一撃少女   作:ラキア

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2撃目

 

 

 

 玄関から入り、兄と姉にどこに行っていたかを訪ねられた為、ユーノを見せて動物が逃げ出したのを探していたと誤魔化す。まあなのはが夜間外出したところで、誰かに襲われたりとかは皆無だと二人は思ってはいるが、それでも一応心配するのが家族という事だ。

 ユーノを見せると、兄と姉はむしろそのフェレットもどきに意識が向いて、結局なのはへの説教はあまり無く終わった。

 部屋に戻ってから、家にある適当な籠にタオルなどを入れたユーノ用のスペースを作る。そこにユーノを置いてから、なのははユーノへ訊ねた。

 

「で、えーっと……」

「ユーノ。ユーノ・スクライア」

「そうそう、ユーノ君。でさ、ユーノ君は一体何者?」

 

 先ずは一体ユーノが何者なのか知るのが先である。先ほどの出来事から、魔法などの非現実な世界の使者だと分かるが、それだけでは分かりかねるものがある。一体彼は何者で、何が目的なのかを知りたかった。

 ユーノは頭の中の情報を整理するように、一度頭を下げてから、再び上げてなのはへと視線を合わせる。

 

「じゃあ先ず、僕が何者かを話すよ。僕はこの世界とは別の世界からやって来た魔導師だ。僕たちスクライア一族は遺跡の発掘を生業として、日々の日常は採掘の仕事をしていた。肉親がいないから、裕福な暮らしなんて出来ないから、小さい時から発掘の仕事をしている。でも自分で金を稼いで、学校には通った。田舎の世界の学校だから、そこまで知識の量は多くは無いけど、独学で魔法関連の知識は得たんだ。元々本が好きだったからだね。話が逸れたけど、僕はいつもの様に発掘の仕事をしている時だった。見たこともない鉱石を発見したんだ。それを回収し、鉱石が何なのかを調べようとした。でも愚かだった。その鉱石は鉱石なんかじゃなく、ロストロギア【ジュエルシード】だったんだ。ロストロギアというのは古代遺産の名称で、これにはとてつもないエネルギーが宿っている。最悪なのは、このジュエルシードが輸送中に事故にあって、その多くがこの世界【地球】に落ちてしまったんだ。僕はこれを回収するために地球に来た。でも地球は魔法技術が全くない世界。だから行動範囲も狭まっているし、僕自身もジュエルシードの暴走を止められるほどの実力の持ち主ではない。でもこんなことになった原因は僕にある。だから、これは完全に君にとっては理不尽な話になるかもしれない。でも僕は───」

 

「うん! とりあえずもっと分かりやすく説明して欲しいな!」

 

 ユーノの口から出た言葉の情報量は、とても一発で理解出来るものではなかった。専門用語も当然のように混ざっていて、魔法知識の無い者にとっては理解不能だろう。ユーノは慌ててごめんと謝った後、何から説明すればと言葉を漏らして口ごもる。

 その様子はなのはから見ても焦っているのが分かる。とりあえず、となのはは口を開き、

 

「ユーノ君は異世界から来た人で、目的はあの宝石みたいなもの……ジュエルシードっていうんだっけ? それを集めたいって事だよね?」

「う、うん! そう! まとめるとそんな感じ!」

 

 彼の言いたいことをなのはが言ってくれたことで、ユーノはこくこくと頷く。だが、次にまた言いにくそうな表情をしたのち、顔を若干俯かせて口を開く。

 

「その……君にとってはとても迷惑になるかもだけど……いや、実際にもう迷惑をかけてしまっている。けど、出来れば……協力して欲しいんだ!」

 

 ユーノの頭の中で、葛藤があったのだろう。彼はその性格や雰囲気、言葉使いからわかるように、とても真面目で優しい性格なのだろう。先ほどの長い説明でも、どうやら事故の責任を感じて異世界まで飛んで来るくらいだ。

 そんな彼が、異世界の人間───なのはを巻き込んでしまったこと。あまつさえ、今後の協力も願いたいというのだ。人の都合に巻き込むという、彼にとっては申し訳なさが半端ないであろう。

 だからなのはは、そんなユーノに対し、

 

「うん、いいよー。どうせ暇だし」

 

 即答でユーノの願いに了承した。ユーノは信じられずに目を見開くが、なのはとしても異世界という非現実的な言葉に興味があり、あのような化け物みたいなものと戦えると分かれば、むしろ協力したいところである。果たして自分の強さがどの程度なのか、なのはは知りたかった。

 そうと決まれば早速明日から行動を開始したいところである。今日はもう日付も変わっているので、就寝することにした。

 

 

 

 

 

 

 朝にいつもの様に起きて、準備を済ませてからバスに乗り、学校へと向かう。違いがあるとすれば、念話でユーノが定期的に脳内に直接話しかけてくることだ。この念話というものはテレパシーの一種で、魔法があるから出来る通信手段である。しかし考えてみれば、これは相手の思考を覗けるのでは無いかと思うが、使いこなせばオンオフの切り替えが出来るようになるらしい。しかも長距離では届かないというデメリットがある。

 ユーノには家で待っててもらい、そこで周囲の町でジュエルシードの反応が無いか捜索してもらう。話によれば、ここ海鳴市でほとんどのジュエルシードが落ちているらしく、何とも都合がいいと思った。既にここ数日で三つのジュエルシードを回収している。

 ユーノとの接触から翌日に犬と融合したジュエルシードの化け物と相対し、デバイス起動時の長い復唱が面倒だということで変身の一声を叫ぶと、それだけでバリアジャケットを装備できてしまった。ユーノによれば。よほどの魔法適正がないと出来ないことらしい。まあ、結果としては魔法を使わずにワンパンで倒して終わったのだが。

 だがいつまでも魔法を使わずという訳にもいかない。ユーノの話では魔法で空を飛ぶことが出来るとのこと。これは是非とも試しておきたい。

 現在は授業中。しかも自分が予習したところなので、この授業はサボっても平気だろうと考えてから、思考でレイジングハートに指示を送り、意識をフェードアウトさせる。一種のバーチャルリアリティであり、なのはの視界は授業風景から、空の上へと変化する。

 

「へえ……これが空を飛ぶ感覚かぁ……」

 

 レイジングハートが肯定してくる。早速飛ぶ練習をしようとするが、思ったように動くことが出来ない。それを理解し、レイジングハートがこちらに指示してくれる。先ずは足を動かす感覚。これを意識だけを切り変えて、空を歩くイメージから始めてという事だ。試しに意識だけを歩くイメージをしてみる。すると片足だけが引っ張られて、身体が回転する。

 

「───あ、折角空を飛ぶんだから、ゆっくり飛ぶイメージしても意味ないよね」

 

 それに気がついたなのはは、意識を歩くことから、ゲームなどで言う直進するイメージに変える。すると自分の身体はロケットや戦闘機の如く、凄い勢いで直進した。これは良いと内心思いつつ、レイジングハートにどうか訊ねると、この飛び方をして平気なのは貴女だけだと言ってくる。

 折角授業をサボって練習しているのだから、なれるまでやっておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 授業が終わってからはアリサとすずかと別れてから帰宅して、庭にある花に水をやる。季節ももう春から梅雨になって、虫たちも活発に活動し始めてきている。その中には当然───蚊もいる。

 バンっと勢いよく手を叩き、蚊を叩こうとするが、まんまと逃げられる。もう一度叩くが、これも回避される。小さい故に、蚊のすばしっこさは尋常ではない。徐々にイライラがたまり始める。

 

「(───逃がした! 蚊めぇぇぇッッ!!)」

 

 そんな中、部屋の中で捜索活動をしていたユーノは、この近くの森の中でジュエルシードの反応があると分かり、それをなのはに伝えようと念話を試みるが、なのはの心が偉く乱れており、まともに会話が出来ない状況になっていた。

 仕方が無いので、自分から下に向かおうとするが、小柄な体躯故に、二階にあるなのはの部屋から降りるのが一苦労だ。途中でなのはの姉などに捕まり、なのはの元にたどり着けない。

 そんな中、テレビではとあるニュースが報じられていた。

 

『海鳴市で突如、蚊が大量発生! 市内にいる方は、外出を控えるようお願いします!』

 

 

 

 

 

 

 海鳴市の境にあるとある森。そこに居る野鳥などの動物。または牧場などの家畜が干からびて死んでいた。それらの死体の後には、決まって空に黒い何かが飛んでいる。

 

 ───蚊だ。

 

 海鳴市で蚊が大量発生。それは集団で行動し、一つの標的から一気に血を吸い上げる。とても今までの蚊とは常軌を逸している。そして今、森の中を迷った人が蚊の集団の餌食にされ、それらの血を吸った蚊がとある方向へ集まる。

 そこには、一際大きな生物がいた。蚊をそのまま大きくしたような、そんな生物。だが人と同じくらいの大きさの蚊などいるはずも無く、間違いなくこれはジュエルシードによって起きた異常だ。この化け物は他の蚊を操り、そして集めた血を吸って更に成長する。その姿は見る見る凶悪なものへと変貌していった。

 だが、その化け物に対して、一線の光が浴びせられる。

 

 まるで稲妻のような魔力光。その砲撃によって、化け物の周りにいた無数の蚊が消滅した。

 下を見る。そこには此方に向かって手をかざしている少女の姿があった。鮮やかな金髪を頭頂部で二つに結っており、その目は宝石のような双眸。どこか寂しげな表情をしているが、間違いなく美少女と呼べる少女である。だがその姿が一般人の枠組みから外れており、なのはと同じくバリアジャケットに身を包む。

 外見は似ておらず、なのはが白を基調とした衣装なら、此方は全身が黒い。レオタードのようなインナーの上に四肢に付く装甲。つなぎ目には赤が混じり、黒いマントを着用している。反対の手に持つのは斧であり、彼女の武器であることが窺える。魔法少女と言うよりは、魔女に近いイメージになる。

 彼女は蚊の化け物を仕留めていなかったのを確認すると───。

 

「───排除する」

 

 言って、少女は斧を構える。すると斧の先端部が曲がり、見る見るそれが変形していく。姿は斧から鎌に変化して、黒のバリアジャケットも相まって死神を髣髴としていた。空に浮き、鎌を横にして構え、そのまま捻る様にして振る。すると鎌の刃の部位に黄色の魔力光が光っており、それが斬撃となって化け物に襲い掛かる。

 しかし蚊であるが故に、その速さも尋常ではない。軽々とその斬撃を回避していく。しかし、少女は既に次の行動に出ていた。蚊が回避した直後に、その目の前まで移動する。あっという間にである。それは少女がこの蚊以上の速さを持つことを意味している。そして残撃。先ほどとは違う直接な攻撃。蚊の両足が両断され、蚊は慌ててその場を跡にしようとする。

 

「逃がさない!」

 

 少女は直ぐにその後を追いかける。だが、そこにあったのは先ほど以上の蚊の群れだった。おそらくあの群れの中で身体の傷を癒そうと考えているのだと思った少女は、愚かだと考える。少女にとっては、むしろ集まってくれたほうが排除しやすいからだ。

 少女はデバイスを構え、一斉攻撃を行おうとした時───。

 

「ユーノくん。本当にここなのー?」

「───ッ!?」

 

 下から人の声が聞こえたのだ。これは不味い。このままでは関係ない人を巻き込んでしまう。だが目の前の化け物はそれを好都合と考え、蚊の大群を一斉に此方に仕掛けてくる。少女は直ぐ様デバイスを構え、魔力を高める。びりびりと電気が弾け、デバイスを上に掲げた。

 

「サンダーレイジ!!」

 

 少女のいる位置を中心として、突如上から黄色の魔力光が降り注ぐ。まるで宇宙から発射されたレーザーの如く、広域攻撃魔法を放つ。上から降り注ぐ稲妻は周囲の何もかもを焼き尽くし、蚊の大群を一斉に消滅させる。先ほどまで森だった場所が、少女を中心とした場所だけ焼け野原と化した。

 

「ジュエルシードと融合したからには、少し知能が上がっているかと思ったけど、所詮は虫というわけか。わざわざ攻撃しやすいように蚊をまとめて私に向けるなんて。ここは森の中で、周囲に人がいないのは確認済み。遠慮なく攻撃が可能で───」

 

 そこで気付く───先ほど一人ここに一般人がいたことを。慌てて下に駆けつけ、周囲を探す。

 

「しまった! 一人巻き添えにッ───」

 

「いやー助かったよ。すごいね君! 今の何? あれがホントの蚊取り閃光……なんつって」

 

 何故かそこには裸の少女の姿があった。まさか、今の攻撃で服だけが焼滅したとでもと考えるが、ありえないと否定する。

 だが、思考しているのもつかの間。先ほど化け物がいた場所から凄い音が響き渡る。羽の音だが、先ほどとは比べ物にならない。その姿を見るや、先ほどとは全く姿が変わっており、凶悪な姿へと変貌している。だがいくら姿が変わろうが、こちらが負ける要素など無い。

 先ほどと同様に斬撃を繰り出そうとした時、少女は気がついた。自分の身体が宙に浮いていることに。

 蚊の化け物は先ほどとは比べ物にならない速度で此方に攻撃を仕掛けてきた。見る見るうちにダメージが蓄積される。原因は間違いなく先ほどの蚊の大群だ。あれは蚊の血液を吸ったことで、傷を癒すのではなく、さらに進化することだったのだ。

 己の油断を悔いる。もうなれば、魔力を暴走させていちかばちかを賭けてみるしか───。

 

 少女がそのように思考し、化け物が突っ込んで来た瞬間───。

 

 ───横から前触れ無く、化け物に平手打ちを入れる少女の姿があり、化け物はそれだけで破裂するように消滅した。

 

 

「蚊……うぜぇの」

 

「───ッ!?」

 

 

【挿絵表示】

 


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