフアイゼンを振り回すヴィータが現れる。
「───テートリヒ……シュラァァァーークッッ!!」
ハンマーヘッドが横に振られてなのはに迫るが、その直撃箇所を左腕でガードする事によって防ぐ。が、衝撃までは殺せない為にビルに吹き飛ばされ、壁を粉砕していく。ヴィータは直ぐ様グラーフアイゼンを構え直し、カートリッジを装填する。薬莢が射出され、ハンマーヘッドがリロードされる。するとハンマーヘッドの形が片方が尖り、もう片方が噴射口へと変わる。
振り子の様にグラーフアイゼンを振り回し、その勢いはどんどん増される。
「───ラケェーーテン……ハンマァァアアアーーーーッッ!!!」
技名を叫び、なのはが丁度ビルから出てくるタイミングを見計らって、その鉄槌をぶつける。なのはは咄嗟に両腕でガードするが、それでも身体の芯を捉えている。横に振られた衝撃は再びなのはを吹き飛ばす。下方に飛ばされた為、地面のアスファルトに突き刺さるように衝突する。その衝撃はクレーターを作り出す程だ。アスファルト下の地面が抉れた影響で粉塵が舞う。
ヴィータはそれを確認しつつ、息を荒げてグラーフアイゼンから熱を放出させる。勿論これで仕留めたとは思っていない。二度の戦闘で分かった事は、此方が少しでも隙を見せたならやられるという事。だが、なのはに隙を与えずに、全力の攻撃を当て続ければ、勝機はあるという事だ。
呼吸を整え終わり、下方の煙に視線を集中する。いつでも迎撃できるようにグラーフアイゼンを構える。なのはが出てきたら、もしくは姿が一瞬でも見えたなら直ぐに攻撃する。そして倒れるまで殴り続ける。それしか方法は無い。
一瞬後。なのはの姿が煙から出てくる。ヴィータは直ぐ様迎撃するために、攻撃という手段を用いて対応する。
だが、ヴィータに誤算が生まれた。
なのはの動きは、此方が予想していたものを遥かに超え、その速さは───ヴィータが追いつける領域を超えていた。
どう足掻いてもなのはの動きは止められない。いかなる手段を取る事も出来ない。時間がゆっくりと流れ、ヴィータの意識にはなのはの動きがゆっくりと見える。何も出来ない。このまま拳を食らうだけしか出来ない。
しかし───。
「「───ッ!!?」」
なのはの拳は、ヴィータに届かなかった。衝撃で煙が舞うが、ヴィータは無事である。瞳を開けて、何が起こったのかを確かめると、自分の身体の周囲に、黒い結界みたいなものが展開されていた。なのはもこれには驚き、その結界を見る。
一体何故展開されたのか、それを思考しようとしたが、その前に正体が判明する。
「───闇の書……?」
ヴィータの頭上に現れたのは、紛れもない闇の書だった。しかし、その雰囲気がいつもと違うことに気付く。本からは黒い光が漏れており、次第にそれは大きくなっていく。数瞬後には、闇の書から触手のようなものが展開され、纏わりつき、それが蛇の形であると気付く。
その蛇はレイジングハートのAIのように英語で言葉を放っていく。その内容は闇の書の防衛プログラムの起動と、魔力蒐集の事について。言葉の最後には───守護騎士システムを破棄し、取り込む事によって最後のページを完成させると。
この蛇の形をしたものこそ、闇の書という名称をつけた元凶───ナハトヴァールである。
「……思い、出した。……こいつが……こいつが居たから……ッ!!」
その姿を見て、ヴィータは全てを思い出した。闇の書を完成させて、歴代の主がどうなってしまうかも。それに気付いた瞬間、ヴィータの行動は早かった。
グラーフアイゼンで思い切りナハトヴァールに向けて攻撃を行う。しかし見えない壁のようなもので攻撃は届かず、逆にヴィータの身体が動きを封じられる。なのはは直ぐ様ヴィータを助けようとナハトヴァールに肉薄するが、ナハトヴァールによって強制転移を食らってしまい、なのはの姿が消える。
ナハトヴァールはビルの屋上を越える高さまで浮遊した後、ヴィータを気絶させ、他のヴォルケンリッターを近くに強制転移させる。フェイトと戦闘を行っていたシグナムも、結界とジャミングを行っていたシャマルも、異常に気付き、向かっていたザフィーラも、一瞬で近くに転移させ、拘束する。フェイトもなのはと同様に強制転移を受けて、姿を消される。
守護騎士システムはあくまでも闇の書のプログラムの一つに過ぎず、ヴォルケンリッターの強制転移など造作も無いことだった。次にナハトヴァールは、とある人物を転移にてこの場に召還する。
「……あれ……ここは……」
目の前のビルの屋上に転移させられたのは、闇の書の主であるはやてであった。はやては今までベッドで横になっていた筈と、事態の状況に気付けず、辺りを見渡して混乱を表す。が、ナハトヴァールがはやてに話しかけた事によって、ヴォルケンリッターたちの姿を確認し、驚愕に表情を染める。
「やめて! 皆に何したん!! 早く皆を元に戻して!!」
はやての叫びに、ナハトヴァールは反応する。はやての言葉を、守護騎士システムの取り込みと判断して。その瞬間、ヴォルケンリッターたちにそれぞれナハトヴァールの触手が胸に突き刺さり、その姿が一瞬で消える。
「……あ……ああ……!」
後に残ったのは、はやてが皆に買ってあげた服のみだった。
「ああ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーッッ!!!」
嘘だ。夢だ。こんな筈じゃない。そう思考し、はやては絶望に声を上げた。
次の瞬間に、闇の書が覚醒する。
巨大な黒い波動と共に、凄まじい魔力が放出される。
その中心で、闇の書の管制融合騎は言葉を零す。
ああ、また、同じ運命を辿ってしまった、と───。