一撃少女   作:ラキア

3 / 21
3撃目

 

 

 

 消滅した化け物の中から青く輝くジュエルシードを発見する。そこでなのはは先ほどの蚊の化け物がジュエルシードの融合体だと気付いた。

 

「なのはー! ……って何で裸なのッ!?」

「あ、ユーノくん今更来たの?」

 

 背後のほうから森の奥から野原のほうに駆けてくるフェレットもどき。後から遅れてやってきたユーノがなのはが裸なのに赤面してそのことに突っ込みを入れる。自分が素っ裸なのに今更気付いたなのはは何も動揺せずにレイジングハートを取ってバリアジャケットを装備した。

 とりあえずなのはは浮遊して復活をしようとしているジュエルシードに近づき、そのまま鷲づかみして封印する。ユーノの話では通常暴走したジュエルシードをこのように封印するのは不可能と言われるが、なのはの場合は平気でやってみせる。

 

「ほら、ユーノくんが遅れたから、あの子がすっごい頑張ってくれたんだよ?」

「あの子?」

 

 言って、なのはは黒尽くめの少女のほうへ指を指す。少女は呆然としていたのをなのはに指を指されたことによってハッと意識を取り戻す。慌ててデバイスを構え、こちらに敵対するような素振りを見せる。

 明らかになのはと同じく魔導師だ。すると少女の身体が一瞬光に包まれ、先ほどの傷が嘘のように回復した。ユーノから聞いた治癒魔法と呼ばれるものである。

 その様子を見たユーノの表情が険しくなり、なのははユーノに訊ねる。

 

「あの子って敵なの?」

「分からない……でもジュエルシードが目的なのは確かなようだ!」

「ふーん」

 

 ユーノは身構え、対してなのはは興味無さ気に半目で少女の方へ視線を向ける。先ほどの戦闘で少女のバリアジャケットはボロボロである。息を切らせており、先ほどのなのはのありえない力を目撃した為か、瞳が動揺している。

 なのはは手に握っているジュエルシードを見る。もう封印処理がされているため、安全なのは確かだと分かると、それを少女に向けて投げ渡した。その行動にユーノは驚愕し、なのはを見る。

 

「……え?」

 

 少女は投げ渡されたジュエルシードを受け取ると、信じられないような表情でなのはを見る。

 

「それはあげるよ。元々君が頑張って戦ったんだし、君が貰うべき報酬なの」

 

 なのはは裏のない笑顔を見せ、少女に言った。ユーノは未だに信じられない様子でこちらを見ていたが、相手の少女を見る限り、何か事情があってジュエルシードを求めているように見える。だからユーノは、なのはの行動に対して口を出す事まで出来なかった。

 一方、相手の少女は未だ信じられずに呆然としていたが、直ぐに自分のデバイスにジュエルシードを収納し、マントを翻らせる。

 

「───私の名はフェイト・テスタロッサ。今回は礼を言う。でも、次会ったら私達は敵同士だ」

 

 少女───フェイトは言うと、踵を返してその場を風の如く去って行った。衝撃で風が舞い、なのはの髪が風に靡く。フェイトの言葉になのはは別段シリアスに考えはしないが、互いに目的が一緒ならば、早い者勝ちになるかなと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、事態は翌日に起こった。

 

「なのは! 大変だ!」

「……んー?」

 

 朝にユーノの声で目を覚まし、なのはは気だるい眼を擦りながら布団から出る。右腕を上げて身体を伸ばしてから意識を切り変え、時計を見る。時刻はまだ一時間も起きるのが早く、ユーノに何事かを訊ねる。

 

「どうしたのユーノ君、まだ早朝だよ?」

「外見て、外!」

 

 のんきななのはに対してユーノは窓に張り付いて声をあげる。なのはは何事かとベッドから足を出し、そのまま両足を床につけて立ち上がる。そのままユーノの元に行くように窓際まで行って、一緒に外の光景を見る。するとそこには昨日とは全く変わってしまった町の様子があった。

 住宅街だった町が、一夜にして植物が生い茂るジャングルのようになっていた。しかも所々に見える木の幹は通常の何十倍と太く、明らかに非現実的な光景である。

 

「あらー、これはまた凄い状態になってるねー」

「そんなのん気に」

 

 ユーノがなのはの通常運転の様子に呆れる中、なのははこの異常事態だというのに嫌に町が静かだと気付いた。町の至るところを見渡すが、人の気配が全くしない。それはいつもの戦闘の時と一緒で、まるで結界の中にいるような状況だった。

 それについて訊ねる。

 

「ねー、ユーノ君。これって結界が張られているの?」

「───うん。おそらく誰かが張っているんだと思うけど」

 

 その誰かは恐らく、昨日あったフェイトの事である可能性が高い。この状況の原因は間違いなくジュエルシードだ。恐らく樹木と融合した結果、町をこのような事にしてしまったんだろう。だがなのははとある疑問を浮かべる。

 樹木は虫や動物とは違い、動いて行動するわけではない。ジュエルシードと融合したという事は、ジュエルシードが樹木の傍に落ちたという事だろう。だが、それならば何故このようなタイミングで暴走を起こすのか。樹木であれば早々に暴走を起こしてもいいはずである。

 

「……まあ、考えるまえに、この状況をどうにかしなきゃだね」

 

 なのはは机の上に乗せておいたレイジングハートを取り、それを掲げてデバイスを起動。一瞬で姿が変わり、バリアジャケットがその身に装備される。窓を開けて、二階から飛び降りる。別段飛び降りた程度でなのはには傷を負うことは無いが、折角なので飛行の練習がてら空を飛んでみる。

 授業をサボって練習した結果があり、安定した飛行が出来た。これにはなのはも感嘆し、自由に空を飛ぶ。

 

「なのは! あれを見て!」

「ん?」

 

 ちゃっかし肩に乗っていたユーノが、町の中心に向けて視線を向ける、なのはもその視線へ顔を向けると、そこには一際大きな樹木が聳えていた。その樹木を中心として幹が生えており、なのはは今まで町の所々にあった幹はこの樹木の根だったことに気付いた。

 ならば原因はあの樹木である可能が高い。ユーノにジュエルシードの反応を聞こうとした時、樹木に向けて稲妻のような魔力光が放たれる。一瞬の眩しさに視界が途切れるが、魔力光は樹木に当たる寸前に見えない何かに防がれて直撃はしなかった。

 魔力光が放たれた方を見ると、そこには案の定フェイトが浮遊していた。フェイトはこちらに鋭い視線を送ってくる。おそらく邪魔するなということだろうが、なのはは気にせず手を上げて挨拶する。

 その時───。

 

「はぁぁぁああああああああああああーーーーッッ!!」

 

 勢いよく此方に突進を仕掛けてくる影があった。なのははそれを横に移動して回避する。その影は突進が外れたのを確認してスピードを緩める。その姿は犬耳をつけた二十台くらいの女性の姿だった。シャツにホットパンツという動きやすい服装に、手足にはバリアジャケットのような装甲が付けられている。俗に言う獣人という類かとなのはは理解する。

 獣人はなのはに向けて、フェイトとは比べ物にならない敵意に満ちた視線を送り、咆哮をあげる。

 

「フェイトの邪魔は……させないよぉぉぉーーーーーーッッ!!」

 

 その咆哮に、ユーノはたまらず耳を塞ぐ。なのははとりあえず獣人のところに移動し───。

 

「近所迷惑!」

 

 額にデコピンを当てて吹き飛ばした。

 

「アルフ!?」

 

 フェイトが獣人の名前らしき言葉を叫ぶ。なのはは勿論手加減した為、死んではいない。朝に兄に繰り出す拳よりも威力は少ないため、怪我もあまりしてないだろう。なのははフェイトのほうへ視線を向ける。視線が合ったためか、フェイトが先ほどより鋭い視線を向ける。仲間が吹き飛ばされたのだから怒っても当然である。

 別段なのははフェイトの敵になったつもりはないが、これだけの騒ぎを見過ごすことも出来ず、更にはこのままでは学校に遅刻してしまう。フェイトは既に息が切れている状態。恐らくなのはが起きる以前から攻撃を仕掛けて失敗しているのだろう。ならばこれ以上は時間をかけてはいられない。

 なのはは早々に解決することにした。

 

 一瞬で樹木に肉薄し、拳を構える。

 

「───連続普通のパンチ」

 

 巨大な木はなのはの連続で繰り出されたパンチによって、粉々に粉砕された。その影響で町に張り巡らされた根も消えて、ジャングル化した町は元どおりになった。だが、その爪あととも言える損傷は消えることは無く、一帯の住宅街は廃墟のような光景になってしまった。

 なのはは樹木があった場所に浮遊するジュエルシードを掴んで封印する。それを先日のようにフェイトに向けて投げた。フェイトはそれを受け取る。

 

「あげるから、一先ず帰って」

「……」

 

 フェイトはどこか悔しさを含めた表情を向けるが、ジュエルシードを手に入れたのか、こちらに敵意は向けなかった。踵を返して、そのまま立ち去ろうとする。

 だが───。

 

「───そこまでだ!」

 

 その声が響いたと思うと、なのはとフェイトの身体にそれぞれ光の輪のようなものが出現し、拘束される。魔力で出来た拘束魔法【バインド】だ。フェイトはもともと体力を消耗していたせいか、そのバインドに捕まり、身動きが取れない。

 二人を拘束した本人が目の前に現れる。黒を基調としたバリアジャケットという点ではフェイトとは似ているが、フェイトよりは紺色に近い印象で、デザインも軍服をイメージしたものである。デバイスである杖を構え、それを此方に向けながら、その【少年】は言った。

 

「時空管理局、執務官のクロノ・ハラオウンだ。管理外世界での魔法の無断使用。並びにロストロギア関連の話について、詳しく話して貰おうか」

 

 デバイスで出来た、ホログラムのようなモニターで何かの紋章とデータを見せてくるクロノ。恐らく紋章は警察手帳のようなものであり、データはジュエルシードのことについてだろう。魔法の無断使用ということは初耳だったので、肩に乗るユーノに訊ねようとしたが、いつの間にかその姿が無い。恐らく先ほど樹木に肉薄した際に落ちてしまったのだろうと理解した。

 フェイトは拘束から脱出できない様子だったが、直ぐに先ほど吹き飛ばされたアルフが助けに来て、フェイトに掛けられたバインドを砕く。その隙にフェイトとアルフはこの場から逃げ出す。クロノは直ぐ様追いかけようとしたが、通信が入ったらしく、追撃しようとはしなかった。恐らくはなのはがいるから、フェイトは後回しという事だろう。

 別段話をするのはいいのだが、このような犯罪者扱いされるのは気分が悪いため、なのははバインドを破る。

 

「あのー、こっちもいろいろ話がしたいんですがー」

「……ッ!?」

 

 なのはが簡単にバインドを破ったことで、クロノが驚愕の表情を向けてくる。同時に警戒態勢に入った。デバイスの杖を構え、攻撃を仕掛けてくる。恐らく抵抗したからと判断されたからだろう。魔力で出来た魔力弾【バレットシェル】が放たれ、その何発かをなのはは喰らうが、不自然にダメージが無い。攻撃されてもダメージは受けないなのはだが、この攻撃はそれとはまた違った感覚というものがある。

 そんな不思議な感覚に思考していると、クロノは更に衝撃な表情で此方を見る。

 

「(僕のバインドを簡単に破った挙句、非殺傷とはいえ直撃のダメージをモノともしないだとッ!?)」

 

 そこでクロノは感じた。この少女は危険だと。直ちに昏睡させて捕獲することを優先したクロノの行動は素早かった。高速化の魔法を使用し、なのはの周囲を素早く移動する。なのはの視界にクロノの姿を認識できないようにだ。

 此方の姿を認識されなければ、クロノは優位に立てることが出来る。そしていざ、クロノは近接攻撃をなのはに仕掛けようとした時───。

 

「あのー、だから話を……?」

「───ッ!?」

 

 直前のところでクロノは空中に防御魔法【プロテクト】を足場として代用し、飛び退く。なのはは確かにクロノの方を見て言葉を発した、つまりなのははクロノの姿を見切っているという事だ。ありえないとクロノは思った。

 クロノ・ハラオウンという少年は魔導師の中ではかなりベテランであり、その強さもトップクラスである。しかし、そんな自分の動きをこの少女は見切った。つまりは自分と実力が同じ、又は上を行くという事。そう考えると、クロノの頬に汗が伝った。

 

「(───危険だ!)」

 

 現状、この少女は管理外世界での無断の魔法使用。それもロストロギアに関与していると疑惑がある。しかもこちらが管理局と言っても抵抗してくる。さらに自分よりも実力が上の可能性。クロノは直ちにこの少女を拘束しなければと考えた。

 いちかばちかでクロノは先ほどと同様に高速で動き回り、なのはへ攻撃を仕掛けようと突撃を仕掛ける。だが、なのははそれを回避し、そしてクロノの着地点に合わせるように拳を構える。

 

 ───だが運悪く、その拳は勢い余ってクロノの股間に命中した。

 

 ドスッという鈍い音が響きわたる。

 

「あ! ごめん。……いや、わざとじゃないの。寸止めしようとしたら勢いでぶつかっただけで……」

 

 なのはは弁解するが、クロノは何事も無く着地し、平然を装うとするが───。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ───男の痛みには、耐えられなかった様子だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。